独占禁止法の概要

―企業結合・不公正な取引方法―

 

 泉水文雄

 

1 一般集中規制

1−1 持株会社の規制(9条)(平成8年改正)(参考)「事業会社が過度に集中することなる持株会社の考え方」(9条ガイドライン)、鵜瀞恵子編『新しい持株会社規制』別冊商事法務197号、川越憲治編『持株会社の法務と実務』、泉水・法学教室226号

1-2 大規模会社の株式保有総額規制(9条の2)

1-3 金融会社の株式保有制限(11条)

(参考)「独禁法11条の規制による金融会社の株式保有の認可についての考え方」

(トピックス)政府の産業競争力強化策案

 

2 市場集中規制

2-1 概要

 10条、13条、14条、15条、16条、17条

「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」

 事前相談とガイドライン

(参考)「株式保有・合併等に係る『一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合』の考え方」、鵜瀞恵子『新しい独占禁止法による合併・株式保有規制の解説』別冊商事法務209号、公取委「主要な企業結合事例」(毎年発表)

 

 

1 総論

1-1 関連規定

 19条: 禁止、2条9項: 定義

 2条9項: (a)左の各号(1-6号)の一に該当する行為であって、(b)公正な競争を阻害するおそれがあるもの(「公正競争阻害性」をもつもの)のうち、(c)公取委が指定するもの

 公取委の指定→(A)特殊指定: 百貨店業、教科書業、海運業、缶詰業、新聞業、オープン懸賞

(B)一般指定: 六法には「不公正な取引方法」という表題の公取委告示として掲載されている

1-2 一般指定

 一般指定の公正競争阻害性の表現の仕方:「不当に」、「正当な理由がないのに」、「正常な商慣習に照らして不当な」のいずれかの文言→公正競争阻害性が一般指定の要件に入っている→1ないし16項の解釈において公正競争阻害性の有無の判断を行わねばならない

 公正競争阻害性の要件の区別→「正当な理由がないのに」→原則違法

 「不当に」「正常な商慣習に照らして不当な」→原則適法

「公正競争阻害性」の3類型→@自由競争の阻害(例: 1、2、12項)、A競争手段の不公正(例: 7、9項)、B自由競争の基盤の侵害(14、16項のみ)→見解が分かれるもの、両方含むもの: 3(価格差別)、6(不当廉売)、10項(抱き合わせ販売)など

 公正な競争を阻害する「おそれ」→@自由競争の阻害類型についても、私的独占、不当な取引制限の要件である市場支配(力)までは必要ない

(参考)「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」、山田・大熊・楢崎『流通・取引慣行に関する独禁法ガイドライン』商事法務研究会(1991)、『流通問題と独占禁止法』国際商業(1996)、http://www.jftc.admix.go.jp/guidline/dtgl/index.htm

 

2 取引拒絶(ボイコット)

2-1 取引拒絶の類型、不当な取引制限との関係

 共同の取引拒絶(共同ボイコット)(1項): 直接ボイコット(1項1号)、間接ボイコット(1項2号)→「正当な理由がないのに」なので原則違法→不当な取引制限の要件をみたせばカルテル規制による(3条後段、8条1項1号)

 単独ボイコット(単独取引拒絶)(2項): 直接ボイコット、間接ボイコット(2項) →不当に=原則適法

2-2 共同ボイコットの事例

 エアガン(デジコン電子)事件(東京地判平9・4・9判時1629号70頁)→カルテル規制によった(8条1項1号)

2-3 単独の取引拒絶の事例

 流通・取引慣行ガイドライン: @事業者が独禁法違反行為の実効を確保する手段として行う場合、A「有力な事業者」(シェア10%以上または上位3社以内)が、競争者を市場から排除し、または独禁法上不当な目的達成の手段として行い、相手事業者の事業活動が困難となるおそれがある場合

 契約の自由との関係

大正製薬事件[独禁法判例百選72事件、以下同じ]

 岡山県生コンクリート協同組合事件[66]

全国農協連合会(全農)事件[69]

 米国:連邦取引委員会対Intel事件の和解

 「不可欠の施設(essential facilities)」の理論と締約強制:公益事業、ネットワーク産業、継続的契約の解約の場面など

 

