神戸大学大学院 理学研究科 
化学専攻 有機化学講座 
有機分子機能分野 瀬恒研
 
 

金属錯体化学とヘリシティー誘起   Angew. Chem. Int. Ed., 2009, 48, 771-775

 シクロオクタピロールは8の字型のらせん構造をとる。溶液中では右ねじれと左ねじれは速い平衡にあるが、金属挿入により、不斉を固定化することができる。金属挿入反応の際に、光学活性配位子を共存させると生成物の金属錯体のらせんの向きを偏らせることができた。単核銅錯体から複核銅錯体への金属挿入反応ではらせんの向きは変化しないが、反応速度に差があり、速度論的光学分割の可能となる。DNAのらせんの向きはその構成要素であるデオキシリボース部の不斉炭素によって規制されている。不斉炭素のような不斉要素が全く存在しないらせん構造においてらせんの向きの偏りを実現することが可能になった。その他、種々の多核金属錯体の合成と構造に関する研究を進めている


研究概要

1)クリプタンドの超分子化学

2)金属錯体化学

3)キラリティーセンシング

4)巨大ポルフィリンアナローグの化学

キラリティーセンシング  Chem. Commun., 2006, 3492-3494.

 シクロオクタピロールは8の字型のらせん構造をとる。溶液中では右ねじれと左ねじれは速い平衡にあるが、アミノ酸などの光学活性カルボン酸との錯体形成により、分子ねじれの向きが偏り、シクロオクタピロールの吸収バンドがある600nm付近にCDバンドを示す。このCDバンドの正負により、ゲスト分子の絶対配置を推定することができる。最近では20種類のアミノ酸に対して、適応可能なシクロオクタピロール誘導体の開発ができたところである。サブμモルレベルの濃度での高感度不斉センシングが可能。

クリプタンド   J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 2404-2405

 クリプタンドは空洞の中心にカチオンなどのゲスト分子をバインドすることはよく知られている。クリプタンドには3つのクレフト(窪み)があり、ゲスト分子の多重配位が可能であるが、このような配位モードはよく知られていなかった。ピロールとピリジンが共役したパイ電子系からなるクリプタンド分子を合成したところ、この人工レセプターが3分子のアルコールやカルボン酸をバインドすることを見いだした。ピリジン窒素へのプロトンにより、ピロールNH水素の酸性は増大し、ピロールNH水素と塩基との水素結合によりピリジン窒素の塩基性が増大する。このようなメカニズムによって、1つめのリガンドの配位が2つめ、3つめのリガンドの配位を促進するというアロステリック効果が発現する事を明らかにした

ROH or 

RCOOH

巨大ポルフィリンアナローグ  Tetrahedron Lett., 2006, 47, 1817-1820

 8,12,16,20,24,28,32,36,40,44個のピロールからなる巨大ポルフィリンアナローグの合成単離に成功している。これらはボリルピロールやビスアザフルベンなどを用いる独創的な合成手法の開発によって可能になったものである。このようなナノサイズの分子が持つ機能特性について研究を行っている。特に、金属イオンの集積化や生体分子との錯体形成が目標となっている

アミノ酸のセンシング  Tetrahedron Lett., 2011, 52, 1773-1777.

 以下に示した8の字型ポルフィリンアナローグの複核錯体は軸位のカルボキシレート配位子が置換活性であり、水中のアミノ酸を捕捉して、ポルフィリンアナローグのねじれ方向に大きな影響を与える。トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンではほぼ100の選択性でねじれ方向を制御できることが明らかになった。

Angew. Chem. Int. Ed., 2013, 52, 929-932

 非環状ヘキサピロールの複核錯体を合成し、そのらせん構造をX線結晶構造解析により明らかにした。更に、温度可変NMRを用いて溶液中の動的構造を明らかにした。ヘキサピロール両末端のホルミル基は容易にアミンと反応してイミン体を生成するが、光学活性アミンを用いる事により、ラセンの向きを一方向に制御する事に成功した。