行動発達概論(小田担当分)
 
 1.人間は、なぜ、そうした行動をするのか?−人間行動の原動力を探る
 2.人間は、なぜ、そうした行動をしないのか?−人間行動を制約するもの
 3.人間行動の不思議を探る
 
1.人間は、なぜ、そうした行動をするのか?−人間行動の原動力を探る
 
1.生命体は行動する!?
 ○動物(運動と感覚の機能をもつ生物)animal
  − living organism with independent movement :
    a living organism that is distingushed from plants by independent movement and responsive sense organ
 ○植物(根が生えて固定的な生活をしているような生物)
  −花が太陽の方向に向いたり水を求めて根を伸ばすことも行動(と言えなくもない)。
 
では、なぜ、生命体は行動するのだろうか?→自らの欲求を充足しようとするから(欲求は行動を動機付ける最大の原動力)−そこで、まず、欲求について考えてみよう
 
1.マズローの「欲求5段階説」
Maslow, Abraham H.(1908〜1970)。アメリカの心理学者。ニューヨークのブルックリンに生まれる。ユダヤ人であったため、孤独な少年時代をすごした。『人間性心理学雑誌』の創刊。臨床心理学から始まり、健康な人間についての心理学的研究へ。正常な成熟した健康な人間について、動機、自己実現、創造性、精神衛生などを研究。未成熟の人間、病気の人間、些末な行動などの研究に激しく反対。動機論や自己実現過程の理論は、心理学の専門以外の人たちからも関心をもたれている。新しい概念の創出−「自己実現」、「至高経験」、「成長動機」、「欠乏動機」。人間の価値論、人間の本質的価値、人間の尊厳性を説く−人間性心理学(humanistic psychology)。
 
(1)基本的欲求
「人間は、人類に普遍で、明らかに不変で、発生的あるいは本能的な起源を持つ無数の基本的欲求によって動機づけられている」
 
@その欠如が病気を生む。Aその存在が病気を防ぐ。Bその回復が病気を治す。Cある非常に込み入った自由な選択場面では、阻まれている人によって、他の満足に先駆けてこれが 選ばれる。D健康な人では、低調で、衰えているか、それとも働かない。
 
そうした欲求は5段階のピラミッドのようになっている−次の欲求が満たされていて、より高次の欲求の充足へ向けて努力する。人間の本性を成長動機に見出した。
 
B欲求:「B価値」の実現への欲求。BはBeing(存在・生命)の略。
B価値はどのようなものか:「全体性」、「完全性」、「完成」、「正義」、「躍動」、「富裕」、「単純」、「美」、「善」、「独自性」、「無礙(むげ)とらわれがなく自由自在なこと」、「遊戯(遊び戯れること)ユーモア・遊び心」、「真実」、「正直」、「現実」、「自己充足」など人間にとって普遍的かつ基本的だと見なしうる価値。これらは、互いに排除することなく、重複・融合され、全体の諸側面を構成する。
 
自己実現への欲求
 自らの才能や能力、可能性等を十分に用いて自己を開拓し、潜在的なあるべき自分の姿になり、より一層、自分特有の姿になり、自分がなることのできるものなろうとする傾向
→固有の理想的自分像を描き、それを実現しようという欲求
 
自己実現
 当初は一部の年配者に限られる到達点とみなされたが、後に、誰でも「至高体験」(peak-experience)によって一時的に自己実現に到 達しうると再定義された
 
至高体験
 自己実現の瞬間的な達成、一過性の性格的変化、最も幸福で感動的 な瞬間(一時的な達成感)
 
 自己実現する人間は、または平均人についても至高体験の際には、自然がそのまま、それ自体のために存在するように見ることができ、決して人間の目的のための遊技場としては見ない。そこに人間の意図を投影させないよう容易に差控えることができる。自己実現する人間の正常な知覚や、平均人の時折の至高体験にあっては、認知はどちらかといえば、自我超越的、自己忘却的で、無我であり得る。無欲、無私で、求めることなく超然的。自我中心的ではなく、対象中心的
 
