第186号(2020年5月号[20/5/1発行])

新型コロナウイルス感染症について:その4

 新型コロナウイルス感染症の流行が国内外で拡大していることから、4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が、兵庫県を含む7都府県に発令されました。4月16日には緊急事態宣言の実施区域が全都道府県に拡大され、兵庫県を含む13z都道府県は特に重点的に取り組みを進めていく必要がある地域として、「特定警戒都道府県」に指定されました。

現在、特別措置法第45条第1項に基づく外出自粛等の要請(生活の維持に必要な場合を除き、昼夜を問わず、みだりに自宅等から外出しない)と、同第24条第9項に基づく協力の要請(生活必需品の買い物や健康維持のための散歩等を行う際には、人数を必要最小限に絞るとともに、混雑時を避け、人と人との距離を適切に取る)が出されています。

新型コロナウイルス感染症流行の沈静化を図るために、厚生労働省から発表されている「人との接触を8割減らす10のポイント」を参考にしていただき、リウマチ患者の皆様におかれましても、日常生活を改めて見直していただきますようにお願いいたします。

ところで、新型コロナウイルス感染症への不安のために、リウマチの治療薬を自己判断で減量あるいは中止されるケースが残念ながら散見されます。確かに、リウマチの治療薬には免疫抑制作用を有する薬が少なくありませんが、リウマチを抑えるのに必要な最小限の用量で処方されている場合が多く、少しであっても自己判断で減らすことは、再燃の大きなリスクとなります。そもそも、新型コロナウイルス感染症の感染力は強く、健康な若い人であっても適切な感染防止策をとらなければ罹患してしまいます。リウマチの治療薬の使用を減らしたり中止すれば感染しないという訳ではありません。それより、関節リウマチが再燃すると体調が悪化して、感染症への抵抗力が下がってしまうことも考えられます。そのため、リウマチの治療薬は、医師から指示された用量で継続していただきますようにお願いします。

 なお、現在、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、電話での診療が認められています。医療機関で行う注射や、点滴、処置のない患者さんにおかれましては、実際に受診して診察や検査を受けるより、受診せずにお近く調剤薬局でお薬を受け取っていただいた方が良いと電話での診察により主治医が判断した場合には、通院せずに薬局でお薬を受け取っていただくことが可能です。なお、医療機関の電話は、通話が集中して繋がりにくい状況が続いておりますことから、電話での診療をご希望の患者さんにおかれましては、診察時間帯でなく、事前に電話でご希望をお伝えいただけますようによろしくお願いいたします。

 ところで、関節リウマチの治療薬であるIL-6阻害薬のトシリズマブ(商品名アクテムラ®)と、サリムマブ(商品名ケブザラ®)が、新型コロナウイルス感染症による重度な肺炎に対する効果が期待されて、国内外で治験が行われています。IL-6阻害薬だけでなく抗ウイルス薬などの新型コロナウイルス感染症に対する治療薬が、一日も早く開発されることを祈るばかりですが、これらのIL-6阻害薬を使用されているリウマチ患者さんが、新型コロナウイルス感染症に罹患しないとか、罹患しても軽い症状で済むという訳ではありません。むしろ、発熱が抑えられるIL-6阻害薬の使用は、新型コロナウイルス感染症の診断が遅れるリスクとなりますので、くれぐれも体調管理にお務めいただきますようにお願いします。


経口JAK阻害薬ウパダシチニブ(リンヴォック®)が発売されました

 ヤヌスキナーゼ(JAK)は細胞内でシグナル伝達に関わるチロシンリン酸化酵素のひとつであり、JAK阻害薬はJAKを抑制することで種々の炎症性サイトカインを抑えて抗リウマチ作用を発揮します。JAK阻害薬は低分子量化合物の分子標的薬であるため、同じ分子標的薬であってもタンパク質でできている生物学的製剤と異なり経口で服用できること、また、生物学的製剤のTNF阻害薬やIL-6阻害薬が特定のサイトカインのみを抑制するのに対して、複数のサイトカインに対して作用するという特徴を有しています。先行するJAK阻害薬として、トファシニチニブ(ゼルヤンツ®)が2013年に、バリシチニブ(オルミエント®)が2017年に、ペフィシチニブ(スマイラフ®)が2019年にそれぞれ承認されていますが、4剤目のJAK阻害薬であるウバタシチニブ水和物(商品名リンヴォック®、製造販売:アッヴィ)は、4種類あるJAKのサブタイプのうち、炎症性サイトカインシグナルにおいて重要なJAK1に対する選択性が高いことが特徴とされています。

