生涯発達研究プロジェクト


1.メンバー
2.本研究プロジェクトの目的
3.TAS(The Third Age Studies Society)


1.メンバー

 
小田 利勝(人間科学研究センター)
 平川 和文(身体行動論講座)
 山口 泰雄(成人学習論講座)
 岡田 修一(身体行動論講座)
 藤田 大輔(健康発達論講座)
 松岡 広路(成人学習論講座)
 長ケ原 誠(成人学習論講座)



2.研究プロジェクトの目的

 本研究の目的は、今日およびこれからの少子・高齢化社会におけるサード・エイジャーのアクティブ・ライフスタイルに関わる要因や条件を学際的研究によって明らかにし、その推進策の立案と実施へ向けたプログラムを構築することにある。こうした研究を企画した背景と理由について述べれば次の通りである。
 周知のように、日本は少子化と高齢化が同時に、しかも急速に進行しており、このままの状態が続けば、21世紀は確実に深刻な高齢化問題を抱えることになる。人口の高齢化は高度の産業化がもたらす必然的な帰結であり、人口高齢化に随伴する問題−高齢化問題−は、高度産業社会という「豊かな社会」が抱える構造的な矛盾である。したがって、その解決は容易ではないが、個人および社会のサクセスフル・エイジングの実現に向けて努力を続けることが今日のわれわれに課せられた課題である。
 一口に高齢化問題あるいはサクセスフル・エイジングといっても、その内容は多種多様であり、広範多岐にわたっている。しかもそれらは相互に関連しあっている。そのために、個別の覿点や理論、方法では問題を的確に把握・究明し、その解決策を探ることは難しく、様々な専門領域の研究者や実務家による協力関係の中で新たな観点や理論、方法をもって課題にアプローチすることが必要となる。
 本研究課題でいう「サード・エイジャー」とは、人間の発達過程をファースト・エイジからフオース・エイジまでの四段階に区分したときの第三段階にあたる時期−サード・エイジーにある人々を指す新しい用語であり、日本よりも早くに高齢化が進んだ欧米では既に中高年の代名詞として一般化している。今日およびこれからの高齢化問題の焦点を形成するのは、このサード・エイジヤーであり、サード・エイジャーのサクセスフル・エイジング如何であることは疑いがない。これが、本研究においてサード・エイジャーのアクティブ・ライフスタイルを学際的課題として取り上げる理由であり、本研究の特色である。
 これまでの発達研究においては、ほとんどの場合、50歳代以降については関心をもたれることがなかった。したがって発達研究の課題として本格的に取り上げられるようになったのはごく最近のことに属する。発達科学を学部名称とする本学部の教育研究に対して、また、日本の発達研究に対して、さらには世界の発達研究にも、本研究は少なからぬ貢献を果たすことができるものと考える。


3.サードエイジ研究会(TAS)の発足とこれまでの研究報告
 
はじめに
 
 「サードエイジ研究会」(Third Age Studies Society:TAS)は、神戸大学発達科学部において高齢化社会あるいは高齢者に関わる研究を手がけている研究者によって、昨年(2000年)の4月に設立された学際的な研究集団である。これまでに6回の会合を行い、第2回からは、併せて「人間科学研究センターセミナー」としても一般公開の研究報告会を開催してきた。今後は、研究会の趣旨に賛同される学内外の研究者、実務家、院生・学生、市民の参加をえて、研究会の活動を充実させていきたいと考えている。ここでは、研究会設立の趣旨と研究会の目的等について簡単に紹介し、第2回以降の研究会における報告の概要を記すことにする。なお、この概要は、各回のサードエイジ研究会/人間科学研究センターセミナーの案内ポスターに記された「報告者の言葉」である。各報告の詳細に関しては、報告後に報告者自身によってまとめられた論文を参照していただきたい。それらは、順次『人間科学研究』に掲載される予定である。
 
