第84号(2011年11月号[11/11/1発行])

 秋もすっかり深まり、紅葉の美しい時期となってきました。同時に冬も確実に近づいてきています。冬といえば、風邪、インフルエンザ、肺炎など、さまざまな感染症が猛威をふるう季節です。今シーズンも皆様には、インフルエンザワクチン接種などの早めの冬対策を実施くださいますようにお願いいたします。


インフルエンザワクチンについて

 一昨年の「新型インフルエンザ」に関わる騒動もすっかり忘れられたような印象がありますが、皆様はいかがでしょうか。「新型」も2011年4月から通常の季節性インフルエンザのひとつになっていますが、今年の冬も、いずれかの型のインフルエンザが流行することはほぼ間違いありません。自己免疫疾患である関節リウマチの治療薬の多くは、免疫を抑制する作用を持っていますので、リウマチ患者さんはウイルスや細菌などの病原体に対する抵抗力が弱くなりがちです。そこで、感染症の予防対策が重要ですが、対策の基本はワクチンの接種と日頃のうがいや手洗いです。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、ワクチン接種での感染の恐れはなく、メトトレキサート(リウマトレックス®)やタクロリムス(プログラフ®)などの免疫抑制剤や、生物学的製剤を使用しているリウマチ患者さんも、アレルギーなどの他の問題がなければ接種を受けることができます。ただし、ワクチンには即効性はなく、接種してから効果を発揮するまで2週間程度かかりますので、流行が始まってから接種したのでは間に合わない場合があります。すでに10月中旬からワクチン接種は開始されていますので、お近くの医療機関に申し込みの上、速やかに接種を受けていただきますようにお願いします。かかりつけ医での接種が難しい場合には、大学病院での接種も可能ですので、主治医までお申し出ください。なお、成人の場合、通常1回だけの接種で大丈夫です。また、できれば、患者さんだけではなく、ご家族全員で接種を受けてください。ところで、インフルエンザワクチンは普通の風邪には全く効果がありません。ワクチンを接種したから大丈夫と油断されず、うがいと手洗いなどの感染予防対策を徹底して頂きますようにお願いします。また、ワクチンを接種していてもインフルエンザにかかってしまう場合もあります。現在、タミフル®、リレンザ®、ラピアクタ®、イナビル®の4種類の抗インフルエンザ薬がありますが、いずれも発症後早期(通常48時間以内)に治療を開始しないと効果がありませんので、発熱やのどの痛みなどのインフルエンザが疑われる症状がありましたら、できるだけ早く、かかりつけ医の診察を受けて頂くようにお願いします。

肺炎球菌ワクチンについて

 最近、新聞の広告などで、肺炎球菌ワクチン接種に関する啓発運動(肺炎予防推進プロジェクト)を目にされた方も多いのではないでしょうか。肺炎は日本人の死亡原因の第4位と報告されています。肺炎と一口に言っても原因は様々ですが、細菌によって引き起こされる細菌性肺炎の原因となる頻度が最も高いのが肺炎球菌です。インフルエンザや風邪などをきっかけにして、肺炎球菌による細菌性肺炎になるのを防ぐために、免疫力が低下しがちな高齢者や免疫抑制作用を有する治療を受ける患者さんには、肺炎球菌に対するワクチン接種が推奨されています。肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスNP®)は、インフルエンザワクチンと同様に不活化ワクチンですので、免疫抑制剤や生物学的製剤を使用しているリウマチ患者さんも接種を受けることができます。肺炎球菌ワクチンは大学病院を含む多くの医療機関で接種を受けることができます。ただし、一部の疾患の患者さんを除いて、インフルエンザワクチンと異なり接種費用の減免の適応はありません。一昨年には供給不足も話題になりましたが、現在供給に問題はありませんので、接種を希望される患者さんは主治医までお申し出頂きますようにお願いします。体調などに問題がなければ、受診日に接種が可能です。なお、一度接種を受けると5年間は効果が継続しますので、インフルエンザワクチンと異なり毎年接種する必要はありません。既に接種された患者さんは間違って再接種されないようにご注意ください。


ゴリムマブ(シンポニー皮下注50mgシリンジ®)院内採用のお知らせ

4週に1回皮下注射で投与されるヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤ゴリムマブ(シンポニー皮下注50mgシリンジ®、ヤンセンファーマ・田辺三菱製薬)は、11月中旬より院内での処方が可能になる予定です。ゴリムマブによるリウマチ治療をご希望の患者さんは主治医にご相談ください。


新規生物学的製剤治験のご案内(再掲)