 リンヴォック®の適応症は、「既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)」であり、「用量用法は、通常、成人には15 mgを1日1回食後に経口で投与する。患者さんの状態に応じて7.5mgを1日1回投与することができる。」です。

 リンヴォック®は本年1月に承認されましたが、4月末に薬価収載され発売が開始されました。薬価は、7.5mg錠が2,550.90円、15mg錠が4,972.80円で、通常量の服用での年間薬価は1,815,072円となり、他のJAK阻害薬と同様に非常に高価です。また、先行のJAK阻害薬と同じく、リンヴォック®を服用される患者さんを対象とした全例調査が実施される予定です。当院ではリンヴォック®はまだ採用されておりませんが、採用状況については当リウマチだよりでお伝えさえていただきます。


リウマチ教室のご案内

 神戸大学整形外科では、リウマチ患者の皆様とご家族に、関節リウマチについての理解を深めて頂いて、日常生活の中で、より良い療養ができますように、2003年より整形外科リウマチ教室を毎月、開催しております。教室は、事前申し込み不要で参加費無料です。整形外科に通院中の患者さんだけではなく、他の診療科や医療機関で治療を受けておられる患者さん、ご家族や医療関係者も参加いただけます。関節リウマチの治療や健康維持に関する話題が中心ですが、それ以外にも様々な話題を取り上げております。気軽に参加できる教室となるように心がけておりますので、初めての方も、安心してご参加ください。講演後に、個別の療養や治療に関する相談の時間を設けております。ご希望の方は、病気の状態が良くわかりますように、検査結果やお薬手帳などをご持参ください。また、相談は新規参加者優先で、お一人当たりの相談時間はある程度に限らせていただいておりますので、質問を予め準備しておいていただけますように、ご理解とご協力のほどよろしくお願いします。なお、教室では、診察はできませんので、受診をご希望の場合には、できるだけ現在の主治医またはかかりつけ医を通じて初診予約の上、受診下さいますようにお願いいたします

 さて、新型コロナウイルス感染症流行阻止のため、3月から今月までのリウマチ教室の開催を中止させていただいております。6月以降の開催を計画しておりますが、開催の可否は、大学病院ホームページ及びリウマチ便りで案内させていただく予定ですので、ご確認いただけますようによろしくお願いいたします


整形外科リウマチ教室のスケジュール(2020年5月-2020年8月)

日時:2020年5月14日(木) 午後1時30分-2時30分(第2週です)

会場:外来診療棟4階第2会議室(通常と異なりますのでご注意ください)

演題:「リウマチ患者さんと装具」

講師:澤村義肢製作所 岡田 佳奈 義肢装具士、司会:三浦 靖史 准教授

新型コロナウイルス感染症対策のため5月のリウマチ教室は中止させていただきます

    

日時:2020年6月18日(木) 午後1時30分-2時30分(第3週です)

会場:神緑会館1階多目的ホール

演題:「リウマチとお口の管理の必要性」

講師:歯科口腔外科・医療技術部 歯科部門 西井 美佳 歯科衛生士、司会:三浦 靖史 准教授


日時:2020年7月9日(木) 午後1時30分-2時30分(第2週です)

会場:神緑会館1階多目的ホール

演題:「知っておきたい検査のはなし」

講師:検査部 大沼 健一郎 臨床検査技師、司会:三浦 靖史 准教授 

   

日時:2020年8月27日(木) 午後1時30分-3時00分(第3週です、終了時間が異なります)

会場:神緑会館1階多目的ホール

演題:「リウマチ患者さんとのおしゃべり会」

司会:三浦 靖史 准教授、アシスタント:保健学科学生


神戸大学医学部附属病院での患者教室のお知らせ


リウマチだよりやリウマチ教室に対するご意見ご要望は、お手紙で外来受付スタッフにお渡し頂くか、郵便、または、ホームページより電子メールでご送付下さい。

連絡先:〒650-0017神戸市中央区楠町7丁目5-2神戸大学整形外科リウマチ診療グループ宛

発行:神戸大学整形外科リウマチ診療グループ© 発行日:2020.5.1. 文責:三浦 靖史 禁無断転載・引用


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