【目的】
以下の3点を目標として学習プログラム提供を行い、事業全体を記録・評価することで、大学が市民を対象として提供しえる学習プログラムのあり方の理念および方法と課題を追究する。
1 知的障害のある成人に対して、大学が貢献しえる質の高い学習プログラムの提供をめざす。
2 知的障害のある成人を対象とした学習プログラム提供を通して、教育・研究面における大学(スタッフ)の変容をめざす。
3 知的障害のある成人に対する学習支援スタッフとして関わることによって、学生の体験的な学習の場とすることをめざす。
また、特に今年度の事業では、知的障害のある成人の生活史を表現する場の構築をめざし、どのような方法でそれが可能であるかを追究し、その結果を評価することを中心的な課題として設定する。なお、生活史をとりあげるのは、学習者がこれからの生き方を模索する動機づけあるいは模索の一助となるだろうという予測にも基づいている。
【公開講座プログラム開発研究会】
学部内研究員(敬称略): 山本道子(造形表現論講座)、末本誠(成人学習論講座)、勅使河原君江(児童発達論講座)、田村文夫(音楽表現論講座)、津田英二(成人学習論)、八木八重子(附属養護学校教員)、魚住和晃(国際文化学部)、小林洋司(成人学習論院生)
学部外研究員(敬称略): 末本やすみ(地域活動推進者・元附属養護学校教員)、李義昭(ヤンヤンのおうち主宰・兵庫教育大学非常勤講師)、西村恵子(親・東灘区)、沼館園子(親・東灘区)、青木千鶴子(親・東浦町)、山際直子(三田谷学園指導員)、高瀬光代(グループきりん)、真殿仁美(OD)、佐藤優香(国立民族学博物館外来研究員)
日時: 2004年6月4日(金)14:00〜16:00
場所: 発達科学部A338
学部内から5名(末本、田村、山本、勅使河原、津田)、学部外から5名(末本、李、西村、沼館、青木)、計10名の参加者を得て、第一回研究会がスタートしました。参加者の自己紹介、昨年度の公開講座の振り返りと紹介などを行った後、下記の概要案に基づいて意見交換をしました。
【概要(案)】
1 1回あたり約3時間の講座を月一回のペースで4回行う。原則として土曜日の午後。
2 4回のテーマおよび講師の候補は次の通りである。
@ 「生い立ちをふりかえる」(アイスブレークや自己紹介を行った上で、生まれた時からの写真などをもとに学習を進める。)講師:末本誠先生
A 「思い出を文字にする」(前回の作業を継続しながら、そこから紡ぎ出された思い出を書などとして文字にする。)講師:末本誠先生
B 「思い出を絵で表現する」(前回の作業をふりかえり、さらにそれらを絵で表現する。)講師: 山本道子先生、勅使河原公江先生
C 「思い出を音で表現する」(これまでの作品にふさわしい音楽を創り、発表する。)講師:山本道子先生、田村文夫先生
出された意見には、次のようなものがありました。
■大切にしている写真をもってきて、それを見ながら断片的な話をするのは可能な人たちが多いのではないか。ただ、そのような断片的な話をもって、生活史といってよいのか。
■経験は星の数ほどあり、その中から語りたいことを選ぶという行為に意味があるという生活史研究の主張がある。その点からいえば、断片的な話であっても、それがその人の語りたいことなのであれば、語ることに意味がある。あとは、その語りをどのように意味づけるかということである。
■意味づけるという作業をこの研究会でやっていけるとよい。学習者は「楽しい」ということが基本であってよい。
■言語で表現するのは高度な作業だから、取り組みのはじめに置くのは賢明でない。
■表現行為の目標として、作品性が出ることをめざすとよい。作品性というのは、例えば音楽で言えば、作品をつくっているという意識をもって行為をしている時間がある点と、音に対して自己が介入しているという意識がある点である。
■ライフヒストリーの手法を用いて学ぶという点に力点があるのか、表現という点に力点があるのかをはっきりさせる必要がある。
■最初の、思い出をふりかえるところがあれば、あとの3つ(音楽、造形、書)は、横並びの関係でよいのではないか。どれがはじめでも構わないと思う。
こういった意見交換から、思い出をふりかえる回の後に、音楽による表現→造形による表現→書による表現という順序で実施することを前提にして、次回以降計画を進めていくことにしました。
◎第2回公開講座プログラム開発研究会
日時: 2004年7月16日(金)15:00〜17:00
場所: 発達科学部A338
学部内から5名(末本、田村、山本、勅使河原、津田)、学部外から7名(末本、李、八木、沼館、青木、山際、真殿)、計12名の参加者を得て、第2回研究会を実施しました。参加者の自己紹介、第1回研究会の議論をふりかえった後、概要案に基づいて、プログラム全体の方向性について意見交換しました。
【概要案(修正)】
@ 「生い立ちをふりかえる」(アイスブレークや自己紹介を行った上で、生まれた時からの写真などをもとに学習を進める。)講師:末本誠先生 (11/6)
A 「思い出を形にする」(前回の作業をふりかえり、そこから紡ぎ出された思い出を造形で表現する。)講師: 山本道子先生、勅使河原公江先生 (12/18)
B 「思い出を音で表現する」(前回の作業に基づいて、音楽で表現する。)講師:山本道子先生、田村文夫先生 (1/22)
C 「思い出を文字にする」(前回の作業に基づいて、書として表現する。)講師:末本誠先生、(魚住和晃先生) (2/12)
【合意しておくべきことがら】
前回の話し合いにおいて、思い出の表現を支援することの意義が確認されたと同時に、どのような形での表現をめざすかということについて論議され、結論が出ませんでした。対面的な会話による表現、造形による表現、音楽による表現、書による表現、それぞれが異なる次元の成果を達成すればよいということを前提にしつつも、全体で何をめざすのかを明確にしておく必要があるように思います。今回は、この点に絞って論議しました。
次のような点が論点として出され、論議されました。
■「表象が具体的になりすぎないための工夫が必要ではないか」という意見があった。それに対して、具体的な表象の中に、学習者の個性やこだわりが入り込んでくるのであり、その部分を周囲の人たちも含めて解釈・再解釈していくことに意味を見いだせるのではないか、という議論がなされた。
■「造形や音楽が、意識化や言語化の手段という位置づけであってよいか?」という疑問に対して、それぞれの講師から回答があった。絵に関しては、絵が学習のための道具であっても構わないという趣旨であり、音楽に関しても、これまでとは異なったものの聴き方ができるようになることに目標を置いて構わないという趣旨であり、双方とも造形や音楽に目的的価値をおく必要は必ずしもないことを確認した。
■「自然な形での本人の表現方法をもとにしながら発展させていく方向を考えたい」という趣旨から、本人が感情をふだんどのような形で表現しているのか、という質問がなされた。いくつかの回答がなされ、豊かな表現がなされることがあるが、関係や状況に応じるという点が指摘された。
■末本誠先生から、生活史の意味についての解説があった。おとなは経験をもとにしてものごとを認識しているのであり、したがっておとなが学ぶというのは、経験の意味づけを捉えなおしたり深めたりすることで、認識するためのものさしを変えることなのだ、という議論がある。その議論に基づけば、生活史は、経験をふりかえりながら、自分を見つめ直す実践なのであり、自分の経験を下にした知識を周囲の人と一緒に考え交換するという学習なのだ、という趣旨の説明であった。生活史の解説をもとに、さまざまな視点が飛び出した。
・語りは普段は抑圧されているものであり、解放され自由に語っていく実践である必要がある。支援する側がうまく入り込んでいくことが大切である。
