12月22日
1.間接税の税率区分
1)従価税と従量税の区別
従価税ad valorem tax=価格(値段)の何%という形で払う税金 例)消費税
従量税unit tax=財やサービスの一定量につき一定額を支払う 例)タバコ税,酒税
2)従量税と従価税の経済学的な違い
→物価が上昇している時(インフレ時)
例)1000円の10% 従価税 100円
従量税 100円
物価が倍になると,1000円のものは2000円になる
従量税は物価上昇により,100/2000と,10%→5%へ割合が低下する
従価税は物価が上昇すると,2000*0.1=200(円)になる
2.租税原則
1)アダム・スミスA.Smithの4原則
(1)公平の原則・・・租税を取る時は公平に取らないといけない
→スミスの公平観とは,租税は政府が提供するサービスに対する便益として支払い,(利益説)またその支払能力(稼いだ所得)に応じて租税負担をする。(能力説)
(2)明確性の原則・・・税率・課税標準などが明確に一律に決まっている(租税法律主義)
(3)便宜性の原則・・・納税者の便宜(都合の良いように)に沿うように税を取らなければならない 例)時期・方法など
(4)徴税費最小の原則・・・i)納税費用(納税協力費),ii)徴税費用(税務行政費)をなるべく小さくする事が求められる(納税側,徴税側とも最小費用で行うべき)
中立性(効率性)という,経済活動に阻害効果を与えないような租税にするべきだ,という考え方がこの中には含まれている。(超過負担を最小化する)
2)アドルフ・ワグナーA.Wagner(ドイツ正統派財政学)の4大原則・9小原則
1)財政政策の原則 租税を財政政策で使う
(1)租税の十分性 租税は政府活動を行う上で十分足りるものでないといけない
(2)課税の可動性 必要な時に必要なだけ速やかにとれるものでないといけない
2)国民経済の原則 経済活動にあまり悪影響を及ぼさない
(3)正しい税源の選択 何に課税するか(消費か所得か資産か,など)正しく選択を行う必要がある
(4)正しい税種選択 税源が同一でも,消費税で取るか所得税でとるか,特定の財・サービスにかけるか
3)公平性の原則
(5)課税の普遍性 遍く課税ベースがあるような税(目)を取るべきである
(6)課税の平等性 税は平等に取らなければならない(累進性を含む)
4)税務行政の原則
(7)徴税費最小の原則
(8)明確性の原則
(9)便宜の原則
☆A.Smithの4原則とA.Wagnerの4大原則・9原則の対応関係
Smithの4原則 Wagnerの9原則
公平性 公平性の原則
明確性の原則 明確性の原則
便宜性の原則 便宜の原則
徴税費最小の原則 徴税費最小の原則
3)スミスの4原則とワグナーの4大原則・9小原則の決定的な違い
スミスの4原則は税金を納める側の立場を重視したものである<納税者の立場を代表>
ワグナーは徴税側の立場を代表したものであると考えられる。<徴税者サイド>
地方税の原則は,ワグナーの原則を色濃く反映している
☆この節の内容については,第1回目のノートも参照
3.p125 地方税の原則
1)安定性の原則・伸長(張)性の原則
→安定した税収を確保する事が望ましい。また必要な時には,税収の伸縮性があるようなものが良い
例)所得税は伸長(張)性がある(好景気時には税収が増加し,不況時には税収が減少する)
→その程度は,税収の弾(力)性に関係する
<復習>
ET=1の場合 比例税
ET>1の場合 累進税 景気がいいと税収↑,不況期には↓の程度が大きい
ET<1の場合 逆進税
∴伸長(張)性があるとは,ET>1であること,安定性はET<1ということになる
∴両方同時に満たす事はできない⇒どちらを優先させるかで解釈が異なる
2)普遍性の原則
→どこでもとれる 普遍的な税源がよい 例)タバコ税
3)応益性の原則
→地方税は公共サービスをの財源を調達するための税を,各納税者にいかに配分するか
税の負担配分は応益原則を適用すべきという考え方
→負担分任の原則
∴地方公共財の便益に対する,対価としての課税
→便益を何で図るか?が問題となってくる
3.消費税と地方消費税の地方への移管
1.付加価値税Value Added Tax ;VATとは何か?