3-1.サードエイジ研究会の設立趣旨と研究会の目的など
 
(1)設立趣旨
 人口の高齢化は高度の産業化がもたらす必然的な帰結であり、人口高齢化に随伴する問題−高齢化問題−は、高度産業社会という「豊かな社会」が抱える構造的な矛盾である。したがって、その解決は容易ではないが、豊かで長命を寿ぐことができる真の意味での長寿社会の実現に向けて努力を続けることが現代に生きるわれわれに課せられた課題である。
 一口に高齢化問題といっても、その内容は多種多様であり、広範多岐にわたっている。しかもそれらは相互に関連しあっている。そのために、個別の観点や理論、方法では問題を的確に把握・究明し、その解決策を探ることは難しく、様々な専門領域の研究者や実務家による協力関係の中で新たな観点や理論、方法で問題に接近することが必要となる。「サードエイジ研究会」(Third Age Studies Society:TAS)と名づけた学際的な研究会の設立を企図したのはそのためである。
 ところで、サード・エイジとは、人間の発達過程を四段階に区分したときの第三段階にあたる時期のことであり、この時期にある人々を「サード・エイジャー」(Third Ager)と呼び、中高年層の代名詞とされることがある。現在、そしておそらくは将来も、高齢化問題の焦点を形成するのは、このサード・エイジャーであることは疑いがない。これが、この研究会を「サードエイジ研究会」と名づけた理由である。いうまでもなく、高齢化問題はサード・エイジャーの問題に尽きるわけではない。この研究会では、高齢化社会に関わるさまざまな問題を取り上げ、自由闊達な研究交流の場としていきたい。
(2)研究会の目的
 会員相互の研究交流と共同研究の実施
(3)研究会の会員
 研究会の趣旨に賛同する人であれば、他の条件等は一切問わない。
 会員相互の研究交流と共同研究の企画、実施。
(4)会員の義務と権利
 会員は、随時開催される研究報告会に出席し、研究報告を行うとともに、研究会の運営に携わる。
(5)研究会事務局
 当面の間は、神戸大学発達科学部人間科学研究センター小田研究室に置く。
 
 なお、設立当初のメンバーは次の7名である。
 小田利勝(人間科学研究センター、社会学・社会老年学)、平川和文(身体行動論講座)、山口泰雄(成人学習論講座)、岡田修一(身体行動論講座)、藤田大輔(健康発達論講座)、松岡広路(成人学習論講座)、長ケ原誠(成人学習論講座)。
 この研究会は、すでに述べたように、高齢化社会に関わる問題を多様な観点から取り上げることによって理論的、実践的な課題を解明することを目指している。したがって、研究会の趣旨に賛同する人であれば、そのバックグラウンドの如何に関わらず参加を歓迎する開放的な研究会である。このことに関連して、文化人類学者のFry(1996)がemicとeticという言語学の用語を用いて述べていることを紹介しておこう(Christine L. Fry, Age, Aging, and Culture, in R. H. Binstock and L. K. George eds., Handbook of Aging and the Social Sciences, fourth edition, 1996, Academic Press)。
 Fryは、「老年学(gerontology)の中心テーマは高齢者の世界や高齢者の喜び、高齢者が抱えている問題を究明することである」が、「老年学は、高齢を経験したことのない−高齢者ではない−研究者によって創り出されてきた(the etic)」という。したがって、「そこでは、高齢者は老年学の<対象>として扱われてきたが、老年学の中心テーマからいえば、高齢者の経験は、高齢者自身の観点から考察されなければならない(the emic)」といい、そうすることによって、「新しい問題の発見やこれまでの成果の再定式化が可能となろう」という。
 この研究会も、いまのところは、みな高齢期を経験したことのないメンバーで構成されており、「サードエイジ研究会」とはいえ、サード・エイジャーであるメンバーも少数派である。その意味では、etic orientedあるいはetic perspectiveな性格の研究集団ということになる。しかし、シーザーを理解するのにシーザーでなければならないことはないのと同様に高齢期あるいはサード・エイジを経験しなければ高齢期あるいはサード・エイジの問題を理解できないということではない。この研究会も、これまでのeticな研究に加えてemicな研究も重視していきたいと思う。そのために、この研究会に関心のある多くのサード・エイジャーの参加を求めていく所存である。