・ひとつのことがらを大事にして、そこに喜びを見いだし、それを広げていくことが大切。
・個性あるいはこだわりが強い部分がある場合は、その部分にもっと埋まっていくような実践でよい。
・施設で働いていると、こだわりもひとつのコミュニケーションの道具であり、言語であることを実感する。
・こだわりは、個々に多様であり、多様であることは長期間関わっていて始めて把握しえる。長期間の関わりを前提にしないと、こだわりのもつ意味にまで到達できない。
■この実践を通して、専門家が本人から何かを見つけだしてくれたらいい。専門家にしかわからないような、本人のもつ価値があるはずである。
■受講生をグループ化して表現活動をするというのは、個人の思いが隠れてしまう危険をもつ。グループ化がよいかどうかは、2回目以降にすり合わせて決めていけばよい。
■全体の連続性についても、前回の取り組みを検討・解釈し、その次の回の新たな材料提示を考える中で、図っていけばよい。
このように、講座の第一日目に抽出されたテーマを、その後の三回で、それぞれの表現方法に基づいて深めていくという方向性が確認されました。今後、出された意見に基づいて、講師を中心に個別プログラムの作成に入っていきます。
また、こうした講座の趣旨からして、受講者には講座に連続的に関わってもらうことが大切であることや、少人数でモデル的に遂行してみることが大切であることも確認されました。そこで、今回の受講者の募集は、定員を予め設けず、まずは昨年度の受講者から募ることにしました。
◎第3回公開講座プログラム開発研究会
日時: 2004年8月25日(水)15:00〜17:00
場所: 発達科学部A338
学部内から6名(末本、田村、山本、勅使河原、津田、小林)、学部外から4名(八木、沼館、青木、高瀬)、計10名の参加者を得て、第3回研究会を実施しました。主に、ライフヒストリーの理念と関連させながら学習プログラムの内容を検討しました。
勅使河原先生に、第二回目「思い出を形にする〜自分度数を高めよう!」の学習プログラム案を提示してもらいました。
題材設定の理由
本プログラムにおいては、受講者が自分の過去を事前の学習プログラムで振り返っている。自分の過去を振り返ることは単に過去を反芻することではなく、今の自分を深く知ることである。自分の内にありながら、自分自身が気づかない世界をスタッフとの関わりのなかで見いだす。そこで得た気づきを形にしてみる。その形は思いがけない形として表出するかもしれない。しかし、その思いがけない形も自分であることを制作のなかで繰り返し行ってみる。制作を経て「手で考える」行為を行い、その繰り返しの過程でこの世界の純度を高めていく。これらの、一連の活動のなかで形にしたものを鑑賞しあう。以上の活動をとおして表出した「個」を受け止め、受け入れることにより、次の自己の世界(生活)に主体的につなげられるようにしたい。
目標
1) 受講者ひとりひとりの世界を探究する。
2) 表現に向かう過程を重視し、形にしてみる。
3) この表現を発表し、共有をこころみる。
準備
事前連絡: 受講者に、前回の学習時に使用した資料の他、家からさまざまな素材(いらなくなった衣類、雑貨など)をもってきてもらう。作品に使用するため、不要になった物がよい。
用具: 紙類、布類、接着剤、描画用具、容器類、養生シート
導入
1) 前回行った学習を思い出す。何人かの受講者に話をしてもらう。
2) 今回の課題の説明
展開
1) 前回の学習時と同じスタッフが同じ受講者につく。
2) 前回のことをきっかけにして話を進める。(もし、前回の学習とは関係なく、受講者がしたいことがあれば、直にその行為にはいってよい。)
3) スタッフは途中の活動をメモする。
4) 受講者が「もう納得がいった」段階が作品の完成とする。
5) 順次、少人数でもよいので鑑賞会を行う。→再度制作につなげてもよい。
まとめ
作品の制作途中であっても、並べて鑑賞会を行う。参加者ひとりひとりの作品のコメントをもらう。スタッフもコメントする。感想を述べあうのもよい。
片づけ・写真撮影
【ディスカッション】
・制作を通して、最初に出されたテーマとはかけ離れたものになってしまう可能性がある。作品への制作者の意味づけが重要である。
・制作を通して、最初のテーマが展開していき、結果的に最初のテーマとはまったく異なる作品が出てきてもよい。その展開のプロセスを押さえていくことが大切。
・あまり、最初のテーマに基づいてスタッフの意図に沿って制作させるのはよくない。あえて課題を出さない方向で考えたい。
【その他】
・公開講座の前に、希望者だけで顔合わせの会をすることにしました。
◎第4回公開講座プログラム開発研究会
日時: 2004年9月24日(金)15:00〜17:00、18:00〜20:30(プレ企画)
場所: 発達科学部A棟ヒューマン・コミュニティ創成研究センター、住吉文化センター(プレ企画)
学部内から4名(田村、勅使河原、津田、小林)、学部外から6名(八木、李、沼館、青木、真殿、山際)、計10名の参加者を得て、第4回研究会を実施しました。18時からのプレ企画プログラムの検討と、11月6日の第一回プログラム案の検討を行い、その後会場を移してプレ企画を行いました。プレ企画は、研究会から7名と、本人の会「フレンド」から6名が参加して、音と造形によるワークショップを行いました。
【プレ企画プログラムの検討】
プログラム・テーマ: 造形・音楽活動で表現する「おとをせんにする」
目的:自分たちで「おと」をつくる。「自分たちのおと」を自分たちの体の動きをとおして「せん」にする。この一連の活動によって眼で見ることができない「おと」を眼でみることのできる「せん」にする変換を楽しむ。完成されたイメージをかたちにするのではなく、自分たちの「行為」や「時間」の蓄積が作品となりうることを体感してもらう。知的障害のある成人を対象とした公開講座「思い出をかたちにする」「思い出をおとにする」のプレ活動。「知的障害のある成人を対象とした公開講座」において、参加者たちが「表現する行為」の事前練習活動とする。
○導入: アイスブレーク
○展開: 「自分たちのおとをつくってみよう!」
基本的に、全員を2グループにわける。(人数が多い場合はそれ以上のグループ数も可能)。
音に関する作業は下記の5つのパラメトリックな要素に分けた段階と、それを組み合わせて作品にする、という作業に分かれる。
@楽器に触れる
与えられた楽器、もしくは周辺にあるものを、「音」という観点から見直してみる。
Instrumentと、その特性の確認作業。音の出るものだったら何でも使用可能。響く音、響かない音など、材質や奏法によってどのように音量、音色が違うか、確かめる。
A持続とリズムを作る
持続的な音の生成と、楽器に適した持続を作ってみる。例えばピアニカの音の持続は簡単だが、打楽器的な音を持続させるためには、どのようにすれば良いか?そして「持続」から「点」へ意識を移すことによって「リズム」を認識する。
B決まりを作る
所謂「楽譜」に相当するものを作る作業、一定のリズムパターンに一つの記号を与えたり、音の強弱を色の違いや濃淡によって表し、その場の「記譜」システムとしての共通理解を得る。楽曲・時間の再現性(時間回顧)や、共有する場における情報の普遍性と、非普遍性(指示書としての楽譜)を考慮しつつ。
D決まりの組み合わせを作って「作品」にする
作品としてどのような方法があるか??・・・現象の出現順序や方法について、話ながら、作品全体の持続と個々の部分の持続について決める。
E吟味し、手直ししたものを再現する
問題点:上記Bの「決まりをつくる」段階で、何らかの記譜をすることは、後の視覚的表現活動に、余分な先入観を与えはしないか?