自己実現している人の定義
(a)病気から解放されている (b)基本的欲求(所属、愛情、尊敬、自尊心)を充足
(c)自己の能力を積極的に用いている 
(d)高次の欲求に動機付けられ、それを得ようと努力、模索
自己実現的な人間の特徴
1.現実をより適切に知覚し、現実とより快適な関係を保つ
2.自己、他者、自然に対して受容的態度をとる−すべてのものを
  あるがままに受け止める
3.自発性、単純さ、自然さを持つ
4.自己中心的ではなく、課題中心的
5.孤独、プライバシーを好み、欠乏や不運に対して超然
6.文化や環境から独立し、意志をもった能動的人間
7.認識が絶えず新鮮
8.神秘的経験−至高体験を持
9.共同社会感情を持つ
10.心の広い、深い対人関係を持つこと
11.民主的性格構造」を持つこと
12.手段と目的の区別、善悪の区別が判断できる
13.哲学的で悪意のないユーモアのセンスを持つ
14.創造性を持つ
15.文化に組み込まれることに抵抗し、文化を超越する
 
 
 
 
 
 創造性−自己実現する人間の全員に見られる普遍的な特徴
 
 創 → 特別な才能の創造性
 造    天才、科学者、発明家などの特別な人たちにみられる
 性    社会的に評価される創造性
   → 自己実現の創造性
      誰もが持っている創造性:必ずしも社会基準に評価されるとは限らないが、その人に
      とっての新しい価値あるものを創り出す経験
 
創造的であるためには、曖昧さや無計画性を受け入れることができる強靭なパーソナリティ、自分自身への信頼、静かな自身が必要
 
自己実現に対する批判(Frankl, 1979)
 自己実現は人間の究極の目的ではない。もし自己実現が目標にされ るとすれば、人間存在の自己超越性と矛盾することになる。人生に は必ず実現すべき価値・意味があり、人間は心のもっとも深いとこ ろでは、快楽や幸福を目指す存在ではなく、意味を目指すべき存在 である。そして、人間の存在は、意味に向かって自己を超越するも のである。生命は、自分に与えられた人生の意味を実現するという 使命のためにあり、自己目的化した自己実現は単なるエゴイズムに 過ぎない。
 
自己実現を超える欲求:マズロー自身が晩年に想定
 「自己超越」(人間の成長の極限)への欲求=これまでの自己を超 えるような何かに変身しようとする欲求=これまでの自己概念を根 本から変えるような行動に走ったり、既成の自分の人格そのものを 改革してより一層自己を成長させようとする欲求 
 → トランスパーソナル(trans-personal)心理学の発展
 
トランスパーソナル心理学
 1960年代末に、学生運動、LSD文化、東洋思想の流入に結びつき、アメリカで誕生した。
 LSD(Lysergic acid diethylamide:リゼルギン酸ジエチルアミド)−精神分裂と同様の症状をもたらす。色、味、においがなく、少量で効果が強い。アメリカで学生、芸術家が幻覚剤として使うことが流行した。原料は、麦角という菌の産物。日本では麻薬に指定されている。精神異常発現薬。精神症状として幻覚(特に視覚性のもの)が現れる。また知的能力も障害され錯乱、思考困難などが見られ、ときには恍惚状態または抑うつ状態を起こす。作用はこの他に血圧上昇、頻脈、流涎、流涙、散瞳が現れたり、血糖体温の上昇などが見られる。人為的に精神病を引き起こさせ、精神治療薬の開発の手がかりを得たり、精神病そのものの研究を行う手段に使われる(実験精神病をつくり出し、脳の働きの機微を探る)。麻薬および向精神薬取締法によって規制されている。オウム真理教の第二サティアン内の柱の中に隠されていたものが見つかった。教団のイニシエーションと呼ばれる宗教儀式に使用された疑いがもたれている。LSDの原料「エルゴタミン」は国内では一キログラム1億円ともいわる。高価で大量入手が困難なことから、教団は、ロシアから10キログラムを持ち込んだとされる。
 トランスパーソナルは、近代的個人(科学性・理性・批判性)であるとともに、古代の英知(宗教・霊性)を再発見し、近代の個人主義が陥るエゴイズムとニヒリズムという限界を超え、個人主義に代わる人生観−世界観−ライフスタイルを追求。
 トランスパーソナル心理学では、人間の成長を、自我の確立、主体的存在としての自覚、自己実現などの言葉で示される個としての成長としてではなく、他者・共同体・人類・生態系・地球・宇宙との一体感・同一性(アイデンティティ)の確立としての「自己超越」の段階への到達に求める。
 人間は閉じられた存在ではなく、開かれた存在。人間は孤立しているのではなく、周囲の人々や環境、動植物、宇宙と共に息づき、絶えず目に見えない次元で互いに影響しあっている。
 
