山田誠一の民事法務頁 1997年度民法W

民法W 講義教材〔3〕

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民法W(物権・担保物権)講義教材〔3〕1997.4.17.
山田誠一
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◆講義項目表
第二章 所有権の移転・所有権の取得
 序説  不動産登記制度
[1]登記簿の仕組み[星野:42-43頁]
(1)登記簿:不動産に関する権利関係と、不動産の物理的な状況を記載する帳簿。土地についての土地登記簿と、建物についての建物登記簿とがある。
(2)登記用紙:1筆の土地にひとつの登記用紙、1個の建物にひとつの登記用紙が備えられる。複数の登記用紙をまとめて1冊の帳簿にしたものが、登記簿である。登記用紙のことを登記簿ともいう。ひとつの登記用紙は、表題部、甲区、乙区によって構成される。表題部には、土地・建物の物理的な状況に関する事項を記載する。甲区には、土地・建物の所有権に関する事項を記載する。乙区には、土地・建物の所有権以外の権利(例:地上権、抵当権)に関する事項を記載する。
(3)登記:登記簿(登記用紙)に、不動産に関する権利関係・不動産の物理的な状況を記載することを登記といい、同時に、記載そのものを登記という。登記には、様々なものがあるが、何について登記をするか、その登記には何を記載するかについては、不動産登記法に定められている。
(4)登記の記載方法:同一の不動産についての所有権に関する複数の登記は、同一の登記簿の甲区に記載される。同一の不動産についての所有権以外の権利に関する複数の登記は、同一の登記簿の乙区に記載される。同一の区に記載された複数の登記には、それぞれ、登記がなされた順序にしたがって、番号が付される。

[2]登記の種類・内容・申請
(5)所有権移転登記:所有権の移転についての登記。「所有権移転」、原因(所有権移転の原因)、所有者(所有権の移転によって所有者となった者・譲受人)が記載され、番号が付される。原因の例は、売買や贈与である。申請は、原則として、その登記がなされるべき番号の直前の番号の登記において所有者として記載されている者(登記義務者)と、その所有権移転登記において所有者として記載される者(登記権利者)とが、共同して行なう。
(6)所有権移転登記の抹消登記:所有権の移転がなかったにもかかわらず、なされた所有権移転登記を消滅させる登記。「○番所有権抹消」、原因が記載され、番号が付される。原因の例は、売買の解除、売買の取消・無効である。申請は、原則として、抹消される所有権移転登記の登記権利者(抹消登記の登記義務者)と、その登記義務者(抹消登記の登記権利者)とが、共同して行なう。
(7)登記権利者・登記義務者:その登記によって、登記のうえで、権利を取得する者(権利を失うことを免れる者)を登記権利者、権利を失う者(権利の取得を逃す者)を登記義務者という。
(8)共同申請:登記は、原則として、登記義務者と登記権利者とが、共同で申請しなければならない(不動産登記法26条)。代理人によって、申請することもできる(同条)。例外は、相続が原因の場合と、一方を被告とした登記を命ずる判決をもって、原告が申請する場合(同法27条)。
(9)登記連続の原則【重要】:登記の番号にしたがって連続するふたつの登記の前の登記の登記権利者が、後の登記の登記義務者となることを登記連続の原則という。Aを所有者とする所有権移転登記の次に、BとCとが共同申請する所有権移転登記をすることはできない。したがって、AからBへの所有権移転登記がある場合、AとCとの共同申請で、AからCへの所有権移転登記をすることはできない。また、AからBへの所有権移転登記があり、BからCへの所有権移転登記がある場合、BとAとの共同申請で、AからBへの所有権移転登記の抹消登記をすることはできない。

