食習慣改善支援促進ツールの開発
食習慣改善支援のための実践や研究は国際的に取り組まれています。こうした活動の中から、健康行動に関する理論・モデルが明らかにされています。理論・モデルの活用には、どのようなメリットがあるでしょうか?
一つめには理論・モデルを使うことで、人の複雑な行動の理解に役立てることができます。
二つめには支援を行う時に、どのように働きかけるかを計画する上で、ヒントとなる情報が含まれています。そのため理論・モデルを支援に活用することで支援への効果を高めることが期待できます。
そこではじめに、対人支援に関する専門知識とスキルを育むために、いろいろな実践研究をふまえて生まれてきた理論・モデルを紹介します。また併せて、開発中の食生活改善支援ツールや教材を紹介します。
WHO憲章の示す健康の定義に則り健康支援を行う上で、Well-beingのとらえ方は,支援の目ざす方向を決定する一つの要因となります。
上記の翻訳では,Well-beingを“善き生”としましたが、“善き生”、Well-beingとは,どのようにとらえることができるでしょうか?
歴史をさかのぼるとHedonic Well-beingとEudaimonic Well-beingといった二つの観点が見えてきます。つまり一つは、楽しい、喜び、苦痛や不快がないといった快楽的なWell-being、Hedonic Well-beingです。もう一つは人が持っている能力が十分機能している状態にあるEudaimonic Well-beingです。
Hedonic Well-beingは、肯定的な感情(Positive Affect)の高さ、否定的な感情(Negative Affect)の低さで、とらえることができます。その源流はギリシャの哲学者アリスティッポス(Aristippus)にさかのぼるとされています。アリスティッポスは、人生の目標は最大の快楽を経験することであると考え、その思想は、功利主義的な哲学者たちにも受け継がれているとされています。
しかし快楽を追求する結果、身体的な健康を損なうこともあります。例えばおいしいものを食べすぎて生活習慣病になったり、お酒の飲みすぎでアルコール中毒症になったりと…。このようなことからHedonic Well-beingだけでWell-beingをとらえるには、理論的な限界があります。
そこでアリストテレス(Aristotle)は、人間が持つ可能性を実現することこそが、究極の目標であり、徳の高い生活を行い、価値あることを行うことにより真の幸福を見出すことができるとしました。Eudaimonic Well-beingは、こうしたアリストテレスの考えが源流とされています。そしてこうした思想は、1960年代に台頭してきたマズローやロジャースに代表される人間性心理学の概念とも重なるとされています。
この尺度は三つの因子から構成されています。
一つめは「自分は幸せだと感じることが多い」などであり『生活・人生に対する楽天的・肯定的感情』と解釈されていることから、Hedonic Well-beingに相当するととらえることができます。
二つめは「何か新しいことを学んだり、始めたいと思う」といった『未来に対する積極的・肯定的姿勢』、三つめは「自分は何か他人や社会のために役に立っていると思う」といった『自己存在の意味の認識』から構成されており、自分自身の可能性を実現し自己存在の価値への追求を示す姿としてEudaimonic Well-beingに相当するととらえることができます。
生きがいは、自律的な動機づけに関連しており、健康行動の継続に関連することを研究から確認しています。また生きがいには、ストレスレジリエンスやソーシャルサポートが関連しています(小島・加藤,2017)。
そのほかにもwell-beingの指標となる概念として、
Psychological Well-being (Ryff and Keyes 1995)、Life Satisfaction Scale (Diener, Emmons et al. 1985)、 Subjective Well-being Inventory (SUBI) (World Health Organization. Regional Office for South-East 1992)などが報告されています。
Well-beingの記事について、ご意見をお聞かせください。
ストレスは血圧の上昇などをもたらすことから、直接的に、身体的な機能に影響を及ぼすことがありますが、生活習慣を通じて間接的に体の健康に影響することもあります。つまりストレスにより感情の調節を図ることが困難となり、過食や不眠など生活習慣が乱れがもたらされることにより、間接的にストレスが疾病につながることもあります。そのため栄養指導などの対人支援においても、ストレスに関する話題になることもしばしば報告されます。こうしたことからストレスに対する科学的な見解についてお伝えします。
