研究内容

 

医学研究科

医療機器開発のエコシステム(下図上部)の医療現場ニーズについて精査し、医学研究科及び附属病院等と連携しつつ、ニーズに基づいた生体親和性材料を選定し、その製造・加工法を検討します。その上で、プロトタイプを作製し、臨床的な評価を医師とともに推進します。
 

1:血管新生促進技術の開発とその臨床応用研究

再生医療分野において、近年では、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の臨床応用に向け、分化誘導効率の向上と細胞分離技術の向上によって単一細胞群を得ることが期待されています。しかしながら、単一分化細胞群を体内へ移植した後の組織再構築の成功例がなく、体循環系に繋げた例は全くないのが現状です。とりわけ、体循環系へ接続するためには血管新生が不可欠でありますが、これが不十分であるため再組織化に成功した例はございません。当研究室では、ポリエチレングリコール(PEG)をヒアルロン酸(HA)化学架橋ヒドロゲル中に含有させ、ここに成長因子を分配・分散させた「PEG含有ヒアルロン酸ゲル」を作製し、マウス皮下への埋植により、血管新生が促進される現象を見出しています(1,2)。そこで、成長因子を分配・分散したPEG含有ヒアルロン酸ゲルのPEGの分散状態と血管新生効率との関連性を明確にし、確実な血管新生を誘導するヒドロゲルのスペックを探索しています。これにより、血管新生促進機能を示す本ゲルの物理的・化学的・生医学的因子との関連性を明確にし、iPS細胞から分化誘導された細胞・組織の皮下移植における血流を確保する血管新生誘導技術を確立します。
 参考
(1)特許第7186417, 血管新生促進材
(2)新技術説明会:体内に移植した細胞・組織に新たな血管を誘導する技術
 
 

2:バイオ人工膵島プロジェクト(医学研究科外科学講座肝胆膵外科学分野との共同研究) 

日本の1型糖尿病患者は約15万人程度との報告があります。1型糖尿病治療として保険適用された同種膵島移植は、ドナー不足と免疫抑制剤の不可欠性により移植数は少なく標準治療に至っていないのが現状です。海外では臨床試験として、医療用ブタ由来膵島を免疫隔離カプセルに包埋し腹腔内に移植する「バイオ人工膵島」移植が行われ、インスリン離脱数が少ないという課題が示されています。この課題解決には、カプセル化膵島への血流供給の改善が必須です。神戸大学では、皮下血管新生促進技術を応用し、全ての1型糖尿病患者に対する新規治療法として「バイオ人工膵島」移植を確立することを目指しています(1,2)。膵島移植は1型糖尿病の最も効果的な治療法です。しかし、ドナーの不足と免疫抑制剤の終生使用が大きな欠点である。カプセル化ブタ膵島移植は、この2つの欠点を解決することができると期待されています。しかし、移植を受けても一生涯免疫抑制剤の内服をしなければならず、発癌や易感染性などの問題を抱えることとなるなどの問題がありました。本研究では、このデバイスのカプセル化方法と材料を最適化することを目指しています。具体的には、膵島が非常に小さい(100-300μm)組織であるという特性を活かし、膵島全体をアルギン酸を用いた最小粒子径のmicro capsuleで被包化し、これを生体親和性に優れたポリマーコートを施して移植することで、ホストの免疫機構から隔離するとともに低酸素・低栄養状態に陥ることによる膵島が壊死することを防止することを目指しています(3)。
 
 

3:小口径人工血管の開発と実用化研究(医学研究科心臓血管外科との共同研究)

世界中で主な死因である心血管疾患(CVD) は2030年には年間死者数が2330万人に及ぶと言われています。このCVDに対する治療法の1つに、合成人工血管の適用があり、ポリエステル(Dacron)製のものやテフロン(ePTFE)製の人工血管が主に使用され、高い開存率が示されています。しかし、内径が6㎜以下の小口径人工血管は血栓の形成などの理由で開存率が低いままであり、臨床では血栓形成が抑制された小口径人工血管が必要とされています。当研究室では、電界紡糸法による高分子ナノファイバー加工に着目し、天然の細胞外マトリックスの構造を再現することで血液適合性が向上できるとして小口径人工血管の開発を推進しています。

 

4:胆管ステントの新規開発(医学研究科消化器内科との共同研究)

胆管狭窄の治療法のとして、胆管内にステントと呼ばれる管を留置する「内視鏡的逆行性胆管ドレナージ」が存在します。とりわけ、プラスチック製の胆管ステントは、開存期間が数ヶ月程度であることが知られており、一時的な処置のために使用されます。しかしながら、再閉塞が不可避であり、その主な原因は胆汁と細菌等との相互作用によって形成された胆泥と考えられています。しかし、その形成の詳細なメカニズムについては明らかになっていません。本研究では、実際の胆管ステンと閉塞メカニズムを解明し、この再閉塞を極限まで抑制する新規プラスチック胆管ステントの開発を進めます。プラスチック胆管ステント市場規模は年間17.5万本、45.5億円の規模があり、この市場への参入を目指します。

 

