第143号(2016年10月号[16/10/1発行])
関節リウマチはこんな病気です(4):メトトレキサートはどのような薬ですか?
先月、「関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2016年改訂版」が出版されました。葉酸代謝拮抗作用に基づく免疫抑制剤であるメトトレキサート(MTX、リウマトレックス®)は、今日のリウマチ治療の中心的な薬、いわゆる「アンカードラッグ」として、多くのリウマチ患者さんに使用されている抗リウマチ薬です。MTXは、リウマチによる痛みの軽減と関節破壊の抑制に対して優れた有効性、即効性、継続性を有しています。2011年に、リウマチ治療の第一選択薬として、かつ、週当たり16mg(8カプセル)まで使用できるようなったことから、リウマチと診断後、速やかにMTXの処方を開始し、病状に合わせて用量を調整することにより、その効果を最大限に発揮できるようになりました。
MTXによる治療で、痛みや腫れなどの症状がなくなった状態である臨床的寛解に達する患者さんは少なくありませんが、MTXを使用しても症状の改善が十分にあるいは全く得られない場合や、症状は改善していても関節破壊が徐々に進行する場合、症状は改善していても副作用が出現して使用を継続できない場合もあります。そのような場合には、生物学的製剤など、他の抗リウマチ薬を併用したり、MTXから他の抗リウマチ薬に切り替えたりする必要があります。また、旧来の抗リウマチ薬と比較して即効性があるといってもMTXによる治療を開始してから効果が出始めるまで、ある程度時間がかかることから、しばらく、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)や、ステロイドの併用が必要にあることもあります。
MTXは高い抗リウマチ作用を発揮する一方で、重篤な副作用もあることから、服用に当たっては細心の注意が必要です。特に高齢者では、腎機能が低下していてMTXの体内からの排泄が遅いことから、副作用が出現しやすいので、より一層、注意が必要になります。
MTXの重篤な副作用である、骨髄抑制と間質性肺炎はまれですが、出現した場合には早期に治療しないと生命に関わることもあります。そのため高熱や空咳が出る場合には、これらの副作用でないか速やかに受診して調べてもらう必要があります。さらに、MTXが有する免疫抑制作用のために、肺炎などの感染症にかかりやすくなるので、うがい、マスク、手洗い、ワクチン接種などにより感染症の予防に努める必要があります。また、MTXにより、以前にかかったことのある結核やウイルス性肝炎が再燃することがありますので、MTXを開始する前に、結核や肝炎ウイルスのスクリーニング検査を実施します。
一方、重篤でないもののしばしば出現する副作用として、口内炎、下痢、食思不振などの消化器症状や肝酵素の上昇などがあります。そこで、副作用の軽減を目的として、MTXを最後に内服した24 ~48時間後に葉酸製剤(フォリアミン®)を内服することがあります。MTXと同時に葉酸を内服するとMTXの効果も減弱してしまいますので時間差をつけて内服するのですが、葉酸が含まれている市販のビタミン剤やサプリメントもMTXの効果を弱める可能性がありますので使用を避けるようにしましょう。一方、骨髄抑制などの重篤な副作用が出た場合には、MTXに拮抗する活性型葉酸製剤(ロイコボロン®)による救済療法を行います。MTXによる効果を判定し、副作用を早期に発見するために、血液・尿検査、胸や手などのレントゲン撮影を定期的に実施します。
副作用の話に加え、MTXはもともと抗癌剤として開発されたこともあって「怖い薬」と考えられがちですが、副作用の発現に患者さん自身が早めに気づき、速やかに対策を取れれば、ほとんどの副作用は適切にコントロールすることができます。生物学的製剤や低分子量分子標的薬が非常に高価であるのに比較して、薬価の低いMTXには後発品もあり、費用対効果の面では、MTXに肩を並べる薬はないと言っても良いでしょう。また、生物学的製剤を使用する際に、MTXを併用することによりその効果はさらに高まりますので、MTXを薬物療法の中心においた治療計画を立てる必要があります。