ストレスフルな状況下においても、ストレスに首尾よく対処する力をストレスレジリエンス(内的資源)と言います。ストレスレジリエンスが高いと、ストレスに首尾よく対処でき心の健康を保持し生活習慣も健康状態もより良好になります。ストレスレジリエンスは、ソーシャルサポートなどの外的資源によって強化されるとともに、外的資源を動員してストレスに対処するとされています。このように健康を生成する要因を明らかにし、健康を積極的に創り出していこうとするプロセスが健康生成モデルです。
健康生成モデルの中核概念であるストレスレジリエンスとしてSense of Coherence (SOC)が見いだされています。SOCは「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」から構成されています。
図2 健康生成モデルの概念図
なお疾病の原因を解明し、疾病の原因に働きかけることで疾病予防や治療を行う一連のプロセスが疾病生成モデルです。
健康生成モデルはヘルスプロモーションの理論的枠組みとされています。
健康生成モデルの記事について、ご意見をお聞かせください。
動機づけには、内発的動機づけと外発的動機づけがあります。内発的動機づけは行動そのものを楽しむ動機づけです。外発的動機づけは外的な要因による動機づけです。内発的動機づけは、より良い成果と行動の継続につながるとされています。
しかし外発的動機づけであっても、動機づけの内在化と統合化の程度により、内発的な動機づけと同様の効果があることが明らかにされていきます。
そこで、つぎのような四つの外発的動機づけが明らかにされてきました。
外的調整と取入れ的調整は、外的なものにより制御されている性格を持つので統制的動機づけ、同一化的調整、統合的調整、内発的動機づけは自律的動機づけとされています。またこれらの動機づけは連続的であるとされていることから、重みづけにより自律の程度を一つの指標として表現するRelative Autonomy Index(RAI)も活用されています。
健康な食生活を送る動機づけ(Kato・ Iwanaga et al. 2013, Kato, Hu et al. 2021)と健康のために運動を行う動機づけ(Hu・Kojima et al. 2017)を測定する尺度を開発しています。
自己決定理論の記事について、ご意見をお聞かせください。
健康に関する専門職の者は、健康行動を行うことは良いことであると考え、これを人々に伝え支援します。しかし人々は良いとされている行動を必ずしも行いません。それは、個人それぞれが持つ信念が健康行動に影響しているからです。
このような信念として次のような要因が明らかにされています。
一つめは、疾病に対する認知された脅威です。ある感染症に対して感染の可能性(脆弱性)を感じており、感染による重症化(重大性)を恐れている場合、感染症に対する脅威が強くなり、感染症に対する予防行動が促進されます。しかし認知された脆弱性が低く「感染症に感染することはない」と考えていたり、認知された重大性が低く「たとえ感染しても、大したことはない」と考えている場合、感染症に対する脅威も弱くなり、予防行動は進まない可能性が予測されます。
二つめは、健康行動による利益です。健康行動への認知された利益は健康行動の促進要因となります。たとえば、「毎日運動をすることで、体重の管理をすることができ、メタボリックシンドロームを予防することがでる。」と考えることは、運動習慣を促進します。
三つめは、健康行動における障害です。健康行動への認知された障害は健康行動の阻害要因となります。たとえば、「毎日運動をするのは、時間がかかる」「めんどくさい」などといった。時間的障害、心理的障害を感じると、運動習慣はつきにくいと考えれます。
四つめは、自己効力感です。今より少しだけ頑張ったらできそうと思える健康行動であれば、取り掛かろうという気になります。そのため、どこに健康行動の目標を設定するかは重要な点です。
五つめは、行動のきっかけです。ちょっとした広告を見たり、所属するグループで話題になったりなどが、行動の促進要因となります。
これらの要因は、性別、年齢、人種、社会的地位など様々な属性による影響を受けます。この点も支援では、十分に配慮すべきです。
健康信念モデルの記事について、ご意見をお聞かせください。