 
 
 
欲求階層説の4つの仮説
仮説1−欲求は満たされると欲求ではなくなる(満たされない欲求によって動機づけられる)
仮説2−より低次の(あるいはより基本的な)欲求が満たされて、はじめてより高次の欲求が出現し
    てくる
仮説3−承認と自尊心の欲求に至るまでの欲求は欠乏欲求(D欲求)であるのに対して、自己実現は
    一人ひとりの人間のかけがえのない存在(being)そのものにかかわる欲求(B欲求)であ
    る
仮説4−D欲求は、生物的基礎が濃厚で、強い本能がそこに働いているが、B欲求では生物学的基礎
    が薄弱で弱い本能に基づいているにすぎない。
 
 B欲求の充足にかかわるB価値やB経験に接するためには、良い社会やユーサイキアン・マネジメント(Eupsychian Management)がいる。ユーサイキア(eupsychia)とは、マズローの造語で、自己実現人(人間の潜在的可能性を実現し、精神的に成熟した人々)を生み出し、自己実現人が作り出していく精神的に健康で、実現可能な文明ないしは理想郷(ないところという意味でのユートピアではなく)を指す。したがって、ユーサイキアン・マネジメントとは、精神的・心理的に健全な方向への前進、健全なマネジメント、働く人々が精神的に健康でありえるためのマネジメントという意味。
マズロー, A. H.(1982)創造的人間 誠信書房
マズロー, A. H.(1974)人間性の心理学 産業能率短期大学出版部
マズロー, A. H.(1964)完全なる人間 魂のめざすもの,誠信書房
マズロー, A. H.(1965)完全なる経営 日本経済新聞社 2001
 
人間行動の特徴
行動の2分類
無意識的・本能的行動
 生理的行動や反射的行動は本人の意志とは無関係に、あるいは無意識的に行われ、学習を必要とし
 ない行動。生命の維持や種の保  存に関わる行動の多くはそうした行動。
意識的・意図的行動
 本人の意志に基づいて目的意識的に行われる行動。
 
では、人間の行動が他の動物と区別される点は???
 
@行動の多くがすぐれて意識的・意図的なものである。
A欲求の充足へ向けた行動が欠乏動機よりも成長動機による ところが大きいことである。
Bイメージを描き、それを行動によって具体化することがで きることである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(1)行動の多くがすぐれて意識的・意図的なものである。
 社会学では、そうした目的意識的な行動をとくに行為(action)と呼んで行動一般と区別することがある。この場合は、外見的には行動していないとみなされるものも含まれている。
 
例1:目をつむってじっとしている。
  @眠っている A気を失っている B思索にふけっている
例2:座ったまま動かない
  @腰が抜けて動けない Aここを動かないと決めて座り込む
 
 B思索にふけっている、Aここを動かないと決めて座り込む、といった行動が行為すなわち目的意識的行動ということになる。人間の行動では、行動しないということも行動の内にはいるということである。
 
 目的意識的行動のうち、他者に向けられた行動あるいは他者との関係の中で展開される人間の行動を社会学では社会的行為(social action)と呼び、心理学や動物学では人間以外の動物に見られる集団的行動も含めて社会行動(social behavior)と呼ぶことが多い。
 
 人間の行動に限定しているので、社会行動は社会的行為と同義。
例:音読
 一人で音読していることも、誰かに読み聞かせるために音読していることも、声を出して文章を読むということでは同じ行動(行為)。しかし、それが他者に向けられた行動であるか否かという点で両者は区別され、後者が社会行動ということになる。
 社会行動に関しては、別の機会に詳しく取り上げる。
 
