スギ集団葉枯症の調査結果
黒田慶子
調査地:宮崎県 西米良村,椎葉村 2005, 5, 23-25
- 5月24日午後の調査地(椎葉村)
- 昨年の台風による倒木(根がえり.生存)の樹幹から円盤を採取した.
- 葉枯れおよび枝の減少がある1個体と,異常のない健全木1個体.
- 年輪幅の変動から,異常発生年度を推定した
- 肥大成長の推移から,葉枯れに関わる要因について検討した.


- 葉枯れの見られる個体では,1994年に年輪幅が急に狭くなり,現在まで1mm以下である.対照木では大きな変動は見られなかった.94年には300年に一度と言われる著しい旱魃が発生した.
- 94〜95年
には近畿や九州で多数のスギ・ヒノキの枯損が報告された(宮崎では讃井さんが報告).当時の枯死木や梢端枯損木では暗色枝枯病の繰り返し感染が特徴的で,通導が低下した罹病木で水分通導が停止し,枯死したと解釈された.
- 宮崎県の葉枯症個体では,褐色葉枯病の病徴がよく認められた.この病気は恒常的に発生する林分の存在が以前から知られている.しかしこの菌は病原力が弱く,健全木には内生菌として存在する(秋庭さんのデータ)ことから,何らかの条件で樹木の生理的活性が落ちた時に発症するものと推測されている.
- この試料の95〜2005年までの肥大成長低下は,95年以降の葉量減少との関連が推測される.
現地調査の結果と被害木断面から示唆されることがら
- 94年の夏季には水分供給がほとんど無かったため,根,樹幹,梢端で通導がほとんど停止した可能性がある.通導停
止がある期間継続し組織が乾燥すると,再度水分が補給されても通導の回復は困難であることが知られている.根の壊死や通導停止は,地上部への影響が大きい
と推定される.
- 95年以降に肥大成長が続いた場合でも,梢端への水分供給の減少は免れない.水分供給不足が続くことで,肥大成長不良や枝葉の減少が継続した可能性がある.
- 褐色葉枯病の病徴が出たのは,水分不足やカリウムの供給不足により,樹体組織の防御反応が弱められたため,と考えるのが妥当であろう.
- ドイツのシュバルツバルトで「酸性雨による枯死」と昔言われたところでは,その後の調査で特定の年度の旱魃が枯死の直接原因であることが明らかにされた.マグネシウムの欠乏も指摘されているようである.スギの葉枯症の原因を絞り込むには,このような事例との比較も有効と考えられる.
- 樹幹断面からは貴重な情報が得られるので,やはり伐倒調査は不可欠である.ただし,「影響の出た時点を把握する」目的では,樹幹解析は不要と思われる.