変容ステージには、無関心期(前熟考ステージ)、関心期(熟考ステージ)、準備期(準備ステージ)、実行期(実行ステージ)、維持期(維持ステージ)が想定されています。無関心期は、目的とする健康行動を行うことを無意味だと考えており、実行することがないステージです。関心期は、健康行動を行うことに関心を持っていますが、実行できていないステージです。準備期は、目的とする健康行動を行ってはいないが、行動を開始するために情報を集めたり、ランニングのためのスニーカーを購入したりと、何か準備を始めている時期です。そして、実行期は実際に行動を始めて6か月以内とされています。維持期は行動をはじめて6カ月以上のステージとされています。
行動の変容は一直線的に進んでいくのではありません。いったん先のステージに進んでも後戻りすることもあり、ステージを行きつ戻りつしながら進むことも確認されています。
そして変容プロセスでは、次のステージに進むための働きかけが示されています。
また意思決定バランスや自効力感と変容ステージとの関連も明らかにされており、ステージが進むにつれて、健康行動による利益を強く感じ、健康行動による損失が低くなることや自己効力感が高くなることが報告されています。
トランスセオレティカルモデルの記事について、ご意見をお聞かせください。
(1)各病院によってやり方が全く異なるということです。しかも、栄養食事指導は施設内で代々受け継がれていくものであり、他の病院でどのような方法で行われているかはわからない、といった実態が見られました。
(2)「栄養指導とは」という問いについて…。
(3)トランスセオリティカルモデルの行動変容ステージの活用は進んでおり、「患者さんのステージの把握」を行うことで患者さんの準備性を理解する取り組みは進んでいるようです。その中でも支援が困難なのが「無関心期」、やはり多くの方が苦戦しているようです。対応方法としては、ほとんどの方々がとられているのが「反復する」という手法です。「あいづちを打つだけの栄養指導」もあるそうです。
ただ聞くことは、患者さんの情報収集であり、アセスメントであるという考え方です。しかもこれができるようになるには、ある程度の経験が必要とのことで、新米の管理栄養士には難しいとのことでした。どうでしょうか。
たしかに面接指導未経験の学生が指導を行うと、患者への情報提供に力が注がれ、アセスメントする余裕は生まれません。おそらく、指導者とはこういうものだという観念が影響しているのでしょう。
ある程度経験を積んでくると、相手の話に合わせるだけではなくて、上回る形でかぶせてくることができるようになります。つまり相手に十分納得してもらえる話ができるようになるということです。
また、さらに経験を積んでくると引き出しも多くなり、自信もついてきます。相手のキャラクターに合わせた指導ができるようになります。そして知識提供者から相談相手に昇格します。そうすると今度は患者さんから相談を持ち掛けられるようになります。
どうして患者さんから寄ってくるようになるのでしょうか。それは、患者さんが必要とする情報を厳選して提供することができるからです。あるいは、患者さんに感動を与えることができるからです。同じ内容の情報でも、患者さんに合わせて患者さんが魅力的に感じられるようにアレンジできるようになります。具体例を示すと、糖尿病の食事療法で、交換表や単位の話などは一切せずに、フードモデルを使って食事の現状と改善方法を自分で見つけさせるなど、相手の興味やスキルに合わせたアレンジができるようになります。こうなると、指導者は患者さんにとってありがたい人、たとえていうなればアイドル、大げさに言うなら崇拝する対象になってきます。
以上、現場で活躍している方々のインタビュー内容から指導者のスキルと目標をまとめると
これを指導者のマイルストーンと名づけることにします。
簡易OSCEプログラム
―医療面接の知識技能を確かめるツール 初心者用―
手近なところに野菜がなければ摂取することは困難です。一般家庭において、野菜の主な購入元はスーパーマーケット(出典:2018年版スーパーマーケット白書)であり、ここで十分な量の野菜を確保することが重要です。
そこでスーパーマーケットでの買い物をシミュレートすることで野菜の適切な購入量を学ぶことができるツールを作成しました。
スーパーマーケットの食品売り場を再現しています。
フエルトで作られた食材をかごに入れてレジに持っていき、バーコードを読み取ると、買った食材の栄養バランスなどを評価したレシートが出てきます。
これにより、適切な食材購入を修得することができます。
対象者には結果票を渡します。結果表には1人あたりの栄養成分値、エネルギー産生栄養素バランス、食品群別に十分な量を購入できているかの判定を示しています。
普段、家族の食材を購入する48名の主婦に試してもらい、アンケートをとったところ、54%が野菜の購入量が少なかったことを知ったと回答しました。