○まとめ
【第一回プログラム案の検討】
○出された意見
・発話や会話が苦手な人たちもいるが、話ができないということも含めて支援者が受容できる状況をつくりたい。
・可能な限り話しやすい雰囲気や、話題を引き出したり、気まずい沈黙が続かないようにするためのオプションなどの工夫をしたい。事後の記録の他に、受講者と支援者の双方が使うことのできる、裏紙とペンなどが置いてあるとよいのではないか。
【その他】
・朝日新聞に記事として掲載してもらうことにしてある。その際、若干名の受講者と支援者(ボランティア)の一般公募の案内を出してもらう。
・今回参加していただいた学外の研究会メンバーには、ヒューマン・コミュニティ創成研究センター学外協力研究員として活動していただくことになった。
◎第5回公開講座プログラム開発研究会
日時: 2004年10月29日(金)15:00〜17:00
場所: 発達科学部A棟ヒューマン・コミュニティ創成研究センター、
学部内から3名(末本、津田、山本)、学部外から6名(青木、末本、西村、沼館、真殿、山際)、計9名の参加者を得て、第5回研究会を実施しました。
本日は主に以下の3点について話し合いを行ないました。
1.これまでの進捗状況を説明
2.11月6日(土)の進行・役割の確認
3.ライフヒストリーの概念について
【これまでの進捗状況】
(1) 受講者
・22名からの応募(うち、今回の初参加者6名)
・募集要項と11月6日のお知らせ送付(9月下旬)
・本日中に、11月6日についての確認を送付予定
(2) 学習支援者
・25名程度の学生および1名の学外ボランティア
・「演習」では、ライフヒストリーについて理論的・経験的に学習している。
・「障害者学習支援論」では、ポスターづくり、アイスブレークの計画、学習支援者評価 についての検討を行っている。
・主戦力は「演習」に参加している12名程度と考えている。
・学外ボランティアの方には、ファックスで最終確認する必要がある。
(3) 事務ワーク
・真殿さんに11月4日・5日にお手伝いいただくことになっている。
・テキストの作成
・パワーポイントの準備
【11月6日(土)の進行・役割の確認】
当日用いる資料について(マニュアルの作成など)
絵の具、用紙、ペン、録音機器などの準備
【ライフヒストリーの概念について】
末本先生から「教育における生活史の応用」(プリント参照)についての説明がありました。
● 「語り」を聞く際に、おさえておく点
一方的に聞くのではなく、対等な関係で。
「語る」ことで、自分自身のこれまでを振りかえることができる。
また、「語る」ことは解放でもある
「語る」ことで、自分の位置を認識する。
「語り」によって、どのような変化があったか。→学習につながる
● 記録について
記録は、経験の意味を深めるうえで、重要になる。
「記録」の扱いについて配慮が必要
□ 参加者からの意見
・思い出について語るが、「思い出」は経験か? 「思い出」を自分に起こった出来事と認識してはどうか?
・語られた内容を「記録」するが、その「記録」への配慮が必要ではないか? 原本はご本人に、控えは研究会のほうで保存という案が出される。
・一定の時間話し合った後に、ディスカッションの時間を加えてもよいのでは? 聞いた内容をまとめ、さらに問いかけなどを行いながら進めていくのはどうか。
・発話の苦手な受講者については、事前に保護者から受講者の特徴をおしえていただくのはどうか。
・当日、受講者が持参した「思い出の品」について、どのようにして選んだのか、保護者たちから経緯を聞き出すのはどうか?
・公開講座(公開講座は全4回)ごとにまとめをおこなうのはどうか?
2004年11月6日(土)、発達科学部C101教室を拠点に実施しました。受講者は19名(3名欠席)、学習支援者は学生が24名、学外者が2名、スタッフが11名、受講者の付き添いの方が13名、見学者1名、総勢で70名の出席でした。
スタッフと学習支援者は、11時に集合し、今日の公開講座のねらいや注意事項、役割分担などを確認しました。12時すぎから昼食をとりながら、会場設営、受付、道案内などを学習支援者が中心になって行いました。
1時すぎに受講者19名が集まり、1時20分からいよいよ公開講座がスタートしました。津田があいさつをした後、学習支援者がコーディネイトしてアイスブレーク(グループ分けや「猛獣狩りに行こう」など)を行い、講師の末本先生に今日の学習のねらいや注意事項について、パワーポイントやテキストを用いながら説明してもらいました。
2時半から、受講者1名と学習支援者2名の3名が組になって、語り合うための場所を探しに出かけました。それから約2時間、4時半まで、それぞれのグループでさまざまな語りの実践が行われました。
4時半から5時までは「終わりの会」をしました。今日のふりかえりとして、受講者からは積極的な発言が出てきました。多くの受講者が、自分のことを語ることによってすっきりしたり、学習支援者との関わりに満足していたようでした。最後には、グループ内での語りに飽き足らなかった受講者が、持ってきた写真を見せながら、思い出を語ってくれました。




参考資料 1
どうして思い出を語り合うのでしょうか?
作成: 真殿 仁美 ・ 津田 英二
今日、私たちは、思い出を語り合うことで、「生活史」を描き出そうとしました。「生活史」というのは、私たちひとりひとりの生活の歴史のことです。「生活史」とはどのようなものか、ということを説明しようと思います。
1.「経験」とは
みなさん、これまで、いろいろな「経験」をしてきましたね。
みなさんの多くは、阪神・淡路大震災を「経験」しましたね。とっても怖い「経験」でしたね。
それから、みなさんは、お仕事の「経験」をおもちですね。人に自慢できる「経験」なのではないでしょうか。
旅行をした「経験」もありますか? 旅行で行った、いちばん遠いところは、どこですか? 楽しい「経験」だったでしょう?
「経験」とは、いろいろなものを見たり、聞いたり、やってみたり、いろいろなところに行ったりしたことです。みんな、ひとりひとり違う「経験」をもっています。
今年度の公開講座では、こうした「経験」の中で、「思い出」としてみなさんが大切にしているものを材料にして、勉強します。
2.自分を見つめる 〜「経験」から分かること〜
誰もが、それぞれの「経験」を持っています。
みなさんが「経験」してきたことは、どのようなことだったのでしょうか?
