平成20年6月17日
岩手宮城内陸地震における上下水道施設被害の緊急報告
神戸大学大学院工学研究科 鍬田泰子
調査期間:平成20年6月15、16日(2日間)
調査メンバー:鍬田泰子(神戸大学)、山下慎吾(神戸大学大学院生)
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【栗原市上下水道】
公共下水道(栗原市上下水道部下水道課 佐藤氏より)
被害箇所
鶯沢地区:単独特環 行政区域人口 2,949人
MH被害50箇所 ヒューム管使用 H10供用開始
処理施設の被害なし
一迫地区:迫川流域関連特環 行政区域人口 8,707人
MH被害10箇所 VP管使用 H12供用開始
処理施設の被害なし(流域下水のため登米市石越にある)
MH被害は1〜22cmの浮上
滞留しているところでは、吸引をかけている。
供用期間が浅く、更生管はない。
現地状況(6月15日午後)
栗原市鶯沢南郷周辺
農業水路沿いのMHが7箇所連続して浮上している。この路線については、洗浄およびTVカメラによって調査中であった。
(1) (2)
(3) (4)
(5)
水道被害(水道課 鹿野氏より)
栗原市の断水戸数 2780戸(6月15日の状況)
地区 |
戸数 |
復旧状況 |
尾松、姫松、桜田 |
1,021 |
配水管破損 |
(築館全域) |
(5,473) |
(濁水) |
花山 |
60+65 |
小豆畑簡水の配水池崩壊(池の破損・横転)+山内簡易水道の崩壊 花山地区は道路寸断のため、住民避難中。立ち寄れない状況 |
鶯沢 |
1,041 |
配水管の被害 |
栗駒 |
302 |
導水管の被害 |
文字 |
274 |
道水管の被害 |
山口 |
17 |
不明 |
ヒアリングより4地区の水道システムの被害が大
・ 花山 簡水:水源は湧水 道路通行止めのため被害確認が困難な状況。住民は避難中。
・ 栗駒 上水:栗駒ダムで取水、配水池までに被害あり。簡水:湧水を水源とする。
・ 鶯沢 簡水:水源は2箇所 花山の表流水と湧水、配水池まで通水。配水管の復旧活動中。
・ 文字(もんじ)簡水:水源は湧水 荒砥沢ダム周辺で取水 被害箇所不明
栗駒・鶯沢は復旧中、他は復旧見込みなし。
日水協への要請
14日夕方、宮城県支部に給水応援のみ依頼。当日18時半以降に給水車到着。15日午前で応援の給水車11台が給水活動を展開している。
栗原市はH17.1に10か町村が合併した。各町村の上水・簡水の水源・給水は独立している。総合支所でそれぞれ管理しているが、各支所の水道技術者は1,2名程度である。
現地状況(6月15日午後)
栗原市鶯沢南郷周辺
(6)MH周辺の曲がり管周辺で漏水を確認中。
(6) (7)
(8) (9)
(7)-(9) 鶯沢の河川橋手前で石綿管が破損した。管路は河川底部に埋設されていた。河川盛土周辺の管路がコンクリートで巻きたてられており((7)の左側)、それが固定部分となり周辺地盤との段差で管路が破損した。破断面はシャープであった。VP管で復旧していた。
(10)
周辺の被害。くりはら田園鉄道沿いの学校の盛土が幅約50mですべっている。
【奥州市水道】(水道部建設課 境田氏より)
被害箇所
元衣川(ころもがわ)町営水道にのみ被害が発生。
衣川区北股簡易水道(地図上部も細長く斜めの範囲)・衣川区南股簡易水道(地図南側の範囲)の2つの簡易水道において断水中 (元1400世帯の給水エリア)
北股簡易水道:増沢地区の湧水を水源とする。取水施設は道路寸断により立ち寄れず、被害は未確認である。配水池に亀裂が発生していた。隣接水道との緊急連絡管を用いて配水管に通水を開始し、漏水確認をした。16日までに復旧し、配水管には被害がなかった。施設周辺の上流地域は一部断水中。
南股簡易水道:水源は3箇所。地域西側の湧水を水源とする2系統と地域東側の浅井戸を水源とする系統がある。湧水水源地域では、断層を横断する地域に相当する。VP管の系統では、斜面崩壊と斜面沿いの路面沈下と路面圧縮亀裂による被害があった(12)。DIP管の系統では、水源近くで漏水が発生した。導水管の被害は修復されたが、湧水が濁っているため給水できない状況にある。塩素処理しかないため、湧水系統の施設では濁水対応できない。古戸水源(浅井戸)系統では、配水池(総合支所裏手)のオーバーフロー管のボルトが破損し、漏水した(13)。16日朝までに復旧し、その後配水を再開し、配水管の被害を確認している最中である。高区配水池には被害がなかった。
