秋元忍、、「私とスポーツ史研究」、『Radix』(九州大学全学教育広報)、33、2002年10月、p. 。 
 
 4月16日付で、大学教育研究センターの講師に着任いたしました秋元忍です。「スポーツ科学」の1分科学である「スポーツ史」が私の専門です。授業は健康・スポーツ科学科目を担当しています。


 私の研究の出発点は、学校体育に対する違和感にありました。特に、課外体育としての部活動における精神面の強調は、私にとって受け入れがたいものでした。中学生の頃の体験は忘れられません。野球部員は全員丸刈り。女子ソフトボール部員は先輩が見えなくなるまであいさつ。水泳の県大会で、レース前に緊張をほぐそうと漫画を読んでいた友人が、教員から「遊びに来ているのではない」と怒鳴りつけられ、殴られる、等々。これらのことをおかしいと思うのは自分だけなのか。こうした違和感はずっと私の中に残ったままでした。そして高校、大学でも学校でスポーツを続ける中で、私のような学生がスポーツを遊ぶ、心から楽しむということと、学校がスポーツに見いだしている価値には、相通じるものが全くないような、何か大きな隔たりがあるのではないか、と思い至ったのです。

 こうして私は、スポーツとはそもそも何か、ということに興味を持つようになりました。専門的にスポーツについて研究してみようと決意したのです。なかでもスポーツ史は、とても魅力ある領域に思えました。「遊び、気晴らし」であったスポーツが学校に導入され、教育というフィルターを経由することによりそれにふさわしい意味づけが求められるようになり、まじめで真剣な教育の手段となったことは、スポーツ史における「近代」に固有の出来事の一つにすぎない−こうした知見を得たときに、私の違和感の原因が、はじめて理解できたように思えたからです。私の体験には、このような過去が忍び込んでいたのです。

 九大での健康・スポーツ科学科目も、スポーツの現代的実践の場の1つにほかなりません。スポーツの「いま」である授業実践と、スポーツの「これまで」に関する歴史研究を通して、スポーツの「これから」を考えていきたいと思います。(大学教育研究センター)

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