■報告者(共同報告の場合は代表者)
□氏名:阿地(あぢ)知(ち) 進(すすむ)
■報告題目(40字以内):障害者雇用とディスアビリティ―「ダブルカウント方式」への一考察
■発表要旨(2,000字以内)[註、文献、図表等を含む]:

ダブルカウント方式は、障害者雇用率制度において、重度の身障害者を1人雇用すると、雇用率を2人分としてカウントでき、企業が重度障害者雇用の促進を図る、積極的優遇策の一つとされる。企業は、雇用率を達成しないと、不足人数1人当り月額5万円の雇用納付金を納付する義務があり、早期に雇用率を達成できる方法としてダブルカウント方式が理解されている。
ここで、「重度」と判定する基準は、障害者の持っている手帳の等級のみによる。具体的には、身体障害者手帳1・2級所持者、療育手帳A所持者で、それによる位置づけは、本当の意味における障害者の労働力の位置づけとは一致せず、この制度の中で雇用されても、障害者の労働力は、正しく理解され評価されているとは言えない。デキナイ労働者1)を、いかにして量を雇用するかという制度は、限界がある。
東俊裕は「ダブルカウント制度は、障害の軽重で別の取り扱いをするものであるし、ダブルカウントされる側に二重の恥辱をあたえるものである」と、改正されるべき点を指摘している。
 結局、ダブルカウント方式は、重度障害者にとっては、特別の意味を含んだ雇用となり、その中では、自身の労働が、正しく判断されることなく位置付けられ、給与や待遇にも不安をもたらすようなものとなっている。障害者にとって、社会の制度や構造、さらには意図されたり、無意識かもしれない偏見といったディスアビリティが、社会参加を阻害しているといえる。
 そして、職務に対するインペアメントに対しては、ある意味、特別な配慮は必要であろうし、本人の努力や周りの配慮は分かり易く、建設的である。しかし、量的コンプライアンスのみを目指したダブルカウント方式による特別の意味を含んだ雇用は、障害者にとっては、いくつかのディスアビリティを形成することになる。また、重度障害者という概念も、「重度」という言葉が示すものと現実の障害者の作業能力が必ずしも一致せず、障害者の労働力が正しく評価されないことによる、「給与や待遇にも判然としない(西村)」ものが見られることになる。
 ダブルカウント方式は、企業にとっての雇用率達成という法令遵守を高める意味と、重度障害者の雇用を促進する役割を持っており、目的は雇用される障害者の量を増加させることであった。最初から、実雇用率が増加しても未達成企業の割合が改善されないという問題は存在したが、重度障害者の雇用数は確かに増加した。
他の先進国のように、障害者の雇用を特別なもの、規格外のものとして扱わず、一般の労働者市場対策の中に障害者も統合する(手塚書p322)というのは、ある意味理想的だが、日本の国民の障害教育の現状を考えると、制度がそのように動いても、ディスアビリティの存在はいつまでも大きな問題としてあり続けるだろう。2)
 積極的に障害者を労働市場から排除する見解は見られないが、障害者が雇用されることにはディスアビリティが存在するのである。
制度と障害者の雇用という現象の中で、ディスアビリティの出現形態は様々である。時間はかかるが、すべての国民が、障害ということを理解し、どのように考えてゆくのかというアイデンティティーの形成が不可欠であろう。
 
1)「デキナイ労働者」は、「生産能力の低い人、企業にとっては経済的負担になる人、そのために企業間の不公平さをなくすために雇用納付金制度を実施する」という、マイナスのイメージであり、能力の低い人というとらえ方です.」というとらえ方をされた、健常者よりも仕事が「デキナイ労働者」のこと。しかし、障害者の労働能力を正当に評価してみれば、必ずしも、デキナイとばかりは言えないはずである。
2)障害者が雇用されないことや意図しないディスアビリティも存在し、これらの議論は別の機会に譲る。また、障害者の社会参加の観点でも、立石真也『希望について』のなかで、「できない・と・はたらけない―障害者の労働と雇用の問題」と題した1文がある。「差別」という言葉で障害者の雇用におけるディスアビリティについて指摘している。場合分けをして、詳細に思考しているが、結局、障害者は「できない」として、できない(はたらけない)ものに財の分配を行う理論に入ってしまう。
 障害者にとって、「できない」ところから出発する方がいいのか、できるところまでで(インペアメントはあったとしても)社会参加してゆくのがいいのかは議論の分かれるところである。
*東俊裕「「わが国における『合理的配慮』のあり方について(論点整理)」に対する意見」労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会(第6 回)提出資料2008 年11 月7 日
*手塚直樹『日本の障害者雇用〜その歴史・現状・課題』光生館2000年9月
*西村正樹「障害者障害者雇用促進法の改正内容について」『DPI われら自身の声』Vol.24.1、特定非営利活動法人DPI 日本会議事務局2008年