「比較経済論」試験 解答のポイント
試験は次の4問のうち3問を選択し、論述解答せよというものでした(各3/100点)。
1)物価指数作成方法であるmarket basket方式における「所得弾力性」の問題と、ラスパイレス物価指数における「物価の過小評価」問題をそれぞれ説明し、両者の関連を述べなさい。 −授業中に「考えておいて下さい」といったものです−
「所得弾力性」の問題:経済発展段階の異なる2か国の物価を比較するため、market
basketを作成しようとしたとする。今、発展水準の低い国を基準にこれを作成しようとすれば、相対的に安価な食料品やサービスは大量に、高価な工業製品は僅かに消費されるbasketが作成される。他方、発展水準の高い国を基準にbasketを作成しようとすれば、「所得弾力性」の違いから、前者は僅かに、後者は大量に消費されるようなbasketを作成する必要がある。
ラスパイレスにおける「物価の過小評価」:ある発展途上国が物価を測定するため、低価格であるので大量に消費される財と高価であるため僅かしか消費されない2財のバスケットを作成したとする。この国で経済発展が進み、後者(例えばパソコン)の相対価格が急激に下落し、消費が急増したとする。この時、ラスパイレス方式では価格指数は過小評価され、数量指数は過大評価される。
両者は類似した問題を、前者はクロス・カントリーで、後者は異時点間で扱ったものであり、前者においては2国間の経済発展どの違いが大きいほど、後者においては比較しようとする時間の長さが長いほど、歪みが大きくなる。
2)日本的経済システムにおける銀行(メインバンク)と競争的市場経済システムにおける銀行の貸付行動様式の違いを比較経済システムの観点から述べなさい。
日本的企業間関係においては、企業は長期的な取引関係のあるメインバンクから借り入れを行おうとする。この企業が複数の企業から借入を行う際も、他行はメインバンクによる貸付に関する判断に従う。またこの時、メインバンクは企業の取引口座を保有する等からモニタリングや情報収集のコストを削減することができる。
他方、競争的市場経済システム(モデル)においては、借入を希望する企業は、短期の利益を最大化を目標として最も低い貸付利率を提示する銀行を選択するために入札が行われる。ただし、この時に銀行側に情報収集やモニタリングのための費用が過剰に発生するので、この費用を削減するため、格付会社が情報収集やモニタリングの行動を一部肩代わりすることが行われる。
−メインバンク制は非効率だという解答がしばしば見受けられます。(講義ではそんなことは言っていないはずですが・・・) もしそうならば、なぜ80年代にメインバンクを含む日本的市場経済システムはすばらしいと絶賛されたのでしょうか?クールヘッドになって答えを考えてみてください。
3)競争的市場経済システムと社会主義経済システムの情報量・誘引問題の違いをシステムの構造の違いを説明しながら述べなさい。
競争的市場経済システムにおいては、企業、家計という経済主体が上下の関係なく、水平的に市場を通して価格という情報交換および財の取引を行っている。他方、社会主義経済システムにおいては、政府(中央計画機関)と企業は位階制(垂直的)関係にあり、中央計画機関は上位に立って意思決定を行い、企業はこの意思決定のための中央計画機関への情報の提供、中央計画機関からの指令の遂行(生産)を行う。
競争的市場経済においては、市場は財の需要・供給に関してこれがどの経済主体(企業・家計)のものであるかを識別する必要がなく、また純需要(需要−供給)のみが分かればよいため、財の数をn、企業の数をsとすれば、競争的市場経済システムの要求する情報量は、市場→経済主体については財の価格のn(あるいはn-1)個、経済主体→市場については純需要のn個ですむ。他方、社会主義経済システムにおいては、中央計画機関は財の需要と供給のそれぞれに対し個別企業に指令を与える必要があるため、財の数をnとすれば、必要とされる情報量は2nsとなる。
また、競争的市場経済においては、企業は利潤最大化、家計は効用最大化という自己の利益を追求することによって社会的効用の最大化が同時に達成され、誘因両立であるが、社会主義経済においては、自己の生産能力を過小報告することにより指令を容易に達成することができるため、誘因両立ではなく、正しい情報を提供しているか、指令を実行しているかなどについての追加的な監視コストを必要とした。
4)日本の経済発展をロストウの経済発展段階説のアナロジーとして述べなさい。
ロストウによれば経済発展は次の段階からなる。
(1)伝統的社会の時代
(2)離陸の先行条件期
(3)離陸期
(4)成熟期
(5)高度大量消費時代
((6)所得の限界効用逓減の時代)
日本の場合、江戸時代までの伝統的社会から、江戸時代末期に農業生産技術、教育、資本蓄積などに基本的発展が見られ、また明治初期に法制度や社会基盤の整備が行われ、離陸のための準備が行われた。ロストウによれば、日本の離陸期は1878〜1900年であり、この時期に富国強兵、殖産興業を目標として軽工業を中心とした経済発展が起こった。その後、第2次大戦をはさみ、成熟期が訪れ、重化学工業化が進展するとともに、農工間の労働移動が起こり、労働が希少化するようになった。そして、1970年代以降、高度大量消費期が訪れ、ガルブレイスの言う「豊かな時代」が到来した。
以上です。
「比較経済論」採点後感
1)まずはこの講義をとることのできなかった経済学部2年生の皆さんにお詫びいたします。(「経済政策基礎論」とともに)2年生がとることのできない時間帯に2年生向けとうたっている「比較経済論」が割り振られたことは問題だと思います。この点については、先日、教務委員の先生に改善を申し入れておきました。