楽しい「経験」、うれしい「経験」、つらい「経験」・・・。
私たちは、「経験」から多くのことを知り、学ぶことができます。「経験」を通して、自分がこれまで、どのように生きてきたのか、見つめ直すことができます。
また、「経験」を参考にして、これからの自分の生き方を考えることもできます。
そこで、今日はみなさんがこれまで「経験」してきたこと、いろいろな思い出について語りあいます。
それで、これまでみなさんがどのように生きてきたのか、今どのように生きているのか、これからどのように生きていくのか、といったことについて、考えていきたいと思います。
3.相手を理解する
友だちや先生にはどのような「経験」があるのでしょうか?
みなさんは、友だちや先生と「経験」したこと、思い出について語り合うことで、自分のことだけではなく、相手のことも知ることができます。
これまで相手がどのような「経験」をしてきたのでしょうか?
相手がその「経験」をどのように考えているのでしょうか?
あなたと同じ「経験」をしても、相手はあなたと同じように感じているとは限りません。いっしょに旅行をしても、ある人にとっては楽しい思い出になっても、他の人にとってはイヤな「経験」だったりします。
語り合うことで、いろいろなことが見えてきますね。
「経験」は、楽しいことばかりではありません。悲しいことや残念なこともあります。自分が語りたくないこと、相手が話したくないことは、そのままにしておきましょう。
4.「経験」について深く考える
「経験」について、人と話をすることで、深く考えてみましょう。いろいろなことに気がつくことができるはずです。
たとえば、すごくイヤな「経験」をしたとします。ふだんは、イヤだな、思い出したくないな、人には話したくないな、と思(おも)っているかもしれませんね。
でも、他の人も同じようなイヤな「経験」をしているかもしれません。しかも、何かのせいで、イヤな「経験」をさせられているのかもしれません。
もし、そういうことに気がついたら、どうでしょう? イヤな「経験」でも、人と分かちあいたいと思うのではないでしょうか。イヤな「経験」をさせた張本人のことを知りたいと思いませんか?
景気がよくなったり、悪くなること。
戦争が始まったり、終わったりすること。
学校のあり方が変わったりすること。
社会福祉の制度が変わったりすること。
こうした、ニュースの世界の話だと思っていたことと、私たちの「経験」とは、実は大きな関わりがあるかもしれないのです。
「経験」について深く考えてみると、そういうことに気がつくかもしれないのです。
参考資料 2
生活史から考えよう、自分について
作成: 末本 誠
1.基本的な考え方
@ 誰でもみんな、今までにいろいろのことをしてきています。また、いろんなことが起きました。
A みんな、昔やったことをもとにして、自分(じぶん)について話す(はなす)ことができます。
B 大人は昔やったことをもとにしながら、今の自分を見つけることができます。また大人は、そこからこれから何をするかを考えます。
C 大人が、自分の何が大切かを見つけだす方法は、昔やったことを思い出し振り返ることによってです。
D 見つけだした大切な意味は、他の誰でもありません。あなたのものです。
2.生活史のやりかた
@ 気楽になって、自由に昔のことを思い出して、話してください。またほかの人のことも、聞いてあげてください。
A 昔あったことや思い出を話しながら、そのとき何を感じたか思い出してください。
B いろいろの思い出が星の数ほどあると思います。その、どれを話してもかまいません。あなたの話したいことが、大切なことなのです。
C どっちのほうの思い出が大切だというように、比べることはありません。
D 話をする人は、いやなことを話さなくてもいいです。
E 話された中には、何か大切なことがあります。それを一緒に見つけます。
F 何が大切かは、自分で見つけることもありますが、ほかの人と一緒に見つけることもあります。
G 何が大切かを、周りの人があなたに押し付けることはありません。
H 大切なことには、あなた一人だけでなく世の中やみんなにとって大切なことが、含まれています。
I 話してくれたことを紙に書いて、話し合いに使います。
3.生活史の3つの段階
@ 約束をする: 今から何をするのかを知り、確かめましょう。
上で書いた事柄を、確かめましょう。
A 話す・聞く: 何でもいいから、好きなだけ、気楽な雰囲気を作って話します。あなたが知っていることを、私たちが知り、私たちが知っていることを、あなたが知るのです。
B 話し合い・考える: 話したことのどこが大切で、これからのあなたの何につながるのかを、考えます。
◎第6回公開講座プログラム開発研究会議事録
日時: 2004年12月10日(金)15:00〜17:00
場所: 発達科学部A棟ヒューマン・コミュニティ創成研究センター、
学部内から3名(末本、田村、津田、山本)、学部外から6名(青木、末本、西村、沼館、八木、李、真殿)、計 11名の参加者を得て、第6回研究会を実施しました。
前回の公開講座第一日目(11月6日)の感想を若干出し合った後、次回(12月18日)の学習プログラムの詰めを行いました。
第2回公開講座の学習プログラム
(1)山本先生から概要の説明
(2)前回との関連性について
前回との関わりをどのように見いだすか、という問題提起がなされました。
この点について次のような意見が出されました。
・前回との関連性をいうのであれば、同じグループ(受講者と支援者)である事が大切。
・支援者の人数の問題から、前回のような3人一組のグループは難しい。
・話しを煮詰めておかないことには、表現は難しいのではないか。
・前回は思い出を「言葉」で表現したが、今回は「言葉」にこだわりをもたない。
・受講者と支援者がお互いに語り合ったことから、お互いに作り合ってみてはどうか。
(3)持参するものについて
受講生が用意してくる素材等について次のような意見が出されました。
・大切な思い出の品を持ってきた場合、そのものの扱いをどうするのか。
(例えば、大切な思い出のセーターを持ってきた受講生について、切り刻んだり、ボンドを使用して箱に貼り付けたり等も考えられる。)
・受講者に再度お知らせをだして、持参物の使途をお伝えしたほうがよいのでは。
第7回公開講座プログラム開発研究会の日程
2004年 1月 14日(金) 15:00−17:00 に決まりました。
また、その後に第4回公開講座の準備のために、受講者の有志に集まってもらい、魚住先生と顔合わせをしようということになりました。
◎公開講座第2日「思い出をかたちにする」(講師:山本道子、アドバイザー:勅使河原君江)
2004年12月18日(土)、発達科学部C101教室を拠点に実施しました。受講者は18名(4名欠席)、学習支援者は学生が17名、学外者が2名、スタッフが12名、受講者の付き添いの方が10名、総勢で59名の出席でした。
スタッフと学習支援者は、11時に集合し、今日の公開講座のねらいや注意事項、役割分担などを確認しました。12時すぎから昼食をとりながら、会場設営、受付、道案内などを学習支援者が中心になって行いました。
1時すぎに全員が集合し、1時20分からいよいよ公開講座がスタートしました。津田が簡単なあいさつと講師紹介をした後、講師によって今日の活動の動機付けが行われました。受講者に、前回(11月6日)の活動を思い出してもらい、また造形活動をした経験を振り返ってもらいました。その後、受講者と学習支援者2名の3人グループで、前回に話された内容を確認した上で、受講者が持参した「思い入れのある不要物」を見せながら説明しました。
2時すぎから、いよいよ受講者各人が思い思いの造形活動を開始しました。材料は、受講者が持参した「思い入れのある不要物」と箱、絵の具、糊、色紙、紙粘土などです。「思い入れのある不要物」に手を加えるのが嫌な人のためには、その実物をデジタルカメラで撮影して出力したり、コピーをとったりするということもしました。4時頃まで、多くの受講者が一心不乱に造形活動に打ち込みました。
4時すぎから、作品発表会を行いました。まずは4つのグループに分かれて、4〜5人がグループ内で作品について説明しました。その後、それぞれのグループごとに、全体に向けて作品紹介をしました。個性的な作品のそれぞれに、作品の背景となった語り(思い出など)があり、参加者はそれぞれの作品を興味深く鑑賞しました。
最後に講師が今日の活動に関連のある現代美術(特にレディメイド)の説明を行い、終了しました。











テキスト
講義 「思い出をかたちにする」
勅使河原 君江 山本 道子
○ 前回の内容 ○
前回は「思い出を語り合う」について学習しましたね。
前回の学習では、自分らしい思い出を支援者と話しをしながら見つけましたね。
語り合うことによって、 1)むかし → 2)いま → 3)これから
という時間のなかで見直すことは「自分が自分の主人公であるために大切なこと」とういうを学びました。
皆さんはどのような思い出を見つけることができましたか?