<前提>通常の次のような取引を前提として考える
製造業者→→→→卸→→→→小売→→→→消費者
売上 100 200 300 消費者は300で購入
仕入 0 100 200
つまり,各段階で100ずつ付加価値Value Addedがつく。
<ケース1>10%の売上税を課す(単段階課税で,卸にかける)時
製造業者→→→→卸(ここで課税)→→→→小売→→→→→→消費者
売上 100 200→220 320で売る 320で買う
(税200*0.1=20) (値段に上乗せ)
仕入 0 100 220
納税額 20
∴納税者と担税者が異なる間接税の典型で,転嫁がおこっている(この場合,前方転嫁(前転))
前転=生産・流通の前方に向かって税が転嫁されること←→後方転嫁(後転)
<ケース2>工夫を行うと,単段階課税は次のように納税額を少なくすることができる
製造業者→→→→卸(ここで課税)→→→→小売→→→→→→消費者
売上 100 150→165 300→315で売る 315で買う
(税150*0.1=15) (値段に上乗せ)
仕入 0 100 165
納税額 15
ただし,小売売上税をかけると
製造業者→→→→卸→→→→小売(ここで課税)→→→→消費者
売上 100 150 300→330で売る 330で買う
300*0.1=30
仕入 0 100 150
納税額 30
こうすると,先程出てきたような納税額の軽減はなくなる。しかし,
→小規模事業者に課す事は困難(帳簿作成上の問題などから)。また,取りこぼしも発生する
∴単段階課税は問題が多い
2)多段階課税方式
(1)取引高税:取引段階ごとに課税される
製造業者→→→→→→→→卸→→→→→→→→→小売→→→→→→→消費者
売上 110 231 364.1で売る 364.1で買う
納税額100*1.1-100=10 納税額210*1.1-210=21 納税額331*1.1-331=33.1
仕入 0 110 231
納税 10 + 21 + 33.1 = 64.1
∴取引段階が多くなればなるほど納税額が必然的に多くなるので,企業の垂直的統合を促す機能がある。
(2)付加価値税VAT
製造業者→→→→→→→→卸→→→→→→→→小売→→→→→→→→消費者
売上 100 220 330で売る 330で買う
納税額100*0.1-0=10 納税額200*0.1-10=10 納税額300*0.1-20=10
仕入 0 110 220
納税 10 + 10(20-10) + 10(30-20) = 納税額30
卸段階で納めるべき 小売段階で納めるべき税
-すでに納めた税の合計 -すでに納めた税の合計
ポイント 前段階支払い消費税額を控除できる(前段階税額控除方式)ので,どの段階で課税がなされても無差別
各段階での付加価値に対して課税される
<数式>
税率をt,
売上段階の製造業者・卸・小売をそれぞれS1,S2,S3,
仕入段階の製造業者・卸・小売をそれぞれP1,P2,P3と表すと,
(tS1-tP1)+(tS2-tP2)+(tS3-tP3) ここで,S1=P2,S2=P3であるから,(上の流れ図参照)
=t{(S1-P1)+(S2-P2)+(S3-P3)} Si-Pi:付加価値
ここで,P1=0であるから,
t(S3ーP1)=tS3 ∴ 付加価値税の税収は小売段階売上税の税収と同一となる
<特徴>
・付加価値の合計が同じである限り,入ってくる税収は同一である
・業者間で支払い税額のチェック機能が働く→徴税費用が節約できる
・このタイプの税は,複数税率の導入が可能となる
(例)製造業者の段階で課される税率をt1,卸段階で課される税率をt2,小売段階で課される税率をt3とすると,
(t1S1-t0P1)+(t2S2-t1P2)+(t3S3-t2P3)
=(t1S1-t0P1)+(t2S2-t1S1)+(t3S3-t2S2)=t3S3-t0P1=t3S3
<分かったこと>
→食料品非課税とは,消費税をかけないという意味にとられているが,食料品自体の免税や特定の業者について消費税を取らないなどいろいろと考えることができる。
→軽減税率を使うことは,前段階税額控除法の付加価値税の場合,最終の小売段階で低い税率を使わないと低くならない
食料品に一切税金をかけない⇒ゼロ税率の適用(完全に税負担は無くなる)も考えられる
<複数税率導入へ必要なこと>
現在の場合は,帳簿(アカウント)方式であり,複数税率には対応できない(できるが,大変な労力が必要)
↓
仕送り状方式(invoice方式)の導入が最低限必要になってくる
◎地方消費税のこれから
1)地方間の税率が異なるという複数税率の導入は可能(1つの地域で取引全てが完結している場合)
↓
しかし,現実的に孤立している(1つの地域で独立している)地域はないので,税率の低い所で物を買おうとするようになる
∴消費者の消費行動,企業立地,地方税収に影響を与えてくるはずである(アメリカの例)
2)地方に税源(特に消費税など)を移譲するのに,どのようにして行うか?それに対する方法は十分に示されていない
(本来の地方分権の考え方では,地方で独自に徴収すべきである)