10月27日


<前回の復習>
消費者の経済活動の目的=消費者の効用最大化を目的とする。
企業の経済活動の目的=利潤最大化を目的とする。
では,どのようにそれぞれの目的を達成するか?
→市場でモノを売買する事により,価格メカニズムを用いて取引を行う。
→消費者の需要と企業の供給が均衡するような産出量・価格で決定。
→この状況は良い。(限られた資源が有効に使われている)
⇒「パレート効率性」が満たされている。

パレート効率性(パレート最適)Pareto efficiency(optimum)
<定義>
→与えられた状況下でみんなが満足しきっている。
→その中で,ある人の効用を下げることなくある別の人の効用を上げる事ができない状態。
⇒まあ,これは限られた資源が有効に使われているので良い状況である,と判断される。
☆経済学は,パレート効率性を非常に重視する。

☆市場経済で価格メカニズムがうまく機能すると,パレート効率的な配分が実現する。
→しかし,うまく価格メカニズムが機能せず,市場経済がパレート効率性を達成できない状態もある
⇒その状態を,「市場の失敗」という

・パレート効率が実現している時の経済の状態
<仮定>消費者は2人(A,B)で,財は2財(X,Y)のみ,という単純な経済を仮定する
生産要素を労働(L)のみとする。
              −                    −
経済全体の労働量を L   完全雇用を仮定 ∴ Lx+Ly=L
X=f(Lx) Xの生産関数(i)  この関数の限界生産力逓減を仮定する。
Y=g(Ly) Yの生産関数(ii)  この関数の限界生産力逓減を仮定する。
(i)(ii)より,生産可能性曲線(production possibility curve)を導く事ができる。
⇒そして,生産可能性曲線の内側の四角形の中で消費する事ができる。

その中の長方形部分だけを拡大して,どのように分けると良いか?を考えると
Xa+Xb=Xo  Ya+Yb=Yoという条件下で各人の選好を無差別曲線で表す。
⇒すると,A,Bの無差別曲線が無数に引け,その中で2人の無差別曲線が
接する点や交わる点が見つかる。

☆無差別曲線が交わる点はどうか?効率的に分け合っているか?
→まだ,2人の満足が高まる余地がある。
→ということは,当初の点はパレート効率的な点ではない。

☆無差別曲線が接する点はどうか?効率的に分け合っているか?
→2人の満足が同時に高まる余地はない。
→ということは,当初の点はパレート効率的
             ↓
このパレート効率を実現する点を集めたもの=契約曲線という。
→契約曲線上では,パレート効率性を実現している。

∴MRSa=MRSb=(Px/Py)  でパレート効率性を実現する。
(PxはX財の価格,PyはY財の価格。MRSaはAの,MRSbはBの限界代替率。)

<参考>Px/PyのことをX財のY財に対する相対価格という
例  X財400円   Y財2000円とすると,
Px/Py=1/5 これを相対価格という。
→X財1単位でY財が5分の1単位購入できる

◎では,パレート効率的な消費の方法は良いのか?
<答え>ちがう。
<理由>
生産可能性曲線に接する曲線の傾きと生産可能性曲線の傾きが異なる場合は,よろしくない。
→生産可能性曲線の傾きのことを,限界変形率(MRT)という。
⇒MRTは,X財の生産を増やした時にY財の生産をいくら減らせば良いかをしめしたもの。

MRT≠MRSa=MRSbという状況では,パレート効率性を満たしていない。
例1)MRT>MRSなら
→X財の生産を1単位減少させると,Y財の生産はMRT分だけ上昇する。(生産可能性曲線より)
Aの効用はX財が1単位減少しても,Y財がMRSa分上昇すると同じ無差別曲線状に留まることができる
しかし,MRT>MRSなら,Y財をMRSもらうよりMRTもらう方が効用が上昇するので,効用は以前の水準より上昇する。
∴消費者Bの状態を変えることなくAの効用を上昇させることが可能。
∴以前の状態は,パレート改善の余地がある。
⇒パレート効率的ではない。

<具体例>
MRT>MRSのとき,(例えばMRTを6,MRSを5とすると)
X財の生産を1単位減らすとY財の生産はMRT分,つまり,6だけ上昇させる事ができる。
ここで,Aさんにとって本来X財の消費を1あきらめるとY財の消費をMRSだけ,つまり5だけ上昇させれば同じ無差別曲線状にとどまる事ができる。
しかし,MRT>MRSより,実際は6を消費する事ができ,(消費が多ければ多いほど
その人の効用が高まると仮定しているので)効用が以前の状態より高まる。
∴パレート効率ではない。
(MRT<MRSのときも同様に考えてパレート効率ではない。)