▽ 今日の内容 ▽
前回の末本先生の「思い出を語り合う」での講座で、自分のなかで、輝く星の数ほどある「思い出」をみつけました。
今日の学習に入る前に、まず、一人ひとりを「りんごの木」にたとえてみましょう。
(1)心のなかにある「りんごの実」を探そう
「思い出」は心のなかにたくさん実っている「りんごの実」のようなものです。
この心のなかに実っている「思い出のりんごの実」は、ばらばらに実っています。では皆さん、まずは、心のなかにある「りんごの実」を探してみましょう。
(2)「りんごの実」を飾り付けしてみよう
今日の学習は、このばらばらに実っている「りんごの実」を皆さん自身の手で収穫して、家から持ってきたいろいろな「箱」に入れて飾り付けをしてみようという内容です。
(3)いろいろな「りんごの実」
箱に入れた「りんごの実」は、まだ熟れていない青いりんごや赤いりんご、小さいものや大きいもの、傷んだものやきれいなもの、などいろいろなかたちのものがあるはずです。皆さんの心のなかにある「りんごの実」は、一人ひとり違いますね。どの「りんごの実」を選ぶかは、皆さんそれぞれ違いますね。この行動の違いは、“その人らしさ”(“自分らしさ”)を表現していることなのです。
“その人らしさ”(“自分らしさ”)を積み重ねていくことが、作品という「かたち」になっていくのです。
“その人らしさ”(“自分らしさ”)を箱のなかに表現し、できあがった作品をながめることで、自分を見つめ直して、もっともっと自分を知ってみましょう。
そうすると、「自分が自分の主人公」になることができるはずです。
では、箱のなかに自分を表現してみましょう!
参考資料
本日の学習プログラムについて
作成 真殿 仁美 津田 英二
1.学習プログラムの目的
前回の公開講座では、受講者が思い出を語ることで、自分の過去を振り返るということを行ないました。過去を振り返ることで、自分自身をみつめなおすことができたと考えられます。また、受講者は自分自身、気づかないでいた世界を、支援者との関わりの中で見いだすこともできた、といえるのではないでしょうか。
今回のプログラムでは、前回の「思い出を語り合う」ことによって得た“気づき”をかたちにすることを試みます。表現を、絶対的な「個」とするなら、かたちづくりを通じて、表出した「個」を受けとめ,受け入れることで、次の自己の世界(生活)を主体的なものへとつなげていくことが可能となることが考えられます。そのことから、本プログラムは、「個」を表現し、「個」を受けとめ、自己の世界(生活)をより主体的に創造することを試みるねらいがあります。
今回の公開講座で講師を務める勅使河原先生は、思い出をかたちにすることを通して、“自分度数を高める”ことを目指しています。この自分度数(じぶんどすう)とは、氏の造語で、自分の内的世界の純度を高めて、それをなんらかのかたちにすることを指しています。自分度数を高めるためには、制作の過程においてなされる、試行錯誤が重要になります。この繰り返しが、作品の純度を高め、また自分自身の純度も高めることにつながる、と氏は指摘しています。
2.取り組み内容
この学習プログラムでは、箱を用いて受講者の思い出をかたちにしていきます。箱については、受講者がそれぞれ準備することになっています。また、不要になったいろいろな素材(例えば、衣類,文具など)を使い、独自のかたちをつくりあげていきます。
3.支援者の役割
制作にあたって、頭だけで考えるのではなく、「手で考える」ことを受講者に試みてほしいと考えています。そのためには、支援者によるサポートが欠かせません。支援者は、受講者の内的世界を引き出し、それを作品へ表出させるよう導く役割を担っています。しかし、受講者が内的な世界を外に表すことが難しい場合も予想されます。その際、支援者は“外に出せない(出さない)”ことを何らかのかたちにするよう受講者にしてください。
受講者の作品は、支援者とのかかわりの中で生み出されていきます。受講者が思い出をかたちとして表現しやすいよう、また、受講者がさまざまなベクトルに向かうことができるよう、支援者はさまざまな方法で働きかけをする必要があります。
4.作品を理解し合う
制作が一段落すると、それぞれの作品を鑑賞するため、鑑賞会を開きます。出来上がった作品は、公表し制作者にコメントを求めます。鑑賞会の目的は、参加者がそれぞれの「個」を表現した作品を味わうことで、違いを認め、「個」を理解し合えるようにすることにあります。
◎第7回公開講座プログラム開発研究会議事録
日時: 2005年1月14日(金)15:00〜17:00
場所: 発達科学部A棟ヒューマン・コミュニティ創成研究センター、
学部内から4名(末本、田村、津田、山本)、学部外から4名(末本、西村、沼館、真殿)、計 8名の参加者を得て、第7回研究会を実施しました。
本日は主に以下の5点について話し合いを行ないました。
1.これまでの記録の扱いについて
2.第2回公開講座を振り返って
3.来週1月22日(土)の第3回公開講座について
4.魚住先生(第4回公開講座の講師)の事前レクチャーについて
5.今後の流れ(今回講座の日程、次回の公開講座プログラム開発研究会の予定について)
1.これまでの記録の扱いについて
(1)学習支援者による記録(学生用の記録。前回までの2回分)を出席者に提示
(2)「語りの記録」について
・保護者へこれまでの「語りの記録を」郵送(保護者から寄せられた感想等を出席者に提示)
2.第2回公開講座を振り返って
出席者から次のような意見が出されました。
〇第1回目の公開講座との関連性について
・思い出の創作活動というよりも、粘土など一つ一つの素材に興味を持ち、形を作り上げていたように感じた。
〇支援者の役割
・どこまでの関わりが許容されるのか?
・受講者が完全な形を望んでいない場合もあったのではないか?(支援者によって形が変わってしまった例もあるのでは…?)
