卵母細胞の体外発育

 いきなり卵母細胞と書くととてもむずかしそうですが,精子と受精してこどもになる卵子のもとになる細胞と考えてください。ヒトも含めて哺乳類では,お母さんのからだの中で受精が起こりますが,卵子はお母さんのからだの中の卵巣とよばれる器官の中で形成されます。卵巣の中には数多くの卵母細胞がたくわえられており,その数はヒトで30万個,ウシでは10万個ぐらいと言われています。この卵母細胞のすべてが卵子になるわけではありません。ほとんどの卵母細胞は小さくて(直径20〜30ミクロンぐらい;1ミクロンは1/1000ミリ)眠ったようじっとしています。ほんの少しの卵母細胞だけが大きくなります(私達は,この卵母細胞が大きくなる過程のことを卵母細胞の発育とよんでいます)。卵母細胞は最終的には,動物によってきまった大きさ(ヒトやウシでは120〜125ミクロン)にまで発育しますが,実際に完全な大きさにまで発育する卵母細胞は,数多く存在している未発育な卵母細胞のうちのほんのわずかにしかすぎません。

 卵巣の中にはいろいろな発育段階の卵母細胞が存在しています。卵母細胞は顆粒膜細胞とよばれるたくさんの細胞に取り囲まれ,さらにその外側は卵胞膜細胞という別の種類の細胞によって取り囲まれています。この卵母細胞,顆粒膜細胞そして卵胞膜細胞からなるひとつのユニットは卵胞とよばれています。卵巣表面はデコボコしていて(ノッペリした卵巣をもった動物もいますが),表面にとび出した大きな卵胞には,発育を終えた大きな卵母細胞が,卵巣内の小さな卵胞の中には小さな卵母細胞が入っています。

 1996年の1月にアメリカのジャクソン研究所のJohn Eppig博士とMarilyn O'Brien博士は,2種類の培養方法を組み合わせて,マウスのまだ発育を開始していない小さな卵母細胞(直径約20ミクロン)を体外で最終の大きさ(直径約70ミクロン)にまで発育させ,受精させてマウスの赤ちゃんを誕生させました。残念ながら,マウス以外の動物では体外で発育させた未発育な卵母細胞からこどもは得られていませんし,もっとからだの大きな動物では,未発育な卵母細胞はもちろん,発育の途中の卵母細胞を体外で発育させることもむずかしいのです。卵巣から小さな卵母細胞を取り出して体外で大きくすることができれば,1匹の動物から利用できる卵子の数は飛躍的に多くなることになります。家畜などの改良に役立つほか,不妊症のヒトの治療にも応用できるかもしれません。数の少なくなった野生動物の卵巣から取り出した小さな卵母細胞から,たくさんのこどもたちを生みだす技術が開発される日もそう遠くはないかもしれません。

 現在,私達はブタとウシの発育の途中にある卵母細胞を体外に取り出して,発育させる培養方法を作りだそうとしています。直径約0.5ミリの卵胞から採取した直径90〜100ミクロンの卵母細胞を体外で10日〜2週間培養すると,卵母細胞は最終の大きさの120ミクロンへと発育します。ブタやウシの卵母細胞の体外での発育には,卵胞刺激ホルモン(FSH)やヒポキサンチンという特殊な成分が必要なこと,また体外で発育させたブタやウシの卵母細胞も,からだの中で発育した卵母細胞と同じように卵子になる能力を獲得することや精子の侵入を受けることを,私達は発見しています。1998年の4月には,徳島県の肉畜試験場との共同研究で,発育の途中にある直径95ミクロンの卵母細胞を体外で発育させ,成熟,受精させたのち雌ウシに移植して,世界ではじめて子ウシを出産させることに成功しました。子ウシの名前は
ロペスです。

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