<HuSS 第6回研究会>
日時 : 2002 年 4 月 22 日(月) 16:30〜18:30
場所 : 神戸大学発達科学部 B204
話題提供者: 谷 冬彦(神戸大学発達科学部 発達基礎論講座)
テーマ : 集団的自尊心の構造に関する研究−新たなる日本語版集団的自尊心尺度の作成−
○発表要旨
Luhtanen & Crocker(1992)は,これまでの多くの自尊心尺度は個人的アイデンティティにおける自己評価に焦点を当てたものであるとして,社会的アイデンティティに基づく個人の社会的あるいは集団的な自己評価を測定することを目的に,「集団的自尊心尺度」(Collective Self-Esteem Scale)を開発した。この尺度の邦訳版は,渡辺(1994)の研究によって,すでに作成されている。
しかし,Luhtanen & Crocker(1992)や渡辺(1994)の集団的自尊心尺度研究には,いくつかの問題が存在する。
まず,これらの尺度で想定されている集団は,人種,性,民族といった「属性集団」(ascribed group)に限られ,会社,学校,友人集団などの「獲得集団」(acquired group)は敢えて除外されている。このことについて,Luhtanen & Crocker(1992)は,獲得集団に対する成員性は個人的な努力・達成によるものであり,これを含めることは,個人的自尊心と集団的自尊心を混同することになるからとしている。しかし,社会的アイデンティティ理論における社会的集団は,獲得集団をも含んだ全般的な社会集団であり,属性集団に限定することは,社会的アイデンティティ理論に沿ったものとはいえない。
また,Luhtanen & Crocker(1992)は,個人的自尊心と集団的自尊心との混同を指摘しながらも,集団的自尊心尺度の妥当性の検討に,Rosenbergの自尊心尺度との相関結果を用いており,個人的自尊心と集団的自尊心に関する弁別性の検討を行っていない。そのことについては,日本語版集団的自尊心尺度を作成した渡辺(1994)の研究においても同様な問題を抱えている。
さらには,Luhtanen & Crocker(1992)は,探索的因子分析を行った上で確認的因子分析まで行い,因子構造を確認しているのに対し,渡辺(1994)の研究においては探索的因子分析にとどまっており,因子構造が安定したものであるかどうかは定かではない。
以上のことから,本研究では,新たに社会集団全般に関する日本語版の集団的自尊心尺度を作成し,その構造的性質を確認するとともに,集団的自尊心と個人的自尊心の関連構造の検討を行うことを目的とする。
また,作成された集団的自尊心尺度を用いて,集団的自尊心と文化的自己観の関連性,集団的自尊心とエゴ・アイデンティティの関連性などについても検討を加える。
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