研究内容
●論文一覧はこちら
●研究テーマ:波形インバージョンによる地震の震源の破壊過程の推定
地震の本質は地下での岩盤の破壊現象です。この破壊は,面(震源断層面)の両側の媒質が面に沿って食い違う(すべる)という形式(剪断破壊といいます)をとります。震源での破壊は一瞬で起きるわけではなく,ある程度の継続時間を持つので,震源での破壊が始まって終わるまでを「破壊過程」とか「震源過程」と呼びます。この震源の破壊過程,つまり震源ではどういうことが起きているのかを,地震計によって記録される地面の揺れのデータ(地震波形データ)の解析から知ることができます。
具体的には,震源モデルを仮定して,更に震源から観測点までに至る道のりが波形に与える影響(Green関数)も求めておいて,計算した合成波形が観測波形とよく合うようにプログラムを組んでは,計算機上で震源モデルをいじってやります。これを震源の波形インバージョンといいます。観測波形と合成波形の「波形合わせ」は,観測波形と合成波形の自乗残差を最小にするという形で実現するので,これは最小自乗問題となります。したがって,波形インバージョンとは,つまるところ計算機上で大規模な行列計算を行って,最小自乗問題を解く,ということになります。つまり,地震の解析に線型代数の知識が活躍するわけですね。この波形インバージョンという手法は,1980年代から90年代にかけてめざましい進歩を遂げた手法です。
このようにして,目では直接見ることのできない地下での震源の破壊過程を詳しく調べることができます。このような解析事例を蓄積していくことにより,地震という現象の本質の理解を深めていくことができます。
<論文・講演等>
・波形インバージョンによる2001年兵庫県北部地震の震源過程
(Kimura and Kakehi, BSSA, 2005)
・波形インバージョンによる2001年芸予地震の震源過程
(Kakehi, JGR, 2004)
・波形インバージョンによる2000年三重県中部のスラブ内地震の震源過程
(山内・筧,2001年地球惑星科学関連学会合同大会,Sy-P002)
図:波形インバージョンによる2001年芸予地震の解析(上:波形合わせ,下:震源断層面上のすべり量分布)
2000年三重県中部地震の解析のポスターのpdfファイルがこちらにあります
●研究テーマ:加速度記録のエンベロープインバージョンによる震源断層面上での高周波地震波の生成過程
およそ1Hzより低周波(長周期)の地震波については上述の「波形合わせ」ができるのですが,1Hzより高周波(短周期)の地震波の波形合わせをしようと思っても
波形がガチャガチャしすぎていてガチャガチャの山谷を合わせ込むのは殆ど不可能(というかそれほどの時刻の精度がない)
という問題が生じます。しかし,高周波地震波というのは地震の破壊過程がギクシャクするところ(破壊伝播速度が急変するところ)からよく生じると考えられており,破壊過程の複雑さを理解するには欠かせない情報です。さらに地震動による被害ということを考えると,1Hz前後の地震波の成因について調べることは非常に重要となりますので,波形合わせができないからといってあきらめてしまうのは残念です。そこで,個々の波形の山谷を合わせることは断念して,波形をスムージングしたエンベロープ(包絡線)を合わせましょうというのがエンベロープインバージョンの発想です(すごく単純)。これでもって従来インバージョンの俎上に載せることができなかった1Hzより高周波(短周期)の地震波の断層面上での出所(でどころ)がインバージョンで推定できるようになりました。この場合の分解能は当然ながらエンベロープの持つ波長で規定されます。従ってエンベロープインバージョンで1Hzより高周波(短周期)の地震波についての情報が引き出せるといっても,1Hz以上の波の持つ分解能で破壊過程の推定ができるわけではありません。
エンベロープインバージョンでいくつかの地震について解析した結果,断層面上での波の出所は周波数によって結構違うことが分かりました。例えば1993年釧路沖地震(MJMA=7.8)では波形インバージョンから推定された周期10秒程度の地震波の出所はもっぱら断層面の中の方の破壊開始点付近でしたが,2-10Hzの高周波の地震波はもっぱら断層面の端から出ていました。実は単純なクラックの破壊の場合には正にこうなります。このことから釧路沖地震の震源過程は割と単純であったと想像されます。
<論文・講演等>
・1995年兵庫県南部地震の解析
(Kakehi et al., JPE, 1996)
・1994年ノースリッジ地震の解析
(第4回都市直下地震災害総合シンポジウム論文集,1999)
・1993年北海道南西沖地震の解析
(Kakehi and Irikura, BSSA, 1997)
・1993年釧路沖地震の解析
(Kakehi and Irikura, GJI, 1996)
こちらに図があります
●研究テーマ:数値シミュレーションによる地震波の破壊過程の研究
<論文・講演等>
・震源過程が地震波形に与える影響 (2)
(筧,2004年地球惑星科学関連学会合同大会,S046-P014)
・震源過程が地震波形に与える影響 (1)
(筧,2000年日本地震学会秋季大会,P106)
●研究テーマ:地震発生の相互作用に関する研究
<論文・講演等>
・2001年兵庫県北部地震の本震・余震による静的応力変化と群発的余震活動の関連
(Kimura and Kakehi, BSSA, 2005)
図:2001年兵庫県北部地震の本震による静的応力変化(ΔCFF)とそれによって励起されたと推定される群発的余震活動
●研究テーマ:島弧の構造が強震動に与える影響
<論文・講演等>
・東北日本弧の減衰構造とスラブ内地震による強震動
(西條・筧,2004年日本地震学会秋季大会,P073)
図:2003年5月の宮城県沖スラブ内地震による強震波形をいろいろな測線でみる
<論文一覧>
Kimura, T. and Y. Kakehi, Source process of the 2001 Hyogo-ken Hokubu, Japan, earthquake (Mw 5.2) and comparison between the aftershock activity and the static stress change, Bull. Seismol. Soc. Am., 95, 145-158, doi:10.1785/0120040012, 2005.
