シベリア横断鉄道の旅へのお誘い
急行”ロシア号”は、モスクワ−ウラジオストック間9,297km(時差7時間!)を一週間かけて駆け抜ける、勿論、世界最長距離を走る列車です。そして、”ロシア号”がソ連を代表する鉄道であることは、数あるソ連の列車の中で、ウラジオストック発の上り”ロシア号”が1番、モスクワ発の下り”ロシア号”が2番という列車番号を与えられていることからも分かるでしょう。
残念ながら、東の始発駅ウラジオストックは軍港であるために旅行者は立入禁止になっていますので、私達は、ナホトカという港町の太平洋駅からハバロフスクまでの915kmは別の国際列車”ボストーク号”に乗らなくてはなりません。(ウラジオストックが開放都市になり、私達がシベリア鉄道前線に乗れるようになるのも数年先のことと言われています。)
ハバロフスクで”ロシア号”に乗り換えです。緑色の機関車に引かれた20両近い赤い車両が目指す”ロシア号”です。ソ連の列車は日本の列車よりもとても大きく見えます。ソ連の軌間は1,524ミリもあり(JRは1,067ミリ、新幹線や阪急、阪神は1,435ミリ)、日本のようなプラットホームはなく、乗り込むときに地面から見上げる形になるからでしょう。客席はソフトクラス(二人部屋と四人部屋のコンパートメント)とハードクラスに分かれていますが、外国人はソフトクラスにしか乗れません。私達の世話をしてくれるのは女性の車掌さんで、各車両に一人ずついます。彼女達の大切な仕事の一つは、各車両にある湯沸器でお湯を沸かすことです。このお湯は、お茶を入れるだけではなく、暖房にも使われます。このように各車両で暖房しているのは、集中暖房では、厳寒のシベリア大陸で故障し、暖房が効かなくなると、凍死するからだと言われています。
ハバロフスクを出ると、すぐにアムール川の鉄橋を渡り、私達のシベリア鉄道の旅が始まります。見所は、何と言っても、シベリアの大地や白樺を中心とするタイガでしょう。また、世界一透明なバイカル湖に沈む夕日、ウラル山脈の中でアジアからヨーロッパへ入るときの感激などはたいしたものです。開業当時、バイカル湖を迂回する区間が未開通で、夏はフェリーボートで、冬は凍った湖面をそりで車両を渡していたことを知っていれば楽しいことでしょう。食堂車で食べるボルシチなどのロシア料理、停車中の物売りのおばさんたちからの果物などの買い物、ロシア人や外国人とのふれあいも思い出の一つです。長い一週間も、毎日新しい発見があるので、退屈せずに過ごせます。
”ロシア号”は途中70程の駅に停まりながら、バイカル湖へは3日目に、シベリア最大の都市ノヴォシビルスクには5日目に到着し、7日目にモスクワ郊外で近郊電車を見かけるようになると私達の旅も終わりです。おとぎ話の中に出てくるようなモスクワ・ヤロスラブリ駅が私達の終着駅です。きっと、あなたもこの1週間に満足されることでしょう。

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