(2)欲求の充足へ向けた行動が欠乏動機よりも成長動機(発達動機)によるところが大きい
 
欠乏動機による行動 −空腹を覚えるから食べる
発達動機による行動 −運動選手がもっと記録をよくしたいから練習する
          −成績をよくしたいから勉強する
 
発達動機による行動は、欠乏動機による行動に比べて、より意識的・意図的である。もし、他の動物も発達動機による意識的・意図的行動ができたなら、人間は万物の霊長にはなり得なかったかもしれない。
 
(3)イメージを描き、それを行動によって具体化できる
@有形のイメージ
 洋服や自動車、住宅、携帯電話・・・
 −新しいデザイン、新製品=存在したことも見たことものない物を形にできる
A無形のイメージ(行動のイメージ/イメージに従った行動)
 −1週間、1か月先の計画を立てることができる
 −待ち合わせの時間と場所を決めてデートができる
 −作戦を立てることができる
 
そうした人間ならではの行動能力を発揮して、人間は、より便利に、より快適に、より安全に、より健康的に−ときは、より破壊的に−と常に欲求を高度化、多様化させ続け、それを充足してきた。
 
しかし、人間を行動に突き動かす力は多様である。では、
目的意識的行動以外の行動はどのように理解したらよいだろうか・・
 
行為の4類型(Max Weber, 1864-1920)『社会学の基礎概念』
@目的合理的行為
A価値合理的行為
B伝統的行為
C感情的行為
ドイツ生まれ。社会学者、政治学者、経済学者。世界中に強い影響。父は政治家で母は敬虔な改革派プロテスタント教徒。初めは法律を学ぶ(ハイデルベルグ大学)。25歳で博士号(ベルリン大学)。29歳でマリアンネと結婚、同時にフライブルグ大学教授。33歳でハイデルベルグ大学教授。34歳の時に 精神の病のため学問活動が出来なくなり、5年間、沈黙と静養の時を過ごす。その後、研究を再開。ミュンヘン大学教授。56歳の時に急性肺炎で死亡。「社会科学と社会政策にかかわる認識の客観性」や「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」、「理解社会学のカテゴリー」、「社会学と経済学における価値自由の意味」、「職業としての学問」、「職業としての政治」は今日でも大学生の必読書とされている。宗教社会学の研究も多い。音楽社会学。遺稿集が妻マリアンネによって「経済と社会」の題名で公表される。
 
 
 
@目的合理的行為−目的と手段の関係が合理的(目的にかなっている−適合的)。予想される結果の         実現に適した手段を講じる。
A価値合理的行為−倫理・芸術・宗教など固有の絶対的価値に基づく行為。予想される結果にとらわれない。
B感情的行為  −感情や情緒、気分による衝動的な非合理的行為。
C伝統的行為  −身についた習慣による行為。目的合理的でもなく、価値合理的でもなく、また、感情的でもない習慣的行為。昔からそうしてきたから、そうするといった類の行為
以上は「理念型」(純粋な思惟的な構成物)。実際の行為はそれらが入り組んでいることが多い。具体的に考えてみよう。本日は、ここまで
 
2.人間は、なぜ、そうした行動をしないのか? − 人間行動を制約するもの
 
人間が欲求充足へ向けて、あるいは価値や感情、伝統に基づいて行動すると言っても、思い通りに、あるいは何の制約もなく行動しているわけではない。この問題を考えるために、人間の行動(行為)がどのような要素から成り立っているかを考えてみよう。
 
タルコット・パーソンズ(Talcott Parsons:『社会的行為の構造』1968)は、行為の要素として、目標、状況、手段、規範の4つをあげているが、ここでは、それらを含む以下の6つをあげてみたい。
 
行為の要素
(1)目標−行為を導く個人的関心・欲求
(2)状況−個人を取り巻くその場、その時の社会的、文化的、自然的、物理的ありさま。平時(定常)・非常時(非定常):状況認知(その場をどのように理解するか)
(3)手段−目標実現のための手段の有無
(4)規範−行為を外側から裁可/査定(sanction):制御(control)
(5)価値−行為を内側から裁可/査定(sanction):制御(control)
(6)資源−能力、人的・物的・関係的資源:目標や手段を制御
(7)エネルギーの動員−しようと思うことと、することのちがい
 
