課徴金の制度設計に関する阿部泰隆教授と来生新教授との議論について

阿部教授はすでに反論されている

 

 以下は、表題に関してある方に宛てて書いたメールを書き直したものです。下に書いた阿部論文がまったく知らていないというのはどうかと思いますので、このサイトで紹介します。

 

 ところで、以前から気になっていた点を1点だけ指摘させてください。課徴金の制度設計については、シール談合事件の憲法判断や不当利得訴訴訟に絡んで、最近も経済法学者がいろんなものに書かれていますが、先生に限らず、経済法学者の書いたものを読んで、以前から不思議に思っていた点があります。

 阿部教授と来生教授のやりとりは、先生も書かれたように、阿部論文、来生論文による批判というかたちで紹介されます。しかしこの来生論文の批判に対して阿部教授はな再批判をされないのでしょうか、だれでも疑問に思うと思います。 実は阿部教授は、とっくの昔に、極めて端的な文章で反論されているのです。 阿部『政策法学の基本指針』272−273頁(1996)です。なぜ経済法学者の論稿の中につねにこの論文が抜け落ちているのか疑問でしたので、阿部教授の同僚の一人としてご紹介致します(先日、阿部教授とバスの中で話していたときも、この話題がでて、再反論によって阿部教授は、この問題はとっくに片をつけたつもりのようでしたので、このような形でこのやりとりがいまだに紹介されていることをご存じないようでした)。

 なお、手前みそですが、泉水「年金用シール談合課徴金審判事件」私法判例リマークス(法律時報別冊)16号122頁(1998)において、阿部教授のこの著書による反論の紹介と若干の意見を書いているのですが、だれにも読まれていないようです(笑)。

 これ以上書くことはためらわれますが、実は「年金用シール談合課徴金審判事件」のなかで、下に引用のように(校正は反映させていませんので、活字版とは異なる可能性がありますが)、先生も触れられた沢田論文への言及したのですが、これもだれからも反応がありません(泣)。お時間のあるときにご意見いただければ望外です。

 

>  ・・・もっとも、現在の課徴金額が個別事案のレベルにおいてもつねに不当

> 利得の剥奪に止まるかどうかは、微妙な点がある。平成三年改正により課徴金

> 額の算出根拠が営業利益率から経常利益率に変わったが、いずれの利益率が妥

> 当かというよりも、いずれの利益率も独禁法違反行為のない市場における数字

> であってカルテルの不当利得とは論理的に無関係であることに根本的な問題が

> ある。そのため課徴金額と不当利得額との比較が不可能であり、一方で(談合

> は別として)カルテルが不況下で行われれば現実の利得は「平均的な」利益率

> より低くなるとの批判が(沢田・前掲五五二頁。なお、沢田・前掲五五七頁は

> 加算税は慎重に制度設計されているから加算税と課徴金は異なり課徴金の二重

> 処罰の疑いが強まるとするが、明白に不当利得(違法に免れた本税)を超える

> 奪取を行う加算税と、擬制とはいえ不当利得を超えないよう配慮して設計され

> た課徴金とでは結論が逆になるのではなかろうか。また沢田論文の立法提案も

> 公取委にあまりに過大な負担を強いると思われる)、他方で、カルテルの不当

> 利益は競争制限による利益であり本来右の利益率を上回っているはずで、課徴

> 金は非常に抑制的な率であるとの正反対の批判がある(座談会・前掲二五頁

> (正田発言)など)。しかしカルテルの不当利得の計算は、実務上の便宜をさ

> ておいても、何らかの擬制は避けられない。たとえば、仮に不当利得額が正確

> に算定できたとしても、カルテルが三年間を超える場合三年を超える分の不当

> 利得は剥奪されないから(摘発後もカルテルを続けつつ売上高を減らしていけ

> ば課徴金額を限りなくゼロに近づけることさえ可能である)長期に渡るカルテ

> ルの場合現実の不当利得はさらに多いし、・・・経済的な意味で真の不当利得

> 額を剥奪することにならず、あるいは剥奪しすぎるからである。本来的に擬制

> がやむを得ないとすれば、公取委の前出の報告書は数字をあげていないが、公

> 取委内部では事件毎の不当利益率を算出するための何らかの計算は行われ、そ

> の計算の結果を考慮しても原則六%という数字がさほど実体から離れていない

> と考えて立法されたと考えられ(座談会・二〇頁(加藤秀樹発言)、阿部・前

> 掲書二四七頁参照)、―二条処罰禁止を広く解する立場からはやや不十分であ

> るかもしれないが―前記最高裁判決を前提にすれば、課徴金額引上後もなお慎

> 重な立法であって、立法者の裁量の範囲内といわざるをえないであろう(なお、

> 利益率と不当利得との関連性についての一応合理的な説明および立法時に提示

> すべき算出の方法について、根岸「カルテルに対する課徴金制度の改正」ジュ

> リ九七七号三五頁(一九九一))。なお、独占利潤の享受が一般に適法である

> ことを課徴金の制裁性の根拠にする見解があるが(来生新「阿部教授の『課徴

> 金制度の法的設計』に対する反論」横浜国際経済法学四巻二号六三−六四頁

> (一九九六))、これは適法な市場支配力保有者による単なる独占的価格付け

> と、違法なカルテル、排除・支配行為を伴う違法な私的独占による違法な独占

> 利潤の取得とを混乱するものである(阿部『政策法学の基本指針』二七二−二

> 七三頁(一九九六)の反論を参照)。

> 三 むしろ憲法三九条の射程範囲を広く考える立場から予想される疑義は、民

> 事請求権と課徴金との関係において・・・