目的別分類:土木費、教育費といったように、行政目的を分類の基準としている。したがって、経費の社会的な機能を明らかにすることができる。

性質別分類:財務・会計上の「使途」を基準として、経費を人件費、普通建設事業費、積立金等に区分する。そこから経費の経済的な性質をおおよそ知ることができる。


4-1.目的別歳出の構造

 都道府県

  議会費、総務費、民生費、衛生費、労働費、農林水産業費、商工費、土木費、消防費、警察費、教育費、災害復旧費、公債費、諸支出金、前年度繰上充用金、その他

 市町村

  議会費、総務費、民生費、衛生費、労働費、農林水産業費、商工費、土木費、消防費、教育費、災害復旧費、公債費、諸支出金、前年度繰上充用金、特別区財政調整納付金

議会費・総務費
 議会費には、議会関係の経費がすべて計上されている。中心は議員に対する報酬で、議会事務局職員の給与、議会関係の事務費、議場の整備に要する経費も含まれる。各種議長会の会費などの負担金も議会費として支出されている。
 総務費には、人事、財政、税務、企画、統計調査、選挙、広報といった一般管理的な事務の経費が含まれる。また、庁舎および県民会館、市民会館といった会館の建設・運営の経費も総務費の中に含められる。市町村が行う戸籍・住民登録などの経費も総務費に入る。
→地方団体という組織を維持・運営していくための間接的経費

民生費
 経済的弱者、身体的弱者を保護しようとする民生行政の経費。生活保護、児童福祉、身体障害者福祉、精神薄弱者福祉、老人福祉と大別される。

衛生費
 市町村が支出する衛生費の大半は、ゴミやし尿の収集・処理の経費の清掃費にあてられる。
 結核、コレラ、赤痢、日本脳炎などの急性伝染病の予防と治療、予防衛生行政や成人病対策、精神衛生行政、母子保健行政といった市民の健康を増進するための施策もある。環境衛生行政の一環として旅館、飲食店、公衆浴場、理容院、美容院などの営業に関する許・認可や公衆衛生の見地からの指導監督も行われている。
 衛生行政を実際に行う機関として保健所が設けられている。

労働費
 市町村財政では、労働費の大部分は失業対策事業費である。労働会館、勤労会館などの勤労者の利用を目的とする施設の建設費や運営費も含まれる。
 都道府県財政では種々の労働行政を行っている。労働争議の仲裁・調停・あっせんや、地方労働委員会に関する事務、労働学校や労働大学などによる労働者教育、労働組合の指導や労働金庫の経理指導といった労政行政、職業訓練行政などを行っている。

農林水産業費
 農業については、農地利用の調整や農業団体に対する指導と言った一般行政の他、潅漑排水施設の整備事業、土地改良事業といった生産基盤の整備事業がある。農業技術の開発・普及といった仕事が農業試験場、畜産試験場などを中心にして行われている。
 林業については森林計画の策定、造林行政、林道行政、治山事業が主要な仕事である。
 水産行政については、都道府県は、漁業権に関する免許や許・認可などの漁業の調整、水産業協同組合の監督・育成、漁船に関する許可・登録・検認といった一般的事務、漁業法関係の取締りなどを行っている。水産試験場も設置している。

商工費
 地域の産業振興を目的として行われる。商工費の大半は商工業者に対する金融対策の費用であり、中小企業の高度化のための金融、設備近代化のための金融および季節運転資金の供給が中心となる。また、中小企業の経営診断や経営指導を行ったり、商工組合、中小企業協同組合などを助成指導したりしている。計量器行政、高圧ガス取締り行政、火薬類の取締り行政が都道府県を中心に行われている。

土木費
 道路・橋梁の建設・改良・維持管理のための経費である道路・橋梁費、各種港湾施設の建設並びに維持管理の経費としての港湾費、ダム・水門・河岸・堤防などの河川管理施設にかかる費用並びに高潮対策などの治水事業費を含む河川費、土地区画整理事業、街路事業、都市下水路事業、公共下水道事業および都市公園事業からなる都市計画行政の経費としての都市計画事業費、公営住宅の建設並びに維持管理の費用である住宅費などからなる。

消防費・警察費
 消防行政の主要な事務は、消火訓練、避難訓練の実施、防火並びに災害予防の見地から見た民間施設に対する指導、監督、立入検査、発火性・引火性の強い油など危険物の取締りといった予防行政や、火災が生じたときの消防活動、傷病者を医療機関へ搬送する救急業務などがある。
 警察行政は、個人の生命・身体および財産を保護するとともに、犯罪の予防・鎮圧・捜査・被疑者の逮捕を行ったり、交通の取締りなどを行って、公共の安全と秩序の維持を図ることを目的とする。