人間の欲求と行動は多様な要因によって制約・制御されている。このうち(4)と(5)は人間行動を社会的ルールが制御社会的ルールにはずれた行動をすると、逸脱行動(deviant behavior)とみなされる
 
逸脱行動:個人(または集団)が所属する集団や社会の規範や標準から外れた行動
規範(norm):判断・評価または行為などが拠るべき基準。
      約束事、ルール、慣習・民習(customs/folkways)、モーレス(mores)、道徳、法
標準(social standard):社会の大多数の人々の状態や行為の平均的傾向
慣習:ある社会の内部で歴史的に発達し、その社会の成員に広く承認されている伝統的な行動様式。ならわし。風習
フォークウェイズ:集団の共有する慣習・習俗。欲求を満足させるための努力として多数の人間により営まれる小規模な行為の反復から生まれ、歴史・自然環境などに制約されつつ浸透・固定した行動様式で強い強制力をもたない。William Graham Sumner(1840-1910)の用語:Folkways: a study of the sociological importance of usages, manners, customs, mores, and morals, 1906
モーレス:強い強制力を持ち、それを犯すと厳しい制裁を受ける逸脱行動に対する社会的仕組み
サンクション(sanction:裁可/査定)による行動の制御
 
逸脱にも軽微な逸脱から重大な逸脱まで幅があり、それの応じたサンクション− 例:交通違反点数
 報償(飴)−是認、賞賛、表彰、・・・
       ルールや社会的価値に沿った行動(同調行動)を促進。
 制裁(鞭)−否認、批判、処罰、・・・
       ルールに違反の行動(逸脱行動)を抑制。
社会は多様な規範を物差しとして成員の逸脱性をたえず判定している
 
 褒められたいから、そうする。批判されたり罰せられたくないから、そうしない → サンクションに動機づけられた行動
 
逸脱行動とレイベリング(labeling:ラベリング、レッテル貼り)
レイベリング:ある行動を逸脱としてラベルを貼ることやラベルを貼る過程
「逸脱行動とは逸脱だと言われている(ラベルを貼られた)行動」(H. Becker)
 
 通常ラベルは大きな権力をもっている側からもっていない側に貼られる。「なにが逸脱か」という認知はその社会の権力構造に大きく左右される。たとえば同じ行動でも、それを行った者の出身階層によって、行動の意味付けが異なってくることがある。上流階級の子どもがいたずらをすれば「子どもらしい行動」と考えられるかもしれないが、下層階級の子どもが同じことをすれば「犯罪の萌芽」ととらえられる。成績のよい子が宿題を忘れると「何か事情があったのだろう」と許され、成績の悪い子だと「また忘れて。だから成績が悪い」と叱責される。裕福な高齢者が深酒して酔っても「まあ、そんなに飲んで。何かいいことがあったのかしら」と言われ、貧しい高齢者が酔うと「金もないのに酔っぱらうほど飲んで」と白い目で見られる。
 
規範と逸脱行動
 価値的側面 − それが望ましいこととして従う。人間として当然のこととして従う。道徳心から従
        う
 機能的側面 − それが必要だから是非を問わずに従う。そうした方が都合がいいから従う
        
(例)割り込みをしないで行列に並ぶ。犬の散歩に糞の処理袋を持参する。他人に迷惑をかけない。
   コンプライアンス(法令遵守)
 
 他者の逸脱行動への対応や評価、レイベリングへの違い
 自分への直接的利害と社会的コスト
 逸脱行動と社会的秩序−逸脱行動の社会的潜在機能
 
おまけ
ユー・エス・ジェイの改善計画。
 1.全社安全一斉総点検の実施
 2.安全確保体制の確立
 3.全社コンプライアンス体制の確立
 4.積極的な情報開示
 5.従業員の意識向上
 社内全部署が、法令、諸規則、企業倫理を遵守する体制を保証・確立する。
・「コンプライアンス委員会」をすみやかに設置し、法令遵守精神に基づいた行動 規範をマニュアル化、経営最高責任者が経営上の重要な情報を判断処理できる 体制を構築する。
コンプライアンス委員会の総括のもとで、各部に「コンプライアンス小委員会」を設置し、全ての従業員に対して法令等の遵守精神の徹底を進める。
 