∴MRT=MRSのときが,パレート効率的である。

市場経済が完全に機能すると実現するパレート効率性の条件。
(1)MRSa=MRSb(消費面)
(2)MRT=MRS(消費と生産面)
(3)<生産面>今回は考えない。

◎経済学の復習
・生産関数の接線=限界生産力(Marginal Production : MP)
(この場合は労働のみを考えているため労働の限界生産力。)
・無差別曲線(なぜ,原点に向かって凸かは各自で調べる)
→この曲線の接線の傾きが限界代替率(Marginal rate of substitution:MRS)である。
MRS=同じ無差別曲線上にとどまるために,X財を1単位消費を増やした時に
Y財を何単位あきらめないといけないかを示したもの。

ところが,パレート効率的な資源配分を市場は実際できない
⇒政府が介入してくる。


(2)所得再分配機能
→政府がいなくて,パレート効率性が実現したとする。しかし,そこで実現した所得分配はいいのか?(望ましいのか?)
例)Aさんが一人占めしていても,パレート効率性を実現していたらそれはいいのか?

(3)経済安定化機能
→景気循環が市場経済にはつきものである。その中で,例えば不況期に失業者があふれた時に政府が何らかの方法で介入するのはどうか?


2.市場がパレート効率性を達成できない時の政府の役割
1)市場の失敗
市場経済がパレート効率性を達成できない。
⇒市場の失敗(market failure)という。
◎市場の失敗が起こる理由
・財に価格を付ける事ができない場合もあるのでは?
・市場そのものが存在せず,財の分配ができないのかもしれない。  etc.
∴その結果,適切に財の供給がなされない場合も出てくる

2)市場の失敗の結果発生する財・サービスの供給
公共財public goods←→私的財(民間財)private goods

3)公共財と私的財との比較
I)公共財の特徴
(1)非競合性  
(2)非排除性
この2つの性質を備えた財・サービスを指す。

説明
(1)非競合性=ある人の消費が他人の消費を妨げない性質。
(2)非排除性=費用(対価)を支払わない人を消費から排除する事ができない,
         または,コストがかかるなどの理由で不可能な性質。

II)私的財の特徴
(1)競合性       ある人が消費している時,他人は消費する事ができない。
(2)排除(可能)性  ある財について対価を支払った人のみ消費を行う事ができる。
  
例)一般道路の性質
・一人の人が歩いているからといってもう一人の人が通行することが競合しない。
・お金を払っていないからといって道路を歩くことを排除されない。
→みんな消費させた方が満足が上昇するしまた,お金を払う人と払っていない人とを区別できない。
⇒そうすると,財の生産が行われないケースも出てくる。
⇒市場機能が働かない(失敗している)
では,誰が修復させるか?企業?消費者? ×
∴政府が非排除性や非競合性をもたらす財を供給する。
では,その財源はどこから来るのか?政府の自己資産か?
⇒政府はそれほど財産を持っていない。
∴国民から租税を徴収し,供給する。  
(ただし,政府の提供するサービスでも利用者を特定できるサ−ビスについては
料金を課すことができる。例:パスポートの申請)

3)公共財の分類
・純粋公共財pure public goods (1)非競合性(2)非排除性の性質を持ち合わせている。例)国防。
混合財mixed goods
⇒誰が賄うか?この決定は,国や政府,また時代により異なってくる。

では,私的財について,政府はなんら関与はしないのか?
→実際関与を行う。例)教育,医療・年金  
・教育の特徴
→基本的に,授業を払った人のみ授業を受ける事可能(排除可能)
 また,競合性も持ち合わせる。(教室の収容人数の関係などから)
∴私的財の要素を十分持ち合わせており,現実的に私立大学も存在する。
→しかし同時に,国立大学もある。なぜか?

<理由>義務教育
⇒教育に対して,時の政府が価値を認めている(教育水準があがると経済発展などに貢献する)
→税金を使ってでもそのような価値のある財を供給しようとする

これら,価値(メリット)をもたらすと政府が温情主義的態度から考え,
国民に強制的に消費させるような財を価値財merit goodsという。


(これまで政府が供給してきた)混合財の供給を民間に任す=民営化

◎まとめ
財政の役割は3つある。民間経済では調達(供給)できない公共財を供給する。これには2つの性質があり,その2つの性質を完全に満たす典型的なものとして純粋公共財がある。それは,国防のようなものである。
ただし,時の政府の判断により本来私的財であるような財を提供する事もある。これによって提供された財を価値財と呼ぶ。価値財の例として,教育などが挙げられる。。

地方自治体の仕事
→資源配分機能を担当する
例)地方公共財の供給
残り2つはあまりタッチしない方が良い。