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主要研究テーマ

 最大の目標として 「個人の特性や能力を良く測る」 ことを目指しています。
 近年では,例えば個人の運動能力を測定することによって「向いているスポーツ」を診断するようなサービスも登場しています。 これと同じように,もしも性格特性をより良く測定できるようになれば,例えば仕事の配属先を最適化できたり, 学校でのクラス分けでトラブルを事前に最小限化できるようになるかもしれません。 あるいは学力をより良く測定できるようになれば,大学の学部選択などに役立つかもしれません。
このような「選択の最適化」を実現するためには「より良く測る」ためのツール の整備が重要になります。
…イメージとしては,アニメ「PSYCHO-PASS」に描かれていた世界が近いかもしれません (あそこまで全ての情報を利用したり犯罪係数を測定したりするのはどう考えても倫理的にアウトだと思いますが)。 ただ,あの世界のように自分の適性がわかった上で,その道を選ぶかどうかを個人が判断できるくらいがちょうど良いと思っています。
個人の心理特性や学力などの能力は(今のところ)直接目で見ることはできません。 そのような特性(構成概念)をなんとかうまく測定しようと,先人たちは研究を重ねてきました。 そして現在では(懐疑的な人も当然いますが)心理学的な構成概念を科学的に測定するためのツールがある程度確立しています。 使用されるツールは測りたいものの性質によって異なりますが,ざっくり言うと
  • 心理特性を測りたい場合には心理尺度が使われます。
    一般的な心理尺度のフォーマットでは,構成概念を反映していると考えられる文を提示し,どの程度当てはまるかを回答してもらいます。 例えば「社交性」を測定したい場合には「休みの日は外出することが多い」といった文などを複数提示し,合計点などをもってその特性値の強さを数量化できる,という考えです。
  • 能力を測りたい場合にはテストを用います。
    心理尺度との最も大きな違いは「明確な正解がある」という点でしょう。 ベーシックなテストでは全ての問題が同じ構成概念を測定しているとみなした上で,正解数が多い人ほど,また難しい問題に正解する人ほど能力が高いと考えて特性値を数量化します。
構成概念を測定するためのツールである「性格検査」や「学力検査」を利用して実際に意思決定を行うまでには,いくつかのステップがあります(考え方は人による)。
1. 測りたい特性を決める
2. 特性を測るための項目を作成する
3. 項目を出題しデータを収集する
4. 収集したデータを分析して特性を算出する
5. 算出された特性値を用いて何らかの意思決定を行う
このように考えると,より良いツールを作るための方法やスタンスも多様であることが見えてきます。
  • ある決定をするためにはどのような能力・特性を測れば良いか考える
    (例)配属先の最適化にはどのような性格特性が重要か?
  • ある特定の能力を測るためにはどのようなテスト・問題を作れば良いか考える
    (例)プログラミング能力を測定したいならペーパーテストは良くない?
  • 得られた回答データをどのように分析したら良いか考える
    (例)因子分析・構造方程式モデリング・項目反応理論等に関する理論的な研究
  • そもそもテストが「測りたいものをきちんと測れている」ことをどうやって証明するのかを考える
    (例)信頼性・妥当性の研究
  • というかそもそもテストで「人の心」は測定可能なのかを考える
    (例)科学哲学的な議論
 私の個人的な(主要な)関心としては 「データの形式」と「分析方法」の両側面からのアプローチをイメージしています。 また,測定したい特性の内容やタイプになるべく依存しない汎用性の高い方法を開発したいと考えています。
 例えば上述のステップのうち「何を測りたいか(ステップ1)」や「どのような項目を作るか(ステップ2)」は, 測定の目的に応じて決まるべきものであり,その領域固有の知識や経験によってほぼ決定されるはずです。 これに対して「項目の形式・出し方(ステップ3)」や「データの分析方法(ステップ4)」に関しては, 測定したい内容とはある種独立したものとしての最適化が可能だと考えています(もちろん領域固有の最適化もあり得ます)。
以上を噛み砕いて表現すると,
どのように項目を出すと,どのようなデータが収集できて,それをどのように分析すると「いい感じ」になるか
を考えていきたい,ということです(きっと)。
なんだかうまく言えてない気がするので,うまい表現が思いついたら書き換えます。
…なんていう話はこれまでに行ってきた研究から考えた後付けなのですが, 実際に過去の研究内容の多くがこの考え方に合致しているので, 無意識でそのような関心を持っていたのだと思っています。
以下では,現在の主要な研究関心を表すキーワードについて簡単に紹介します。