コンプライアンス:企業活動において、法令などのルールを守ることをいう。不祥事を起こすと売上の大幅な落ち込みなど経営に大きな悪影響を受ける。そこで、不祥事が起こらないように、日頃から法令を遵守してルールに従った活動を行うように全員に徹底させることが重要であると認識。→ 規範の機能的側面 (本日はこれで終わり。次回は・・・)
 
 
 
3.人間行動の不思議を探る
 
一般に、「人間は、なぜ、そうした行動をするのか」あるいは「なぜ、そうした行動をしないのか」を概ね理解できる。− 人間の行動は予測可能 → 約束・計画・社会的秩序
しかし 人間は、感情にまかせてとか発作的行動、精神障害を理由にした行動以外にも、
 思いがけない行動・・・・・・・
 常識では理解できない行動・・・
 をすることがある。なぜだろうか???
 
1.制裁が加えられるのに、なぜ、非行や犯罪のような逸脱行動や、暴力集団やヤクザのような逸脱
  集団がなくならないのだろうか→目標(欲求)と手段の関係:適応様式
2.レイベリングと烙印の内面化(逸脱の悪循環)
3.悪いこととわかっていても、なぜ、そうするのか? → 認知的不協和
.人間の行動は予測可能か → 予言の自己成就と自殺的予言
.人間の行動には、分からないことが、まだまだ多い
 
           アメリカ社会の文化原理(R. K. Merton)





















 

  三つの文化原理

心 理 学 的 解 釈

社 会 学 的 解 釈

1.同じ高遠な目標がすべての人に開放されている以上、万人は、この目標に向かって努力せねばならない

刺激を象徴によって第二次的に強化


 

十分にして平等な機会に恵まれないような社会位を占めている人々が批判の眼を社会構造から転じて自己自身に向けるようにすること

2.現在失敗だと思われているものも最後に成功に至る中間駅であるにすぎない
 

しかるべき刺激を与えて、反応が消滅するおそれのないようにすること
 

相対的に低い社会階級の人々が、自分の仲間とではなく、頂点にある人々と所詮同じだと思い込むことによって、社会権力構造が維持されること

3.真の失敗とは、大望を手加減したり引っ込めたりすることに他ならない


 

終始報いられることがなくとも、いつも反応を引き起こすような動機力を強化すること

 

揺るぎない大望を促す文化的命令に同調できなければ、一人前に社会に参加する資格がないと威嚇することによって、あくまでこの命令に同調するよう圧力を加えることである
 
     
    個人的適応様式の類型(R. K. Merton)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  適応様式 文化的 制度的
  の 類 型 目 標 手 段   特 徴
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T 同  調   +   +  社会の安定時に最も一般的で広く普及
U 革  新   +   −  規範から離れて目標達成(要領のよさ)
V 儀礼主義   −   +  あきらめと型にはまった活動
W 逃避主義  −   −  宿命論的消極主義
X 反  抗  ±   ±  価値変革、保守主義的神話と対立
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注:+は「承認」、−は「拒否」、±は「一般的価値の拒否と新しい価値の代替」
 
