スロースリップイベント (ゆっくり地震, サイレント地震)

一般に「地震」と言えば、せいぜい 1分間程度の短い時間に地下の岩盤中で破壊が進行し、それに伴って地震波が地中を伝播して地表を激しく揺らし被害をもたらす、恐ろしい自然現象だととらえられてきた。 しかし、歪計や GPS などの地殻変動連続観測によって、このような従来の地震観に修正を迫るようなゆっくりとした地殻の動きが見つけられるようになってきた。 これらは地震動を出さないほど (地震計では検出できないほど) ゆっくりではあるが、 地震の震源で起こる断層のすべり運動と同様な岩盤の動きをするような現象が地下で発生していると考えられている。

これまでに見つかった事件 (silent earthquakes, slow slip events)

通常の地震波を放出するような高速破壊 (いわゆる地震) を伴わない、 slow slip events

(注: それぞれの事件の呼び名は、それぞれの文献による)

以上の他、San Andreas Fault で観測されている Creep Event もある。

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1989年12月東京湾サイレントアースクエイク

防災科学技術研究所の 2成分傾斜計24点、ボアホール3成分歪計2点の観測により、 1989年12月9日 午前 2-3 時 (UT) 頃から約 1 日間、10^-8 オーダーの地殻変動同時異常が見つかった。 深さ 24km のプレート境界面 (面積 30km × 20km) が 2.4+-0.4 cm すべったと推定される。 Mw 5.9 に相当。

文献:

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1992年12月 a slow earthquake sequence on the San Andreas fault

California 中部の San Andreas 断層に隣接して設置されているボアホール歪計で、 約10分--約1週間の継続時間をもつ 10^-7 以上の一連の歪変化がとらえられている。 地下数kmまでの領域で、数mm--数cmのすべりで説明できる。 合計で M 4.8 に相当。 著者らはクリープイベントとは区別している。

文献:


房総半島サイレントアースクエイク

1996年5月16日-20日に房総半島東岸の GPS 観測点が、プレート沈み込みの方向とは逆方向 (南東) に最大 15mm 動いた。 M 6 程度に相当するすべりで説明できる変動。

また1996年のイベントとほぼ同じ領域で、 2002年10月上旬にもスロースリップイベントが発生したと考えられる地殻変動が GEONET で検出された。時定数は1週間程度、地表変位は最大約2cmの南東方向。 フィリピン海プレート上面にすべりが発生したと仮定すると、すべり量は10cm程度、 Mw 6.5 程度に相当。

同じ現象によると思われる地殻変動が、GPSとは独立に防災科研の傾斜計でとらえられている。 傾斜計では過去に4回、6-7年周期で同様な変化がとらえられている。

文献:

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1997年豊後水道スロースリップイベント

国土地理院 GPS 観測網 (GEONET) の観測により、 1997年のはじめから約1年間にわたって、 豊後水道をはさんだ地域で、定常的な地殻変動から外れた動きが観測された (図 1)。 四国と九州の観測点位置の時間変化をみると 最大 2cm の、約 1 年間も継続する非定常的な地表変位が検出された。 変位の方向はフィリピン海プレートの沈み込む方向とは反対向きである (図 2)。

この地表変位は深さ約20km のところにあるプレート境界面上 (面積 60km × 60km) で最大 18cm の非地震性すべりが起こったことによると考えられる (図 3)。 Mw 6.6 に相当する。

vector field

図 1: 1996年から1999年までの3年間の GPS で観測された変動速度場の変化
黒四角で示した前原観測点を基準として描いた。 普段は (a)、(c) の四国と九州北東部に見られるように、 南海トラフから北西方向に沈み込むフィリピン海プレートに引きずられる動きが卓越している。 しかしながら (b) の時期には赤矢印で示した地域の動きが減速あるいはほぼ停滞していたことがわかる。 これは一時的にプレート境界に働く引きずる力 (カップリング) が弱まったことが想像できる。 なお (a)(b) の図中のビーチボールのようなものは地震の発震機構解 (メカニズム) を示すものである。 (1)-(5) はこの時期に発生したマグニチュード 6 以上の地震を表している。 地表の動きにもこれらの地震の影響が現れている。

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図 2 : 九州の「佐伯」、四国の「御荘」観測点での GPS で決められた日々の地面の動きの東西、南北成分を表わす。 ここでは元データから直線成分と年周期成分を除去した非定常成分を示している。 黄色で示した期間の東西成分 (East) に注目。 これらの観測点の位置が、約 1 年間かけて東にゆっくりと 2 cm 動いたことをとらえている。