1
Computer Based Testing

CBTの予想図 CBTの予想図
 「人の心」を測定するための方法としては,伝統的にペーパーテストが用いられてきました。 しかし近年(というほどもう近年でもないですが)では,コンピュータ上に項目を提示して回答してもらうCBT (Computer Based Testing) と呼ばれる形式が一般的になりつつあります。
 誕生当初はペーパーテストの置き換えでしかなかったCBTですが,現在ではコンピュータであることの利点を活かして,例えば
  • より効率的に項目を提示することで出題数の短縮を目指す適応型テスト
  • 映像や音声などを提示したり,解答方法を工夫した問題 (Technology Enhanced Items) の作成
  • 問題作成から採点・フィードバックまでを自動化する
など,様々な意味で「良い測定」を追い求める研究が盛んに行われています。[レビュー論文]
心理測定はCBT化によって,この先どのような進化を遂げていくのでしょうか。
以下のキーワードに関する研究を考える上での基盤として,総体としてのCBTに関心を持っています。

2
回答以外のデータの活用

 そういうわけで,CBTでは回答(解答)内容以外にも様々なデータを取得することができます。 特に社会調査などでは,これを「パラデータ」と呼び,調査の改善や回収率の向上などに利用してきました。
 同様に,心理測定においてもパラデータができることはまだまだあるはずです。 代表的なパラデータとしては回答時間(Response Time)が挙げられるでしょう。 回答時間について経験的に知られていることとして,性格特性が極端な人ほど回答時間が短くなる「逆U字 (inverted-U) 現象」というものが知られています(下の画像を参照)。 これを考慮すると,例えば同じ回答をした人でも,回答時間が短いほどより極端な特性値を持っていると考えることで,より良い測定ができるかもしれません。 あるいは単純に情報の量が増加することで,より精緻な測定につなげることができる可能性もあります。 逆U字現象  回答時間に限らず,一般的なCBTシステムではどのようなパラデータが取得でき,それをどのように分析することでより良い測定が実現できるかを考えています。 [過去の研究][過去の研究]

3
多肢強制選択型心理測定

一対比較型項目 一対比較型項目
特に性格特性や態度など,自分の内面に関することを自分で考えて回答するタイプの心理測定では 「回答者がウソをついているのではないか」といった問題(フェイキング)が生じてしまいます。 その対抗策として,図のように複数の文を同時に提示して比較判断をさせる,というフォーマット(多肢強制選択・一対比較)が近年注目を集めています(たぶん)。 このフォーマットで得られた回答を分析するためのモデルなどの開発はかなり進んできたのですが,実用化に向けてはまだ様々な課題があるというのが現状です。
多肢強制選択型心理測定の普及に向けて,いくつかの理論的問題に取り組んでいます。[学会発表]

(欲を言えば,自分でも新しいフォーマットを考えられたら良いなぁ,などと思いながら月日は流れていきます……)

共同研究について

産官学を問わず,共同研究および研究相談のご依頼をお待ちしています。
(特に心理学的な構成概念を測定するための)項目の開発や調査の実施に関してお悩みの方や,何か新しいことができそうな気がした方はぜひ一度お問い合わせからご連絡ください。
一応大学の方針としては以下のような形態が用意されていますが,これらに限らない形での協働もありだと思います。

ゼミについて

現在は,日本学術振興会特別研究員PDを始めとした博士研究員の方は受け入れ可能です。
ご希望の方は,ざっくりで良いので
  • これまでにどのような内容の研究をしてきたか
  • これからどのような内容の研究をしたいか
を添えてお問い合わせください。

神戸大学(学部・研究科)の方へ

データ収集および統計解析に関するご相談は随時受け付けています(今のところ余裕があります)。
大まかには以下のような内容であればアドバイスできる可能性が高いので,(学生さんでも)遠慮なくご相談ください。
  • (特に心理尺度を用いた)調査票の設計・質問項目の決定
  • (オンライン・実験室)実験の作成・設定・実施まわり
  • 収集したデータの統計解析手法に関すること
  • Rやstanに関すること