ドリール(Driel)のスルースゲート.
日本人観光客のみならず, 日本人滞在者であってもほとんどの人が見たことのないと勝手に思い込んでいる構造物を 見たいと思ったのは,とあるオランダの本(参考文献に記載しています)を読んでのこと. 日本の可動堰とは異なる構造であり,オランダの水問題において重要な構造物であることから, 是非とも拝見したいと思っていました. 書物によっては,堰(weirs,オランダ語では,welrs)と表記されているものもありますが, 日本で言えば,可動堰にあたるその構造物は単にスルースゲートと呼ばれております. 日本でスルースゲートと言うと,ローラーがなくて板を上下に動かす水門を指すことが多いかと 思います.地域・国によって名称は異なるということでしょうか. 前置きはひとまずこの辺にして, どうしても見ておきたかったドリールのスルースゲートはこちらです. アーチの部分に沿ってゲートを開閉する仕組みになっており, 写真ではゲートは閉じた状態にあります.
霧の中を堤防に沿ってひたすら歩く.
実はここ,遠かったんです. 最寄りのアーネムザイド(Arnhem Zuid)駅から歩くこと約1時間. 霧の中を延々と6kmほど歩き続けました. 6kmという距離はさほど遠くはありませんが,ここに来る前に, ワール川をじっくりと見ながら横断したくて, ナイメーヘン(Nijmegen)からナイメーヘンレント(Nijmegen Lent)までの一駅区間 約5kmを歩いた後だけに, またオランダの冬の寒さも手伝って遠く感じましたね. ワール川のお話(ワール川の浸食を防げ!)はまた改めて.
このスルースゲートはオランダの水管理において重要な役割を果たしているんです. オランダの年間降水量は約800mmであり,日本の約半分ですが, 蒸発散量は日本とほぼ同じ約560mmです. オランダの場合,降水量の季節的な変化は少ないため,夏季になると 降水量よりも蒸発散量が上回り,干ばつや水不足が危惧されます. また,オランダは地形上,河川の最下流域に位置し,国土の約1/3が海面下にあることから, 北海からの塩水浸入や高潮に対して防護策をとるとともに, 良質な水源を確保する必要があります. 前者に関しては,河口域にあるマエスラントバリアや東スヘルデ洪水バリアが主な役割を果たしています. 一方,地下水利用と合わせて, ドリールのスルースゲートは後者の役割を主に担っています.
アーネムザイド駅から線路沿いに北に向かう道.
堤防から見たネダーライン川.
馬だけでなく羊も放し飼い.
このスルースゲートすぐ上流側では, アルプスから下ってきたライン(Rijn)川が分岐し, 西方向に向かうワール(Waal)川と北に向かうライン川になります. ライン川はアーネムの街付近で,さらに北へ向かってアイゼル湖に流れ込むアイゼル川と 西に向かって北海に流入するネダーライン(Neder Rijn)川に分岐します. スルースゲートはネダーライン川の最上流部に位置しており, このゲートを開閉することにより, 北海方面の海岸部とアイゼル湖方面の内陸部の河川水位を絶妙なバランスで調整している わけです. 現地を訪れたときは,アーチ型のゲートが降りていましたが, 完全に閉じているわけではなく, ゲートの位置を調整して上下流の河川水位を調整していました. ゲートが開いている場合には,河川を往来する船舶を見ることができるようです.
上流から見たスルースゲート.
ゲートはほとんど降りていました.
スルースゲートから上流側を見る.