図 結果票を見た後の野菜購入量の認識
さらに今後の野菜の購入で気を付けるべき内容を聞いたところ、56%がもっとたくさん買おうと思ったと回答しました。
図 野菜購入量の意識変化
1.健康ビッグデータを確認しよう
一つめには理論・モデルを使うことで、人の複雑な行動の理解に役立てることができます。
二つめには支援を行う時に、どのように働きかけるかを計画する上で、ヒントとなる情報が含まれています。そのため理論・モデルを支援に活用することで支援への効果を高めることが期待できます。
そこではじめに、対人支援に関する専門知識とスキルを育むために、いろいろな実践研究をふまえて生まれてきた理論・モデルを紹介します。また併せて、開発中の食生活改善支援ツールや教材を紹介します。
目次
対人支援に関する専門知識とスキルを育むために
1. Well-being
WHO憲章の前文で定められた健康の定義
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
「健康とは、身体的にも、精神的にも、そして社会的にも完全に善き生の状態にあることをいい、単に病気でないとか、虚弱でないということではない」
「健康とは、身体的にも、精神的にも、そして社会的にも完全に善き生の状態にあることをいい、単に病気でないとか、虚弱でないということではない」
を原則に、健康への取り組みが進んでいます。
WHO憲章の示す健康の定義に則り健康支援を行う上で、Well-beingのとらえ方は,支援の目ざす方向を決定する一つの要因となります。
上記の翻訳では,Well-beingを“善き生”としましたが、“善き生”、Well-beingとは,どのようにとらえることができるでしょうか?
歴史をさかのぼるとHedonic Well-beingとEudaimonic Well-beingといった二つの観点が見えてきます。つまり一つは、楽しい、喜び、苦痛や不快がないといった快楽的なWell-being、Hedonic Well-beingです。もう一つは人が持っている能力が十分機能している状態にあるEudaimonic Well-beingです。
Hedonic Well-beingは、肯定的な感情(Positive Affect)の高さ、否定的な感情(Negative Affect)の低さで、とらえることができます。その源流はギリシャの哲学者アリスティッポス(Aristippus)にさかのぼるとされています。アリスティッポスは、人生の目標は最大の快楽を経験することであると考え、その思想は、功利主義的な哲学者たちにも受け継がれているとされています。
しかし快楽を追求する結果、身体的な健康を損なうこともあります。例えばおいしいものを食べすぎて生活習慣病になったり、お酒の飲みすぎでアルコール中毒症になったりと…。このようなことからHedonic Well-beingだけでWell-beingをとらえるには、理論的な限界があります。
そこでアリストテレス(Aristotle)は、人間が持つ可能性を実現することこそが、究極の目標であり、徳の高い生活を行い、価値あることを行うことにより真の幸福を見出すことができるとしました。Eudaimonic Well-beingは、こうしたアリストテレスの考えが源流とされています。そしてこうした思想は、1960年代に台頭してきたマズローやロジャースに代表される人間性心理学の概念とも重なるとされています。
図1-1 Hedonic Well-being と Eudaimonic Well-being
生きがい意識とWell-being
生きがい意識は、Hedonic Well-beingとEudaimonic Well-beingの両方を含む日本発祥のWell-beingであるととらえることができると考えます。これを実証する研究として生きがい意識尺度について検討した研究があります(今井・長田・西村,2012)。この尺度は三つの因子から構成されています。
一つめは「自分は幸せだと感じることが多い」などであり『生活・人生に対する楽天的・肯定的感情』と解釈されていることから、Hedonic Well-beingに相当するととらえることができます。
二つめは「何か新しいことを学んだり、始めたいと思う」といった『未来に対する積極的・肯定的姿勢』、三つめは「自分は何か他人や社会のために役に立っていると思う」といった『自己存在の意味の認識』から構成されており、自分自身の可能性を実現し自己存在の価値への追求を示す姿としてEudaimonic Well-beingに相当するととらえることができます。
図1-2 生きがいの概念
