2012年度障害学会神戸大会

シンポジウム2部構成の解説

 個人的な経験と障害の社会モデルとの関係について、知的障害を媒介に考えようとする、このシンポジウムのテーマには、いくつもの重要な論点が伏在しているように思います。実行委員会でシンポジウムのための討議をしている間にも、「私たちには手に負えないのではないか」と諦めかけるほど、避けて通れない難しい問題がたくさん横たわっているように思います。

 例えば、個人的な経験を語る主体と、その経験を聞く主体との関係についてです。語る主体が言語で表現できる場合にでさえ、語る主体の経験と聞く主体の経験との関係、その間に起こる共感、葛藤、パターナリズムといった問題を避けて通ることができません。特に語りを聞く行為、聞く側の態度が問われます。

 その上さらに、言語による表現が困難であったり苦手だったりする人たちの語りということを考えないわけにはいきません。本人と近い人たちの語りが、本人の個人的な経験とどのような関係にあるのかというテーマも浮かび上がります。また、言語による理性的・悟性的な理解だけで、語りを聞くことの限界に直面することは自明です。さまざまな形での語りを想定し、その語りを聞く側自身が感性のレベルで何を受け取るかということにも着目することに、この企画でも挑まなければならないと考えました。

 ご登壇いただく方たちをご紹介します。

 団さんは、グループホームで生活している青年です。「かがやき神戸」という事業所に所属し、特にさまざまな場所で公演して人気を博している「土曜日の天使たち」というクラウンのパフォーマンスグループで、花形として活躍しておられます。普段は、会う人会う人を楽しい会話で盛り上げてくれる、とても人懐こい気さくな青年です。

 李さん(ヤンヤン)は、お父さんと一緒にご登壇いただき、李さん(ヤンヤン)の個人的な経験を、お父さんに語っていただきます。李さん(ヤンヤン)のご両親は、李さん(ヤンヤン)を社会の一員として育てようとさまざまな努力をされてきました。現在はNPO法人として事業を展開している「ヤンヤンのおうち」は、地域の子どもたちのたまり場としてご自宅を開放するところから始まりました。今日は、お父さんの目で捉えた李さん(ヤンヤン)と社会との間にある葛藤を語っていただきます。

 三尾さんは、岐阜県の中津川市付知町から来ていただきます。神戸大会実行委員の篠原さんと長期にわたって音楽を通した交流をしてきた青年です。今回は篠原さんを媒介して、三尾さんの非言語表現を語りとして聞く試みです。三尾さんは今回のご登壇を自立生活の一歩にしようと志し参加して下さるようです。ご登壇に当たってはお兄様も応援して下さいました。なお、三尾さんのことについて、三尾さんやご家族、篠原さんとのコミュニケーションによってまとめられた資料がございます。大会ホームページからダウンロードできるようにしてありますので、ぜひご参照ください。

 さて、ご登壇いただくみなさまには、ただ「個人的な経験を語ってください」とお願いしても、伝わらないと感じましたので、個人的な経験の中でも特に田中耕一郎氏の議論のキーワードをお借りして「痛み」を語っていただくようにお願いしました。「痛み」を人前で語るという行為自体に、いろいろな葛藤や痛みが含まれると思います。たいへん難しい課題に取り組んでいただいたと思います。ご登壇いただく団さん、李さん(ヤンヤン)、三尾さんに、まずは大きな拍手で感謝の意をお伝えしたいと思います。

(障害学会神戸大会実行委員会)