3.第3回公開講座の学習プログラムについて
第3回公開講座の講師(田村先生)から概要説明
(1)音が生み出されるまで
・様々な「もの」(思い出,自分と過去を結びつける状況など)に音の素材を求める
・楽器や器具を利用して表現する
・生み出された音を加工して、さらに新たな音を作り上げる
(2)支援者の役割
・受講者の思い出をどのように思いおこさせるか、またその回想等をどのようにして音にするのか、支援者への事前説明が必要
・音をだすことを求める(リズムやメロディー等へのこだわりではない)
・イメージを次々と展開していくと同時に、音として出すよう工夫が必要
・生み出される音を録音していく過程で、その音をより純化していくよう試みる
(※音を探しに出歩くことは、目的が異なるため今回は取り入れない)
(※純化は数々の思い出を限りなくピュアな思い出として意識にとどめるため必要と考えられる)
(3)受講者への伝達事項
出席者から次のような意見が出されました
・初回と同じように思い出の品を持参してもらうのはどうか
・語りやすいものを持ってきてもらうのはどうか
4.魚住先生(第4回公開講座の講師)の事前レクチャーについて
日時が変更しました
1月24日(月)18:00〜 になりました。
5.今後の流れについて
(1)第8回公開講座プログラム開発研究会の日程
2005年 1月 31 日(月) 15:00−17:00
(2)公開講座
第4回公開講座「思い出を文字にする」 2005年 2月 12日(土)
[事前レクチャー 2005年 1月24日(月)]
【番外】
終了後、受講者が2名参加して、墨で字を書く会をしました。いったん筆をもつと、一心不乱になって、楽しく有意義な時間をすごしました。作品の一部です。
◎公開講座第3日「思い出を音にする」(講師:田村文生、山本道子)
2005年1月22日(土)、発達科学部C101教室を拠点に実施しました。受講者は20名(4名欠席)、学習支援者は学生が16名、学外者が4名、スタッフが9名、受講者の付き添いの方が12名、総勢で61名の出席でした。
スタッフと学習支援者は、10時に集合し、講師の田村文生先生の事前レクチャーや、今日の公開講座のねらいや注意事項、役割分担などを確認しました。事前レクチャーでは、われわれが通常もっている音楽の規制の枠組みを払拭し、表現したい音を純化していく(切り取っていく)ことで成り立つ音楽の存在が提示され、今日の実践の音楽史上の位置づけが示されました。12時すぎから昼食をとりながら、会場設営、受付、道案内などを学習支援者が中心になって行いました。
1時前後から受講者や保護者が集まり、1時30分からスタートしました。最初に今日の予定や目的についてのガイダンスを行ったあと、講師から音についての簡単なレクチャーと作業手順が示されました。
2時頃から、各グループ(受講者1名と支援者1〜2名)が、作業に入りました。まず、これまでの公開講座で話されたことを振り返り、どんな場面に注目し、その場面の音を再現するかが話し合われました。次に、その音をさまざまな楽器類などで再現する努力を行い、それを録音しました。録音された音は、コンピュータにインプットされ、特殊なソフトウェアを用いて編集されました。音を重ね合わせたり、ある音を繰り返したり、音程を変えてみたりといった作業です。さらに、こうしてできた音楽に、「生演奏」を重ねることを考え、練習しました。
4時頃までに作業が終わり、全体で作品発表会を行いました。ひとりひとりが、全員の前で作品の解説をしながら「生演奏」付きの作品を全員の前で披露しました。ひとつひとつの作品に思いがこもっていて、その音楽性についての解説を講師から聞きながら、5時30分まで発表会が続きました。予定時間オーバーでしたが、演奏者も聴衆も熱心な演奏会でした。


テキスト
「昔と今をつなぐ音」
前回の内容
前回は、「思い出をかたちにする」について学習しましたね。
自分たちに思い出の深い出来事や場所を色々な材料を使って作品を製作しました。
今日の内容
私たちが普段聴いている音楽では、歌手が歌ったり、楽器が演奏することで音を作っています。音楽からは色々な種類の声や楽器の音が聞こえてきます。
音楽は主に楽器の音でできていますが、楽器ではない物からはどのような音が出るでしょうか?机、車、電車、鳥、海、ドア、私たちがいつも見ているもの、使っているものからも、様々な音が聞こえて来るのではないでしょうか?
今日は私たち一人一人に聞き覚えのある音や、印象に残る事柄を思い浮かべながら、それと同じような音をこの場所で作ってみます。そして、
●前にあったことを想像するような音
●自分が今作る音
この2つの種類の音を並べながら自分に関係の深い音の作品を作ります。
(1)昔の音を見つけよう
前に体験したことで、印象に残っていることを想像してみましょう。そこにはどんな音がありましたか?
(2)昔の音を真似してみよう
思い出した音を、今居る場所でもう一度聞くためには、どんな方法で楽器や物を動かしたり叩いたりしたら良いでしょうか?昔の音に一番近い音を探してみましょう。
(3)音を並べてみよう
昔を想像するような音を並べる順番や回数を決めましょう。どのような順番や音の強さ、長さに並るのが、自分一番良いと思いますか?
(4)並べた音に答えよう
音が並んだら、それを注意して聞いてみましょう。それは自分の好きな音になっていますか?あまり好きではないですか?
並べた音が「質問」だとすると、それにどのように答えたら良いでしょうか?