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図 3 : 薄い赤色の四角が推定断層領域で、その上の赤の矢印が推定されたすべり量ベクトルを示し、下盤に対する上盤側のすべりを表す。 また、黒矢印が観測された地表変位のイベント成分、白矢印は推定された断層面上のすべりから求められる地表変位の計算値を表す。 海域に示した矢印が変位量のスケールで、地表変位と断層面上のすべり量でスケールが異なることに注意。 なお、赤い丸は1997年4月に発生した群発地震の震央を示している。

2003年8月頃から、1997年のイベント時とほぼ同様な地殻変動がGEONETによりとらえられている。 同時期に、低周波微動/低周波地震が活発化している。

文献:

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1998, Cocos plate under southern Mexico, Transient Fault Slip

Mexico, Guerrero, Cayaco の GPS 連続観測点で 1998年はじめから約半年間で、 東に 2 mm, 南に 26 mm, up 16 mm の変位を観測した。 (連続観測点は 1 点, campaign の点が 5 点)

Mexico の下に沈み込む Cocos plate の "Guerrero gap" と呼ばれる領域で Mw 6.5 を越える非地震性すべりが発生したと推定された。 すべりは東から西へ伝播? このデータでそこまで言うのは厳しそうだが。

この地域でも、同種のイベントが繰り返しているらしい。

文献:


1999年2月 房総半島東方沖 (銚子沖) サイレント地震

国土地理院 GEONET データから、1999年2月27日から約10日間にわたって、 銚子とその周辺の観測点が、東に向かって最大5mm程度変位したことがわかった。 Mw 5.6 (17+-30km × 13+-34km, すべり量 34+-29mm)

この1999年のイベントとほぼ同じ領域で、 約1年後の2000年2月にもまた slow slip が発生したと見られる変動が GEONET によってとらえられている。

文献:


August 1999, Cascadia Silent Slip Event

British Columbia, Canada の南西部、Washington state, U.S.A. 北西部の GPS 観測により、1999年8月中旬から約30日間で最大約5mmの、 プレートの沈み込み方向とは逆の地表変位を検出した。

プレート境界面の 50km × 300km の面積で約2cmの非地震性すべりが発生したと推定された。 Mw 6.7

この地域では、同様の現象が過去に約14か月毎に繰り返していることがわかった。 また、このすべりに同期して、西南日本で見つかった非火山性微動と同様な微動が発生していることも観測された。

文献:

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2001年 東海異常地殻変動

平成13年7月27日に開かれた 平成13年度第1回地震予知連絡会強化地域部会 において2001年3月頃から東海地方の GPS 観測点でこれまでと傾向の異なる変化が出ているとの報告があった。

この地殻変動がプレート境界面で起こっている「非地震性すべり」の影響が現れたものだとすると、想定される東海地震との関連が危惧される。

防災科研の傾斜計 (三ヶ日) でもこの現象によると思われる変化がとらえられている。 同様な変化が、1988年頃にもあった。この現象と関連すると思われる地震活動の変化も観測されている。

名古屋大・理の木股は、東海地方における20年間の水準測量と、 独自の光波測距の結果から、1981年と1987年の2度、 東海地方下のフィリピン海プレート上面でスローイベントがあった、と推定した。

文献:

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四国西部 短期的スロースリップと深部低周波微動の同期

防災科学技術研究所 Hi-net 併設の傾斜計により、西南日本で発生している深部低周波微動の活動と時間・空間的に同期した傾斜変化がとらえられている。 場所は四国西部 (愛媛県中西部から豊後水道にかけて)。 傾斜変化は最大でも 1 x 10-7 radian。継続時間は約5日。 この変動は、微動が発生している深さ約30kmのプレート境界面付近で、Mw 6.0 程度のスロースリップが発生していれば説明できる。

さらに、この微動とスロースリップの同期現象は、この地域では約半年周期で繰り返し発生している。

文献:


八重山諸島南方沖

波照間島のGEONET観測点で、7-8か月に一度、南向きの1-2cmの変位が1-2か月にわたって 繰り返し現れていることが分かった。

文献:


アラスカ ケナイ半島

アラスカでのキャンペーンGPS観測による速度場から、 1998-2001にかけて、アラスカ・ケナイ (Kenai) 半島北部の深さ25-45km の領域で年間4.5cm/yrの forward slip が推定された。Mw 7.2

文献:


Thu Nov 17 20:54:38 JST 2005