11月10日
テキスト38ページ
1.オーツの地方分権定理
<結論>
(1)中央集権で公共財供給量決定する
(2)地方分権で公共財供給量決定する
なら,(2)の方が良い。
図示(p39の図を参照)
縦軸に価格,横軸に数量をとる。
1)供給面
公共財供給のための費用は一定で,これと数量の関係を示すと
公共財の供給曲線となる。これはMCとなる。
ここで,MCは一定であると考える(∴MC曲線は水平である)
2)需要面
各地域(a,b地域)の需要が違う事に注目している
図では,a地域の需要量はDa,b地域の需要量はDbで表される
それぞれの需要曲線はMBを示している(高さがMBを示す)
ここで,需要と供給が均衡する点では,MB=MC
この点では,(社会的)余剰が最大化されている
これは,b地域にも当てはまり,
この結果図ではa地域はQaで,b地域はQbで需給が均衡する
2)中央政府が画一的に公共財供給する場合
QaとQbの間のQc(QaとQbの中間)で公共財供給が決定される
<問題>
a地域では,純便益(=MB-MC)が低下し,b地域ではECDの社会的余剰が失われる。
∴三角形合計分の余剰が低下する(厚生のロス)
<結論>
中央主権で画一的な供給量を決定すると厚生のロスが生じて良くない。
よって,地方政府こそが住民の選好を良く知っているし,地方のニーズにあった
地方公共財供給ができる。よって,地方分権が良いという結論が得られる。
☆この理論の前提(仮定)
i)各地域の選好(需要)が異なる
ii)各地域の地方政府が住民の選好を完全に知っている
現実
ii)実際の所はかなりあやしい。分かっていても,そこまで(必要な量まで)本当に供給するか?
どれだけ,住民のニーズに応えることができるのか?
第3章 制度としての地方財政
地方自治を財政面から支える=地方財政である。
では,地方自治とは何をさすのか?
1.地方自治の本旨(憲法92条)
憲法92条 地方公共団体の組織及び運営に関す事項は,地方自治の本旨に基づいて,
法律でこれを定める。
「地方自治の本旨」の一般的解釈
(1)住民自治(2)団体自治,の2つに分かれる
(1)住民自治の内容
→住民自らが自らの手で治めていくこと
(2)団体自治の内容
→地方のことは,国から独立した地方公共団体が自主性・自立性を持って自らの判断と
責任をもって自らの地域の行政活動をする
これら(1)(2)をサポートするため,地方財政がある。
地方公共団体の仕事(事務=仕事のこと)
(1)事務の種類
i)固有事務−−その地方に固有の事務で責任を持って行う
・首長などを選ぶ選挙の仕事 ・住民の福祉のためとなる仕事
ii)団体委任事務−−法律などにより普通地方公共団体に委任する事務
委任者=国など
委任された地方公共団体はそれを地方の仕事として行う。地方の方でその仕事を
どうするか議論する事はできる。
<参考>普通地方公共団体の他に特別地方公共団体がある。例)東京23区,財産区など
iii)行政事務−−行政が公権力を持って住民のある種の権利などを制限する。警察
iv)機関委任事務−−
委任者=国など 委任の対象=首長(市長,知事など)
→知事・市長などに対して委任されており,仕事を国の仕事としてやらないといけない。この仕事に関しては,地方議会で審議して仕事の内容を変えるような事はできない。
最近の例)沖縄県の知事が機関委任事務を拒否した(国が県を提訴)
<現実の仕事の割合>
仕事の割合としては,i)の比重が高いわけではなく,iv)の比重が高いのが現実。
都道府県80〜85%,市町村40〜50%が機関委任事務となっている
<改革の方向>
地方分権推進委員会が設置され,そこで機関委任事務の廃止がうたわれた。そして地方分権一括法(1999)により,機関委任事務は廃止され,法定受託事務と自治事務にわけ,機関委任事務は廃止された。
2.シャウプ勧告の理想と現実
国の仕事と地方の仕事の共通部分がないのが分かりやすい事務の分担であるが,実際は重なり合う所(共通部分)もいくらか出てくる。
分かれていると,それぞれの活動の財源は国税・地方税で賄えばいい話であるが,重なり合う部分があると,共通部分をどうするかは問題となる。
問題
仕事の内容を地方は自分で決めているか?
