第10回 国庫支出金と地方財政

1月26日


0.補論  国の予算決定について
内閣が予算案を国会に提出し,まず衆議院から審議が行われる

前年度までに来年度の予算を国会で通すことが望ましい(年度内成立)が,実際はそうでない場合もある。しかし,国会の議決が必要な点は変わらない。(国会で前年度中に議決された予算を,本予算(当初予算)という。本予算が前年度内に議決されない場合は暫定予算を組む。)

予算確定後,内閣は各省庁に予算を割り振る

<メモ>わが国の一会計年度は4月1日から翌年の3月31日までを指す(財政法第11条)

◎では,いったん決まった予算を年度の途中で変えることは出来るのか?
答  出来る(いわゆる補正予算)

◎あらかじめ本予算で決められた使途以外に予算を使うことが出来るか?
答  出来る(移用・流用,という)←財政法第33条

移用=異なる組織(例:文部科学省と外務省)や同じ組織であっても違う項間で当初決めた予算を使うこと
流用=同じ組織の中で,項は同じであっても,目が違う時に使う
  (同一「項」内の「目」相互間の経費の融通)
◎移用や流用は無制限に出来るか?
答  できない

歳出の分類
項  大きな分類(例:厚生労働省の生活保護費) 
目  具体的な使途を記述したもの(例:職員基本給)

◎まとめ
項=何のために使うかという目的別の区分
目=どのように使うかという使途別の区分

●国会の審議対象
→国会では,「項」までが国会の議決対象(よって,項は立法科目,議定科目と呼ばれる)
「目」の部分は各省庁で決定することが出来る(よって,目は行政科目と呼ばれる)

予算総則  歳入歳出予算,継続費,繰越明許費,国庫歳入負担行為の総括的な規定の他,国債発行の限度額,公共事業の範囲などを決める
移用は,あらかじめ国会の議決があった場合に,財務大臣の承認を経てはじめてできる
流用は,あらかじめ財務大臣の承認が必要

決算の際に移用・流用の額+移用・流用を行った理由を明示する必要が生じる
(これが,財政民主主義を保証する役目を持つ)

ただし,これは事後的なことであることに注意

移用や流用でなくても,予算の名前が直接示すのとは違う目的で執行されていることもある
例)林道開発費という名目で,米軍の支援にも使われていたこともある

第9章  国庫支出金と地方財政
1.<復習>地方の財源の区分1
自主財源  地方公共団体が独自に調達出来る財源。地方税,使用料・手数料など 
依存財源  地方公共団体が国(ないし都道府県)にその供与を依存している財源。地方譲与税・地方交付税・国庫支出金など
<復習>地方の財源の区分2
一般財源  使途非限定
特定財源  使途限定

2.地方交付税と国庫支出金
交付税=依存財源(国税5税の一定率が来るから),一般的に一般財源(使途が決められていない

国庫支出金=依存財源であるが,使途が決められている

3.国庫支出金
1)国庫負担金  国に利害があり,地方が実施する特定の事務に対して法令で国の費用負担割合が決まっているもの
        例:義務教育教職員給料,一般行政費,生活保護費,災害復旧費など
2)国庫委託金  国の本来仕事であるが,行政効率の観点から地方に委託したときがいい時に支給される委託金
        (地方団体が負担する義務を負わない事務に対する国庫支出)
        例:国政選挙の実際の作業,国の統計調査,外国人登録など
3)国庫補助金  国がある政策を遂行する上で,国がやるのではなく地方にやってもらった方がいいような仕事に関して与えるもの
        i)奨励的補助金    国に政策的見地から地方にやって欲しい仕事に対して奨励的に交付する
        ii)財政援助的補助金 地方の財政負担を軽減するために交付する補助金

<参考>ここの議論については第4回のノートも参照して下さい。

4.法的根拠
→地方財政法(S23制定)によって,国と地方で経費分担についてきめている
 ⇒基本的には,地方団体やその機関が行っている事務に要する経費は,全額地方が負担する。
  ただし,原則の例外が,1),2,)3)である。
  ⇒例外規定が実質的には大きくなり,これが最大限利用されるようになってきているのが現実

5.国庫支出金の使い途
→1996年度決算額でみて,総額14兆7808億円の内,6兆3012億円(42.6%)が普通建設事業費(単独事業費と補助事業費からなる)に対する支出となっている

図9−1 
折れ線はある事業を行う際の総事業費が国庫支出金のうちどのぐらい占めるか,を示している

ここで,A:普通建設事業費,B:国庫支出金,C:補助事業費,とすると

  B/A    =   (B/C) *  (C/A)
国庫補助比率     補助率*補助事業率

グラフの解読
農林水産業費,民生費,総務費が高い。とくに,農林水産業費は左側の棒グラフ(補助事業費/総事業費)の値が高い(80%近くを占める)
理由  農道・農道空港・農業空港

6.補助金の法律的区分
1)法律補助  国の補助金の根拠が法律に基づいている
       i)補助することが義務付けられているもの
ii)補助することができると規定されているもの
2)予算補助  国の補助金の根拠が法律に基づいていない(法律補助以外)