生きがいは、自律的な動機づけに関連しており、健康行動の継続に関連することを研究から確認しています。また生きがいには、ストレスレジリエンスやソーシャルサポートが関連しています(小島・加藤,2017)。
図1-3 Well-being 健康行動モデル
そのほかにもwell-beingの指標となる概念として、
Psychological Well-being (Ryff and Keyes 1995)、Life Satisfaction Scale (Diener, Emmons et al. 1985)、 Subjective Well-being Inventory (SUBI) (World Health Organization. Regional Office for South-East 1992)などが報告されています。
図1-4 Psychological well-beingの概念
Well-beingの記事について、ご意見をお聞かせください。
2. 健康生成モデル
ストレスは抑うつや不安といった心の健康だけではなく、心疾患や脳梗塞など身体的な健康と関連するとされています。そのため疾病を予防し健康を維持増進するためには、ストレスにいかに対処するかが重要な課題となります。ストレスは血圧の上昇などをもたらすことから、直接的に、身体的な機能に影響を及ぼすことがありますが、生活習慣を通じて間接的に体の健康に影響することもあります。つまりストレスにより感情の調節を図ることが困難となり、過食や不眠など生活習慣が乱れがもたらされることにより、間接的にストレスが疾病につながることもあります。そのため栄養指導などの対人支援においても、ストレスに関する話題になることもしばしば報告されます。こうしたことからストレスに対する科学的な見解についてお伝えします。
ストレスフルな状況下においても、ストレスに首尾よく対処する力をストレスレジリエンス(内的資源)と言います。ストレスレジリエンスが高いと、ストレスに首尾よく対処でき心の健康を保持し生活習慣も健康状態もより良好になります。ストレスレジリエンスは、ソーシャルサポートなどの外的資源によって強化されるとともに、外的資源を動員してストレスに対処するとされています。このように健康を生成する要因を明らかにし、健康を積極的に創り出していこうとするプロセスが健康生成モデルです。
健康生成モデルの中核概念であるストレスレジリエンスとしてSense of Coherence (SOC)が見いだされています。SOCは「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」から構成されています。
図2 健康生成モデルの概念図
把握可能感:暮らしの中で起こるストレスフルな出来事への見通しがきき、予測でき、説明がつくことだと感じる。
処理可能感:自分の持っている資源や周りにある資源を活用して、ストレスフルな出来事に対応できると感じる。
有意味感:ストレスフルな出来事に対応することは、挑戦であり、何らかの価値のあることだと感じる。
処理可能感:自分の持っている資源や周りにある資源を活用して、ストレスフルな出来事に対応できると感じる。
有意味感:ストレスフルな出来事に対応することは、挑戦であり、何らかの価値のあることだと感じる。
なお疾病の原因を解明し、疾病の原因に働きかけることで疾病予防や治療を行う一連のプロセスが疾病生成モデルです。
健康生成モデルはヘルスプロモーションの理論的枠組みとされています。
健康生成モデルの記事について、ご意見をお聞かせください。
3. 自己決定理論
動機づけに関する理論、自己決定理論(Deci・Ryan,1985)を紹介します。動機づけには、内発的動機づけと外発的動機づけがあります。内発的動機づけは行動そのものを楽しむ動機づけです。外発的動機づけは外的な要因による動機づけです。内発的動機づけは、より良い成果と行動の継続につながるとされています。
しかし外発的動機づけであっても、動機づけの内在化と統合化の程度により、内発的な動機づけと同様の効果があることが明らかにされていきます。
そこで、つぎのような四つの外発的動機づけが明らかにされてきました。
「外的調整」 : 誰かから言われたから行う
「取入れ的調整」 : 誰かが直接言うわけではないけれど、羞恥心や罪悪感を感じるから行う
「同一化的調整」:楽しいわけではないけれど価値があると思うから行う
「統合的調整」 : そのことを行うことは、自分らしいから行う
「取入れ的調整」 : 誰かが直接言うわけではないけれど、羞恥心や罪悪感を感じるから行う
「同一化的調整」:楽しいわけではないけれど価値があると思うから行う
「統合的調整」 : そのことを行うことは、自分らしいから行う