Kakehi, Y., Analysis of the 2001 Geiyo, Japan, earthquake using high-density strong ground motion data: Detailed rupture process of a slab earthquake in a medium with a large velocity contrast, J. Geophys. Res., 109, B08306, doi:10.1029/2004JB002980, 2004.
筧 楽麿,高密度強震観測網の威力 - 2001年芸予地震の震源過程の解析を例に -,月刊地球,25,627-632,2003.
Kakehi, Y. and M. Yamauchi, Source process of an intraplate earthquake: analysis of an event which occurred in the subducting slab, Proceeding of US-Japan Cooperative Research for Urban Earthquake Disaster Mitigation: 2nd Workshop on Prediction of Strong Ground Motion in Urban Regions, 15-20, 2002.
Kakehi, Y., High-frequency radiation process of the 1994 Northridge earthquake, estimated from the envelope inversion of acceleration records, Proceeding of US-Japan Cooperative Research for Urban Earthquake Disaster Mitigation: Workshop on Prediction of Strong Ground Motion in Urban Regions, 17-23, 2001.
Kakehi Y., Modeling of high-frequency wave radiation process on the fault plane from the envelope fitting of acceleration records, Proc. 12th WCEEE, 2, 2275, 2000.
多胡孝一,石橋克彦,筧 楽麿,六甲稠密GPS観測網の構築と検出された地殻変動,神戸大学都市安全研究センター研究報告,3,165-177,1999.
筧 楽麿,強震記録から推定される1994年ノースリッジ地震の震源過程,第4回都市直下地震災害総合シンポジウム論文集,431-434,1999.
筧 楽麿,遺伝的アルゴリズムを用いた断層面上の高周波地震波生成過程の推定,第3回都市直下地震災害総合シンポジウム論文集,73-74,1998.
Kakehi, Y. and K. Irikura, High-frequency radiation process during earthquake faulting - envelope inversion of acceleration seismograms from the 1993 Hokkaido-Nansei-Oki earthquake, Bull. Seismol. Soc. Am., 87, 904-917, 1997.
Kakehi, Y., K. Irikura, and M. Hoshiba, Estimation of high-frequency wave radiation areas on the fault plane of the 1995 Hyogo-ken Nanbu earthquake by the envelope inversion of acceleration seismograms, J. Phys. Earth, 44, 505-517, 1996.
Sekiguchi, H., K. Irikura, T. Iwata, Y. Kakehi, and M. Hoshiba, Minute locating of faulting beneath Kobe and the waveform inversion of the source process during the 1995 Hyogo-ken Nanbu, Japan, earthquake using strong ground motion records, J. Phys. Earth, 44, 473-488, 1996.
Sekiguchi, H., K. Irikura, T. Iwata, Y. Kakehi, and M. Hoshiba, Determination of the location of faulting beneath Kobe during the 1995 Hyogo-ken Nanbu, Japan, earthquake from near-source particle motion, Geophys. Res. Lett., 23, 387-390, 1996.
Kakehi, Y. and K. Irikura, Estimation of high-frequency wave radiation areas on the fault plane by the envelope inversion of acceleration seismograms, Geophys. J. Int., 125, 892-900, 1996.
筧 楽麿,入倉孝次郎,芝 良昭,経験的グリーン関数法による1993年釧路沖地震の強震動波形の合成,京都大学防災研究所年報,37,217-223,1994.
Kakehi, Y. and T. Iwata, Rupture process of the 1945 Mikawa earthquake as determined from strong motion records, J. Phys. Earth, 40, 635-655, 1992.
筧のホームへ戻る
最終更新日:05/04/12