3-1. 財政民主主義と予算制度
- 財政民主主義
- 租税法律主義
- 日本国憲法第7章(財政)第83条〜91条
- 第83条「財政処理の基本原則」
「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」「事前議決の原則」
- 第84条「租税法律主義」
「課税に関してはすべて法律または法律の定める条件によらなければならない」
- 第86条「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受けなければならない」→「予算の単年度主義」
明治憲法下での「協賛」、現憲法下での「議決」
- 第90条「決算制度」
財政法
- 第4条「原則として国の歳出は公債及び借入金以外の歳入、すなわち租税などをもって賄われなければならない」→「公債の不発行主義」
- 第4条但し書き→「建設公債」、「四条公債」
- 「特例公債」、「赤字公債」
- 第5条・・・公債の日本銀行による引き受けの禁止→「市中消化原則」
- 第7条・・・大蔵省証券及び一時借入についての規定(短期公債TBなど)
- 会計年度独立の原則
地方財政
- 首長は予算の編成権だけではなく、議会が予算について行った議決について異議がある場合には、議会に再議を求めることができる。これを長の拒否権と呼んでいる。この拒否権には再議を求めることができる一般的拒否権と、再議を求めることが首長に義務づけられている特別的拒否権の2つがある。
- さらに首長は議会の議決に代わって予算を決定することができる専決処分権をもっている。議会を招集する余裕がなかったり、議会が議決すべきことを議決しない場合に発動できる。
3-2.予算原則
地方自治法の規定
- 予算公開の原則
予算に関する情報が、住民に対して公開されていないといけないという財政民主主義の基本となる原則
- 予算の事前議決の原則
予算は会計年度が始まるまでに、議会によって議決されなければならないという原則
- 会計年度独立の原則
それぞれの年度の歳出はそれぞれの年度の歳入によって賄わなければならないという原則
- 総計予算主義の原則
歳入と歳出はすべて予算に計上しなければならないという原則
- 単一予算主義の原則
歳入と歳出を計上する予算は、一つでなければならないという原則
予算の種類
- 一般会計予算
地方団体の基本的な経理を中心にその歳入歳出を計上しているもので、一般に予算というときの予算を指している。
- 特別会計予算
「特定の事業を行う場合」と「その他特定の歳入をもって特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合」に設けられる。地方団体の条例によって設置されるものと、地方公営企業法や地方財政法の規定によって、また国民健康保険法や農業災害補償法のような特別法によって、その設置が義務づけられているものとがある。
- 公営企業会計予算
特別会計のうちでも特に独立採算を原則とし、その経理も発生主義による複式簿記の方式をとっている公営企業会計の予算のことである。地方公営企業法の適用を受ける、いわゆる法適用企業と同法の適用を受けない非適用企業がある。
- 通常予算
予算についての地方自治法上の単なる名称。概念的には当初予算と同じく一会計年度を通して歳入歳出を計上している基本予算のことである。
- 補正予算
会計年度の当初に成立した予算に、追加や変更を加える予算。
- 暫定予算
本予算が成立するまでに必要やむを得ざる経費に限って計上した予算。
- 普通会計予算
一般会計予算と、公営事業会計予算を除いた各種特別会計予算とを合算した予算。
- 公営事業会計予算
公営企業会計に国民健康保険事業会計、老人保険医療事業会計、公益質屋事業会計、農業共済事業会計等の特別会計を含めた予算
- 当初予算
一会計年度を通して歳入歳出を計上している基本予算のこと。会計年度が始まるまでに成立している予算で、補正予算と対比される。
- 骨格予算
国の予算編成が遅れたり、首長の改選を控える場合などには、慣行として当初予算には必要最小限度の予算を計上するという予算編成が行われることがある。こうした当初予算を骨格予算と呼んでいる。
3-3.予算の内容
- 歳入歳出予算
予算の本体部分。
- 継続費
多年度にわたって事業を実施しようとする場合に、経費の総額と年割額を定め、あらかじめ議会の議決を経て、多年度にわたって支出する経費。
- 繰越明許費
その年度内に使いきることができないことがわかっている経費で、あらかじめ議会の議決を得ておき、翌年度にも繰り越して使用できる経費をいう。
- 債務負担行為
債務を負担する行為、つまり契約は年度内に必要だが、実際の支出は翌年度以降に発生するという場合に適用され、あらかじめ予算として議決を得ておくことが必要になる。
- 地方債
歳入の不足を補うために債券を発行して借入を行うもので、次年度以降において一定の計画にしたがって償還する。
- 一時借入金
年度内に償還される資金繰りのための借入金。
- 歳出予算の各項の経費の金額の流用
議決科目の間で予算を融通することは禁じられている。ただし、項間においては「歳出予算の各項の経費の金額の流用」で議決を得ておけば、流用することができる。
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歳入予算の「款」と「項」
歳出予算の「款」、「項」、「目」、「節」(款、項を議決科目、目、節を執行科目という)
3-4.予算編成・執行と決算
予算循環(budget cycle)
- 編成・成立の過程
予算の編成権は地方団体の長に専属している。地方公営企業に関する予算については、公営企業の管理者が原案を作成し、予算の編成権者に送付することになっている。
予算編成方針案の決定(10月下旬まで)
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予算要求 (11月末まで)
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予算査定 (12月下旬〜1月下旬)
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予算書の作成 (2月)
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審議 (3月)
予算提出時期:会計年度開始前の30日まで(都道府県および政令指定都市)
会計年度開始前の20日まで(市町村)
- 執行過程
収入の調整、支出負担行為、歳出予算の経費の流用、地方債の発行、一時借入れ、債務負担行為、契約の締結等を含む。
