秋元忍、「研究から得た気付きを実習授業に還元する」、、『大学教育研究センターNEWS』(神戸大学)、24、2004年4月、p.3。
健康・スポーツ科学実習の担当者はスポーツ科学者である。いかなる領域であっても、スポーツ科学の研究成果は、スポーツに対する理解を深化させる。では、スポーツ史という一分科学を専攻する私の場合、その研究成果は、実習授業へいかに還元されるのか。以下は、この難問に対する回答の試みである。
健スポ実習Uの卓球。この授業では、全時限のうち半分は、受講生に運営が委ねられる。クラスを5つの班に分ける。各班は「卓球を楽しむためのプログラムの作成」に取り組む。説明の際には、必ずしもこれまでの卓球という枠にとらわれる必要はないことを強調し、独自の実践の場の創造を促す。実践の場を自ら創造することによって、スポーツへの主体的なかかわり方を考えていくための構想力を得ることがねらいである。
プログラムの計画と実施は、次のように進められる。
1)1回75分のプログラムを班ごとに作成、実行する。プログラムの参加者は、担当班のメンバー以外の受講生とする。ただし、担当班のメンバーがプログラムに参加してもよい。
2)終了後、参加者全員からその内容を評価してもらう。各班で評価を受けるためのアンケート表を作成する。
3)残りの15分を使い、教官と班のメンバーで事後ミーティングを行う。
4)貢献度を基準に、班内でもメンバー相互の評価を行う。適切な評価を行うための評価表を各班で作成する。この評価は20点満点とし、成績に反映させる。
5)参加者のアンケートの集計、分析をもとに、学期末レポートを作成する。この検討の結果を、次のより良い実践へとフィードバックする。
受講生の想像力には限界がない。台の置き方、ネットの有無や高低、使用するボールの数や種類、プレーヤー数などを工夫して、新たなゲームが次々に提案されていく。この経験は、プログラムの作り手にも、受け手にも、スポーツに対する新たな認識をもたらす。今日のスポーツのあり方は、決して普遍的なものではないし、そのあり方の模索については、主体的に関与することができるのだ、という気付きが導かれるからである。
実は、この気付きは、スポーツ史の研究を通して、私が得たものでもあった。歴史の研究は直接何かの役に立つものではない。しかし、スポーツの歴史性に対する気付きという視座は、実習授業にも還元することができる。歴史研究と実習授業の実践は乖離しがちだが、その融合化は不可能ではないと考えている。