自分の作った質問に対して、言葉ではなく、物や楽器を使って答えてみましょう。それは、
質問:前にあったことを想像するような音
答え:自分が今作る音
という組み合わせになるでしょう。それが今回の作品となります。
【番外】
2005年1月24日(月)18:00〜、発達科学部の教室で、公開講座の受講者を中心とした10名の知的障害のある人たちに集まっていただき、書に挑戦しました(第二弾)。第4回公開講座の講師になっていただく魚住和晃先生が、知的障害のある人たちと交流するのが初めてということで、どんなことができるか試してみたいと言われたことがきっかけになって実現した企画です。
内容は、「一二三」と自分の名前をひたすら書くというものでした。単純な作業でしたが、何回も書いているうちに、それぞれの個性が出てきました。参加者も楽しんだようでした。
◎第8回公開講座プログラム開発研究会議事録
日時: 2005年1月31日(金)15:00〜17:00
場所: 発達科学部A棟ヒューマン・コミュニティ創成研究センター
学部内から4名(末本、八木、津田、小林)、学部外から5名(末本、西村、沼館、青木、山際)、計 9名の参加者を得て、第8回研究会を実施しました。
本日は主に以下の5点について話し合いを行ないました。
1.第3回公開講座を振り返って
2.2月12日(土)の第4回公開講座について
1.第3回公開講座を振り返って
・親の側からすると、とてもうれしかった。子どもがこういうふうに考えているのか、ということが新鮮だった。親だと待てないことでも、公開講座ではじっくり聞いてもらえるのがうれしい。
・これまでの公開講座の中で、いろいろな発見がある。ちょっとしたことでも、子どもの言うことをよく聞くようになった。
・同じ楽器の同じ鳴らし方でも、意図する表現によって音に変化があるのが、おもしろかった。コンピュータの波形でそれがよくわかる。
・求められた作業がわからなかったので緊張したが、もっと自由なやり方ができたかもしれない。
・来年の試みに向けて、田村先生の意図が伝わらなかった人たち(楽譜に頼ったり、既成の音楽の概念から脱することができなかった人たち)にどのように働きかけたらいいか考えたい。
2.2月12日(土)の第4回公開講座について
〈末本先生の話〉
書の社会的意味について、魚住先生と共同研究をしている。日本の書は、権威主義的なところがあり、その中で、魚住先生は日展で特選になるような実力者で、書についての専門書も書いている。末本のほうから、書の社会的意味について考えてみないかという誘いを魚住先生に投げかけている。
中国では、手本を書かない。その人らしさを重視した指導。自分の文字を道具にした自己探求。日本では、手本をまねることをよしとしている。今回は、自分らしい文字を書くということを目的にする。
ふつう、きれいな文字にしか興味がない。けれども、清代に石に刻みつける文字(碑)の精神を受け継ごうとする書が出てくる。文字の強さを探究する派で、魚住先生もその派に属している。禅僧の書く墨跡というものは、専門的な書家の字とは異なる。書法に則っていない。修行と密接に結びついていて、鍛錬と同時に文字が変わっていく。近年の書家には、拙さを追求したり、モダニズムを追求する人たちもいる。
型にはまった、きれいな字を書くのがすべてではない。教育で、きれいな文字を書かなければならないという意識が強くさせられているが、筆を持って字を書くという行為は何でもありというところがある。
具体的なプログラムの展開
1 筆墨の効果: 筆の動かし方を学ぶ。問題としたいのは、自我意識。書く方よりもむしろ見る方の意識が問題で、書いたものをどう見るかということ(おもしろさ)を一緒に探す。
2 文字意識の高揚: 繰り返して、自分らしい文字をつくっていく。
3 書表現の可能性: 言葉を見つける。
**********************
魚住和晃先生からの提案
書法表現の応用
1 筆墨の効果
書法表現における伝統的な用具である筆と墨は、通常のいわゆる硬筆用具と異なり、柔軟で表現性が豊かであり、書者の心理のはたらきをよく反映する特質がある。先般の実習において、生徒たちはいずれも熱心にこれにとりくみ、かつ盛んに自分の意志を示そうとしていた。文字を書くことと自我の働きの結びつきが、これによって促されることが期待される。
2 文字意識の高揚
書法表現は、文字を知るために書くのではなく、知っている字を表現体として示すために書くのである。筆墨を用い、大きな画仙紙に書くことは、何よりも自分が字を書いていることに自分自身が感銘をもち、強く自覚していることに意識がある。すでに、生徒にはそれぞれに自身の字体や作風が表れており、それを蓄積することによって、発達の過程が如実に表されよう。
3 書表現の可能性
書法表現には古典に基づく伝統的な表現のほか、伝統の既存性や拘束を否定し、全く伝統的な表現を用いない非古典の表現ある。その典型となるのが禅僧の書、即ち墨跡である。これは禅の修養によって鍛えぬいた精神力をそのまま書として打ち出したもので、伝統的な書法美意識からは表現しえないものである。さらに、現代においては墨象活動がある。これは西欧の抽象絵画活動の影響によって、文字表現の持つ精神性や絵画性だけを、とくに筆墨の機能を生かして表現したものである。
彼らにおいて重んじられるのは、脱俗であり無である。これは人間が持つ邪心を除くことを信念とし、それを書として打ち出すのであるが、障害者はまさしくその邪心が除かれた心境を持っている。この純粋の精神性がいかに作品として反映されるか、かつ発達するか、きわめて興味深いものがある。
************************
〈議論〉
・思い出とつなげていくために、文字を自分でつくるという実践はどうか。
・「好きな言葉を書くというのは、ずいぶん先の話」という魚住先生の判断。
・○△□だけでも、人によってそれぞれ違うだろう。
・言葉を探して書くのもよいが、どんどん違う字を書いてしまってはよくない。好きな言葉を何遍も書くということが重要ではないか。
・ともかく字を書いてもらって、その中から次の展開を導いていく。
・書にしながら、文字、言葉を探すという段階があってもよい。
・文字を書けない人、黒く塗りつぶすような人がいた場合、どう考えるか。それを見ている側は意味づけられるが、書いている本人にとってどういう意味があるのか。:一緒に過ごした時間の中で、みんなに楽しめた時間が形になったのが、その日の結果。:ある方法で思い出を表現しようとするときの落としどころをどう考えるか。:真っ黒に塗り潰す人がいた場合、どういうやり方をしているかということを受け止め、それを他の人に伝えていけばよい。自然と行為の中に読みとりたいものが出てくるということが大切。:塗りつぶすというだけでも、どこからどういうふうに塗り始めるかということで、ずいぶん個人差があるはず。
・ビデオを撮り続けると、あとで気づくことが多いはず。
〈結論〉
次のようなプログラムの構成を魚住先生に提案し、魚住先生からの再提案を受けて確定する。
第一部
イントロ: 魚住先生のご紹介
簡単な文字を書く: 魚住先生からの指導を含む
講評: おもしろさ・見所の発見
第二部
ことばさがし: えんぴつで話し合いながら。
繰り返し書いてみる: 魚住先生からの指導、そのたびに講評
合評会: 短時間で
〈その他〉
次の点を魚住先生に相談しておく。
名前の手本を予め書いてもらう。
学習支援者へのガイダンスで何を話すか
学習支援者に何をしてもらいたいか
◎公開講座第4日「思い出を文字にする」(講師:魚住和晃、末本誠)
2005年2月12日(土)、発達科学部C111教室を拠点に実施しました。受講者は22名(4名欠席)、学習支援者は学生が14名、学外者が4名、スタッフが8名、受講者の付き添いの方が10名、総勢で58名の出席でした。
スタッフと学習支援者は、11時に集合し、講師の魚住和晃先生の事前レクチャーや、今日の公開講座のねらいや注意事項、役割分担などを確認しました。事前レクチャーでは、書の歴史や書の社会的意義などに引きつけて、今日の実践の意義について解説していただきました。特に、今日の試みは、手本をまねるのではなく、造形としてよいものを探していくという視点からの実践であることが示されました。12時すぎから昼食をとりながら、会場設営、受付、道案内などを学習支援者が中心になって行いました。