3-2.これまでの研究報告の概要

(1)いま、なぜサードエイジかPDFファイル。Adobe Acrobat Readerをお持ちでない方は、こちらから無料で ダウンロードできます)
報告者 小田利勝
日 時 2000年9月18日(月) 17時〜19時
場 所 人間科学研究センター4階452室
報告者の言葉
 前記「設立の趣旨」に同じ
 
(2)高齢者の運動能力
報告者 平川 和文
日 時 2000年10月6日(金) 17時〜19時
場 所 人間科学研究センター4階452室
報告者の言葉
 前回の研究会では、サード・エイジの概念 ・背景、それに高齢化・高齢者と係る研究課題について話題提供されました。サ ード・エイジは暦年齢ではなく、人間の一生の過程を4つの期に分けた第三期目 で、『成熟や円熟・完 成、新たな始まりの時期』という概念との説明でした。生活水準が豊になり長生 きとなった現代、人の生き方に対する一つの概念の提案のように受け取りました。人がより質の高い生活を送るためには健康で体力があるにこしたことはありません。このことは、人の最後のフォース・エイジが、自立したアクティブな生活が送れない『依存、老衰、死』の期と定義されていることからもそう感じます。我々は震災前後に積極的に高齢者の体力について調査しました。今回は我々の研究の方法論と高齢者の体力および運動処方について話題提供し、発達科学研究の視点からの共同研究の可能性を検討していただければと思います。
 
(3)企業従業員の健康生活習慣と受療状況
報告者 藤田 大輔
日 時 2000年10月31日(火) 17時〜19時
場 所 人間科学研究センター4階452室
報告者の言葉
 平成7年度から健康保険組合連合会大阪連合会と共同で実施している調査のうち、平成11年度に実施いたしました1企業の現職者(20歳〜60歳)と定年退職者(61歳〜70歳)、約800名の健康生活習慣の実践状況、精神的健康度、その他社会・心理要因に関連する調査項目の測定結果と、レセプト(診療報酬請求)情報から得られた年間通院日数と医療費、定期健康診断 における各種測定値との関連性について検討した結果について報告させていただき、参加者の忌憚のないご意見を伺えればと願っております。
 
(4)「転ばぬ先の杖」に関する体力科学的研究
報告者 岡田 修一
日 時 2000年11月29日(水) 17時〜19時
場 所 人間科学研究センター4階452室
報告者の言葉 
 最近、お年寄りが転倒したことによって骨折し、そのまま寝たきりになったという話を身近で聞くようになりました。このように転倒は重篤な結果を招くばかりでなく、転倒経験による転倒への恐怖心は閉じこもりを発生させ、活動性の低下を引き起こします。その結果、身体機能の低下が促進され、一層転倒しやすくなるという悪循環が形成されます。8年ほど前から、高齢者を対象に転倒状況を考慮したバランス能力の測定・分析を行ってきましたので、それらの結果について報告します。いくらトレーニングを積んでいる人でも、30歳を過ぎた頃から身体機能は着実に退行性の変化を示します。誰でも老いるにつれ、転倒の危険性が高くなります。「転ばぬ先の杖」の「杖」に関する学際的アプローチについて議論する機会となれば幸いです。
 
(5)アクティブな高齢者を目指して−研究動向と海外のスポーツ政策−
報告者 山口 泰雄
日 時 2001年1月30日(火) 17時〜19時
場 所 人間科学研究センター4階E452室
報告者の言葉 
 高齢者人口の世界的な増加に伴い、先進国だけでなく、途上国においても、『アクティブ(活動的で自立できる)な高齢者』が期待されている。今回は、加齢と生涯スポーツの意義と研究動向を解説し、世界における高齢者に対するスポーツ振興策を紹介する。特に、世界の高齢者スポーツ振興の先駆的な政策を展開している4ヶ国(カナダ、ニュージーランド、オランダ、オーストラリア)のキャンペーンと 事業を取り上げる。最後に、振興の論点と今後の研究課題を論議したい
 
