廣瀬仁 学位申請


目次


日程

2002/11/05
地球惑星科学教室 研究委員会 (実質的な学位論文締切日)
2002/11/08
理学研究科 学位申請締切 (H14年11月分; 大学院掛)
2002/11/15
理学研究科 教授会 (学位申請)
2002/11/25 16:30
学位論文発表会 @ 理学部E557教室
2002/12/13
製本済み論文提出締切 (大学院掛)
2002/12/20
理学研究科 教授会 (審査結果報告)
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主論文の要旨

「断層すべりの多様性: 速度状態依存摩擦則に基づく 沈み込み帯3次元地震発生サイクルシミュレーション」

地震は断層のすべり現象である。しかしながら、断層のすべり現象には、急激な すべりを伴う地震だけではなく、ゆっくりとしたすべり現象も知られている。近 年の GPS を中心とした地殻変動の観測網により、全く地震波の放出をともなわ ないエピソディックな非地震性すべりであるスロースリップイベントの存在が明 らかにされた。本研究ではまず、ゆっくりとしたすべり現象の観測事例のレビュー を行う。特にスロースリップイベントの研究の先駆けとなった1997年豊後水道・ 2000年銚子沖・2001年からの東海の3つのイベントについては、解析手法も含め やや詳細に観測例を示す。一方、地震規模の頻度分布がいわゆる Gutenberg-Richter の関係に従うこと、それに対して、特定の地震断層では、ほ ぼ同じ大きさの地震が繰り返し発生するという固有地震説等、通常の地震現象に 限った場合でもその時間空間的な活動様式に多様性があることが知られている。 このように断層のすべり様式には非常に大きな多様性がある。

このような断層すべり現象の多様性は、通常、アスペリティモデルに代表される 媒質や断層面の不均質性によって生み出されると考えられている。その一方で、 多質点バネ連結モデル (BK モデル) の動力学を考察した研究では、空間的な不 均質性を考慮しなくても、観測されている地震規模の頻度分布が自発的に発生す るという報告がある。ところが、BK モデルは不連続モデルであり、そのモデル が作り出す多様な地震サイズは、数値計算上の空間的な離散化がもたらすものだ とする連続モデルの立場からの議論も提出されている。本研究の目的は、この連 続モデルの定義を満たしたモデルで、かつ、空間的な不均質性を導入しなくても、 地震規模やすべり速度にある程度の多様性が現れることを示すことである。

用いたモデル形状、計算方法は以下のとおりである。低角で沈み込むプレート境 界面でのすべりの挙動をシミュレートするため、20$^{\circ}$の角度で沈み込む 平面断層を設定した。モデル領域の大きさは、傾斜方向には200~km で固定し、 走行方向には 200--1000~km の範囲で変化させた。この走向方向の大きさを $H$ と呼ぶ。これまでの2次元のモデルを使った研究では、この走向方向の大きさに は無限大が陰に仮定されている。この違いはすべり挙動に変化を与えると考えら れる。よって本研究では、$H$ の違いによってすべり挙動がどのように変化する かを調べた。断層面には速度状態依存摩擦則を適用した。この摩擦則に含まれる、 すべり挙動の安定性を決定づける摩擦パラメタ $a-b$ の値は、傾斜方向に 7.3--124.9~km の範囲で負となるようにした。一方臨界すべり距離 $L$ は一様 に 5~cm とした。空間的な離散化サイズ (セルサイズ) は連続モデルの定義を満 たす2~km $\times$ 2~km とした。すべりの方向は傾斜方向成分のみを考慮した。 駆動速度として傾斜方向にプレート間相対運動の速度 $V_p$~= 10~cm/yr を与え、 剪断応力の準静的なつりあいを数値的に解いた。

この結果、(1) $H \le$ 300~km のケースでは、走向方向の中央部で発生する 固有地震が周期的に発生する、規則的繰り返し挙動を示した。次に (2) 400~km $\le H \le$ 800~km のケースでは、発生する地震の大きさがある程度の範囲で 変調する挙動を示した。これらのケースでは、中央部だけでなく領域の両端に近 い場所でもすべりイベントが発生した。この両端近くで発生するイベントは地震 となる場合とスロースリップイベントとなる場合があった。さらに (3) $H$~= 1000~km のケースでは、中央部と両端のイベントだけでなく、それ以外の場所で もイベントが発生した。中央部の地震が発生する場所でもスロースリップイベン トが発生した。加えて (2) のケースの一部と (3) では、地震規模の累積頻度分 布が、限られたマグニチュードの範囲ではあるが Gutenberg-Richter の関係に 近い、べき分布を示した。これらの多様性をもったすべり挙動は、自発的に発達 した不均質な応力分布によって生み出される。

これまで以上のような大規模3次元計算は行われたことがなく、本研究で初めて 得られた結果である。これらの結果は、アスペリティモデルで仮定されているよ うに1つの地震で1 つのアスペリティ全体が破壊するとは限らないこと、したがっ て地震時のすべり量の大きい領域がアスペリティや不安定すべりの性質を持つ場 所に単純に対応するとは限らないことを示している。このことから、本研究の結 果は、媒質・面の不均質性が断層すべりの多様性を生み出すという考え方はエン ドメンバーの1つと見るべきであり、本研究のモデルのように応力の不均質性が 断層すべりの多様性を生み出すというもう1つのエンドメンバーが存在すること を支持するものである。

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Wed Nov 20 18:12:33 JST 2002