第9回 地方交付税と財政調整

1月12日

1.地方交付税の仕組み(教科書181〜)
1)歴史
<背景>1930〜1931の経済恐慌⇒農山漁村経済に深刻なダメージを与える
                        ↓
      同時に,地方公共団体の事務・事業量も増加の一途をたどる
                        ↓
     ∴地方公共団体の厳しい財政を救うために考え出されたもの
           
1936年  町村に対して臨時財政補給金
      
1937年  市や府県に対しても臨時財政補給金

1940年  地方分与税制度の創設  
   (1)還付税・・・現在の地方譲与税と同じ(効率上,国が徴収した方が良いような税金)
   (2)配付税・・・現在の交付税と似ている(国税の一定割合を市町村に配付する)
          1/2を課税力に逆比例(税金をかける力の弱い所には多く)して与え,1/2は財政需要に比例して与えた

1949年  シャウプ勧告により戦前の制度は廃止された
      <理由>(1)国税の一定割合を支給する制度だと⇒国税が変化すると,配付税額も変わってくるから
          (2)財政需要の中で事細かにまで考えていない(正確な財政需要を反映していない)

◎シャウプ勧告では,     
∴国庫負担金の廃止(次回説明)
→この代替財源の確保と地方配付税の改善を目的に
         ↓
地方財政平衡交付金の採用を勧告した
<仕組み>まず,各地方で財政需要(どれだけ財政が必要とされるか)を計算する
その上で,独自で取っている税などによる収入(財政収入)と財政需要を比較する。

一般的に,多くの地方公共団体では,財政収入<財政需要,となっているから,
∴財政需要−財政収入=財源不足額,となる
 各地方の財政不足の合計額(つまり,各地方全ての財源不足額の合計)を国が面倒を見る

これにより,地方になるべくお金が回るようにした(国の都合でお金が減らされるということはない)

<現実>
この制度は実現されたが失敗した。
(理由)平衡交付金額の算定において,国と地方の見解が食い違い,地方の側で計算した額よりも,国が十分な額を渡すことができなかった

1953年  地方交付税制度の完成
<特徴−1>配付税であったシステムを流用する
・国税5税(所得税・酒税・法人税・消費税(1989から)・たばこ税)の一定割合をあてている
<参考>平成12年度では,所得税・酒税・法人税は,32/100
消費税の29.5/100 たばこ税の25/100となっている
                (ただし法人税は当分の間35.8/100となっている)
<例>消費税の場合
i)1989年導入の3%の消費税率の時
消費税収が10兆円あったとすると,10兆円×0.2=2兆円 が消費譲与税  8兆円×0.24=1.92兆円 が地方交付税に回される消費税分となる
ii)1998年の消費譲与税廃止により,消費税の税率は国税4%+地方消費税1%となった。
よって,地方に回されるのは,この地方消費税の1%分と国税4%分の29.5%となった。

<計算例>5%の消費税で10兆円の税収があった。  
この内,2兆円は地方消費税である。
残りの8兆円に,29.5%をかけると,2.36兆円
∴地方交付税交付金額は2兆円+2.36兆円=4.36兆円となる


<特徴−2>基準財政需要と基準財政収入の差額を計算しこれがプラスなら,交付税を給付する
(→これがシャウプ勧告の提案にかなっている)
<計算例>
国税五税の合計が10兆円だとすると,
普通交付税94%  
特別交付税6%(災害などの特別な需要発生時に渡すことができる部分)

基準財政需要(D)と基準財政収入(R)の計算方法
1)普通交付税の計算
Di-Ri=財源不足額  
Σ(Di-Ri)=わが国全体での財源不足額

∴Di<Riの団体には地方交付税は交付されない(不交付団体という)  例)東京都,
 ☆不交付団体に対して,逆に地方交付税を徴収(=逆交付税)することはできない。
 Di>Riの団体には地方交付税を交付する(交付団体という)  

2)基準財政需要の定義と計算
i)基準財政需要の定義
→財政需要を各行政費目ごとに経常経費と投資的経費に区分して算定した額の合計額
 (つまり,標準的な行政を考える時に,どれだけの費用がかかるかを計算する)
ii)基準財政需要額の計算方法
基準財政需要=測定単位×単位費用×補正係数
・単位費用  標準的な行政単位(都道府県170万人,市町村10万人)でかかる費用を考えている
・測定単位  例)小学校なら教職員数
・補正係数  地方それぞれの特徴に応じて修正される係数のこと

3)基準財政収入額の計算
<定義>
→地方税を標準税率で課税する時に入ってくる税収
ただし,その税収全てでなく,
⇒都道府県なら,80%,市町村75%として考える