年度内に支出負担行為をしたが、避けがたい事故等のために年度内に支出を終わらなかったものを、長の支出権限において翌年度に繰り越して使用できる予算の事故繰越しの制度や、専決処分権、また執行権者の権限として制度的に認められている目・節間の流用、予備費の使用等により予算の執行が相当弾力性を持たされているが、反面、財政民主主義の徹底という点からは問題がある。
- 決算過程
出納長または収入役による決算の調製、監査委員による審査、議会の認定、知事または自治大臣への報告と住民への公表という段階を経る。
地方団体の長は決算書に監査委員の意見をつけて議会の認定に付さなければならない。
議会における決算認定の効力の問題や、監査委員の審査の問題、決算の住民への公表の問題などがある。
3-5.財政における意思決定
間接民主制(または代表民主制)と集合的選択(collective choice)の問題
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集合的選択の問題を解明する方法として、「公益説」(public interest approach)と、「私益説」(private interest approach)がある。
- 公益説
- マックス・ウエーバー(Weber, M.)の接近法
- ケインズ(Keynes, J. M.)の「ハーヴェイ・ロードの前提」
- ウィルダフスキー(Wildavsky, A.)の議論(増分主義(incrementalism))
- 私益説
- 個人選好説(individual preference approach)
現代の民主主義では、個々の投票者が直接的な意思表示を行って多数決によって公共的意思決定を行うことが基本であると考えられている。
@投票のパラドックス(Voting Paradox)、単峰型選好(Single Peaked Preference)、中位投票者(Median Voter)モデル
A単純多数決では選好の強度を表せないのが問題である。→点数投票(point voting)制を採るか、票の取引(logrolling)の政治活動を行うかのどちらかである。
B@、Aでは、少数派の意見がどの程度採用されるのかの保証がない。そこでより説明力の強い全員一致のルール(unanimity rule)が考え出される。
→19世紀末のヴィクセル(Wicksell, K.)による個人選好による政治力学を配慮した相対的同意のルールの提唱
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租税を公共財の価格(租税価格)と考えて公共選択を経済分析のフレームワークで解釈する
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リンダール・モデル(Lindahl Model)
- 政治の経済理論
@ダウンズ(Downs, A.)の議論
Aタロック(Tullock, G.)とダウンズの議論
Bニスカネン(Niskanen, W. A.)のモデル
「政府予算規模Bが社会的便益を表すとし、それに伴う総費用をCとすれば、政治家は、得票数に影響する選挙民の課税(費用)で最大の便益を提出するような政策を示さざるをえないから、B−Cの極大、すなわち限界便益MB=限界費用MCとなるように公共財を供給しようとする。ところが官僚の方は、政治家が責任を持つ費用の調達には無関心で、もっぱら公共財の多さを求める。公共財の大きさと官僚の権威や給与の高さが比例すると考えられるからである。しかし、政府収支が成り立つことは念頭に置かざるを得ないから、官僚の目的関数はMax.B(B=C)である。この結果、官僚の望む公共財は、政治家が最適とする量を超え、予算支出の効率的な点を超える(MC>MB)。」
下図でB=aG−bG2、C=cG(a、b、cは定数で、Gは公共財の供給量)とすると、B−Cの極大点ではG=(a−c)/2bとなり、B=Cの点ではG=(a−c)/bとなる。
→市民の需要で決まる公共財の効率的な水準以上に政府の財・サービスが増えるという、政府の失敗(government failure)の可能性を示唆
→ 私益説は公共選択について重要な貢献をしたが、政治問題への経済分析の適用という基本的立場をとっていることからいくつかの問題点がある。
3-6.財政政策と予算改革
予算の3機能→公示機能、統制機能、計画機能
「国民経済予算」(national economic budget)と「企画・計画・ゼロベース予算」(PPZBB:planning, programming and zero-base budgeting)の2つの流れがある。
国民経済予算と総需要調整
国民経済の総需要のコントロールを目的とする。
リンダールの複式予算編成(通常予算と特別予算)の提案
→通常予算の余剰を景気調整に使う
(1930年代末のスウェーデンとデンマークで、経常予算と資本予算が分類され、前者に予算平衡化基金が設けられた)
ヒックスの社会会計における政府の位置づけ→政府余剰が積極的な機能的政府予算政策に適合するモデルの提示
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全経済の中で政府予算の機能を位置づける国民経済予算の体系化
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「国民勘定体系」(System of National Accounts)へ(1968年に改訂の新SNA、日本でも昭和45年以後の公式統計が新SNAによっている)
→新SNAにおける政府の分類(一般政府(中央政府、地方政府、社会保障基金)、公的企業(中央、地方))
PPZBBと行政管理
フーバー委員会(1949年)の事業別予算(performance budget)
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費用・便益分析の開発を基に計画中心主義に進化したPPBS(計画策定・実施計画・予算編成制度、planning-programming-budgeting system)
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ゼロベース予算、費用・便益分析、ローリング方式、サンセット方式
計画策定におけるシステム分析のプロセス
ゼロベース予算編成の手続き
中期財政計画の策定(日本では「財政の中期展望」)
第3章参考文献
吉田和男『入門 現代日本財政論』有斐閣,1991年。
和田八束・野呂昭朗編『現代の地方財政』有斐閣,1992年。
能勢哲也『現代財政学』有斐閣,1986年。
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