(6)スポーツと身体活動からみた高齢者像とエイジング
報告者 長ケ原 誠
日 時 2001年6月12日(水) 17時30分〜19時30分
場 所 人間科学研究センター4階E452室
報告者の言葉 
 これまでの高齢者像・加齢観が高齢期におけるスポーツ・身体活動に与える影響と、その逆の、スポーツ・身体活動がエイジングに関するステレオタイプに与える影響の可能性を国内外の事例から議論できればと思います。ビデオショーやスライドショーでビジュアルなプレゼンテーションをしたいと思います。
 
(7)シニア世代の新しい生き方
報告者 土田二郎(社団法人伊丹市シルバー人材センター理事長)
日 時 2001年10月26日(金) 17時00分〜19時00分
場 所 発達科学部A309室
ポスターの案内文から 
 これまで開催してきた研究会/セミナーは、報告者も参加者も高齢期を経験したことのない世代によるetic oriented/perspectiveなものであった。今回は、サード・エイジの生き方を実践している土田氏をお招きして、以前にお約束しましたように、emic orientedな研究会/セミナーを開催します。
 
(8)サード・エイジャーのアクティブ・ライフスタイルを考える
報告者 小田、平川、山口、岡田(修)、藤田、松岡、長ケ原
日 時 2002年6月11日(火) 17時15分〜19時15分
場 所 発達科学部人間科学研究センターE452室
ポスターの案内文から 
 今回の公開研究会/セミナーは、当研究会TASが総力を挙げて取り組んでいる「サード・エイジャーのアクティブ・ライフスタイルに関する調査研究」をいっそう充実させるために、研究会メンバーが「アクティブ・ライフスタイル」に関する概念的検討や問題関心、調査・研究方法などについて短い報告を行い、それをもとに議論します。
 
(9)サード・エイジとアクティブ・エイジング
報告者 小田、平川、山口、岡田(修)、藤田、松岡、長ケ原
日 時 2003年2月1日(土) 13時00分〜17時00分
場 所 神戸市産業振興センター
当日配布した 概要集 です。シンポジウム当日の 会場風景 です。写真をまとめて掲載していますので、表示されるまで少し時間がかかるかもしれません。  基調講演 

3-3.サードエイジ研究会の会員(2004年2月24日現在)
 
 小田 利勝 (人間科学研究センター)
 平川 和文 (身体行動論講座)
 山口 泰雄 (成人学習論講座)
 岡田 修一 (身体行動論講座)
 藤田 大輔 (健康発達論講座)
 松岡 広路 (成人学習論講座)
 長ケ原 誠 (成人学習論講座)
 稲場 圭信 (人間科学研究センター)
 溝田 弘美 (高齢者政策論・ニューヨーク在住)−学外会員
 宮内 康二 (ニッセイ基礎研究所)−学外会員
 谷口 寛子 (北海道医療大学大学院看護福祉学研究科博士後期課程臨床福祉専攻)−学外会員
 冨澤公子  京都府勤務(立命館大学大学院社会学研究科)−学外会員
 佐藤 望  近畿大学理工学部講師−学外会員
 
おわりに
 
 サードエイジ研究会は、誕生して間もない研究集団である。いま、しばらくはメンバー各自の日頃の研究活動とその成果を報告しあうことによってメンバー相互の研究交流を進め、サードエイジにかかわる研究課題や実践的課題を新たな観点から掘り起こしていくことになる。そして、その過程で研究会独自の特定テーマを設定し、共同研究を進めていくことを予定してる。人間科学研究センターセミナーは、そうした研究会の活動と成果をより広く一般に公開し、さまざまな観点・関心からの議論が展開される場として機能することになる。
 サードエイジ研究会の趣旨に賛同する方、高齢化問題や中高年層の生活に関心のある方の研究会への参加と人間科学研究センターセミナーへの出席を呼びかけて今回の報告とする。なお、サードエイジ研究会および人間科学研究センターセミナーに関する問い合わせ先を以下に記しておく。(文責:小田 利勝)

電話・ファックス: 078-803-7891   電子メール: oda@kobe-u.ac.jp
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