3 差別対価

3-1 関連規定

 3項: 差別対価、4項: 取引条件等の差別的扱い、5項: 事業者団体

 地域による差別対価: 第2次北国新聞事件[70]

 相手方による差別対価: 第1次北国新聞事件、東洋リノリューム事件[71]

 取引条件に係るもの: 大正製薬事件[72]、事業者団体: 浜中村農協事件[73]

 売手段階の(primary-line)価格差別:ほとんど、買手段階の(secondary-line)価格差別:東洋リノリューム事件[71]、浜中村農協事件[73]

 合理的理由: 輸送コスト、規模の経済など

 「合理的理由」がないのに、同じ商品について取引の相手、地域によって価格を変えた場合→原則適法

 特別な規制:新聞業の特殊指定は、地域的差別対価を一律に禁止→禁止の例外を設ける方向で改正の動き

3-2 事例

 第2次北国新聞事件(東京高決昭32・3・18行集8巻3号443頁)[70]

→石川県と富山県、紙面の同一性、内部補助による略奪的価格設定

第1次北国新聞事件(百選になし): 競争紙を排除する目的で、他紙に広告を掲載していない 映画館だけ安い価格を設定 Cf.北海道新聞事件の勧告書(5-1B)の折込広告対策でも函館新聞と競合する顧客に対して安い価格を設定

東洋リノリューム事件[71]: カルテルの手段

大正製薬事件[72]: 拘束条件付取引、ボイコットの手段

 meeting competitionの抗弁

 米国: @ロビンソン・パットマン法→売手段階の価格差別は不当廉売規制へ吸収、買手段階の価格差別は独自性を認める判例と不当廉売に吸収する判例が対立、A州法の差別対価規制、B国際経済法におけるダンピング規制(実質的な差別価格規制?)

 

4 不当廉売

4-1 関連規定

 6項: 不当廉売、7項: 不当高価購入

 原価以下販売(6項前段): @原価を著しく下回る価格、A継続して供給、B他の事業者の事業活動の困難→「正当な理由がないのに」→原則違法

 その他の不当廉売(6条後段): @その他不当に低い対価で販売、A他の事業者の事業活動の困難→「不当に」→原則適法

 「正当な理由」: 季節商品、陳腐化、新規参入の場合、市場価格が原価以下になる場合(中部読売新聞事件判決)

(参考)不当廉売に関する独占禁止法上の考え方

4-2 事例

 中部読売新聞事件(東京高決昭50・4・30高民集28巻174頁)[74]

マルエツ・ハローマート事件(牛乳不当廉売事件)[75]

 東京都屠畜場事件(最判平1・12・14民集43巻12号2078頁)(適法)[76]

お年玉付年賀葉書事件(大阪高判平6・10・14判時1548号63頁)(適法)[77]

 公取委の警告・注意事件として、いわゆる1円入札、ガソリン、家電小売店

(トピックス)新規参入航空会社(スカイマークス)に対抗する既存航空会社の価格引き下げ

 

5 抱合せ販売

5-1 関連規定

 10項: 「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するよう強制すること」→「不当に」→原則適法

 抱合せ商品(tying product)、被抱合せ商品(tied product)

 抱き合わせの公正競争阻害性:@自由競争の阻害(市場価格へのなんらかの影響の可能性が必要)か、A手段の不当さ(買いたくないものを買わされたのはかわいそうだ)か?(白石説は、競争者被害型と不要商品型に区別)→米国では自由競争の減殺型が中心( Jefferson Parish Hospital判決(1984)、Kodak判決(1992))、日本では手段の不当さをも重視するよう(ドラクエ事件、白石説)

5-2 事例

 長野県教科書事件[79]

ドラクエW(藤田屋)事件[80]

 東芝エレベータ事件(大阪高判平5・7・30判時1579号21頁)[81][106]

 マイクロソフト事件勧告審決(平成10年度重要判例解説)

 

6 再販売価格維持行為(再販)

6-1 関連規定

 12項1号: 再販価格の拘束

    2号: 再再販価格の拘束

→「正当な理由がないのに」→原則違法

 希望小売価格、推奨価格、標準価格

 適用除外(24条の2):著作物(書籍・雑誌、新聞、レコード盤・音楽用テープ・音楽用CDに限定)6-2事例

 育児用粉ミルク事件(最判昭50・7・10民集29巻6号888頁)

