マリンハザードとは
「マリンハザード」とは海で起こり得る危険事象で、様々な災害や影響を引き起こします。マリンハザードを引き起こす事象として地殻変動、気象現象、人間活動が考えられ、津波や高潮のように突発的に発生するものから、水質変化や海面上昇のように長期に渡り徐々に変化するものまで多様です。
これらマリンハザードの中で我々は、南海トラフ巨大地震により大阪湾で発生する船舶・港湾と海洋環境に対する津波マリンハザードに重点を置き研究を行いました。 様々な自然災害に見舞われている日本において、マグニチュード8~9クラスの南海トラフ巨大地震が、2018年1月から30年以内に70~80%の確率で発生すると想定されています(内閣府地震調査委員会)。同時に津波が発生し、大阪湾奥には押し波の第一波が約90分で到達し、その最大波高は、場所によっては5mに到達すると予想されています。南海トラフが終戦直前の1944年に東南海地震を、直後の1946年に南海地震を発生させてから、70年以上の空白があります。この間日本は高度経済成長を成し遂げ、戦前とは全く異なる経済構造、土地利用状況となりました。南海トラフ地震・津波は何度も起こっていますが、次に起こる地震・津波による被害の質や規模は、これまでとは全く異なる可能性があります。このため政府や自治体は様々防災・減災策を講じており、学術面・技術面でも多くの研究・開発が行われています。一方で人口の少ない海域に対しては、陸域に比べ検討・対策が遅れています。特に、海の環境に対する津波の影響は、全く検討されてきませんでした。
当研究講座は、公益財団法人住友電工グループ社会貢献基金の大学講座寄付(2013~2017年度)によって設置されました。当サイトでは、マリンハザード研究の成果を紹介すると共に、得られたデータを社会還元致します。
津波シミュレーション
本研究講座では、大きく分けて二種類の津波シミュレーションモデルを構築しました(図1)。1つは鉛直的に一様な流れの、一般的な二次元(2D)長波津波モデルです。このモデルは東北大学で開発され、断層データを元に外洋から大阪湾内までの津波が計算されます。当講座では、これに潮汐の効果を加え、上げ潮の状況では津波の到達時刻が早くなる可能性を示唆しました(Nakada et al,. 2016)。
もう一つは、大阪湾内の津波を含む流動場・成層構造の統合的な解析環境Hydrological, Ocean, and Geographical Orchestration(HyOGO)です。大阪湾には、潮流はもちろん、風による吹送流、河川からの淡水流入に伴う密度流も存在します。また湾奥では密度成層が発達します。そのため有限体積法を用いた非構造格子の海洋モデルFVCOM(Finite-Volume Community Ocean Model, Chen et al., 2003)を使った三次元(3D)の津波シミュレーションを、日本で初めて行いました。大阪湾の外境界側に、2D津波モデルで計算した津波と、水温・塩分による密度場、潮位などによる水位変動を入力し、さらに気象データを与えることで、大阪湾内での津波がより現実的な流動場として表現できるだけでなく、海洋の成層構造も解析することが出来ます。その成果として、比較的低塩な大阪湾奥部が津波により高塩化する可能性を示しました(Nakada et al., 2016)。津波による海洋の塩分分布変化の予測は、世界でも例がありません。またこのモデルには、地震発生から津波後まで連続的に流動場・成層構造を計算することが出来る、沿岸域の複雑な地形を入力して最大数10mの高解像度で計算が可能になる、などの利点もあります。
船舶・港湾影響
船舶によるエネルギー・物資輸送は、日本を支える重要なライフラインの一つです。海事科学研究科の前身である神戸商船大学では、1995年の阪神淡路大震災、1997年のナホトカ号とダイアモンドグレース号の衝突による油流出事故をきっかけに、1997年にMarine Hazard研究会を発足しました。そして、文科省大都市大震災軽減化プロジェクト(代表:京都大防災研)を始めとして、様々な枠組みを使いながら、船舶によるマリンハザードについて研究を進めてきました。その後、2004年のスマトラ島沖地震・津波をきっかけに、津波からの船舶の避難についても研究を開始しました。このような歴史的経緯が、当研究講座の開設に繋がりました。
当研究講座では2D津波モデルの津波流速計算結果から渦度を計算して、これを「津波渦」と名付けました。東北地方太平洋沖地震による津波では、多くの船舶や漂流物が津波渦に取り込まれて、操船困難や船体損傷が発生しました。阪神港堺泉北区でも、最大2kmの回転方向の異なる複数の津波渦が形成される可能性があり、船舶の避難や避泊には津波渦を考慮する必要があることを示しました影響することを示しました(Hayashi et al., 2016)。一方で津波渦の場所や強さは、潮流による渦から推定可能である事を明らかにしました(Nakada et al., 2018)。津波渦に関する研究成果は、毎日新聞で報道されました。
海洋環境影響
大阪湾の海底堆積物には、高濃度の窒素やリン(栄養塩類)、有毒植物プランクトンの休眠胞子などが含まれていることが知られています。津波によりこれらが巻き上げられると、東北地方太平洋沖地震の津波後に起こった様な有毒植物プランクトン赤潮や貝毒の発生、或いは懸濁化による海中光学環境の悪化など、基礎生産環境の劇的変化が起こる可能性があります。また、都市部を抱える事から高濃度の重金属も含まれており、水質の悪化も懸念されます。
そこで当講座では、2D津波モデルの津波シミュレーション結果から、海底堆積物巻き上げの可能性を検討し、水深の浅い湾東部で巻き上げが発生し、特に淀川河口が巻き上げのHot Spotになる可能性を示しました(#)。また、巻き上げ量と海底堆積物中の物質濃度から、津波後の海水中の物質濃度を推定して、これと環境基準値を比較しました。この結果、湾奥の広範囲で環境基準値を越える可能性があり、この分布は海底堆積物中の物質濃度依存していることを示しました(#)。3D津波モデルの結果から、巻き上がった海底堆積物は、概ね大阪湾の表層を大阪沿岸に沿うように南下ながら徐々に沈降し、約##日後に湾外へ輸送又は海底に再堆積することを示しました(##)。
研究スタッフ
スタッフ | 教授 | 小林英一 |
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准教授 | 林 美鶴 | |
特命助教 | 中田聡史 | |
共同研究者 | 東北大学 | 越村俊一 |
神戸大学 | 橋本博公 | |
富山高専 | 村山雅子 | |
立命館大学 | 田中覚 | |
立命館大学 | 長谷川恭子 | |
立命館大学 | 李 亮 | |
協力研究員・学生 | 研究員 | 谷口裕樹 |
博士院生 | 米田翔太 | |
博士院生 | 見崎豪之 | |
修士院生 | 鈴木綜人 | |
学部生 | 安倍健登 | |
学部生 | 宮脇望来 | |
学部生 | 岩川正秀 | |
技術員・秘書 | 技術主任 | 野崎伸夫 |
秘書 | 戸倉美奈子 | |
秘書 | 寳利じょう |
研究ファンド
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