図9−2 の解読
⇒1964年度までの創設が多く,また金額も多い

3.国庫支出金の経済分析(テキスト163〜)
1)スピルオーバー(漏れ出し) 
→ある地方公共団体の提供するサービスが,当該地域住民以外の人にも便益を与えること
例:神戸の人が大阪でゴミを捨てても,ゴミ処理費用をは神戸市民は負担しない
(これに着目して,東京都が昼間東京都内にいるが住居は東京以外の人にも税金を課そうとしていた)

一般に,公共サービスの供給能力と需要の大小関係は,能力(供給能力)<需要

しかし,自前のお金(=地方税)だけでは十分な量を供給できない

図9−3
教科書の例では,数量と費用が比例する,と考えている(∴限界費用MC一定)
価格が低下すると需要量は増加する

1)便益がスピルオーバーしない場合
ここではまず,需要曲線(限界便益を表す)をDaだけであると考えると,
限界費用曲線は,P1の水準で一定である
需要が増加すればするほど,限界便益は低下する

<復習>純便益の計算方法
純便益=総便益ー総費用
∴純便益を極大化する点はLとなり(MC=MBとなっている),数量はO-Q2となる

◎限界便益=需要曲線から下方に向けて垂線を下ろした時のその垂線の長さ
◎限界費用=MC曲線から下方に向けて垂線を下ろした時のその垂線の長さ

2)便益がスピルオーバーする場合
ここで,需要曲線を2本導入する。すなわち,
Ds:該当地域外の住民(全体)の需要曲線
Da:該当地域の住民の需要曲線
∴Ds+Da(2本の需要曲線を垂直に足し合わせている)が社会的需要曲線となる

∴MB=MCであるP-Q1までしか供給しないといけない
しかし,実際は該当地域住民の需要しか見ていないので,実際はO-Q2しか供給されず,
Q2-Q1に相当する過小供給が発生している

ここで,国がP1P2/OP1の割合で負担してくれるとすると,
⇒P2まで費用が下がれば該当地域住民の需要だけで評価しても社会的に最適な供給量を実現

◎国が補助金を与えることで,社会全体でも最適な供給量が実現する

◎まとめ
⇒補助金により最適供給量を達成すると,純便益はLMNを達成する
  ↓
しかし,この問題の仮定は,最適供給量=既知である
  ↓
現実は最適供給量は分からないので補助率を高めると,(教科書の例だと,P1P3/OP1)
供給量はO-Q3まで供給される
  ↓
ところが,この場合の社会全体の評価をみると,TSRNの損失が発生している
ここで,損失のTSRNと便益のLMNを比較すると,純便益はマイナスとなってしまう

◎結論
⇒補助率を高めすぎると社会全体でみると損失が発生する
(補助率の設定を誤ると,かえってよくないという結果がこのグラフを読むことで分かる)
  →また地方ごとに需要曲線は違う
  ⇒全国一律で補助率を決めるのは好ましくない

7.特定財源としての国庫支出金
<復習>国庫支出金=使途限定→では,このことがどういう影響を経済に与えるか?

1)国の見方
→国は特定の仕事を地方にしてほしいので,使途が限定されている方を好む
2)地方の見方
→地方の自主性発揮のため(住民のニーズに合わせる)には,使途非限定の方が好ましい
⇒しかし,現実には国庫支出金は使途が限定されている
 →この時の地域住民から見た影響は?

図9−4の解釈
<簡単にミクロ経済学の復習>
(参考文献例)武隈慎一(1999)『ミクロ経済学(増補版)』新世社
      奥野正寛(1990)『ミクロ経済学入門』日経文庫
(仮定)2財X,Yのみが世の中に存在する
縦軸にY,横軸にXをとる
一定の収入(所得)をIとし,X,Y財の購入ですべてを使い切る
X財の価格=Px Y財の価格=Py
∴これらの関係を式で表すと  PxX+PyY=I ←この式を,予算制約式という
これを,X-Y平面に描くと,PxX+PyY=IをYについて解くと
Y=(I/Py)-(Px/Py)Xとなるので,
傾き  -(Px/Py) ← XとYの相対価格となっている
切片  I/Py

消費者は,X,Y財に対してある特定の選好(好み)を持っている
その様子をあらわしたものを,無差別曲線indifferent curveという
(通常,無差別曲線は原点に対して凸になっている)
数式的には,効用をuとすると,無差別曲線式は
u=u(x,y)  と表される
●無差別曲線の特徴
1)ある任意の無差別曲線上では,どのようなX,Y財の消費の組合せでも満足の水準(効用水準)は同じである。
2)無差別曲線は,通常右上方に行けば行くほど効用水準は高くなる

また,無差別曲線の接戦の傾きのことを,限界代替率Marginal Rate of Substitution(MRS)という
(限界代替率は消費者がX財を1単位追加的に消費したいときに,何単位のY財をあきらめることで同じ効用水準を維持することが出来るかを示している。通常,MRSは逓減する性質をもっています。)
数式的には,MRS=△Y/△X