5:お茶カテキンコーティング金ナノ粒子による放射線併用療法の開発(医学研究科乳腺内分泌外科との共同)

放射線療法は、がんの治療法として広く利用されているが、体へのダメージが大きく、治療効果が損なわれています。放射線照射野は胸腔の半分に達するため、胸壁に限定して照射野縮小が試みられているものの全身線量50~60Gy程度の照射レベルが必要であり、高いレベルで限定的に照射するため、放射線肺炎や放射線関連食道炎を引き起こすことが多い。したがって、治療効果を確保するためには、照射線量を減らす必要があります。われわれはこれまでに、緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)を固定化した金ナノ粒子が、低毒性でかつ放射線照射効果も向上することを見出し(1)、さらにマウスレベルでの体内動態についても検討してきました(2)。腫瘍への蓄積性を向上させる条件を見出し、非臨床試験及び臨床試験へとつなげることで薬事申請を目指しています。
参考
(1) Gan, N.; Wakayama, C.; Inubushi, S.; Kunihisa, T.; Mizumoto, S.; Baba, M.; Tanino, H.; Ooya, T. ACS Appl. Bio Mater. 2022, 5 (1), 355–365.
(2) Wakayama, C.; Inubushi, S.; Kunihisa, T.; Mizumoto, S.; Baba, M.; Tanino, H.; Cho, IS.; Ooya, T. JCIS Open. 2023, 9, 10074
使用装置(共通機器も含む)はこちら ※準備中




工学部

先端医療(再生医療や薬物送達システム)の発展に寄与すると期待される生体に接するマテリアル(生体材料もしくはバイオマテリアル)の分子設計・合成から細胞を用いた機能評価までを行い、バイオマテリアル機能を化学の立場から明らかにすることを行います。有機合成、高分子科学、そして細胞生物学をベースとし、ヒトへの応用を常に意識して、食品素材や生体適合性材料をバイオマテリアル設計に組み込み、特にガン治療を目指したバイオマテリアルの新概念を提唱することを目指します。将来的には食品学・栄養学とバイオマテリアルを融合した予防・治療の方法論を確立したいと考えています。
 

1. 生体適合性の学理探求

水の構造と水酸基・エーテル性酸素との関連
分子構造と分子量に分布のない枝分かれ状分子(ハイパーブランチポリグリセロール及びポリグリセロールデンドリマー)に着目し、枝分かれ度の違いと化学修飾を通じて水の構造を定量的に変化させ、水の構造と分子構造パラメータとの相関性を明らかにします。その上で、血液適合性の指標となるタンパク質吸着及び細胞接着を評価し、水の構造と血液適合性との関連性を明らかにすることで、独自の血液適合性材料としての学術的根拠を得ます。これらの研究によって生体材料科学と水の構造物理化学とを融合した学理の構築を目指します。
参考
(1) M. Yamazaki, Y. Sugimoto, D. Murakami, M. Tanaka, T. Ooya, Langmuir, 2021, 37, 8534-8543.
(2) T. Ooya, J. Lee, Gels , 2022, 8, 614.
 

2. がん治療用材料の開発

細胞内抗がん剤合成
近年、抗がん剤を投与しない新たながん治療法として、抗がん剤の生体内合成戦略が注目されている。この戦略は、毒性のない薬物中間体を投与し生体内でピンポイントで薬物を合成する全く新しい戦略である。この手法では正常細胞への薬物中間体の蓄積を無視できるため、副作用を抑えた抗がん剤治療への応用が期待できる。本研究では、ポリグリセロールデンドリマー (PGD)及びハイパーブランチポリグリセロール (HPG)とバナジウムとの錯体を調製し、水系均一触媒としての基礎評価を行ています。バナジウム錯体を水系均一触媒として使用することができれば、安価な薬物中間体を直接高価な薬物へin situ生体内合成する新たな「標的薬物製造型がん治療」への展開ができると期待できます。

食品素材のバイオマテリアル化
抗がん剤による腫瘍の化学療法は有用な方法であるが、正常組織への望ましくない送達に関連する深刻な副作用は、依然として大きな課題です。そこで、抗がん剤に代わる潜在的な方法として、正常な細胞や組織に有益な効果を示しつつも抗がん活性も期待できる微量栄養素に大きな期待が寄せられています。とりわけ、ビタミンE誘導体のコハク酸α-トコフェロール (α-tocopheryl succinate; αTOS)は、ミトコンドリアでの酸化還元反応を阻害することから細胞死を誘導することが知られています。しかしながら、高濃度で腫瘍へ送達させる方法が確立されなく、腫瘍への送達条件を見出すことが重要となります。当研究室では、αTOSの重合性モノマーと親水性モノマーとの組み合わせによって両親媒性ナノ粒子を調製し、抗がん剤を使用しない化学療法の確立に向けた研究を推進しています(1)。腫瘍へ取り込まれるナノ粒子のスペックを見出すとともに、動物実験を通じた腫瘍蓄積性とがん細胞死メカニズムを解明することで、抗がん剤を使用しないナノ粒子の抗腫瘍効果の最適化を目指しています。
参考
(1) T. Kitazume, N. Gan, S. Yusa, T. Ooya, Macromolecular Chemistry and Physics, 2021, 222, 2100099
 