(11) 奥州市・衣川地区簡易水道
(12)斜面崩壊と周辺路面は圧縮亀裂あり (13)オーバーフロー管が損壊した配水池
日水協への応援あり。
県支部より地震当日から3台。(盛岡・タキザワ(15日まで)・ヤハバ(当日のみ))
周辺の被害
Rt49の奥州市から一関市に抜けるところの「餅転(もちころばし)橋」手前。路面が圧縮亀裂している。
(14)左側の桁端部のコンクリートが圧縮力を受けて亀裂が発生している。(14)右側の桁には亀裂なし。(12)の水源近くの斜面崩壊・路面亀裂と同じく断層延長上に位置する。
(14) (15)
(16) (17)
【一関市水道】(水道部給水課 高橋氏より)
断水中の水道施設は、断層周辺の2つの簡易水道
祭畤簡易水道 計画給水人口 62人
板川簡易水道 計画給水人口 3588人
祭畤簡易水道:
表流水を水源としている。
祭畤浄水場・配水池施設は15日まで現地入りできなかった。15日に自衛隊とともに現地を確認。目視確認においては顕著な被害はなかった。Rt342の祭畤橋の落橋で、桁に添架していたDIPφ75が桁の崩壊とともに損壊している。復旧の見込みはない。
板川簡易水道:
表流水・地下水を水源としている。
配水管は、消火栓との取り合い部分で漏水被害があった。しかし、16日現在でそれ以外の配水管に被害はない。配水管はDIP(K)とHIVPを使用している。
日水協への応援要請はしなかった。一関市の花泉・東山地区から応急給水車の応援あり。
(18) (19)
断層周辺の水管橋。支承部に大きな損傷は確認できなかった。
(20) 東北電力碧井川発電所の様子(マスコミで変圧器が損傷したとの報道あり)
断層変位との関係
一関市Rt49に並行するように表層断層変位があり。柧木立周辺では、斜面崩壊により樹木が道路を閉塞。その周辺で、水田に断層変位を確認。水田を横断するように、写真の奥側の地盤が隆起し、水田の水がない。水田横のRt49では、路面亀裂を修繕した後があり。Rt49沿いで水田の反対側に小さい河川と水管橋がある。水道局からここの管路の被害は聞いていない。
河川法面のブロックも断層延長上で亀裂がある。この断層の延長は数100mに渡って確認することができる。この地域の管路はDIP(K)φ100が埋設されているが、管路被害は聞いていない。
(21) (22)Rt49の第1ポンプ場
(23) (24)
(25) 路面の段差 (26) 盛土コンクリートの亀裂
(27) 簡易水道のエリア
(28)全体の水道施設の位置関係
(28)は今回の地震で被害を受けた水道供給エリアである。水色は水道供給エリア(栗原市はヒアリングから得た大まかな位置)を示している。赤○は水源や配水池などの施設。青○はその他の施設。黄緑色の線は断層と考えられる位置。
今回の地震は逆断層タイプの地震であり、図左側が上盤となる。上盤の水道施設については、現地に立ち入れず、被害を確認できない地域が多い。断層東側の地域では、一部管路の被害が見られるが非常に軽微である。断層周辺の住宅でも倒壊・傾斜などの被害は見られない。
まとめ
震源周辺の上下水道施設の被害について調査した。
断層上盤側の水道エリア、水道施設については道路寸断のため被害の確認ができない状況にある。一関市のRt342の祭畤橋に添架されていた水道管は、桁の崩壊にともない損傷している。しかし、断層と横断していると考えられる箇所の表層に現れている断層変位は小さく、K形継手のダクタイル管でも損傷していない。
断層周辺で非常に大きい強震動が観測されたにもかかわらず、路面の地盤変状は少なく、埋設物の被害は非常に少なかったといえる。しかし、被災地域では湧水を水源とする簡易水道が多く、濁水対応に追われていることが顕著であった。日水協の県支部から給水応援は要請されたが、被害箇所が少なく復旧応援の要請はなかった。断層変位と管路との関係については、今後詳細な検討が必要である。