同調は、社会が安定しているほど、最も一般的で広く普及する適応様式。
革新は、制度的規範から離れて目標を達成することを指す。大望という基本的な美徳が、それが逸脱行動であっても目標を遂げれば成功という悪徳を促す。アノミー状態の社会では真価や努力ではなく、運やチャンスが強調される。真価や努力に対して報酬が与えられない状況の下では、抜け目なくて積極的に行動する者が得をすることになるから、そうした革新的実践が普及する。
儀礼主義は、あきらめと型にはまった活動。高遠な文化的目標の放棄や切り下げで自己の志望を達成する。外的行動は文化的には望ましくなくても制度上は黙認される。社会的地位が当人の業績によって強く左右される社会で多くみられる。大望を抱くと欲求不満や危険が生じ、志望を引き下げれば満足と安全が得られる。主要な文化的目標をめざす競争に必ずつきまとうと思われる危険や欲求不満から個人的に密かに逃避しようとするために、文化的目標を放棄して安全な慣例や制度的規範にますます固執する。「幸福(満足)とは、達成を分子とし、志望を分母とする分数で言い表すことができる」(カーライル)。
逃避主義は宿命論的消極主義。葛藤を回避するために目標と手段を放棄する。正当な手段では常に目標に近づき得ず、また内心の禁止によって不当な手段を持ち得ないからである。文化的目標に価値を認めず制度的手続きも顧みない。社会からの報酬が得られなくても欲求不満をほとんど持たない社会的無関心の適応様式であり、社会的に孤立することになる。
反抗は、新しい目標や新しい手段を制度化して、他の社会成員にも共有せしめようとする過渡的な反応である。現存の社会的文化的構造を変革しようとする努力をさすのであって、既存の社会的文化的構造の範囲内で適応しようとするのではない。したがって、それは、価値変革を志向し、欲求不満の原因を社会構造に求める結果、保守主義的神話と対立することになる。
 
レイベリングと烙印の内面化(逸脱の悪循環)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
認知的不協和理論(cognitive dissonance theory:1957):フェスティンガー(Festinger, L.:1919〜89)
 
 様々な事柄に対して私たちが持っている知識や信念・意見を認知要素と呼ぶ。認知的不協和とは、そうした認知要素の間の関係に整合性がなく(調和していない/不一致)矛盾や対立が存在する状態をいう。
 認知的不協和は不快な緊張や欲求不満、居心地の悪さなど心理的な緊張をもたらすため、不協和を避けたり解消したりして、認知的に矛盾や対立のない状態にしようとする動機づけが働く。
 自分を納得させられるように、安心が得られるように自分の状態(現状・過去・欲望…)を正当化(合理化)するような理由/理屈を探したり作ったり、自分の考え方を変えてしまう。
 
フェスティンガーの実験
被験者に「達成動機」の実験であることを説明して以下の2つの作業をさせる
(1)空の皿に20個の糸巻きを入れ、全部入れたらそれを出すという作業を
   30分繰り返す。
(2)ネジが48個ついている板が与えられ、48個のネジ一つ一つを90度
   に回すことを30分繰り返す。
これらの作業の後に、被験者は以下のような3つのグループに分けられ、今やったばっかりの作業は「とてもおもしろかった」と、待合室で待っている次の被験者(実はサクラ)に話すことを指示する。
1.おもしろかったと話す報酬が20ドルのグループ(高報酬群)
2.おもしろかったと話す報酬が1ドルのグループ(低報酬群)
3.おもしろかったと話さないグループ(統制群)
 その後、被験者は、この実験に参加して楽しかったかどうかの質問に答えて実 験は終了。
 
どういうことがわかったか?
 
実験の意図
 無意味で退屈な作業を繰り返し行ったことを被験者はどう納得するか
結 果
 1ドルという少ない報酬を得た被験者のほうが、20ドルという高い報酬を得た被験者よりも、実験が楽しかったと答えた。ふつうに考えれば、高い報酬を得たほうが楽しかったと答えると予想される。しかし、結果は逆であった。なぜか?
認知:退屈で無意味な作業
                 両者の間に矛盾・不整合=不協和
指示:楽しかったと言うこと
 
不協和を解消する方向に考え方・態度を変える
 
 低報酬群:退屈で無意味な作業で、しかも1ドルという報酬といえないほどの低報酬。その上に楽
      しかったと嘘を言わなければならない。
    → 作業は楽しかったと思いこまなければ“やってられない”という気持ちになる。
 高報酬群:作業はつまらなかったが、嘘をついた報酬として20ドルも得たと納得しているから不
      協和が生じない。
 