外的調整と取入れ的調整は、外的なものにより制御されている性格を持つので統制的動機づけ、同一化的調整、統合的調整、内発的動機づけは自律的動機づけとされています。またこれらの動機づけは連続的であるとされていることから、重みづけにより自律の程度を一つの指標として表現するRelative Autonomy Index(RAI)も活用されています。
図3 自己決定理論のモデル図
健康な食生活を送る動機づけ(Kato・ Iwanaga et al. 2013, Kato, Hu et al. 2021)と健康のために運動を行う動機づけ(Hu・Kojima et al. 2017)を測定する尺度を開発しています。
自己決定理論の記事について、ご意見をお聞かせください。
4. 健康信念モデル
健康信念モデルは、健康行動の決定要因となる個人の考え(信念)を示すモデルです。健康に関する専門職の者は、健康行動を行うことは良いことであると考え、これを人々に伝え支援します。しかし人々は良いとされている行動を必ずしも行いません。それは、個人それぞれが持つ信念が健康行動に影響しているからです。
このような信念として次のような要因が明らかにされています。
一つめは、疾病に対する認知された脅威です。ある感染症に対して感染の可能性(脆弱性)を感じており、感染による重症化(重大性)を恐れている場合、感染症に対する脅威が強くなり、感染症に対する予防行動が促進されます。しかし認知された脆弱性が低く「感染症に感染することはない」と考えていたり、認知された重大性が低く「たとえ感染しても、大したことはない」と考えている場合、感染症に対する脅威も弱くなり、予防行動は進まない可能性が予測されます。
二つめは、健康行動による利益です。健康行動への認知された利益は健康行動の促進要因となります。たとえば、「毎日運動をすることで、体重の管理をすることができ、メタボリックシンドロームを予防することがでる。」と考えることは、運動習慣を促進します。
三つめは、健康行動における障害です。健康行動への認知された障害は健康行動の阻害要因となります。たとえば、「毎日運動をするのは、時間がかかる」「めんどくさい」などといった。時間的障害、心理的障害を感じると、運動習慣はつきにくいと考えれます。
四つめは、自己効力感です。今より少しだけ頑張ったらできそうと思える健康行動であれば、取り掛かろうという気になります。そのため、どこに健康行動の目標を設定するかは重要な点です。
五つめは、行動のきっかけです。ちょっとした広告を見たり、所属するグループで話題になったりなどが、行動の促進要因となります。
これらの要因は、性別、年齢、人種、社会的地位など様々な属性による影響を受けます。この点も支援では、十分に配慮すべきです。
図4 健康信念モデルの概念図
健康信念モデルの記事について、ご意見をお聞かせください。
5. トランスセオレティカルモデル
トランスセオリティカルモデルは、対象者の実践状況と実践意図を把握することによりその準備性を捉えます。具体的な支援を計画するうえで有効なモデルとして、活用が推進されています。トランスセオリティカルモデルの中核にある理論として、変容ステージ、変容プロセス、自己効力感、意思決定バランスがあります。変容ステージには、無関心期(前熟考ステージ)、関心期(熟考ステージ)、準備期(準備ステージ)、実行期(実行ステージ)、維持期(維持ステージ)が想定されています。無関心期は、目的とする健康行動を行うことを無意味だと考えており、実行することがないステージです。関心期は、健康行動を行うことに関心を持っていますが、実行できていないステージです。準備期は、目的とする健康行動を行ってはいないが、行動を開始するために情報を集めたり、ランニングのためのスニーカーを購入したりと、何か準備を始めている時期です。そして、実行期は実際に行動を始めて6か月以内とされています。維持期は行動をはじめて6カ月以上のステージとされています。
行動の変容は一直線的に進んでいくのではありません。いったん先のステージに進んでも後戻りすることもあり、ステージを行きつ戻りつしながら進むことも確認されています。
図5-1 行動変容ステージ
そして変容プロセスでは、次のステージに進むための働きかけが示されています。
また意思決定バランスや自効力感と変容ステージとの関連も明らかにされており、ステージが進むにつれて、健康行動による利益を強く感じ、健康行動による損失が低くなることや自己効力感が高くなることが報告されています。
図5-2 意思決定バランス
トランスセオレティカルモデルの記事について、ご意見をお聞かせください。
6. 大学病院や公立病院で実際に栄養食事指導に携わっている管理栄養士10名にお伺いしました!