 整形外科リウマチ診療部門では、現在、国際共同で開発が進められている新規抗リウマチ生物学的製剤の治験を行っております。新しい薬を世に送り出すために、「薬の候補」が持つ、人における効き目(有効性)と副作用(安全性)を調査する「臨床試験」のうち、厚生労働省から「薬」としての承認を得るために行われる試験を、特に「治験」と呼びます。今回、治験の3段階の最後に当たる第3相試験が行われている生物学的製剤は、海外では関節リウマチと同じく膠原病のひとつである全身性エリテマトーデスの新しい治療薬として米国で本年承認されたベリムマブと同様に、主にBリンパ球に作用するBAFFというサイトカインに対して特異的に結合する抗体製剤で、関節リウマチに対しても高い有効性が期待されています。

 製薬会社と医療従事者だけが頑張っても、新しいリウマチ薬を誕生させることは決してできません。リウマチ患者さんやご家族の協力があって、初めて可能になります。治験に際しては、より一層の安全性の確保と、経済的負担の軽減、さらには、効果が不十分な場合の対策などに様々な配慮がなされています。皆様のご協力をいただけましたら幸いです。

 治験への参加に興味をお持ちになられた患者さんは、是非、主治医までお声掛けいただけますように、お願い申し上げます。なお、治験に参加いただくには、一定の条件を満たす必要がありますので、せっかく、お申し出を頂いても、ご参加いただけない場合もありますので、その際はどうかご了承ください。


整形外科リウマチ教室のご案内

 整形外科リウマチ診療部門では、リウマチ患者の皆様とご家族に、関節リウマチについての理解を深めて頂いて、日常生活の中で、より良い療養ができますように、2003年より整形外科リウマチ教室を毎月、開催しております。教室は、事前申し込み不要で参加費無料です。整形外科に通院中の患者さんだけではなく、他の医療機関や診療科で治療を受けておられる患者さん、ご家族や医療関係者も参加いただけます。

 関節リウマチの治療や健康維持に関する話題が中心ですが、それ以外にも様々な話題を取り上げております。気軽に参加できる教室となるようにスタッフ一同、心がけておりますので、初めての方も、安心してご参加ください。皆様の参加を心からお待ちしております。

 講演後に、限られた時間ですが、個別の療養や治療に関する相談の時間を設けております。ご希望の方は、病気の状態が良くわかりますように、できるだけ検査結果やお薬手帳などをご持参ください。ただし、教室では、診察そのものはできません。リウマチかどうかわからない場合は、まずは、お近くの医療機関で診察と検査を受けて頂きますように、また、当科での診療をご希望の場合には、水曜日の整形外科リウマチ外来を、できるだけ現在の主治医またはかかりつけ医を通じて初診予約の上、受診していただきますようにお願いいたします。さて、11月のリウマチ教室では、三浦准教授から、関節リウマチの新薬と現在開発中の治験薬に関する話題と、冬対策に関してお話させていただきます。12月のリウマチ教室は年末につきお休みさせていただきますが、年始の1月には、気持ちも新たに2012年のリウマチ治療の展望について講演させていただく予定です。皆様のご参加を心からお待ちしております。


2011年10月-2012年1月の整形外科リウマチ教室の予定

日時:2011年11月24日(木) 午後1-2時

会場:神緑会館1階多目的ホール

演題:「新薬と治験について」

講師・司会:三浦 靖史 准教授


*12月は年末につき大学病院でのリウマチ教室はお休みです


日時:2012年1月19日(木) 午後1-2時(第3週です)

会場:神緑会館1階多目的ホール

演題:「2012年リウマチ治療の展望」

講師・司会:三浦 靖史 准教授


神戸大学医学部附属病院での患者教室のお知らせ


第7回神戸海星病院リウマチ教室のご案内

 関連病院である神戸海星病院との共催で、4ヶ月毎に土曜日にリウマチ教室を開催しています。大学病院での平日のリウマチ教室に参加することが困難な皆様は、こちらにご参加ください。

日時:2011年12月10日(土)午後2時-4時30分 (午後1時30分開場)

会場:神戸海星病院 北棟6階 大会議室 (〒657-0068 神戸市灘区篠原北町3丁目11-15)

プログラム:

「介護保険について」 講師:神戸海星病院 地域医療連携部 矢部 育子 医療ソーシャルワーカー

「転倒予防について」 講師:神戸海星病院 リハビリテーションセンター 井澤 克俊 理学療法士

「冬対策について」  講師:神戸大学保健学研究科・整形外科 三浦 靖史 准教授

個別相談・施設見学(ご希望の方のみ)

参加費は無料ですが、定員がありますので、事前に電話でお申し込みください。

申込先:神戸海星病院 地域医療連携部  電話:078-871-5201


それでは、皆様、体調を崩されないようにくれぐれもご自愛ください。


リウマチだよりやリウマチ教室に対するご意見ご要望は、お手紙で外来受付スタッフにお渡し頂くか、郵便、または、ホームページより電子メールでご送付下さい。

連絡先:〒650-0017神戸市中央区楠町7丁目5-2神戸大学整形外科リウマチ診療部門宛

発行:神戸大学整形外科リウマチ診療部門© 発行日:2011.11.1. 文責:三浦 靖史 禁無断転載・引用


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