認知的不協和理論で説明できる人間行動は多い。
(例)喫煙者の認知的不協和
  タバコ健康に悪い(肺ガンの原因)という認知と自分はたばこを吸うという認知
1.認知要素の一方を変える
  → 禁煙する。喫煙が健康に害はないと信じ込む。
2.不協和な認知要素の重要性を低める
  → タバコより、もっと危険なものが多く、タバコの害などとるに足らない。
3.協和的な認知要素を高める
  → タバコは緊張の解消手段やコミュニケーションの手段
4.協和な認知要素を付加する
  → タバコを吸い続けてる人でも長生きの人は少なくない
5.不協和な認知要素を否定する情報を求める
  → 喫煙者にはアルツハイマー症が少ないという報道を繰り返し読む
1.強制的承諾
   自分の態度に反する行為をするように誘導された場合、行為に合致した方向へ自分の態度を変   化させる。
2.決定後の不協和
   選んだ選択肢の魅力を高める一方で、選ばなかった選択肢の魅力度を低下させる
3.情報への選択的接触
   不協和を高めるような情報を回避する一方で、不協和を低減する情報に積極的に耳を傾ける
4.社会的支持の希求
   積極的に自分の信条を支持してくれる人を求める
5.努力の正当化
   適切な理由がないのにあることに努力をしなければならないとき、そのことを選択した正当な   理由を探し求め、そのことの価値を高くする
 
 逸脱集団から脱退できない。ギャンブルに金をつぎ込み続ける。
 
自己成就的予言と自殺的予言(R. K. Merton):ロバート・K・マートン『社会理論と社会構造』
 
自己成就的予言
「自己成就的予言とは、最初の誤った状況の規定が新しい行動を呼び起こし、その行動が当初の誤った考えを真実なものとすること」
<銀行の例>
「銀行資産が比較的健全な場合であっても、一度支払不能噂がたち、相当数の預金者がそれをまことだと信ずるようになると、たちまち支払不能の結果に陥る」。「銀行の財政状態の安定性は、一連の状況規定に依存していた。すなわち、人々が生活してゆくための経済的約束の込み入った体系が揺るぎないものという信念に依存していた。ところが、一度預金者が状況を異なったふうに規定し、また一度彼らが約束の果たされ得る可能性について疑念を抱くに至ると、そのときはじめてこの不真実な決定の結果は十分に真実なものとなったのである」。
 
 予言の自己成就のメカニズムについてのマートンの説明。
「この寓話がわれわれに教えるところは、世間の人々の状況規定(予言または予測)がその状況の構成部分となり、かくしてその後における状況の発展に影響を与えるということである。これは、人間界特有のことで、人間の手の加わらない自然界ではみられない。ハレー彗星の循環がどんなふうに予測されようと、その軌道には何の影響も及ぼさない。しかし、ミリングヴィルの銀行が支払い不能になったという噂は、実際の結果に影響を与えたのである。つまり、破産の予言が成就されたのである」
<受験生の例>
 「試験ノイローゼの場合を考えてみよう。きっと失敗するに決まっていると思いこんでしまうと、不安な受験生は勉強するよりも、くよくよして多くの時間を浪費し、いざ試験にのぞんでまずいことになる。最初の誤った不安は、いかにももっともな不安に変形してしまう」
 
<戦争の例>
「二国間の戦争は不可避であると信ぜられている場合がある。この確信にそそのかされて、二国の代表者たちの感情はますます疎隔し、お互いに対手の攻撃的動きに不安を抱き、自分も防衛的動きをして、それに応ずることになる。武器、資材、兵員が次第に大量に蓄えられ、挙げ句には戦争という予想通りの結果をもたらす」
 
自殺的予言
「自己成就的予言の反対物は自殺的予言。それはもし予言がなされなかったとすれば、たどったであろうコースから人間行動を外れさせ、その結果予言の真実さが証明されなくなる場合である」
<交通渋滞の例>
「○月○日は△△道路は渋滞するでしょう」という交通情報が流された結果、その日はその道路を避ける人が多くなって渋滞が起こらなかった。
 
<選挙の例> 当選確実と事前予測された候補が苦戦したり落選する
最後に
 
 ルール破り、談合、根回し、理不尽な行動、理解しがたい 行動、笑い、悲しみ、怒り・・・
 正当的・非正当的/合法的・非合法的行動
 日常的行動、非日常的行動・・・
 
 さまざまな人間行動や現象を勝手な解釈やわかったつもりにならずに、
 
人間行動への関心を持とう!
人間行動の不思議を探ろう!