Research

地殻変動観測によるスロー地震の研究 (動画)

2021年神戸大学ホームカミングデー理学部企画用に作成した、研究紹介の動画です(約10分)。

「ゆっくり地震」から地震発生のメカニズムを読み解く

近年、防災科学技術研究所 高感度地震観測網 (Hi-net)国土地理院 GNSS連続観測システム (GEONET) などの世界に類を見ない地震・測地観測ネットワークが、日本全国に整備されてきました。これらで観測された記録から、(1) 深部低周波微動; (2) 超低周波地震; (3) スロースリップイベント; といったさまざまな「ゆっくり地震」の存在が明らかになってきました。 それらの貴重な観測データを利用し、「ゆっくり地震」の発生様式を詳しく調べることで、その発生メカニズムを明らかにしたいと考えています。

図1に、これまでに明らかになっている様々な「ゆっくり地震」の発生場所を示しました。 これまでに発見されてきた「ゆっくり地震」は、沈み込み帯のプレート境界で発生する巨大地震の発生領域に隣接した場所で多く発生していることがわかってきています。 巨大地震の発生領域は普段はほとんど動かないため、現在の状態を知ることが難しいですが、 「ゆっくり地震」はより頻繁に発生しているため、地下深部の状態を知るうえで鍵となりうる現象と考えられています。 そこで「ゆっくり地震」を通して巨大地震発生領域の性質に迫るため、研究を進めています。

distribution of slow earthquakes in southwest Japan

図1: 内閣府による南海トラフ巨大地震想定震源域(灰色)と各種「ゆっくり地震」の発生場所. 橙色の点が深部低周波微動、ピンク色の四角が短期的スロースリップイベント、黄色の円が長期的スロースリップイベント、ピンク色の点・円で囲った部分が浅部超低周波地震、赤色の星印が深部超低周波地震の発生場所を、それぞれ示す.

スロースリップイベントの詳細なすべり過程と、他の「ゆっくり地震」との関係

西南日本の沈み込むプレート境界深部で発生している短期的スロースリップイベントは、岩盤の非常に小さい変形をもたらします。この現象に伴う、約0.1μrad(マイクロラジアン: 角度の単位で、1μradの傾きとは、1km先の地面が1mm上下するときの角度の変化に対応します)以下という微小な地面の傾きの変化が、防災科学技術研究所Hi-net観測点に併設されている高感度加速度計によって捉えられています。 そのセンサーはさらに細かい角度の分解能をもつため、その記録に基づいて地面の傾きの時間変化を追うことで、短期的スロースリップイベントの「震源」でのすべり過程を調べることができます。

その結果の例を図2に示しています。2005年5月に四国西部で発生したスロースリップイベントは、愛媛県西部の海岸付近ですべりを開始し、数日間かけて徐々に東の方向へ移動していったことが分かります。また同時に発生する深部低周波微動も、このスロースリップイベントの活動場所と非常に良く対応していることが分かります。すなわち、両者の「ゆっくり地震」は時間的・空間的に同期して発生しているのです。

さらに、別の同期現象も見つかっています。図3に示すように、豊後水道の地下で発生したスロースリップイベントに、深部低周波微動と、南に離れた南海トラフ付近に位置する浅部超低周波地震が、同期して発生していることが分かりました。これらは1946年に発生した南海地震の震源域に隣接する場所で発生しており、両者の関連性が示唆されます。

このような研究を通じて、様々なゆっくり地震の性質を調べ、その発生メカニズムを明らかにしたいと考えています。

slip propagation of the 2005 May SSE

図2: 2005年5月に四国西部で発生した短期的スロースリップイベントのすべりの時間変化. 橙色点は同時刻に発生した深部低周波微動の震央を表す. (Hirose and Obara, 2010, JGR)

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図3: 南海地震とスロー地震群の位置図. 紫のコンターは1946年南海地震の食い違い量分布. 最大で10メートルほどの食い違いが生じたと考えられている. その北側に帯状に分布しているのが深部低周波微動の震央 (オレンジ色の点). そのうちの豊後水道付近の活動は南東側(赤色の点)と北西側(青色の点)に分けられ、南東側に位置する深部微動がスロースリップイベントに同期して活発化した. ピンク色の四角の領域は豊後水道スロースリップイベントのすべり領域を表したものである. さらに南海トラフに沿って超低周波地震の発生領域が分布しているが(灰色の円)、 そのうちピンク色の円で示した場所のものがスロースリップイベントに伴って発生していることが分かった. (Hirose et al., 2010, Science)

スロースリップイベントと地震との関係

房総半島沖では、フィリピン海プレートの沈み込みに伴って5~7年おきにスロースリップイベントが発生していますが、それと同時に、マグニチュード5程度の地震を含む群発地震活動も発生していることが知られています。現象の規模としては、群発地震活動よりもスロースリップイベントのほうが大きく、また両者の活動期間や場所もよく対応していることから、群発地震はスロースリップイベントによって引き起こされていると考えています。言いかえると、スロースリップイベントが発生することによって地下に働いている応力が変化し、その応力によって群発地震の発生が促進されていると考えられます。 このことをモデル計算などによって確かめようとしています。

また、この房総半島スロースリップイベントの発生に、別の大きな地震、具体的には2011年東北地方太平洋沖地震や1987年千葉県東方沖地震が関係しているらしいことが分かってきました。 房総半島スロースリップイベントは過去30年の間に6回の発生が知られていますが、その発生間隔は一定ではありません。 図4にその様子を示しています。房総半島スロースリップイベントの繰り返し間隔は平均68か月ですが、最長91か月、最短50か月とかなりのばらつきを示します。 その最長の期間に1987年千葉県東方沖地震 (マグニチュード 6.7) が、最短の期間に2011年東北地方太平洋沖地震 (マグニチュード 9.0) が、それぞれ発生しています。 この両者の地震による地下の応力変化を計算したところ、房総半島スロースリップイベントが発生している場所では、その繰り返し間隔が大きく変化しうるほどの応力変化が及んでいることが分かりました。また1987年千葉県東方沖地震はスロースリップイベントの発生を遅らせるような影響を、反対に、2011年東北地方太平洋沖地震はスロースリップイベントの発生を早めるような影響を、及ぼしたことも分かりました。 このような研究から、スロースリップイベントが発生しているプレート境界の性質を知ることができます。それは海溝型巨大地震の発生メカニズムの研究にも役立つはずです。

M-T diagram

図4: 過去30年間の房総半島沖の地震活動(地震のマグニチュードと発生時刻のプロット). スロースリップイベント発生時期を灰色矢印で示す. (Hirose et al., 2012, PNAS)

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2021-11-18 更新