 第一節 不動産:売買契約による所有権の移転 
[1]売買契約において所有権はどのようにして移転するか[星野:29-38頁]
(1)売主の債務:売主は、売買目的物の所有権を買主に移転する債務を負う(555条)。
(2)売主の債務の不履行:売買目的物が滅失した場合、売主は、買主にその所有権を移転することができない。売買目的物を第三者が所有し、売主が第三者から所有権を取得できない場合、売主は、買主にその所有権を移転することができない。
(3)売主の債務の履行:売買目的物が滅失せず、また、売主が売買目的物を所有する場合、売主は何かをしなければならないか。何もしなくても、売主から買主に所有権は移転する。所有権移転の強制執行はない。
(4)譲渡人と譲受人の合意:176条は、所有権を移転するには、当事者の意思表示が必要であると定める。また、その意思表示で足りると解されている。この意思表示は、所有権を移転させる旨の譲渡人と譲受人の合意であると解されている。売買契約にもとづく所有権の移転については、売主と買主が締結している売買契約とは別に、所有権を移転させる旨の合意を行なう必要はないと解されている。このような考え方を、物権行為の独自性を否定という。このような考え方には、@売買契約が、176条が定める意思表示(合意)にあたるとするものと、A常に売買契約と同時に、176条が定める意思表示(合意)が行なわれているとするものがある。
(5)所有権移転の要件:@売主が売買目的物を所有すること。A売主と買主との間で、売買契約が行なわれること。
(6)所有権移転の時期(判例)[百選48事件]:原則として売買契約締結の時点で、所有権は移転する。ただし、売買契約の当事者が、所有権の移転時期を定めた場合には(特約)、その時点で、所有権は移転する。例えば、売買契約締結の後で、登記と代金の支払を同時にするとし、その時点を所有権の移転時期として定めることがある。
(7)所有権移転の時期(学説):@特約がなくても、不動産の売買について、登記・引渡・代金支払のいずれかがなされたときに所有権が移転すると解するものがある。A所有権の移転時期を確定することに意味はなく、所有権の法的効果と考えられる複数の効果が、「なしくずし的に移転」するとするものがある。

[2]売買契約における不動産の明渡し
(8)売主の明渡し債務:売買契約にもとづいて、売主は、売買目的不動産を、買主に明け渡す債務を負う。
(9)債務の不履行:売主が履行期後も、明渡しを行なわないと、買主は、強制履行をすることができ(414条)、債務不履行の要件をみたす場合は、解除・損害賠償請求をすることができる(541条、415条)。
(10)明渡しの強制履行:買主が原告となり、売主を被告として、明渡しを求めて訴えを提起すると、裁判所は、売主に対して、売買目的不動産の明渡しを命ずる。その判決が確定すると、買主が、確定判決(債務名義)をもって、執行官に、不動産の明渡しの強制執行を申し立てると、執行官は、売主の占有を解き、買主にその占有を取得させる(民事執行法168条)。

[3]売買契約における所有権移転登記
(11)共同申請:売買契約にもとづく所有権移転登記は、売主と買主が、共同で申請しなければ、登記されない。
(12)売主の登記に協力する債務:売買契約にもとづいて、売主は、買主に対して、所有権移転登記を共同で申請する債務を負う。
(13)債務の不履行:売主が履行期後も、登記に協力しないと、買主は、強制履行をすることができ(414条)、債務不履行の要件をみたす場合は、解除・損害賠償請求をすることができる(541条、415条)。
(14)登記手続の強制履行:買主が原告となり売主を被告として、所有権移転登記手続を求めて訴えを提起すると、裁判所は、売主に対して売買目的不動産の所有権移転登記手続を命ずる。その判決が確定すると、買主が確定判決を添えて単独で、登記所に所有権移転登記を申請すると、所有権移転登記がなされる(不動産登記法27条)。

