2009年3月、東北大学の火山探査移動観測ステーションMOVEの実験に同行させて頂く形で、阿蘇山での運用試験を行った。実際の火山近傍での運用は初めてであり、非常に有意義なものとなった。
大学付近での走行実験によって、ある程度実用的な機体にすることができた。そこで、実際の火山の地形において試走することで、運用するうえでのノウハウや課題を見極めるために、阿蘇山において実験することとした。特に、火山特有の地形における登坂能力の検証と、遠隔操縦の検討を目的とした。
阿蘇山頂の谷状となっている地形を利用して、登坂能力の検証を行った(地図ー実験1)。進路を選ぶことで、最大傾斜30度程度の斜面を登ることはできた。しかし、予想以上に地面が柔らかく、車輪が掘って半ば埋まってしまい、方向転換などが難しくなることもあった。また、斜面では非常に繊細な操縦が要求され、遠隔操縦で将来的に動かすことを考えると、登坂能力にもやや不安が残る結果となった。
火口縁を数百m往復したが、問題なく走行できた。中央の空洞に石がはまり込み動けなくなる問題などはあったが、平坦な地形に関しては、走行性能に問題はないといえる。フル充電で1時間半程度の連続運転が可能だった。
アスファルト上ではあるが、阿蘇山頂から麓の有料道路料金所付近まで目視にて走行した(地図ー実験2)。人の歩く速度程度で1km以上を1時間程度で走り切った。
各走行実験で共通の問題点として、走行中に足が外れてしまう、また、モーター内部のギアが破壊される、というものがある。特に後者については深刻で、一度の走行で必ず1つは破壊されるほどの頻度であった。前者は足の固定方法に何らかの改良を加える必要がある。後者は、衝撃を吸収するなどの方法で出来るだけ頻度を抑えたいが、構造上ある程度はやむを得ないのかもしれない。
遠隔操縦も試みたが、白黒80×60ピクセル程度の画像でも取得に5秒程度必要であり、とても実用的とは言えないものだった。主に無線機の通信速度の限界によるものであり、携帯電話など何らかの別の通信機器を検討するか、あるいは画像の圧縮でわずかでも速度を上げるか、いずれかの方法しかないと考えられる。どちらを向いているのかすら分からない状況であったため、電子コンパスの搭載も必要である。
無線機の通信距離に関しては、阿蘇山頂から火山博物館前までの3km程度は可能であった(地図)。しかし一方で、少しでも物陰に入ると通信が不安定になった。アンテナを高くするなどの対策が必要である。
電池については、充電器による一斉充電で2時間半程度で再度走行が可能であり、問題ないといえる。ただし、負荷がモーターの位置によって違うらしく、まだ使える電池があるにもかかわらず充電が必要となるケースが何度かあった。NiH電池の特性上、充電前に放電する必要があるが、放電機は一つしかなく、円滑な運用の妨げとなっていた。モーターを回しっぱなしにすることで一斉に放電することで対応していたが、一度過放電により電池を痛めたこともあった。また、後で記すように充電器のプログラムミスで悲しい事故も起こった。
柔らかい地面による高い負荷、点在する岩石への衝突、落下の衝撃などのためと思われるが、モーターギアが次々と壊れた。予備として3つのモーターを持って行っていたが、すべて使い切ったうえ型番の違う古いモーターまで使用するはめとなった。最終的には、10あったモーターのうち、無事なのは3つのみという結果となった。モーターが壊れると一度防水用のテープを?した上で分解する必要があるため、手間がかかると同時に痛ましい気持ちにすらなった。かわいそうに
遅くまで実験しており、メンテナンスなども必要であったことから、夜間寝ている間に充電することがあった。所要時間は2時間半、自動的に充電を終了するプログラムとなっていた・・・はずだった、が。朝起きるとまだ充電中の表示。あわてて電源を切るが、電池が異常に熱い。2時間半程度で終了するところを6時間以上にわたって充電していたのだった。原因は最近変えたプログラムミス。終了と同時に再度充電を再開するようになっていた。結局、過充電された電池の幾つかは使い物にならなくなり、急遽予備の電池と本来使うはずのなかった大型の単二電池を搭載して、実験をするはめとなってしまった。