◎しかし,この人は予算制約内でしか買うことができない

よって,このようにある消費者の効用水準を一定にするX,Y財の組合せである無差別曲線を無数に引いてやると,ある予算制約線と接する無差別曲線がみつかる
∴この点が,最適点となる(MRS=予算制約線の傾き成立)

<本論>
Xというサービスが国にとって重要である(道路,校舎の建設,など)と認識する
⇒費用の一定割合(定率)を援助する
Pxが低下する(例えば,1000万の事業に500万補助されると)  ⇒  0.5Pxとなる
(使途特定の定率補助)
この時,予算制約線Y=(I/Py)-(Px/Py)X は,
切片  不変
傾き  半分になる-(Px/2Py)

よって,補助後の新しい予算制約線BCと接する無差別曲線を探すと,W2となる
→このW2という無差別曲線は当初のW1という無差別曲線よりも高い効用(満足)水準を示す
⇒その結果,Xの量はPR分増加する

◎では,これを使途非限定の一般財源とするとどうなるか?
<仮定>(PR分を実現するような)定額補助を△Iとすると,予算制約式は
PxX+PyY=I+△I  となり,Yについて解くと,
Y=(I+△I/Py)-(Px/Py)X となります
∴切片 上昇する
傾き 変化しない
∴元々の予算制約線に平行な予算制約線が実現する
ここでは,E3で新しい無差別曲線W3とこの変化後の予算制約線が接する
⇒こちらの方が,満足水準はW3で,W2という前者よりも高くなっている
具体例:<仮定>会社の社員食堂が味の割にも量の割にも高いとすると,
→一万円の現金と一万円の食堂食券とでは,現金の方がいい(満足が高い)に決まっている

∴ここで説明したことは一般的にも当てはまることである

また,△Iは交付税と解釈しても良い

<補論>グッズgoods(望ましい財)とバッズbads(望ましくない財)
横軸にgoods,縦軸に badsを取ると,南東方向の無差別曲線に行けば行くほど満足が高まる
(最適消費量は,goodsばかりを消費して,badsは0の消費)

8.補助金獲得最大化行動
1)図9−5を参照すると,
補助金交付前の予算制約線はAB,効用水準はW1
→ここで,公共サービスXに対して国からBC/OCの国庫支出金が交付される
 ⇒予算制約線はAを基点にACへと回転する
  →その結果地方が最適化行動(この場合,MRS=予算制約線の傾き=X,Y財の相対価格)
   をとっているならば,効用水準はW2となる
→ところが,補助金を与えられるサービスを過度に供給し過ぎると(例えばC点),補助金を受けた結果,補助金を獲得する前よりもかえって効用水準が下がることがある

2)実際上の問題
超過負担がつきものである
<定義>超過負担とは?
狭義には,実際の事業費と補助額算定上の事業費との乖離額で,地方が負担する額
(参考:鶴田廣巳他編著『BASIC 現代財政学』有斐閣297ページ)
広義には,国庫支出金が交付される事業において,地方公共団体の実支出額より国庫補助基本額が下回る場合に,地方公共団体が強いられる負担のこと。
→これは通常1)単価差 2)数量差 3)対象差 によって発生する。

ここで,3)対象差は無視して数式的に考える。
補助対象事務量をx,
補助単価をy,
(現実に行われた事務量−補助対象事務量)をa,
(実際の単価−補助単価)をb  とすると
この事務を行うのに実際に要した費用は
(x+a)(y+b)  となる
この式は,次のように分解することが出来る
xy:補助基本額
xb:補助対象事務量の下で生じている単価差
ya:補助単価の下で生じている数量差
ab
∴abの部分が残ってしまいます。

ケース1
(1)最初に単価差xbが生じる
(2)単価差に加えて数量差yaも生じている
    →このとき,地方団体が追加的に負担する額はya+abとなる
    (「実際にかかった単価」に当該数量を乗じたもの)

ケース2
(1)最初に数量差yaが生じる
(2)数量差に加えて単価差xbも生じている
    →このとき,地方団体が追加的に負担する額はxb+abとなる
    (「実際にかかった単価」に当該数量を乗じたもの)

ケース3
(1)単価差xbのみが生じる

ケース4
(1)数量差yaのみが生じる


∴ケース3,4いずれの場合もabの部分は消滅する
(厳密にいうと,abの部分は単価差と数量差の双方に関係する部分)

<補論>どうして単価差が最初に生じている例から説明したかというと,超過負担を狭義に捉えると,単価差の部分だけを指すから


シャウプ勧告は,国庫負担金に批判的
<理由>
・どちらが事業に責任を持っているのか不明であるから
⇒シャウプ勧告は,(市町村→道府県→国)という仕事の優先順位を考えていた
・補助率の算定が昔は曖昧であった。
・地方も補助が出る仕事ばかりをしていた
・対象事業は国が決めるが,地方の実情は見ていない
∴国庫負担金全廃

シャウプが補助金を残した理由
補助金は地方を支配する道具ではなく,指導する道具
⇒補助金による事業が地方に定着し,補助金が必要で無くなった段階で廃止して,地方税で賄う
それでも財源が足りないなら,一般平衡交付金で補う