そこで明らかとなったのは、(1)各病院によってやり方が全く異なるということです。しかも、栄養食事指導は施設内で代々受け継がれていくものであり、他の病院でどのような方法で行われているかはわからない、といった実態が見られました。
栄養指導は職人の世界と同じ
見て覚えろ!!
見て覚えろ!!
(2)「栄養指導とは」という問いについて…。
・洗脳することである・経験の積み重ね・褒めること・寄り添うこと・詳しく聞き取ること
・笑顔にすること・目標設定
・笑顔にすること・目標設定
と様々な意見が出されました。
(3)トランスセオリティカルモデルの行動変容ステージの活用は進んでおり、「患者さんのステージの把握」を行うことで患者さんの準備性を理解する取り組みは進んでいるようです。その中でも支援が困難なのが「無関心期」、やはり多くの方が苦戦しているようです。対応方法としては、ほとんどの方々がとられているのが「反復する」という手法です。「あいづちを打つだけの栄養指導」もあるそうです。
ただ聞くことは、患者さんの情報収集であり、アセスメントであるという考え方です。しかもこれができるようになるには、ある程度の経験が必要とのことで、新米の管理栄養士には難しいとのことでした。どうでしょうか。
たしかに面接指導未経験の学生が指導を行うと、患者への情報提供に力が注がれ、アセスメントする余裕は生まれません。おそらく、指導者とはこういうものだという観念が影響しているのでしょう。
ある程度経験を積んでくると、相手の話に合わせるだけではなくて、上回る形でかぶせてくることができるようになります。つまり相手に十分納得してもらえる話ができるようになるということです。
また、さらに経験を積んでくると引き出しも多くなり、自信もついてきます。相手のキャラクターに合わせた指導ができるようになります。そして知識提供者から相談相手に昇格します。そうすると今度は患者さんから相談を持ち掛けられるようになります。
どうして患者さんから寄ってくるようになるのでしょうか。それは、患者さんが必要とする情報を厳選して提供することができるからです。あるいは、患者さんに感動を与えることができるからです。同じ内容の情報でも、患者さんに合わせて患者さんが魅力的に感じられるようにアレンジできるようになります。具体例を示すと、糖尿病の食事療法で、交換表や単位の話などは一切せずに、フードモデルを使って食事の現状と改善方法を自分で見つけさせるなど、相手の興味やスキルに合わせたアレンジができるようになります。こうなると、指導者は患者さんにとってありがたい人、たとえていうなればアイドル、大げさに言うなら崇拝する対象になってきます。
以上、現場で活躍している方々のインタビュー内容から指導者のスキルと目標をまとめると
- 初心者 : 話が聞けるようになる
- 中級者 : 患者の状態を正しく把握でき、的確なアドバイスができる
- 上級者 : 患者に感動を与えることができる
これを指導者のマイルストーンと名づけることにします。
7. 簡易OSCEプログラム
管理栄養士を目指す学生のための臨床実習前のセルフトレーニングプログラムを開発しました。- マナー・身だしなみ編
- オープニング編
- コミュニケーション編
- 情報収集 Part①
- 情報収集 Part②
- 伝える&クロージング編
- 全体
―医療面接の知識技能を確かめるツール 初心者用―
-Appendix- 生き生き食教育プログラム パンフレット
食に関する専門知識とスキルを育むために
食生活改善支援を行う時に役に立つ教材やツールを開発しました。料理動画
食と健康 主菜の1回量
レシピ本
「スーパーくすのき」について
我が国における国民の野菜の摂取量は、1日350g以上が適切であるとされています。ところが、大阪府民の野菜摂取量は約270g(出典:第3次大阪府食育推進計画)です。手近なところに野菜がなければ摂取することは困難です。一般家庭において、野菜の主な購入元はスーパーマーケット(出典:2018年版スーパーマーケット白書)であり、ここで十分な量の野菜を確保することが重要です。
そこでスーパーマーケットでの買い物をシミュレートすることで野菜の適切な購入量を学ぶことができるツールを作成しました。
スーパーマーケットの食品売り場を再現しています。
フエルトで作られた食材をかごに入れてレジに持っていき、バーコードを読み取ると、買った食材の栄養バランスなどを評価したレシートが出てきます。
