第34号(2007年9月号[07/9/1発行])

  厳しい残暑が続いておりますが、リウマチ外来に通院中の皆様は、いかがお過ごしでしょうか。この夏は、激しい暑さのために、痛ましい熱中症の発生が、数多く報告されています。9月に入って少し涼しくなっても、熱中症にかかる危険が高い気候がしばらく続きますので、十分な水分の摂取と、防暑対策を、引き続き行って頂くようにお願いします。

若いリウマチ患者様へ

  7月のリウマチ教室の要旨を紙面にてお伝えさせていただきます。関節リウマチは、40才台から50才台の女性に発症する病気と一般に考えられがちですが、男女を問わず、10才台の、いわゆる思春期ごろから、大人と同じ関節リウマチが発症します。また、出産を機会に発症することが、比較的多くありますので、その場合、20才台から30才台の若いお母様たちに発病します。しかし、リウマチ患者様全体に占める若い方の割合が低いこともあり、特に、リウマチがよく起こる手首や指の関節ではなく、足の関節に先に症状が出た場合や、疲労感、微熱などの関節外症状が中心の場合や、もともとリウマチが少ない男性の場合には、若い患者様に、関節リウマチという確定診断が、されにくいのが現状です。リウマチではなく、外反母趾やハイヒールによる足の痛みや、育児疲れや、仕事疲れなどと、考えられがちですので、体の複数の関節が腫れて痛む場合、若い方でもリウマチの可能性を考えて、リウマチに詳しい医師の診察を受ける必要があります。この4月から保険適応になった、抗CCP抗体(血清中抗環状シトルリン化ペプチド抗体)検査は、早期の関節リウマチに対しても、高い診断の正確さがあると報告されており、リウマチが疑わしい場合には、大変有用な検査です。

 もし、関節リウマチと診断された場合は、速やかに専門医による治療を開始してください。若い患者様には、進学、就職、結婚、出産、育児など、人生の様々なイベントが控えており、これらを考慮にいれた長期的な視野に立った治療の計画が必要です。そのためには、ご家族を交えて、主治医と十分に相談してください。今日のリウマチ治療では、”window of opportunity”「治療機会の窓」、即ち、関節の破壊が最も進みやすいのは、リウマチに発症してから2年間であることが明らかになっていますので、リウマチと診断がついたら、時期を逃さずに、なるべく早期から、積極的に強力な抗リウマチ薬を用いて治療すべきであるとされています。通常、1999年に使用承認されたメトトレキサート(リウマトレックス®)が、第一選択薬となりますが、メトトレキサートで十分な効果が得られない場合には、レミケード®か、エンブレル®か、どちらかの生物学的製剤を使用することを検討してください。レミケード®が2003年に承認されるまでは、生物学的製剤ほど強力に、リウマチの進行を抑制する薬はありませんでした。ただし、経済的な負担が大きいことから、使用を躊躇される患者様が多いのも事実です。けれども、今後何十年もリウマチと付き合っていかれる若い患者様には、早い時期に、関節の破壊を最小限に留めておくことは、体の機能と、生活の質を保つために、とても大切です。一方で、現在のところ、いつまで、これらの薬を使い続けなければならないのか、はっきりした結論は出ていませんし、全ての患者様で、期待されるだけの効果が得られる訳ではありません。しかし、10年前と比較して、リウマチの治療薬がすっかり変わってしまった現状を考えると、将来的には、さらに良い治療薬が開発されて、別の薬に切り替わっていくことは、十分に期待できます。

 一方、股、膝、足部などに、すでに関節破壊が起こってしまった場合には、人工関節置換術などの手術によって関節の機能を再建して、強力な薬物療法と合わせて行うことにより、日常生活動作能力を回復させることが必要です。過去には、耐用年数などの理由から、人工関節手術は、高齢の方のみが対象と考えられていた時代もありましたが、人工関節の器械や手術方法が改良されて、長持ちするようになってきましたので、将来、入れ替え手術をすることを考慮にいれて、若い患者様に対しても、積極的に、手術を行うようになっています。下肢の機能が回復すると、歩行がしやすくなるだけではなく、外出することにより、運動量が増えて、心肺機能の向上や、骨粗鬆症の回復や、心の健康に繋がります。

 繰り返しになりますが、若い患者様や、発症早期の患者様におかれましては、強力な抗リウマチ薬による関節破壊の防止と、人工関節手術による関節機能再建といった、最新のリウマチ治療により、リウマチであっても、できるだけ普通の、素晴らしい生活を送っていただけますように、積極的に治療に臨んで頂けましたら幸いです。我々スタッフも最良の治療が提供できますように、最善を尽くして参ります。


整形外科リウマチ教室のご案内

 毎月、多くの患者様やご家族の皆様に、患者教室にご出席頂き、スタッフ一同、感謝いたしております。整形外科リウマチ教室は、毎月最終木曜日、午後1時から2時に、定期的に開催しております。講演の後、個別相談の時間も設けております。予約不要、参加費無料ですので、当院に通院中以外の患者様や、ご家族の皆様もお気軽にご参加下さい。教室は、療養に役立てて頂くために、リウマチに直接関連するテーマだけではなく、リウマチ患者様の健康維持に関する様々な話題を取り上げております。さらに、患者様同士、患者様とご家族と医療従事者の交流を目的としておりますので、参加された皆様には、是非、交流の機会としても、活用いただけますように、ご協力をお願い申し上げます。

 9月は、創傷・オストミー・失禁(WOC)看護認定看護師である、野口まどか看護師から、リウマチや糖尿病でしばしば起きる、足の皮膚のトラブルなどへのスキンケアについて、講演して頂く予定です。

 10月は、福原杏子看護師から、生物学的製剤のひとつであるエンブレル®を、患者様自身がご自宅で注射できるように、在宅自己注射指導を行っている外来看護相談室の様々な活動について、11月は、澤村義肢製作所の中村慎義肢装具士に、リウマチ患者様の足の悩みに対処するために、様々に工夫された整形靴と足底装具について、それぞれ講演して頂く予定です。


 いよいよ秋の訪れも目前です。早く涼しくなあれ。


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