教育費
 地方団体の行う教育活動には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学といった学校教育をはじめとして、公民館、博物館、図書館を通じて行われる社会教育、住民の健康を促進するためのスポーツの振興といったものがあり、これらの経費が教育費として支出されている。
 多くの市町村で私立幼稚園に対する助成を行っている。
 義務教育は通常、市町村立の学校で行われており、都道府県が教職員の給与を負担するほかは、建設費、維持補修費、運営費などすべて市町村の負担となっている。高等学校の大部分は都道府県立で、建設費、運営費などすべて都道府県の負担である。都道府県の多くは私立の高等学校に対して、大なり小なりの助成をしている。市町村立高等学校の経費は、建設費はもちろん、教職員の給与費や運営費等、すべて市町村の負担となる。
 また、地方団体が行う文化財の保存並びに活用の経費も、教育費に含まれる。

災害復旧費・公債費・諸支出金
 災害復旧費は災害による施設の被害の復旧に要する経費であり、施設の原形復帰が原則である。道路・橋梁をはじめとして、民生施設、学校施設、衛生施設、農業施設、治山施設などあらゆる行政施設の災害復旧の経費が含まれる。
 目的別分類の公債費の中には、地方債の発行・利払い・償還の経費が事務費を含めて計上される。交付公債にかかる経費や一時借入金の利払いも公債費の中に含まれる。
 諸支出金として分類される経費には、各種基金に対する積立金、土地開発公社に対する出資金・貸付金、普通財産の取得費のほか、電気事業・交通事業といった事業会計に対する負担金や貸付金も含まれる。

前年度繰上充用金
 本年度の収入のうち、前年度の資金不足を埋めるために、支出された金額である。会計年度が終了した時点で予定していた歳入が確保できず、どうしても必要な歳出があるときは、やむを得ず、翌年度に属する収入を、本年度の歳出にあてるという手段がとられる。この金額が翌年度の決算において、前年度繰上充用金として計上される。


4-2.性質別歳出の構造

 都道府県

  人件費、物件費、維持補修費、扶助費、補助費等、普通建設事業費、災害復旧事業費、失業対策事業費、公債費、積立金、投資及び出資金、貸付金、繰出金、特別区財政調整交付金、前年度繰上充用金

 市町村

  人件費、物件費、維持補修費、扶助費、補助費等、普通建設事業費、災害復旧事業費、失業対策事業費、公債費、積立金、投資及び出資金、貸付金、繰出金、特別区財政調整納付金、前年度繰上充用金

経済的分類

消費的経費 移転的経費 投資的経費

 普通建設事業費:建設事業の中で、失業対策とか災害復旧といった特定の目的に関係していない普通一般の建設事業の費用→経済学でいう投資的支出に対応
 ただし、事業に直接関連した人件費や、事業の遂行に直接関係した事務費や、施設建設のための用地費も建設事業費の中に含まれる。

金融的経費

 公債費、積立金、投資および出資金、貸付金、繰出金および前年度繰上充用金→資金の異時点間の配分に関連した経費で、金融的経費ということができる
 公債費は、地方債の元利償還金と一時借入金の利子支払いである。性質別分類の公債費は目的別分類の公債費から事務費を控除したものである。
 積立金には財源の余裕があるときに積み立てられる積立金のほか、将来における公共施設の整備や、災害に対処するなど、特定の目的のために資金を積み立てる積立金がある。
 投資および出資金には国債・地方債等の有価証券を購入する経費、財団法人を設立するために寄付金として出損金を出す場合の経費、信用保証協会に出損金を支出する場合の経費がある。
 貸付金は中小企業等民間事業主体にかかる貸付けに関する費用と、地方公営企業法が適用される公営事業会計に対して貸し付けられる金額とが中心である。住宅供給公社や土地開発公社等の財団法人に対する貸付けもある。
 繰出金は、地方公営企業法が適用されない公営事業会計への支出、財産区への支出および定額の資金を運用するための基金への支出の3つからなる。

義務的経費経常的経費

 経費の中には、減額がまったく出来ないもの、ないしは減額が非常に難しいものがある。このような経費を義務的経費とよび、人件費、扶助費、公債費の3項目が該当する。
 義務的経費と比べると減額の余地はあるが、毎年経常的に支出される経費で大幅に削減することが難しい経費がある。このような経費を経常的経費とよび、物件費、維持補修費、補助費といった項目が該当する。

経常収支比率

 財政支出全体の中で硬直性の強い経費がどれくらいの割合を占めるかは、財政の健全性を示す1つの指標となっている。このような指標に経常収支比率があり、硬直性の強い経費としての経常的経費に、経常的に収入される一般財源のどれくらいが振り向けられているかを示している。具体的には、人件費、物件費、維持補修費、扶助費、補助費等および公債費として区分される経費のうち、勧奨退職による退職手当、突発的な災害に関連して支出された物件費や扶助費といった臨時的なものは除き、残りの毎年経常的に支出されるような経費について、その財源として、普通税、譲与税、普通交付税等からなる経常的な一般財源収入の何%が支出されたかを示す指標である。


          第4章参考文献

米原淳七郎『地方財政学』有斐閣,1977年。

目次 に戻る。