12月15日
1.租税の基礎的な考え方
1)税(租税)tax 漢字の意味で考える
のぎへんは「できたもの」,右側は「とる」という事を示す
昔は現物で取られていた(米など)が,わが国では明治に入って貨幣で取られるようになった
2)<復習>国家の形態の推移
家産国家→無産国家(租税国家へ)
3)資本主義社会の基本的考え方
→財産権(私有財産制度)を積極的に保護しようとする
cf.一方,財政権(税金を取る事ができる権利)というものも国家には認められている(合法化される)
∴この二つの考え方は相反するものとなる
しかし,財政権には一定の制約がある=財政民主主義(国家が支出をする際には民主主義を背景にしないといけない)日本国憲法にもこれは明記されている
2.財政学の考え方
1)租税根拠論−−なぜ租税を払わないといけないのか?
→今ある租税は次のいずれかの考え方に沿って考えられている
(1)有機主義国家観:ドイツ
→社会は家計・企業・銀行などいろんな機関から成立している。
国家は家父長的な役割を国民に対してする(∴親のような存在)。よって,国民は親の役割を担う
国家に対して自分を保護してくれる国家に対して存立と維持を目的に租税を支払ったり,
財産などを義務として租税を支払わないといけない。⇒租税義務説(義務として租税を支払う)
(2)社会契約説的国家観
→国家は国民が必要であるからつくったのである。財産権などを「万人の万人による闘争状態」から保護するため,契約を結んで個々の財産を保護してくれるような国家をつくるべきという風に考える
租税は守ってくれる(守って利益を与えてくれる)国家に対して税金を払う⇒租税利益説(利益からの対価として支払う)
相違点
「契約」というところが違う
つまり,結んだ契約を履行しないなら,(2)の考えなら契約を破棄する事ができる
∴税金を払ってくれない国家は潰れてしまう
(1)の方は,契約というところまで考えておらず,国家は常にありつづけるものである
○能力説と利益説
(1)義務として支払う→ただし,租税を支払う能力に応じて支払う(能力説)
∴支払う能力のある人はたくさん支払い,そうでない人はたくさん支払わない
(2)は利益に基づいて支払う(利益説)
財政民主主義の原則 「同意無ければ課税なし」(実際はunknown)
納税 納税者tax payer(租税を支払う人−−立場は対等で,どのように使われるか監視する権利を持つ)
→お上に納めるというイメージがある(どのように使われているかは知る権利をあまり持たない)
∴tax payerとしての意識を持ち監視をする権利を持つ必要がある
2.租税概念の基礎
1租税の分類法その1
(1)直接税 納税者=担税者,ということを税法(制定者)が予定しているような税
例)所得税,法人税
(2)間接税 納税者と担税者とが異なるようなことを税法(制定者)が予定している税
例)消費税(消費税を実際に支払う(負担)しているのは納税者ではない。
消費者が最終的に負担する)∴租税の転嫁が発生している
◎租税の帰着と転嫁の考え方
∴間接税とは転嫁が起こるような税金の事である
最終的に誰が租税負担をするか=帰着incidence
<用語>
納税者 税金を税務署に納める人
担税者 税金を負担する人
2.租税の分類法その2
直接税の中にも必ずしも転嫁の観点からすると直接税というよりはむしろ間接税というのがある
例1)法人税
法人は,税負担を消費者に転嫁する事ができる(値段を上げる)
∴法人税の負担を消費者に転嫁している
例2)消費税(通常間接税と考えられている)
立場の弱い業者は消費税を自腹を切る時があるかもしれない
∴担税者=納税者となっているときもある
ところで,法人税の転嫁をみる時でも,どれぐらい転嫁がされているかが分からない(業種などによっても異なる)ので,詳細は分からない(転嫁率についての確固たるデータはない)。よって税法立法者が転嫁を予定しているものを間接税と分類している。
税率の区分
1.租税賦課の方法
(1)担税力をもつ税源をみつける 例)所得,消費,資産など
(2)課税客体の決定 個人の所得,個人の消費など
(3)課税標準tax base 課税客体の数字化
を定義した上で,税金を決めていく
課税標準×税率=税額
2.税率の区分
(1)法定税率(表面税率)・・・法律で決められた税率(税法に書いてある税率)
(2)限界税率・・・所得が1円(少し)増加した時に,税金の支払いがいくら増えるかを示したもの
つまり,1円の所得増加が直面する税率のこと
T=t(Y-E)より両辺をYで微分すると (△は増分を示す)
△T/△Y=(dt/dY)*(Y-E)+t これを書き直すと,
△T/△Y=t+(Y-E)(dt/dY) となる
(3)平均税率(実効税率) T/Y
所得税を具体例として考えると
課税標準:課税所得=所得(Y)−課税最低限(E),で定義される
例)年収1000万円の人がいるとする
課税最低限の機能
扶養控除,配偶者控除,基礎控除など,各家計の状況により異なる
(平成12年度は,所得税で夫婦子二人(ただし子の内の一人は特定扶養親族に該当)で計算すると,
384万2000円となっている<政府税制調査会答申89ページ>)
支払うべき税(T)=t(Y-E) t:税率
∴課税所得の税率倍(t倍)となる
平均税率(実効税率) T/Y=t{1-(E/Y)}
∴表面税率だけを見て高い税率だということはできない。抜け穴(ループホール)であるEの部分の大小も考慮しないといけない
アメリカの例 税率を下げてその分抜け穴をふさいでいったので実効税率が上昇した
cf.わが国の例 グラフに書くと,縦軸に平均税率,横軸に所得をとると,金持ちほど平均税率は低下するようなグラフを描くことができる
法人税も同様の分析が可能
実効税率↑→平均税率↑
E↓→平均税率↑ 横軸に所得,縦軸に平均税率をとると
Y↑ T/Y一定 比例税 T=tY 横軸に水平
Y↑ T/Y↑ 累進税 右上がり
Y↑ T/Y↓ 逆進税 例)定額税 右下がり
超過累進税と単純累進税
課税所得0〜100未満 10%
100〜200未満 20%
200〜300未満 30% とする。
では,課税所得が250の人がいるとき,この人はいくら税金を支払うか?
最初の100について,100*0.1=10
次の100について, 100*0.2=20
次の50について, 50*0.3=15 ∴租税は10+20+15=45となる
このような累進課税制度を「超過累進税」という
cf.普通に250に30%の税金をかけると,250*0.3=75となる 租税75となる
→このような課税の仕方を「単純累進税」という
◎なぜ「単純累進税」でなく「超過累進税」が採用されているか?
→単純累進税の下では所得の多い人が税引き後の手取りの所得が小さくなるという逆転現象がおこるから
税収の弾(力)性ET:Elasticity of Tax:無名数(単位はない)
<定義>
所得が1%変化した時,税収は何%変化するかを見る
(△T/T)/(△Y/Y)
=(△T/T)*(Y/△Y)
=(Y/T)*(△T/△Y)
ここで,T/Y=tであるから,Y/Tは,Y/T=1/t
△T/△Yは限界税率であるから,t'で表す
∴(Y/T)*(△T/△Y)
=t'/t
ET=1の場合 比例税
ET>1の場合 累進税 景気がいいと税収↑,不況期には↓の程度が大きい
ET<1の場合 逆進税