地方財政論2000 講義ノート by Go Noguchi and Masayuki Tamaoka
使用テキスト 林宣嗣(1999)『地方財政』有斐閣
評価の方法 期末テスト(に加えて,レポートを課す可能性もあり)
10月13日
1.財政学(public finance)とは
財=「経済」を表す
「経済」の語源=『経世(国)済民』
政=「政治」を表す
∴財政=「経済」と「政治」の交錯する領域で生じる現象である
public finance fin:「おわり」の意味がある
公的 資金調達
2.財政学の考え方
(1)経済学と財政学は全く別物であるという考え方
→「経済学」=経済現象を取り扱う
「財政学」=経済には現れない政治過程(現象)を取り扱う
(2)政治学の要素を財政学は有するという考え方
→財政学は経済学で扱ってもいいが,財政学から政治学の要素を除いてのみ財政学を経済学で扱う事が可能となるという考え方
⇒経済学の応用=財政学
(3)財政学は経済学の一分野であるという考え方。しかし,政治の部分も入っている
→political economyの考え方に近い
3.(1)の考え方の具体例1
i)カメラリズム(ドイツ官房学派)
有産(家産)国家 領地収入+特権収入
↓ (農地収入) (特権を付与し,その特権から収入を得る)
↓ ⇒これだけで,当初は財政を十分賄う事ができた。
↓
しかし,経済発展や対外戦争により,支出が多くなってくると…
↓
↓
無産(非家産)国家 領地収入+特権収入,だけで支出を賄えなくなる
<租税国家> ↓
懇願税(ベーデ)へ
国家の最大の関心=いかにして,租税収入を得るか?
4.(1)の考え方の具体例2−ドイツ財政学(正統派財政学)
時期 19C後半
特徴 ・租税(税金)を徴収する(とる)側の視点に基づいて考えられている
・ビスマルクに代表される,社会政策重視の政策
社会政策=社会福祉+累進課税(progressive taxation)
所得分配の公平を実現しようとする
∴租税を「とる」ことに関心が持たれた
☆このように,租税をいかに扱うか?がドイツ財政学の中心課題となった
アドルフ・ワグナー(A.Wagner) ドイツ財政学を完成させた人
Wagnerの租税原則(4大原則9小原則)
5.(3)の考え方−−古典派経済学
→重商主義(貿易活動を重視する考え方)の考えに反対
<重商主義の基本的考え方>
→財政がうまくいくと,経済もうまくいくものだ…
<特徴>
i)国庫の経費(=公共支出)は生産的
ii)内国消費税は良税
iii)公債(例:国債)は生産的
(説明)
i)国が行う経済活動は経済にとって良い影響をもたらす
ii)この時代の代表的租税=人頭税(一人あたり定額の定額税)
→ただし,これには免税特権があった。(貴族や僧侶)
→このような状況では,公平な課税ができていない。
∴金持ちほど,支出が多くなるので,その支出に対して課税する方が望ましい(この意味で,消費税は良税である)
iii)政府の政策は,良ければ良いほど,経済状態は改善される。
∴公債発行によって得た収入でそのような活動を促進する事は良いことである。
重商主義に真っ向から反対する考え方〜アダム・スミス(Adam Smith)
Adam Smith(1776)'Wealth of Nations' 『国富論』or『諸国民の富』
<Adam Smithを知るkey words>
夜警国家 神の見えざる手(invisible hand)
<基本的考え方>
(1)国が豊かになると,財政も豊かになる
⇒財政政策も自ずからうまくいくものだ…
(2)資本蓄積が重要である→それを阻害するのは望ましくない
∴国を豊かにする⇒その源泉は富である
→では,富の源泉は?=人間労働である(労働価値説)
→では,人間に労働をさせるにはどうしたら良いか?
<労働の分類>
i)生産的労働
ii)不生産的労働 例)公務員の活動
<特徴>
i)国庫の経費(=公共支出)は不生産的
ii)内国消費税は良税ではない
iii)公債(例:国債)は不生産的
(説明)
i)国は,本来なら民間部門で使われた資源を不生産部門へもっていく
ii)消費税は労働者の購入する消費財価格を上昇させる。よって,賃金が上昇し,企業の利潤が減少し,ストック蓄積が減少する。
iii) i)と同じアイデア
◎まとめ
→経済と政治が交錯する所で生じる現象=財政である
∴財政は,政治と経済が密接に関係するのである。
2時間目
<復習>
(1)経済主体=家計・企業・政府,を指す。
(2)効用utility=満足度のこと。
0.経済学とは?