光線力学的治療に有効な光増感剤キャリアの設計
低侵襲がん治療法として光線力学療法(photodynamic therapy : PDT)が注目されています。PDTは光増感剤(Photsensitizer: PS)の投与後、これを活性化するための腫瘍への光照射を含む光反応を用いた治療法で、PSから生成された一重項酸素(SO)または活性酸素種(ROS)を利用してがん細胞死を導きます。しかし、P悪性腫瘍は血管からの距離が遠くなることで低酸素状態を引き起こすことが知られてており、ROSの産生量が減少することが大きな要因となっています。
そこで、甲南大学フロンティアサイエンス学部の三好大輔先生と川内敬子先生が発見された亜鉛(Ⅱ)フタロシアニンテトラスルホン酸(ZnAPC)の低酸素状態の細胞内でも細胞死を引き起こす特性に着目している(Kawauchi, K., et.al. Nature Communications, 2018, 9, 1–12)。しかしながら、ZnAPCは生体内循環性に乏しく、PDT用PSとしての応用への妨げとなっている。ZnAPCの生体内での循環性を高め、ZnAPCを選択的に腫瘍へ送達する新奇キャリアの開発を進めています(1)。
 
参考
(1) 特開2024-025110
 
 

3. シクロデキストリンの特性を利用した材料および機能開拓

生分解性環動高分子ゲル
高分子材料は、固いプラスチックからゲル状の材料に至るまで、様々な伸縮性・機械的強度や自己修復性を付与する技術革新によって、われわれの生活に必要な食料品用の容器、工業用製品並びに医療用製品に至る幅広い分野で高機能化されています。近年では、海洋マイクロプラスチックなどに代表される環境問題への対策として、最終的には生態系に無害となる成分にまで分解される生分解性の機能の重要性が再認識されるようになってきました。しかしながら、生分解性を付与しようとすると、高分子の強度が弱くなる傾向があり、逆に強度を強くすると生分解しにくくなるトレードオフの関係があることが課題でした。当研究室では、高分子と高分子との化学結合部位(架橋点)が自由に動く高分子材料(環動高分子ゲル) に特徴的な「動く架橋点」を従来の共有結合(安定な化学結合)を物理的に弱い「水素結合」とすることで、伸縮性・機械的強度及び自己修復性に加えて水中で溶解する機能を付与することに成功しました(1-3)。さらに、この水素結合の程度を化学的に調節することによって水中での分解/溶解するパターンを任意に変更できることを明らかにし、新しい生分解性/溶解性ゲルの開発指針を示しました。ゲルのみならずフィルム化にもトライしています。

樹状グリセロール修飾シクロデキストリン
当研究室では、高い親水性と生体適合性を有するハイパーブランチポリグリセリン(HPG)とポリグリセリンデンドリマー(PGD)の生体機能材料の可能性を追求しています (1)。HPG修飾β-またはγ-シクロデキストリン(HPG-β-CDまたはHPG-γ-CD)を調製し、これらをホスト分子として、1)ビタミンEの可溶化(2)、2)ホウ素クラスターを担持した中性子捕捉療法(BNCT)(3)、3)超分子集合体の構築(4)について検討しています。
参考
(1) Ooya, T.; Ogawa, T.; Takeuchi, T., J. Biomat. Sci.-Polym. Ed. 2018, 29 (6), 701-715.
(2) Kimura, M.; Ooya, T., J. Drug Deilv. Sci. Tech., 2016, 35, 30-33.
(3) Sugiura, K.; Kanai, T.; Sakurai, Y.; Sanada, Y.; Matunaga, S.; Nagasaki, T.; Ooya, T., in preparation.
(4) Yamamoto, K.; Ooya, T., in preparation.
 
 

4. 多糖類の組み合わせによる自己修復ゲル・生分解性ゲル

ポリオール系多糖類や中分子を混合するのみで自己修復可能な多糖ベースのヒドロゲルの調製条件を検討し(1)、非線形弾性の特性が異なるゲルの細胞応答を明らかにしました(2-5)。一方、「細胞外マトリックスの機械的特性を再現する超分子ヒドロゲル」の可能性についても研究を行っています。高強度、生分解性、および自己修復特性を示し、細胞の増殖を阻害しないヒドロゲルとして、ポリロタキサンと直鎖状の水溶性多糖類を可逆的な共有結合で架橋すれば、高強度であるにもかかわらず生分解性を示すのみならず自己修復特性も有し、細胞の増殖を阻害しないことを見出しました(6)。
参考
(1) I. S. Cho, T. Ooya, J. Biomater. Sci., Polym. Ed., 29, 145-159 (2018)
(2) I. S. Cho, T. Ooya, Int. J. Biol. Macromol. 134, 262-268 (2019).
(3) I. S. Cho, T. Ooya, Chem. Asian J. 13, 1688-1691(2018).
(4) 特願2022-76999
(5) 特開2020-180228
(6) I. S. Cho, T. Ooya, Chem. Eur. J. 2020, 26, 913-920
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