1時半から魚住先生のご紹介の後、「一二三」「○△□」という単純な記号を書くことで、道具に慣れました。約1時間この作業を行った後、魚住先生からOHPでさまざまな書のあり方を示していただく講義をしていただきました。その後、3時すぎから、書にしたい文字を学習支援者と探しながら、その文字を書にしました。
4時半まで思い思いに文字を書き、最後に魚住先生に講評をいただきながら作品発表会を行いました。プログラムは、5時少しをまわって終了しました。




◎第9回公開講座プログラム開発研究会議事録
日時: 2005年2月1日(火)15:00〜17:00
場所: 発達科学部A棟ヒューマン・コミュニティ創成研究センター
学部内から6名(末本、田村、山本、八木、津田、小林)、学部外から3名(西村、沼館、山際)、計 9名の参加者を得て、第9回研究会を実施しました。インフルエンザ等の影響で、今年度最終回にしては寂しい会になってしまいました。
今回は主に以下の3点について話し合いを行ないました。
1.第4回公開講座を振り返って
2.今年度の公開講座全体の事業評価とまとめ
3.来年度の公開講座の方針
1.第4回公開講座を振り返って
作品の実物や写真を見ながら「思い出を文字にする」のプログラムをふりかえりました。出された意見は次のようなものでした。
・造形的におもしろいものが実際に出てきた点で、驚きがあった。
・難しい作業も受講者が無難にこなしていた点でも驚きがあった。
・これまでの語り、造形、音楽による表現ではあまり反応がなかった受講者も、書にはよく反応する傾向があった。
・よい道具を購入したこともあり、継続して実践していくとよい。
2.今年度の公開講座全体の事業評価とまとめ
次のようなふりかえりのポイントを津田が提示し、それを受けて議論が行われました。
1) コンセプト「大学で自分の世界を広げよう〜知的障害をめぐる社会的課題解決に向けた本人と大学の知との協働」との関連から
| \ |
|
|
| 本人 |
学習内容に興味を抱く 人生をふりかえり、生き方を対象化する 自らの置かれた社会的位置を対象化する 大学に来ることを楽しみ、日常的な刺激となる |
|
| 学生 |
障害のある人たちに関心を寄せる 障害のある人たちをめぐる社会的課題に気づく 障害のある人たちとの関係を持続させる 学習支援のあり方について考察する |
|
| 大学 |
教員が事業への参画に意味を見いだす 教員の研究・教育活動への刺激になる 大学の事業として定着する |
|
| 社会 |
親が子どもを捉え直す機械になる 学習支援者の輪が広がる インクルージヴな社会づくりに貢献する |
|
2) 語りと芸術を組み合わせた点をどう評価するか
a. さまざまな表現方法を試行した意味
@ひとりひとりが多様な角度から自己提示することができた
Aそれぞれ得意な自己提示の方法があった
b. 語ること・表出することへの焦点化の意味
客観的な知識の習得ではなく、共感的知識の獲得が重要であることが、共通の認識としてあり、共同で意味を探ろうとする努力が徹底して行われた。
c. 表現の質(芸術性)を求めるか、表現にその人の存在を見いだすか
了解が困難な論点。造形は後者に、音楽と書は前者に比重があったように思う。
表現方法によるが、表現の質が障害の重さと関わらないことは明らかだった。
d. 審美的評価に関わる考え方
@表現者の背景にこだわらない評価(普遍的な美の追究)
A表現者が知的障害のある人であるという背景を意識した評価
→言語的メッセージを背景にしているということ
「知的障害のある人にもできる」という評価
知的障害のある人の置かれた状況や人間的普遍性に即した評価
c・dに関して最後までゆらぎをもっていたが、表現にその人の存在を見いだし、知的障害のある人の置かれた状況や人間的普遍性に即した評価を行うことが、公開講座の所期の趣旨と一致しているように思われる。だとすれば、語りと芸術を組み合わせた事業の特性に即した評価の軸は、次のようなポイントだろう。「知的障害のある人たちの表現活動と真剣に向き合った支援者が、その表現行為の中に人間理解や社会批判の契機を見いだすことができたか」
また、議論の前に、主催者(津田)がこの事業のコンセプトをどう捉えているか再度確認を求める声があり、主催者が次のような発言をしました。
「この公開講座の最終的な目標はインクルージヴな社会づくりの一助となるところにある。今年度の「ライフヒストリー」についていえば、知的障害のある人たちが自分のことを対象化して捉え直す機会、自分の語りを注意深く他者に傾聴される機会から排除されているのではないかという仮定に基づく実践であった。特に、私の研究関心であるセルフアドボカシー(知的障害のある人たちによる社会運動)の側面からいうと、自己決定や異議申し立てをめざそうとすることの重要性は注目されるが、それ以前の活動から排除されている中で、自己決定や異議申し立てを強調するのは現実的ではない面があるのではないか。その点からすると、今年度のプログラムの最大のねらいは、自分を語り対象化するというだけでなく、それを周囲の人たちが傾聴する関係を形成していくことにあったといえるだろう。」
議論の内容は次のようなものでした。
・受講者は、自分の行為を今回ほど大事にされるという経験をそれほど多く持っていないのではないか。実際に、受講者からのそうした声(「人間として扱ってもらえたのが嬉しかった」という声)も聞いている。その点でも、今回のプログラムには大きな成果があった。
・ほとんどの受講者は、公開講座を楽しみにしていたようである。ただし、楽しかったというだけではなく、受講者に何が残ったのかという点からも評価したい。どのように評価できるか。
・芸術の世界では、「表現の質(芸術性)」と「表現にその人の存在を見いだすこと」とはほとんど同義である。その点でいうと、4回の公開講座を通して、その人の存在をいかに表出し、周囲の人たちがそれを真剣に受け止めるかということをやっていたわけであり、ライフヒストリーのねらいと芸術活動のねらいとに大きな違いがないことになる。
・講師としてめざそうとしていたことのひとつに、受講者の表現を周囲が評価する際の評価軸をつくりだしていこうという課題があった。エスタブリッシュされた価値を教育されていない人たちも受講者の中にはいたので、そういった人たちの表現を大事にしたかった。
・よりよく表現をするための技術を教えるという行為が必要であるかどうか、賛否両論がある。技術(筆の持ち方等)を教えたほうがよりよく表現することができる可能性が広がる一方、技術の中にすでにエスタブリッシュされた価値が内在している可能性もある。
・エスタブリッシュされた価値に即した表現を行った受講者もいたが、それをどのように評価すべきか。教え込まれた表現を行うことによって周囲から肯定され、それが自信にもつながっているのだろうということを思うと、エスタブリッシュされた価値に基づいた表現を否定することはできない。が、他方、そうしたエスタブリッシュされた表現が確固としたものであるがゆえに、知的障害のある人が総体としてそうした世界から排除されてきたのではないかという視点から考えると、今回の実践はエスタブリッシュされた価値をゆるがすという点にも、公開講座の趣旨との一致点があったのではないか。
・エスタブリッシュした価値から解放されることが、受講者のエンパワーメントにつながるのではないか。
また、今年度の公開講座のまとめ方についても議論されました。残された作業としては、受講者や保護者へのアンケート、記録類のデータ化、報告書の作成があります。
受講者・保護者へのアンケート
(質問内容)
受講者向け
・今年度の公開講座の感想(楽しかった・ためになった等々)
・公開講座の中で、新しく発見したこと
・来年度の公開講座への要望
保護者向け・今年度の公開講座の感想
・受講者にとって公開講座はどのような意義があったか
・受講者とどのような会話をしたか
・公開講座の取り組みに関連して、新しく発見したこと
・来年度の公開講座への要望
3.来年度の公開講座の方針
来年度の方向性についても、若干の意見交換がなされました。今年度の蓄積を放棄してしまうのはもったいないので、継続しつつ新しい要素も取り入れていくという方向が概ね支持されました。