地方の仕事をするのに必要な資金を自前で調達しているのか?
答
地方公共団体独自で,仕事を決めていないし,自前のお金のみで賄う事はできない
(国のお金に頼らないといけないし,地方が行う仕事についても国が何らかの形で介入している)
問題 国・都道府県・市町村がどのように仕事の分担をするか?
シャウプの勧告(1949)
直接税中心主義(所得税中心)
→取引高税の廃止,
→付加価値税を勧告に盛り込んだ。しかし,実施されず廃案となった。
シャウプの行政事務配分に関する三原則
(1)行政責任明確化の原則
→可能な限り,国・都道府県・市町村の事務は完全に区別し,1段階の団体には一つの固有の事務が割り与えられるべきである。
仕事を割り振るときは責任を明確にし,それぞれの仕事をするのに必要な財源は独自に徴収すべき。
(2)能率の原則
→事務を効率的に遂行するために,それぞれの事務は規模・能力・財源の整ったいずれかの段階の行政機関が行うべきである
規模や能力,財源など全てを勘案して,特定の行政機関に事務を割り振る。
(1),(2)を考慮した上で,
(3)地方公共団体(市町村)優先の原則
→事務の遂行は最下級(市町村)に割り当てられる。市町村には第1の優先権,都道府県は第2の優先権を持つ。最終的に手におえない時は国が行う。
∴地方税の拡充+財源保障,がうたわれた。
シャウプ勧告を受けて,わが国でも神戸(かんべ)委員会ができ,審議が成された。
<実際の動き>
→シャウプ勧告の大部分が実施されなかった。(省庁の抵抗にあったなど)
2.地方財政制度
1.国と地方の経費負担区分
→これは地方財政法にある
(1)大原則 地方団体またはその機関がその事務を行うために必要な経費は全額その地方団体が負担する事を原則とする。
(2)(1)の経費の内,国地方の相互の利害に関係する一定の事務に要する経費(義務教育,生活保護),国民経済的見地から行われる大規模な建設事業に要する経費,災害復旧に関する経費は,国がその費用の全部または一部を負担する。(もちろん地方が一部負担する事もある)
(3)(1)の経費の内,専ら国の利害のために行う事務に要する経費については,地方団体はその負担の義務を負わず国が負担する 例)選挙,国勢調査
(4)国が自ら行う事務に要する経費は国は地方団体に対して負担させてはいけない 警察・防衛・司法
この結果,機関委任事務の力が大きくなってきた
2.地方の歳入
3−1
地方全体の歳入の中で地方税の割合が3割近く→「3割自治」
地方の歳入だけでGDPの2割近くある
(1)地方譲与税
本来地方税を課けたら良い税源があるが徴税上の便宜上,地方が取るよりも国がとるほうがよく,国からその分を一定の基準で地方に委譲している。
(2)国庫支出金(通称:補助金)
・国庫負担金 国に利害があり,地方が実施する特定の事務に対して法令で国の費用負担割合が決まっているもの
・国庫委託金 国の本来仕事であるが,行政効率の観点から地方に委託したときがいい時に支給される委託金
(3)国庫補助金
・奨励的補助金 国に政策的見地から奨励されるが地方にやって欲しい仕事に対して交付する
・財政援助的補助金 地方の負担を軽減するために交付する補助金
特に(3)が額的にも非常に大きい
地方交付税交付金S28〜
国税(所得税・法人税・酒税・消費税・タバコ税の5税)の一定割合を地方公共団体の財政力格差に応じて配分する。
(参考)所得税・法人税・酒税の32%,消費税の29.5%,タバコ税の25%,が地方に移る。
財政力格差
ある仕事をしたいのに,自前の収入があまり無い時,
その格差を埋めるために交付税は用いられる。
∴自分のやる仕事に対する差額の大小に応じて交付税がもらえる
この仕組みがあるため,財政力がない県でも豪華な橋や建物が作られることになる。