幹の中の水の流れを聴く

聴診器で樹液の流れる音が聞こえるのか?

 樹 木の木部(材の部分)を揚がる水を「木部樹液」と呼びます。これは根から吸い上げられて梢に運ばれる水のことで,内樹皮(師部)にある師管や師細胞の中を 上から下に動く液---「師管液」(同化物質,糖類)---とは異なります。樹木の幹に耳あるいは聴診器をあてると「樹液の流れる音が聞こえる」という話 がありますが,科学的にはこれは正しくありません。聴診器で聞こえる音,つまり人間の耳がとらえることのできる音には,葉が風に揺られてぶつかる音,枝の揺れによるきし みなどの多くの音が混ざっています。幹に耳をあてると音が聞こえるので,何となく「水が流れる音」と言い出したのではないかと思います。

樹液の流れに関わる音:アコースティックエミッション(AE)

 一般に「水が流れる音」とは,水道の蛇口をひねって勢いよく水が流れる時の音,あるいはかなり流れの速い川や瀬で聞こえる音と言い換えることができま す。「泡立って流れる水」です。泡立たない水の流れは静かです。船のスクリューが水面下で回転する時に泡が発生する現象は「キャビテーション」と呼ばれま す。そして,キャビテーションが起こる際にはアコースティックエミッションという超音波が発生します。この音を検出するセンサーがあり,発生している状況 を記録することが可能です。
 さて,生きている木の幹にAEセンサーをつけると,(落葉樹なら葉がある時期で)日照がある時には超音波AEを検出することができます。これは,水が流 れる音というよりは,「水の流れが途切れる音」です。樹木では,葉から蒸散により水が失われると,木部樹液の通路である道管や仮道管内の水にテンション (引っ張りの力)がかかり,根から水が引っ張り上げられます(図1)。しかし,このテンションが非常に強い場合は,水の分子のつながりが切れてしまいま す。わかりやすく説明すると,通導組織の中に気泡ができ,その気泡の拡大のために通導組織が空になり(エンボリズム;図2),水流が途切れてしまうので す。このときに発生するのがAEです。針葉樹の通導組織である仮道管は「中空のソーセージ状」で,これが木部の大半を占めています。蒸散の盛んな時間帯に は,図2のように排水が起こります。
 


 多くの植物では,日が暮れて蒸散が止まると,樹液にかかるテンションが小さくなって泡が消え,翌日はまた樹液を揚げることができます。

樹木の水分通導(木部樹液流動)のメカニズムと通導を担う組織の構造などについては,
 http://www2.kobe-u.ac.jp/~kurodak/structure&sap_files/structure&sap.htmlに 詳しい説明があります。樹液流の仕組みとAEについて理解するには,こちらを先に読んで下さい。

木部の切片上でエンボリズムを人工的に発生させた映像(顕微鏡下で撮影)をご覧下さい。→この映像の撮影方法の解説(英語)
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左の映像は木部組織を顕微鏡で拡大しており,1mm以下の範囲です
映像の左上角の陰がセンサーです。
映像上側の矢印の方向が樹木の縦方向で,幹を横に寝かせた状態です(図2 を横にした状態)
気泡が発生し(突然陰影が大きくなる部分)それと同時にAEが発生します。気 泡拡大と同時に聞こえる音はAEそのものではありません。AEがカウントされた信号を可聴音に変換したものです。
ブラウザで映像がうまく見えない場合,下記ファ イルをダウンロードしてご覧下さい。また,異なるファイルタイプの映像ものせました。 



    →Embolism.mov.sit ファイルのダウンロード
       Embolism.swf 映像のみの表示

AE はどのように測るのか

AEテスターとAEセンサー,データロ ガーが必要です

  AEセンサー:強震周波数140kHz をクロマツの幹下部に装着。


健康なクロマツで7月30日に測定したAE
  9時頃からAE頻度が上昇し,蒸散が盛んな13-14時頃に発生頻度が
  ピークを示す。日の入りの少し前に,発生が止まる。

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神戸大学 黒田慶子