→希少な資源(例:天然資源・人的資本など)をどのように(うまく)効率的に配分するかを研究する
⇒ただし,一般的にこれらの資源を使用できる量は限られている(所得制約など)
∴この制約の下で精一杯の事を,各経済主体は行おうとする(と仮定して議論を進めていく)
1.政府の(経済学的)目的
(1)家計:家計は何を目的に経済活動をするか?=効用最大化(但し所得制約がある)
(2)企業:企業は何を目的に経済活動をするか?=利潤最大化
(3)政府:よく分からない。しかし,租税を徴収しないと,政府の活動はできない(租税国家)
教科書図1−1
2.国民経済計算(SNA)による政府の分類
中央政府 1つ
一般政府 地方政府 47都道府県,688市,2564町村(1997年3月末現在)
社会保障基金 医療保険や年金など
公的企業 中央 公団・公庫
地方 公的企業(バス・地下鉄など)
3.地方政府の規模(平成9年度)
(1)税収の比較
総額91兆7562億円 地方税 36兆1555億円 国税55兆6007億円
比率 39.4% 60.6%
(2)歳出(=1年間に政府が支払う金額)の比較
総額148兆7475億円 地方 96兆4195億円 国 52兆3280億円
比率 64.8% 35.2%
<特徴>
地方の税収:国税の税収=4:6
地方の歳出:国の歳出= 6.5:3.5
∴地方の税収は少ないのにもかかわらず,歳出は多い。
(税収の国と地方の比率と歳出の国と地方の比率がほぼ逆転している)
⇒地方の不足分は,主に国からの財政トランスファー(=国から地方への財源委譲)によって賄われている
↓
この事実から,わが国の地方財政で生じている問題を説明することができる。
(3)財源不足を穴埋めする方法
I)地方債の発行による借金
II )国からの補助金・地方交付税交付金 ←これが,大きな割合を占めている
(4)A.Wagnerの「経費膨張の法則」
⇒国民経済が発展するにつれ,政府規模が絶対的に(継続的に)増加していく
のみならず,相対的にも増加する。
<数式による理解>
EXP/GDP = (p/GDP)×(EXP/p)
右辺第1項(p/GDP)の意味=人口一人あたりのGDPの逆数
右辺第2項(EXP/p)の意味=政府の一人あたりの歳出
つまり,p/GDPが上昇したり(=一人あたりGDPが減少する),EXP/pが上昇したり(=一人あたりEXPが増加する)すると,左辺は上昇する。
(現実)
⇒人口の伸びよりも支出の伸びの方が大きかったので,国内総生産GDPに対する支出額は増加傾向にある。
∴地方財政の規模は増大する傾向にある
3.増大する地方財政の規模
→地方財政が増大する要因とを次の2つの側面で捉える事ができる
・需要面の要因ー(1)社会保障へのニーズの拡大
かつては,国家は『最低限の生存権の保障』のみを考えれば良かった(ナショナルミニマムの考え方)
↓
しかし現在では,拡大解釈されて,健康で文化的な生活水準の保障を考えるようになった
∴公共サービスの範囲が必要不可欠な基礎的・必需的なもの(ナショナルミニマム)
↓
高次・選択的なものへとグレードをあげてきた
→これを,地方政府が住民に独自に提供=シビルミニマム
→地方ごとに考える最低水準を保障しようとする
∴必然的に高い水準の保障を実現しようとすると=支出↑する
・供給面の要因ー(1)都市化や人口増加によりある一定の水準の公共サービス供給を維持しようとすれば
総供給コストが上昇する
(2)家計や民間企業の役割が公的部門に移る→公的供給↑→支出↑
(例:駅前の駐輪場,介護)
4.国にコントロールされる地方財政
→国税の中でも,所得税・消費税・法人税・酒税・タバコ税の収入額の一定割合が地方交付税として交付される。
⇒国は,お金も出すが,地方政府に対して口も出す。
(1)仕事の種類でのコントロール
→機関委任事務
知事や市町村長(まとめて,首長という)に国が強制的に仕事を任せる。
首長が国からの仕事を断ることはできない。断っても,国が代理して執行する。
⇒ただし,地方分権一括法により機関委任事務は廃止され,法定受託事務となる。(しかし,本質的なところは変化しない)
(2)財源面でのコントロール
<用語>
地方政府が自ら確保する財源 =自主財源
国(中央政府)から移転される財源=依存財源 という
I)地方税 「自主財源」と呼ばれる
II )地方交付税 国から地方への移転支出
III)地方譲与税 国から地方への移転支出 これらI〜Vに関して,注文つける
IV)国庫支出金 国から地方への移転支出
V)地方債 「自主財源」と呼ばれる
☆自主財源が↑すると,地方の自主性が↑する。
→但し,自主財源に対しては国からの大きな制約が課されているのが現実。
⇒それを変えていこうとするのが最近の流れになっている