都道府県の普通税収の20%,市町村の普通税収の25%は留保財源としてすえおかれる

(1−留保財源率)普通税収+地方譲与税=基準財政収入額,となる

◎留保財源の機能
(1)基準財政需要額は全ての地方公共団体のあるべき財政需要を完全に捕捉していない(2)留保財源がないと一般財源(その地方が自由に使える財源)の総額が基準財政需要額によって決定され,かえって地方財政の自主性を失わすことになる

一般財源
=地方税T+地方交付税
=地方税T+D-R                           
=T+D-(0.8T+地方譲与税):都道府県の場合
=0.2T+Dー地方譲与税
(3)全て算入すると,増加した税収の分だけ地方交付税交付金は減らされてしまう
すなわち,地方公共団体は100%の限界税率に直面している
∴留保財源を残すことで,地方税収を上げるインセンティブを与えている

<疑問>
国税の一定割合を15兆円とすると,(基準財政需要ー基準財政収入)の各地方団体の合計額が一致することはほとんどない
(近年では,基準財政需要ー基準財政収入(これを20兆とする)の方が大きい)
よって,より正確には≒となる
∴交付税額≒基準財政需要額−基準財政収入額=財源不足額

よって,交付税率を上げると解決するが,そうすると国の手元に残る分が小さくなる
              ↓
          ではどうするか?

∴特別会計(交付税及び譲与税等特別会計)から,借り入れをする
(この場合は20−15=5兆円の借り入れをする)
借入先  財政投融資資金など

2.財政学の観点からの交付税の見方
1)交付税の機能
(1)財源保障  たとえ金持ちの地方と貧乏な地方とがあっても,住民がどの地方に住んでいてもまんべんなく最低限のサービスを受けられる(この水準をナショナル・ミニマムという)
∴ナショナルミニマムの達成のための財政援助
(2)財政(財源)調整  
財政力(課税力)の地域間での違いの存在⇒この差をいかに減らすか? 
 地方間で強い所から弱い所へ移転する
このことで,財政力格差を縮小させようとする

ケース1

地域

住民

所得

税額

税収総額

公共サービスの価値

財政余剰

A

A-1

1000

100

210

70

-30

A-2

1000

100

70

-30

A-3

100

10

70

60

B

B-1

1000

100

120

40

-60

B-2

100

10

40

30

B-3

100

10

40

30

<仮定>税率は各人10%で一律とする
地方税収に基づいて公共サービスを提供する(等しく)
財政余剰(ブキャナンの用語)は,公共サービス−税額
∴財政力格差発生
A-3,B-2,3は所得で等しいが,財政余剰で見ると後者は小さい
∴受けるサービスが同じ税額を支払っているのに異なる
Aを基準にすると,Bの税収総額は90不足する  ∴不足分を補填する

ケース2(Bに90という不足分を補填したとき)

地域

住民

所得

税額

税収総額

公共サービスの価値

財政余剰

A

A-1

1000

100

210

70

-30

A-2

1000

100

70

-30

A-3

100

10

70

60

B

B-1

1000

100

210

70

-30

B-2

100

10

(120+90)

70

60

B-3

100

10

70

60

ケース3(税収をAからBへ45わたす(わが国の交付税制度はそのようなことはしない):水平的調整のケース←→垂直的調整)

地域

住民

所得

税額

税収総額

公共サービスの価値

財政余剰

A

A-1

1000

100

165

55

-45

A-2

1000

100

(210-45)

55

-45

A-3

100

10

55

45

B

B-1

1000

100

165

55

-45

B-2

100

10

(120+45)

55

45

B-3

100

10

55

45

ケース4(中央政府がAの3/7の税収を取り上げる)

地域

住民

所得

税額

税収総額

公共サービスの価値

財政余剰

A

A-1

1000

100

120

40

-60

A-2

1000

100

40

-60

A-3

100

10

40

30

B

B-1

1000

100

120

40

-60

B-2

100

10

40

30

B-3

100

10

40

30

財政余剰(ブキャナンの用語)
公共サービスは各人等しく行く
財政余剰(ブキャナンの用語)は,公共サービスー税額

図10−3
東京都のように,地方交付税不交付団体なら地方税収をなるべく大きくしようとする
(その分,使える自主財源が増加するから)

図10−4
一人あたり税収の多い道府県で並べた時,交付金をも考慮すると逆転現象が発生する

試験対策
交付税の仕組みと問題点を東京都税制調査会の答申なども参考にしながら考えておいてください