[4]売主によるもうひとつの売買契約[星野:38-42頁]
(15)ふたつの売買契約:Aが所有する不動産について、BはAとの間で売買契約を締結した。しかし、AB間の売買契約の前または後に、CがAとの間で同じ不動産について、売買契約を締結した。二重売買または二重譲渡と呼ぶ。
(16)AからBへの所有権移転登記がある場合:AからBへの所有権の移転を、所有権移転登記があるため、BはCに対抗することができる(177条の反対解釈)。もうひとつの売買契約の買主は、第三者にあたる。このとき、所有権移転には対抗力があるといい、Bは対抗力ある所有権を取得したといい、所有権移転登記を、所有権移転の対抗要件という。また、AからBに確定的に所有権が移転したともいう。AからBへの所有権移転登記がある場合は、AからCへの所有権移転登記をすることはできない。
(17)AからCへの所有権移転登記がある場合:AからCへの所有権移転登記がある場合は、AからBへの所有権移転登記をすることはできない。AからBへの所有権の移転を、所有権移転登記がないため、BはCに対抗することができない(177条)。
(18)AからBへの所有権移転登記も、AからCへの所有権移転登記もない場合:AからBへの所有権の移転を、所有権移転登記がないため、BはCに対抗することができない(177条)。同時に、AからCへの所有権の移転を、所有権移転登記がないため、CはBに対抗することができない(177条)。BもCもいずれも、相互に、自己の所有権の取得を対抗することができない。
(19)所有権の移転を対抗することができるということの意味:BがCに対抗することができる場合、@Cが不動産を占有しているとき、BはCに対して、所有権にもとづいて明渡しを求めることができ、ABが不動産を占有しているとき、CはBに対して、所有権にもとづいて明渡しを求めることができない。BがCに対抗することができない場合、BCが不動産を占有しているとき、BはCに対して、所有権にもとづいて明渡しを求めることができない。
(20)当事者の所有権移転の合意があり所有権移転登記がなされていない段階の法律関係:所有権は移転するが、その所有権移転は第三者に対抗できない。対抗力のない所有権移転があるという。@その後、所有権移転登記をすると、対抗力のある所有権移転になる。Aその後、もうひとつの売買契約にもとづいて所有権移転登記がなされると、所有権移転はなかったことになる。

[5]売主に対する債権者の差押え
(21)不動産の差押えと登記:債務者に対して金銭債権を有する債権者が、債務名義をもって、債務者が所有する不動産を差し押える場合、裁判所は、登記簿上債務者が所有者である不動産を差し押えることができるが、登記簿上債務者が所有者でない不動産を差し押えることができない。裁判所が不動産の差し押えをした場合、裁判所書記官の嘱託にもとづいて、差押えの登記が行なわれる。
(22)売買契約が締結された後の差押え(@):売買契約が締結された後、その所有権移転登記がなされていない段階で、差押えとその登記がなされると、買主は、その差押えによって始まった強制執行手続において、所有権を主張することができず、買受人が所有権を取得する。売主から買主に所有権が移転したことを、差押え債権者に対抗することができないからである。そのことを、177条は、所有権の移転は、所有権移転登記をしないと、第三者に対抗することができないと定めている。第三者に、差押債権者は含まれる。
(23)売買契約が締結された後の差押え(A):売買契約が締結され、その所有権移転登記がなされた後、売主の債権者は、売買目的不動産について、差押えをすることはできない。

◆例題
(1)Aが所有する不動産をAB間で売買契約が締結された。法律関係はどうなるか。
(2)Aが所有する不動産を、Aは、Bに売却しその後Cに売却した。BとCとの間の法律関係はどうなるか。
(3)Aが所有する不動産を、AがBに売却した。しかし、AからBへの所有権移転登記前に、Aの債権者Cが、その不動産を差し押えた。Bはどのような地位にあるか。
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民法W(物権・担保物権)講義教材〔3〕1997.4.17.

民法W講義教材〔2〕 民法W講義教材〔4〕

山田誠一の民事法務頁 1997年度民法W

作成:山田誠一*勤務先住所と勤務先:657-8501神戸市灘区六甲台町2-1神戸大学法学部