ところで、MTXの服用方法は、所定の量を毎週1回、あるいは、1-2日かけて2~3回に分けて内服します。なお、MTXは催奇形性を有するため、妊娠希望や妊娠中、授乳中の女性は内服することができませんので、該当する場合には主治医までご相談ください。
新規抗リウマチ薬Peficitinibの治験に関する最終のご案内
新規JAK阻害薬Peficitinib(ASP015K)の第3相試験と長期継続投与試験を、現在実施しています。新しい抗リウマチ薬を世に出すためには、患者さんにご参加いただく治験の実施が欠かせません。本治験では、発病10年以内で、メトトレキサートで現在治療を受けていて効果が十分でない患者さんの参加を募集しております。締め切りは11月まで延長されましたが、エントリーできるのは実質的には今月中となりますので、治験に関心をお持ちの患者さんは、主治医までぜひ、ご相談下さいますようにお願いします。
整形外科リウマチ教室のご案内
整形外科では、リウマチ患者の皆様とご家族に、関節リウマチについての理解を深めて頂いて、日常生活の中で、より良い療養ができますように、2003年より整形外科リウマチ教室を毎月、開催しております。教室は、事前申し込み不要で参加費無料です。整形外科に通院中の患者さんだけではなく、他の医療機関や診療科で治療を受けておられる患者さん、ご家族や医療関係者も参加いただけます。
関節リウマチの治療や健康維持に関する話題が中心ですが、それ以外にも様々な話題を取り上げております。気軽に参加できる教室となるようにスタッフ一同、心がけておりますので、初めての方も、安心してご参加ください。
講演後に、個別の療養や治療に関する相談の時間を設けております。ご希望の方は、病気の状態が良くわかりますように、できるだけ検査結果やお薬手帳などをご持参ください。ただし、希望される皆様とお話できますように、お一人当たりの相談時間はある程度で限らせていただいておりますので、質問を予め準備しておいていただけますように、ご協力のほどよろしくお願いします。また、教室では、診察そのものはできませんので、リウマチかどうかわからない場合は、まずは、お近くの医療機関で診察と検査を受けて頂きますように、また、診療をご希望の場合には、整形外科のリウマチ外来を、できるだけ現在の主治医またはかかりつけ医を通じて初診予約の上、受診していただきますようにお願いいたします。
さて、10月の教室では、整形外科の前田俊恒先生に、リウマチ研究の最新情報に関して講演頂く予定です。皆様のご参加をスタッフ一同、心からお待ちしております。
整形外科リウマチ教室のスケジュール(2016年10月-2017年1月)
日時:2016年10月20日(木)(第3週です)午後1時-2時
会場:神緑会館1階多目的ホール
演題:「リウマチの研究アップデート」
講師:整形外科 前田 俊恒 医師 司会:三浦 靖史 准教授
日時:2016年11月24日(木)午後1時-2時
会場:神緑会館1階多目的ホール
演題:「冬を元気に過ごすために」
講師・司会:三浦 靖史 准教授
12月は年末につきリウマチ教室はお休みです。
日時:2017年1月26日(木)午後1時-2時
会場:神緑会館1階多目的ホール
演題:「2017年リウマチ治療今年の展望」
講師・司会:三浦 靖史 准教授
すっかり秋らしくなってきました。急激な気候の変化に体調を崩されないようにご自愛ください。
リウマチだよりやリウマチ教室に対するご意見ご要望は、お手紙で外来受付スタッフにお渡し頂くか、郵便、または、ホームページより電子メールでご送付下さい。
連絡先:〒650-0017神戸市中央区楠町7丁目5-2神戸大学整形外科リウマチ診療グループ宛
発行:神戸大学整形外科リウマチ診療グループ© 発行日:2016.10.1. 文責:三浦 靖史 禁無断転載・引用
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