■報告者(共同報告の場合は代表者)
□氏名(ふりがな):田島明子(たじまあきこ)
■報告題目(40字以内):「存在の肯定」を規範的視座とした作業療法理論の批判的検討と作業療法・リハビリテーションの時代的意義
■発表要旨(2,000字以内)[註、文献、図表等を含む]:

1.はじめに
報告者は作業療法士というリハビリテーションの一業種として仕事をしているが、これまで「障害・存在の肯定」という観点から、リハビリテーションの在り方について検討を行ってきた。具体的に言うなら、リハビリテーションは機能回復や環境調整を行い、障害によって生じた「できない」を「できる」に変換しようとする営みである。だがその背景には「できない」ことの否定という価値を切り離しがたく担っていると筆者は考え、そこを問題として捉えてきた。またそうした観点は、障害学が問題の所在とする視座を共有するものであるとも考えてきた。
本報告では、そうした立ち位置から、現行の作業療法理論について批判的な検討を行い、作業療法・リハビリテーションの現代における歩みの時代的意義を浮きぼることを目的とした。

2.対象と分析方法
検討を行った作業療法に関する理論・思想は、作業行動理論、人間作業モデル、カナダ作業遂行モデル、作業科学の4つである。それぞれの詳細については学会時に報告を行う。
それらの作業療法の理論・思想と、さらに比較検討の素材として、「障害当事者の希望、IL運動」「医学モデル・還元主義的見方」「ADL能力の向上」を加え、存在価値/能力価値と、介入視点における主観/客観の4象限において位置づけ、作業療法の理論・思想の象限上の布置を明確化することを通して、作業療法の理論・思想の「障害・存在の肯定」という視座から見た問題性を浮きぼった。
なお、介入視点における主観/客観であるが、これは近年、介入視点となっている対象者の選好や選択を重視する観点を含み持つ場合は「主観」、支援者側の評価による客観性・科学性を重視した介入視点を「客観」と表現している。

3.結果
図は、存在肯定と能力価値を縦軸、主観と客観を横軸として4象限を作り、作業療法学やリハビリテーション学の目的概念となる(含む)理論や思想を当てはめたものである。
医学モデル(還元主義的見方、ADL向上を目的とする視点)は、能力主義的であり、客観的視点のみであるとし、そこに位置づけた。それに対して現行の作業療法学の理論・思想は、能力主義的であるが、主観と客観のどちらの視点も合わせ持つところに位置づけた。また、学問的志向性として作業の意味性を追求することを目的とする作業科学は、存在価値/能力価値に対しては中立で、主観に位置付くとした。それに対して、障害を持つ当事者の希望は、「能力主義に抗して障害の否定性をいかに否定するか」であるとし、図のように位置づけた。

4.考察
 1980年代に「ADL(Activities of Daily Living:日常生活活動)からQOL(Quality of Life:生活の質)へ」とリハビリテーションの目的が変容した背景にはIL(Independent Living:自立生活)運動の思想的影響があったわけであるが(田島[2011])、そもそも作業療法学・リハビリテーション学が歩み寄ろうとした障害当事者の思想とは対極的な位置に作業療法学・リハビリテーション学は歩みを進めていることを読み取ることができる。それは、近年「主観」に位置づくような「自己決定」や「クライエント中心主義」が強調されているにも関わらずである。
 そうした状況は、作業療法・リハビリテーションの現代における歩みが、「対象者に能力価値の肯定性を主体的に受け入れさせてきた歩み」として読めないか。つまり、作業療法・リハビリテーションという健康志向性のある国民への働きかけを持つ装置が、QOLという概念によって生活と主観/客観を結び、「自立生活能力が高いことが良い」とする価値を人々の骨身に浸透させることを可能とした過程こそが作業療法・リハビリテーションの現代における歩みであったと解釈ができると考えるからである。

存在価値(能力価値を相対的に位置づける)

        

 主観                   客観

能力価値(できることがよい)

図 存在価値/能力価値、主観/客観における理論や思想の布置

<文献>
田島明子 20110325 「第5章 日本のリハビリテーション学における「QOL」の検討」 天田城介・北村健太郎・堀田義太郎編 『老いを治める――老いをめぐる政策と歴史』 生活書院 pp178-216