これにより、適切な食材購入を修得することができます。
普段、家族の食材を購入する48名の主婦に試してもらい、アンケートをとったところ、54%が野菜の購入量が少なかったことを知ったと回答しました。
図 結果票を見た後の野菜購入量の認識
さらに今後の野菜の購入で気を付けるべき内容を聞いたところ、56%がもっとたくさん買おうと思ったと回答しました。
図 野菜購入量の意識変化
- 面接時に有効な半定量食物摂取頻度調査法(Genkeep-FFQ)(開発中)
- 面接時に役立つ栄養計算プログラム(Epitaph)(開発中)
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リンク
Self-Determination Theory健康ビッグデータの活用
1.健康ビッグデータを確認しよう
2.兵庫県のデータ活用方法を見てみよう
3.地域特性の分析方法について
参考文献
- Boniwell, I (2008). “What is Eudaimonia? The Concept of Eudaimonic Well-Being and Happiness.” http://positivepsychology.org.uk/the-concept-of-eudaimonic-well-being/ (assessed 2021年10月3日)
- Deci E. L.・Ryan R. M.(1985).Intrinsic motivation and self-determination in human behavior Plenum Press
- Diener Ed・Emmons Robert A.・Larsen Randy J.・Griffin Sharon(1985).The Satisfaction With Life Scale Journal of Personality Assessment,49(1),71-75.
- Hu Chenghong・Kojima Ami・Athenstaedt Urusla・Kato Yoshiko(2017).Psychometric Validation of Exercise Motivation for Health Scale (EMHS) Open Journal of Social Sciences,05(10),274-287.
- 今井 忠則・長田 久雄・西村 芳貢(2012).生きがい意識尺度(Ikigai–9)の信頼性と妥当性の検討 日本公衆衛生雑誌,59(7),433-439.
- Kato Yoshiko・Hu Chenghong・Wang Yiran・Kojima Ami(2021).Psychometric validity of the motivation for healthy eating scale (MHES), short version in Japanese Current Psychology.
- Kato Yoshiko・Iwanaga Makoto・Roth Roswith・Hamasaki Tomoko・Greimel Elfriede(2013).Psychometric Validation of the Motivation for Healthy Eating Scale (MHES) Psychology,04(02),136-141.
- 小島 亜未・加藤 佳子(2017).健康診査受診者の生きがいと首尾一貫感覚(Sense of coherence: SOC)およびソーシャル・サポートとの関係 日本看護科学会誌,37,18-25.
- Ryff Carol D.・Keyes Corey Lee M.(1995).The structure of psychological well-being revisited Journal of Personality and Social Psychology,69(4),719-727.
- World Health Organization. Regional Office for South-East Asia(1992).Assessment of subjective well-being, the subjective well-being inventory (SUBI) WHO Regional Office for South-East Asia