植物の生命機能を探る

自然界に存在する植物の特性は何によって定められているのであろうか?植物の研究者は、この難問に答えるべく日夜、研究を行っている。生物の形態的特性も生理的特性も遺伝的特性も全て、細胞の中にあるDNAにあらかじめプログラミングされている。そうであれば、植物のDNA配列がわかれば植物の全てが、わかるのではないか?この考えに基づき、植物ゲノム解析研究が10年間に急ピッチで進み、シロイヌナズナやイネのDNAの配列がほとんど決定された。そして、シロイヌナズナでは2000年に、またイネの染色体のうち3本のDNA配列は、200211月にNature誌に発表された。しかし、この進展の中で明確になったのは、植物の生命機能を決めるのは、DNA配列が統べてではないということである。

 植物研究の潮流は今や、遺伝子の機能解析とその物質としてのタンパク質の機能ならびに構造解析などのポストゲノム研究に移行している。そのなかで、私が注目しているのは、植物細胞の中の生体分子の挙動についてである。そしてその中でも染色体に関するタンパク質の動態解析をテーマに研究を行っている。

我方では、植物細胞のDNARNA、タンパク質の可視化技術の開発を行ってきたが、これまでの核酸やタンパク質の細胞内の局在性の研究は、植物の死んだ細胞や破壊した細胞から得られる静的な位置情報や生化学情報であった。しかし ながら、細胞は本来、生きて分裂を繰り返し、生育環境の影響をうけて、ダイナミックに機能している。それならば、生きた細胞内で働くタンパク質の動きを動的に解析することが、植物細胞の機能を理解するために不可欠と考えている。

 そのために現在は、タバコやイネの細胞分裂時における染色体形成に関連する微量なタンパク質について、生細胞の中で、様々な顕微鏡を用いて、立体的 に刻々と移り変わる染色体ならびに核関連タンパク質の動態を可視的に解析する実験系の構築を行っている。将来は、未知の染色体関連タンパク質の機能を解析し、本質に限りなく近似の植物染色体モデルを組み立てたいと考えている。

これらの実験モデル系が確立されれば、高等植物の細胞分化という生命現象の 解明に寄与できる。そして、植物細胞の分裂制御機構を明らかにすることで、細胞分裂の促進または抑制を行う新規物質の開発のシーズや植物細胞を利用した有用物質生産に役立つ知的財産の創出に貢献できると考えている。