■研究概要

我々の研究室では,第3周期元素を中心とする典型軽元素化合物を用い, 微視的組成制御や空孔(右図参照)の導入による電子構造制御により,バンド間 およびバンド端近傍に発光センターなどの特異な局在電子状態を発現させる試みを行っています。 この局在電子状態に由来する発光現象,光誘起構造変化,光伝導等を測定,解析することで,典型 軽元素化合物の今までまだ知られていない新しい物性,性質を開拓すべく,研究を行っています。

■なぜ典型軽元素を用いるのか

一般に,外場との応答により光学的,電気的,磁気的機能を発現する材料の多くは,Ti,Fe,Cuに 代表される遷移金属元素やLa,Ndに代表される希土類元素を含むものが殆どです。しかし, 遷移金属元素や希土類元素は,鉄を除き地表表面に存在する割合は多くはありません。 したがって,これら希少元素の機能性に強く依存したこれまでの材料設計指針のみでは, 50年,100年先を見越した持続可能な社会の構築は必ずしも容易ではないといえます。 一方,典型軽元素は地表表面における存在量が豊富であり,また,毒性も少ないという 観点から,持続可能な社会を構築する上で不可欠の元素群といえるでしょう。

■典型軽元素およびその化合物の特徴

第3周期元素について見ると,典型元素単体は,金属(Na, Mg),半導体(Si),絶縁体(P,S) から気体(Cl, Ar)と,原子番号の増加に対し,その構造,物性が最も著しく変化する特徴的 な元素群です。

しかし,典型軽元素の化合物,特にその酸化物であるMgO,Al2O3, SiO2等は高融点かつ光,電場,磁場等の外場とはほとんど相互作用しない不活性な化合物であり, その用途は,その広いバンドギャップ及び強い化学結合性から期待される,高い電気絶縁性,光透過性, 熱および化学耐久性を利用したものが殆どでした。また,機能性材料として利用される場合でも, 機能を発現するイオンや分子を包含する化学的に安定なマトリックスとしての利用にとどまっていました。

■我々のアプロ―チ

そこで,我々は,これまで機能材料として扱われることの少なかったこれら典型軽元素化合物の 新研究領域の開拓を目指して研究を行っています。

これまで,我々は,代表的な典型元素酸化物であるシリカ(SiO2), 特に非晶質状態のシリカガラスにつき,その構造および物性に関する系統的な研究を行ってきました。 一連の研究により,シリカガラスの微細構造,表面状態を制御,修飾することで紫外から可視領域の 幅広い波長域にわたる高効率発光材料(最大発光量子収率20%)の作製が可能であることを報告しました(右上図参照)。 さらに,その微視的発光機構を第一原理に基づく理論計算をもとに提唱しました。

さらに近年,我々は, 金属Mgと一酸化ケイ素(SiO)の固相昇華反応を利用することで,酸素空孔(カラーセンター)を多量 に含むMgO微結晶を450℃という低温で合成することが可能であることを見出すとともに,同カラーセンター のブロードな発光現象を利用した室温での波長可変可視レーザー発振に成功しました。

以上の結果は,第3周期元素酸化物といえども,その化学量論性,欠陥構造,反応条件等を精緻に制御, 活用することで,遷移金属元素や希土類元素を含む材料でも成しえなかった光学的及び電子的機能を発現 させることが可能であることを示しています。

■最近の研究結果