大阪高裁判決をざっと見ました。どの法律構成が妥当かという議論も大変興味深いのですが、実質面から見て今後議論になるであろう論点、および東京高裁判決との実質的な違いについてメモを作りました(暫定版につき、誤りがある危険あり)。© F. Sensui (2001/3/30)

 

(1)   消尽論を採用したが、消尽の時期はいつなのか。

 

 「本件各ゲームソフトについて認められる頒布権は第一譲渡によって消尽する」、「本件ゲームソフトは小売店を経由して最終ユーザーに譲渡され、いったん市場に適法に拡布されたものということができ、そうすると、権利消尽の原則という一般原則により、被控訴人らは、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後の譲渡につき頒布禁止の効力を及ぼすことができる」。この2つの記述は矛盾するように見える。しかし、そのほか、WIPO条約に関する比較法の記述や消尽するかいつ消尽するかは実質的に見るべきだと強調するから、「少なくとも最終ユーザーに譲渡された後」だが、実質的に判断して、それより前(第一譲渡およびそれ以降)に消尽する場合もあることを示唆しているようである。ただし、本件事案の解決には、「少なくとも最終ユーザーに譲渡された後」には消尽しているといえば足り、それより前に消尽するかをいう必要がなかった(いっても傍論にすぎない)のであろう。

 

(2)   貸与権との関係。消尽後のゲームソフト複製物のレンタル業は可能なのか。ソフトメーカーの許諾なくゲームソフトのレンタル業を営むことができるのか。

 

 「法26条の頒布権に含まれる貸与権も、権利消尽の原則によって否定される対象とならないというべきである」とするから(「も」が気にならないではないが)、貸与権は消尽しないことになり、ソフトメーカーは消尽後もレンタルを規制できるのではないか。なお、東京高裁判決の法律構成では、ゲームソフトやビデオ・ソフトの複製物は、26条(頒布権)にいう「複製物」ではない(したがって頒布権はない)とする。この場合、26条の3の貸与権について26条の3が括弧の中で「映画著作物の複製物」を貸与権の対象から外しているのは、頒布権という譲渡権と貸与権を包含する権利があるからだとすれば、ゲームソフトやビデオ・ソフトの複製物は(26条と同様)26条の3にいう「複製物」にも該当せず、したがって貸与権がある、ということになりそうであり、東京高裁は、「頒布権が認められない映画の著作物の複製物は、法26条の3の適用除外の対象とならず、貸与権が認められることになるから、不当な結論を導くことにはならない」とする。したがって、いずれの判決の法律構成でも、ソフトメーカーの許諾なくゲームソフトのレンタル業を営むことはできないであろう。

 

(3)他の映画著作物では何が消尽するのか(傍論部分)。

 

 26条所定の著作物を2条1項9号の前段頒布と後段頒布(配給制度に該当する取引形態のもの)に分け、前段頒布だけが消尽するとするので、上映等を前提としないもの、すなわち映画のビデオ・ソフトなども消尽するとの立場のようである。東京高裁も、大阪高裁のいう前段頒布に該当するものは頒布権がないとするようである。ただし、「仮に、長く続いた事実関係の尊重その他何らかの理由により、ビデオ・ソフトについては、頒布権の及ぶ複製物に該当するとの解釈が採用されるべきであるとしても」と、一定の留保はしている。したがって、この点でも両判決は、映画著作物の中での区別の基準は「ほぼ」同じで、違いは、頒布権がない(貸与権はある)か、頒布権があるが消尽し、消尽後は貸与権のみ、という法律効果の違いだけのようである。

 

(4)どのような立法の提案をしているのか。

 

 「本件のような紛争を防止するためにも、前記の映画の著作物の概念も含めて、早期に立法的解決を図られるべきである」とするが、文脈からは、ゲームソフトへ新たな権利を与える立法をすべきというより、映画著作物へ消尽しない頒布権を与えていることを見直し、消尽しない頒布権を認められる映画著作物の範囲を明確にする立法(WIPO条約との整合性がはかられた平成9年改正において本件訴訟が継続中であっため手をつけられなかった映画著作物の部分)を提案しているようである。また、本判決は、BBS事件最高裁判決をあげながら、二重利得を与える必要はないと繰り返し述べており、ゲームソフトメーカーをとくに保護する必要はないと考えているように見える。他方、東京高裁は、「中古品が公衆に販売されることによって新品の販売と異ならない著作物の享受をエンドユーザーに与えるような事態が生じている場合、現行の著作権法が規定する権利のみでは著作権者の保護として不十分であり、このような事態に対処するため、中古品販売による利益を何らかの形で著作権者に還元する立法等の措置を講ずる必要がある、とする議論は、十分合理的に成立し得るものというべきである」としており、トーンが異なる。もっとも、東京高裁も、このような事態は音楽CD、書籍等頒布権が認められていない著作物について広くいえるのであり、「複製物が大量に流通することが予定されている種々の著作物のうち、映画の著作物(ここではゲームソフトの意味)についてのみ「極めて強力に流通を支配する権利である頒布権を認めるべきであるとする根拠はない」としている。

 

(補足:掲示板の東京高裁判決部分のコピー)東京高裁の理論構成は、(1)ゲームソフトは映画著作物である、(2)しかし、26条1項の頒布権の対象となる「複製物」は、「1つ1つの複製物が多数の者の視聴に供される場合の複製物」に限られ、「大量に複製物が製造され、その1つ1つが少数の者によってしか視聴されない場合のものはこれに含まれない、(3)したがって、ゲームソフトの複製物や映画のビデオ・ソフトは26条にいう「複製物」ではない、(4)ゆえにゲームソフトの複製物は頒布権の対象ではない、というものです。判決は、傍論ながら、ビデオ・ソフトも頒布権の対象ではないといっています。