 資生堂・花王化粧品事件(最判平10・12・29判時1664号3頁、平成10年度重要判例解説)(販売方法の制限による価格維持効果だけでは再版の拘束なし)

 アロインス化粧品事件(大阪高判平9・3・28判時1612号62頁)(再版の拘束の証明なし、しかし継続的供給契約の解約の正当事由はないとした)

 資生堂事件[87][91]

 

7 排他条件付取引

7-1 関連規定

 一般指定11項: 不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること→「不当に」→原則適法

 公正競争阻害性: 自由競争の阻害

7-2 専売店制

 東洋精米機事件(東京高判昭59・2・17行集2号144頁)[82][121]

7-3 一手受入契約

 買い手が売り手に対し、自己の競争者に供給せず、自己にのみ供給することを条件とするもの

 

  1. 拘束条件付取引
  2. 8-1 関連規定

     一般指定13項: 相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件を付けて、当該相手方と取引すること→「不当に」→原則適法

     排他条件付取引(11項)、再販(12項)はここから独立し別の行為類型となったもの

     公正競争阻害性: 自由競争の阻害(おそらく、ただし化粧品事件最判参照)

    8-2 一店一帳合制

     メーカーが卸売業者に対し、その販売先である小売業者を特定させ、小売業者が特定の卸売業者以外の者と取引できなくさせる制度

    8-2 取引地域の拘束(テリトリー制)

     流通・取引慣行ガイドライン参照

    8-3 取引先、販売方法の制限

     資生堂・花王化粧品事件(最判平10・12・29判時1664号3頁、前出。販売方法の制限は、@それなりに合理的な理由で、A他の取引先にも同等の制限を課していれば、それ自体としては公正競争阻害性がない)

    8-5 並行輸入の阻止、輸入総代理店契約

     流通・取引慣行ガイドライン参照

     

  3. 顧客の不当誘因

9-1 関連規定

 一般指定8項: 欺瞞的顧客誘因

 一般指定9項: 不当な利益による顧客誘因

 景品表示法

9-2 一般指定、特殊指定

 野村証券、日興証券損失補填事件株主代表訴訟

 フランチャイズ契約に係る一連の民事訴訟

9-3 景品表示法

 不当表示→別紙

 景品付販売→別紙

その他、多くの業界別告示

 「沈まない太陽」、英会話学校の広告表示、「消費税還元セール」、スーパーの二重価格表示など多数

(参考)植木邦邦之『審・判決から見た不当表示法』別冊NBL36号

 

10 不当な取引妨害

 一般指定15項

 東芝エレベータ事件大阪高裁判決(前出)

 並行輸入の阻害に係る一連の公取委審決

 

11 優越的地位の濫用

11-1 関連規定

 一般指定14項: 自己の取引上の地位が相手方より優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること→各号については文言を確認せよ→「正常な商慣行に照らして不当に」→原則適法

 流通・取引ガイドライン(小売業者の納入業者に対する優越的地位): 当該納入業者にとって当該小売業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな障害をきたすため、当該小売業者の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても、これを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、当該小売業者に対する取引依存度、当該小売業者の市場における地位、販売先の変更可能性、商品の需給関係等を総合的に考慮する

 優越的地位の濫用規制をめぐる学説の対立

(参考)流通・取引慣行ガイドライン、役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針

11-2 事例

 岐阜商工信用組合事件(最判昭52・6・20民集31巻4号449頁)[102](歩積両建預金)

三越事件[98]

畑屋工機事件(名古屋地判昭和56年)(下請取引における競合品取扱い禁止、5倍額の損害賠償額の予定)

 日本機電事件(大阪地判平成元年)(下請取引における類似品、競合品取扱い禁止違反による10倍額の損害賠償額の予定)

 流通・取引慣行ガイドライン: 押し付け販売、返品、従業員等の派遣の要請、協賛金の負担の要請、多頻度小口配送等の要請

 ローソン事件(平成10年度重要判例解説)

11-3 下請代金支払遅延等防止法(下請法)

 

12 知的財産と独禁法

(参考)特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針(原案)、共同研究開発に関する独占禁止法上の指針