第64号(2010年3月号[10/3/1発行])
若いリウマチ患者さんへ:(1)就職について
 関節リウマチと初めて病名を告げられたとき、それまで「リウマチ」という言葉を聞いたことがあっても、関節リウマチがどのような病気か具体的なイメージがわかなかった若い患者さんも多いと思います。関節リウマチは40才台で発症することが最も多いのですが、実際には10代から90代まで幅広い年齢に発症します。いくつで発症してもリウマチそのものに違いはありませんが、患者さんにとって大きな違いがあります。それはリウマチと付き合って行く期間と、その間の人生におけるイベントの数です。特に、現在学生さんで、今春、社会人になられる方、これから就職活動に臨まれる方、あるいは社会人になって間もない方などの若い皆様は、たくさんの期待と同時に、不安もお持ちのことと思います。そこで、先月のリウマチ教室でお話させていただいた若いリウマチ患者さんへの講演から、今号では、就職に関するお話を掲載させていただきます。
 昨今の不況の中での就職活動は、肉体的にも精神的にも非常に負担が大きく、リウマチを悪化させてしまう場合もありますので十分な体調管理が必要ですが、若い皆様には、将来の夢の実現に向けて、できる限り希望の職種や会社に就職していただきたいと思います。発症されてから就活の時期までに十分な治療期間が取れる学生さんは、まずは治療を最優先しましょう。もちろん、学業に励んでいただきながらですが、発症早期からしっかりとした治療を行って、リウマチが継続して寛解した状態になれば、基本的にはリウマチでない方とほとんど変わらないごく普通の生活を送っていただけます。ただし、極端に体に負担をかけるようなスポーツや肉体的な労働は、できるだけ控えて頂きたいと思います。また、気がつかなくても、感染症への抵抗力が弱まっている場合がありますので、感染予防対策として、うがいや手洗いは徹底してください。さらに、予防接種もきっちりと受けて頂く必要があります。予防接種のうち、インフルエンザや肺炎球菌などの不活化ワクチンは問題なく接種できますが、メトトレキサート(リウマトレックス®)や生物学的製剤による治療を受けている場合には、麻疹や風疹などの生ワクチンは接種できません。血清検査で抗体がなく、麻疹や風疹などのワクチン接種が学校あるいは職場で必要だと言われた場合には、接種を受けることができない旨の診断書を作成させていただきます。
 ところで、若い患者さんは体力があるため、多少のことは大丈夫だと、ついつい無理をしがちですし、無理が実際できてしまいます。しかし、患者さん自身が気づかないうちに関節が傷んでしまう場合もありますので、忙しくても通院やお薬、そして関節の保護は欠かさないようにお願いします。また、残念なことにリウマチ患者さんに対する内定取り消しが過去にありました。必要であれば就業に支障なしという診断書を作成することができますので、採用に不安があれば、主治医に遠慮なく相談してください。
 就職後には通院先をどうするかが問題になります。学生時代のように柔軟にお休みを取ることが難しくなりますし、大きな会社だと赴任先がどこになるか分かりません。また、入社早々、新人研修で長期に合宿になることもあります。通常、お薬にもよりますが、リウマチが安定していても4-8週間隔での通院が必要ですので、受診日だけは休暇を取って現在の通院先を継続するか、土曜日の診察、あるいは午後診や夜診のあるクリニックに転院するか、赴任先の近くにある専門病院を探して受診するのか、就職前に予め検討しておく必要があります。また、それまでの被扶養者の保険証から自分の保険証に切り替わるために、高額療養費が使えるようになったり、逆に使えなくなってしまう場合がありますので、治療費についても考えておく必要があります。
 でも、リウマチのために、就職が無理だなんて諦めないでください。生物学的製剤が使えるようになってもうすぐ7年、多くの若い患者さんが普通に卒業して就職して仕事を頑張っておられます。私たち整形外科スタッフもできる限りのサポートをさせていただきます。

整形外科リウマチ教室のご案内
 整形外科では、リウマチ患者の皆様とご家族に、関節リウマチについての理解を深めて頂いて、日常生活の中で、より良い療養ができますように、2003年より整形外科リウマチ教室を毎月、開催しております。教室は、事前申し込み不要で参加費無料です。整形外科に通院中の患者さんだけではなく、他の医療機関や診療科で治療を受けておられる患者さんとご家族、医療・教育関係者の方々もご参加いただけます。関節リウマチの治療や健康維持に関する話題が中心ですが、それ以外にも様々な話題を取り上げております。繰り返し参加されている皆様は、患者相互や、患者と医療従事者の交流の場としても教室を活用されておられますが、どなたでも気軽に参加できる教室となるようにスタッフ一同、心がけておりますので、初めての方も、安心してご参加ください。
 講演後に、個別の療養や治療に関する相談の時間を設けております。ご希望の方は、病気の状態が良くわかりますように、できるだけ検査結果やお薬手帳などをご持参ください。ただし、教室では、診察そのものはできません。リウマチかどうかわからない場合は、まずは、お近くの医療機関で診察と検査を受けて頂きますように、また、当科での治療をご希望の場合には、水曜日の整形外科リウマチ外来を、かかりつけ医を通じて初診予約の上、受診していただきますようにお願いいたします。
 3月のリウマチ教室では、神戸学院大学薬学部の上町先生より、院外処方箋でお薬を受け取る際に皆様が訪れる保険薬局を、かかりつけ薬局として活用して頂くことに関する講演を予定しています。4月は、三浦准教授より、関節リウマチや変形性関節症の関節機能の再建に非常に有効な治療法である人工関節手術に関する講演を、5月は産婦人科医である保健学研究科の松尾教授より、関節リウマチが発症しやすい年齢でもある更年期に生じる変化に関する講演を、6月はリハビリテーション部の井上順一朗理学療法士より、リウマチの関節破壊予防に大切な関節保護に関する講演を、それぞれ予定しています。皆様の参加を心からお待ちしております。
これからのリウマチ教室の予定 

 それでは、いよいよ待ちに待った春の訪れです。すでに花粉の飛散が始まっておりますので、花粉症でお悩みの皆様は早めにかかりつけ医を受診してくださいね。

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