2)試験結果ですが、基本的に2年生がいないということで、試験を難しくしてみました。結果は……でした。そこで経済学部(昼間主)3年生のほぼ平均点である45点を65点に読み替える作業をしました。具体的には、生点で45点未満については一律に20点を追加、45点以上については45点→65点と100点→100点を結ぶ関数により変換し、これを成績報告書に記入しました。結果は次のとおりです。
欠席 | 不可 | 合格者 | 可 | 良 | 優 | |
全体 | 302名 | 180名 | 183名 | 88名 | 59名 | 36名 |
経済昼間主4年生以上 | 69名 | 58名 | 35名 | 17名 | 13名 | 5名 |
経済夜間主4年生以上 | 23名 | 9名 | 1名 | 0名 | 1名 | 0名 |
他学部4年生以上 | 43名 | 11名 | 7名 | 3名 | 3名 | 1名 |
経済昼間主3年生 | 42名 | 70名 | 122名 | 56名 | 39名 | 27名 |
経済夜間主3年生 | 23名 | 5名 | 4名 | 2名 | 1名 | 1名 |
経済夜間主2年生 | 7名 | 6名 | 1名 | 1名 | 0名 | 0名 |
他学部3年生 | 95名 | 21名 | 13名 | 9名 | 2名 | 2名 |
経済夜間主2年生にはきつかった試験になってしまいました。(でも、もっと勉強してね、という解答でした。)
3)解答へのコメント
i)ラスパイレス指数における「物価の過小評価」問題を説明しなさいという問題に、(定義を書いて)「ラスパイレス指数は物価を過小評価する」という答えがけっこう多かったことに驚きました。これは答えでしょうか?
ii)メインバンク=財閥系銀行という答えがたくさんありました。では、UFJをメインバンクとするダイエーは?
iii)まず情報量について。講義を聞いていれば分かるように、競争的市場経済システムと社会主義経済システムをモデル化し、その他の条件は一定にしながら(例えば企業や財の数を同じとしながら)、需給調整機能を果たしている「市場」と「中央計画機関」の扱う情報量を問う問題です。ですから、消費者に伝わる情報量云々というような答えは、失礼ながら、Xとしました。
次に誘因問題ですが、「誘因両立」とは、システム(あるいは社会)の目的関数の最大化と個々の経済主体の目的関数の最大化が同時に成立するのかという問題です。例えば、環境を保護しながら経済を成長させるという社会的目的関数の最大化と、企業の利潤や家計の効用最大化をどのように両立させるかという問題です。(ペットボトルは便利ですね。でも環境という面では問題たくさんです。さて、どうします?)
iv)少し話はずれますが、教壇から見ていると、レジメをダウンロードしているためでしょうが、「ボー」っと聞いている皆さんの姿がたいへん気になりました。世の中、何でも書いて説明してくれるほど甘くありません。私の一つ上の学年のある先輩(現在は大学の先生ですが)は、一つの講義で大学ノートを平均で10冊近く使っていました。ここまでいかなくていいですが、自分で考えてノートをとって欲しい。もし自分でノートをとっていれば、ロストウによれば日本の離陸期は1878〜1900年と(確か2回も)私が言ったにもかかわらず、第2次大戦前(〜1945年)の日本は伝統的社会であったなどというとぼけた答えは書けないと思うのですが。
4)感想へのコメント
i)プロジェクターでの講義は初めてでしたので、まだまだこなれていない点も多く、迷惑をかけたかもしれません。早口な私の説明を聞いたのでは分かりにくいとか、図の上をマウスのポインターで「ココ」と示したのでは何をしているのか分からないとか。気をつけて次は改善していきたいと思います。ただし、字が小さくて読みづらかったという感想については、まず最初の頃の講義で、これで読めますかとその時に一番後ろに座っている学生に聞きましたし、もし読めなかったとしたら、どうして授業の終了後に言いに来なかったのでしょう。これからは自己主張の時代です!黙っていては、誰も分かってくれません。
ii)プロジェクターも便利なのだが、板書もして欲しいという意見が結構ありました。現在の施設では、プロジェクターを使いながら、黒板を使おうとすると、プロジェクターの光源をオフにし、スクリーンをあげ、板書が終われば逆の作業。とても間延びした授業になります。ホワイトボードを置いてもらうなど、教務に要求していきたいと思います。
iii)教科書が欲しいという感想がいくつかありました。残念ながら、これほど広い範囲を扱っているテキストはありません。
iv)さて、一番意見を異にするのは「お茶飲むな」です。けっこう態度の悪い私の答なので、差し引いて読んで下さい。
まず、何人かの先生も飲んでいるから、私も飲んだらというコメントが幾つかありました。しかし、講義に一所懸命な時はお茶を飲もうとは思いません。(話は違うかもしれませんが、ヘビースモーカーの某先生に「授業中はどうしているんですか?」と聞いたら、「授業中は集中しているから、タバコを吸いたいとは思わないな〜」というお答え。)私がお茶を飲む度に、聞いている皆さんの集中も切れると思います。
そして皆さんがお茶を飲むことについて。お茶を飲みたいから飲むという動物的な態度に嫌悪感を覚えるという、おじさん的な思いは横において、お茶を飲んでいる時、集中して授業を聞いていると言える自信はあなたにありますか?大学に着いて、暑いからお茶を飲もうとしたら注意された⇒授業開始10分前に席に着いたらどう?ゼミの時間に先生の前でガボガボお茶を飲めますか?
以上です。