研究テーマ
インフレーション宇宙論はWMAPなどの観測によって支持されています。近年の精密観測に比して理論側の考察がそれに対応できていないというのが研究の動機です。佐藤君や菅野さんとの重力波の円偏光の研究もこの路線です。揺らぎの非ガウス性に関してはさかんに議論されていますが、統計的な非等方性に関する理論はあまり注目されていません。横山君と書いた論文はDavid
Lythに気に入ってもらったみたいです。最近、渡辺君や菅野さんと非等方インフレーションモデルを見つけました。これはなかなか面白い仕事だと思います。パーセントレベルで重要になる現象はまだあるはずであり、それを系統的に研究していきたいと思っています。
- ブレーン宇宙論
ここ数年は(2000年以降)ブレーンワールド宇宙論を主に研究しています。理由は次の通りです。古典的宇宙論の最も深刻な問題は初期特異点が存在するということです。通常、重力の量子論がこの問題を解決してくれるものと多くの研究者は信じています。量子重力理論として最も有力であり、かつ唯一の理論が超弦理論です。そして、超弦理論の最も明確な予言は我々の世界が10次元ないしは11次元であるというものなのです。もちろん、我々が日常経験する世界は時空4次元世界ですから、このギャップは何らかの形で埋めねばなりません。昔から良く知られた解決方法はKaluza-Kleinコンパクト化というもので、余分な6次元空間が小さく丸まっていて見えないというものです。余りにも小さくてそれは観測にもかからないので、我々は気にしなくても良いということでした。ところが、最近超弦理論の発展によって違う機構が考えられるようになってきました。我々の世界は4次元で、10次元時空に浮かんでいる膜(ブレーン)だというアイデアがそれです。何を馬鹿げたことかと思うかもしれませんが、可能性として存在するし、超弦理論のなかではむしろ自然だとさえ思えます。そして最も重要なことは、この機構が実現されているとすれば観測にかかる可能性が大きいということです。余分な次元を観測する方法としては、宇宙初期の名残りを宇宙論的な観測で捕らえることが一番有力です。もし、余分な次元を実証できたらこれは素晴らしいことではないでしょうか?これが我々がブレーン宇宙論を研究している理由です。今までに、ブレーン宇宙のトンネル効果による無からの創世。宇宙論的摂動理論の変換法によるアプローチの提唱。バルクを解くこととブレーン上での有効理論からの挟み撃ちなどの方法論の展開。バルク・スカラー場を使った新しいタイプのインフレーション機構の提唱。低エネルギーでの微分展開法の開発とその宇宙論やブラックホールへの応用。特に、ボーンアゲインブレーン宇宙論の提唱。有効Teukolsky方程式の導出。対称性を利用したKK補正まで含めた有効理論の導出法の提唱。小山、小林、菅野といった優秀な学生が重要な貢献をしました。
- ブラックホール物理学
超弦理論の立場からブラックホールの物理学を研究するというのが目標です。これには2つの相補的な目的があります。1つは超弦理論は伝統的に何の物理的予言も行ってこなかった(上にあげた余分な次元の存在を別にして)ということが背景にあります。ブラックホールに超弦理論の検証の可能性を探りたいという目的です。もう1つは、ブラックホール物理学の大問題である蒸発問題の解決を超弦理論の中に見出そうという目的です。特異点問題も視野にあります。高次元ブラックホールの安定性の研究も最近の興味の1つです。特に、回転するブラックホールの安定性解析は重要だと思います。村田君と5次元回転ブラックホールの安定性、高橋君とLovelock BHの安定性について研究し、かなり面白いことが分かりました。最近はAdS/CFTがらみで物性の研究への応用もやっています。Ruth Gregory、菅野さんとの共同研究は超伝導に関する解析的な研究です。
- 宇宙大規模構造
この分野における僕の知識は非常にせまいです。しかし、須藤さんのおかげで随分楽しませてもらいました。最初に、密度揺らぎの位相の相関に関する統計的な研究をしたことから、その後のバイアスの非線形成長の研究や、プレスーシェヒター形式によるクラスター解析からの原始的非ガウス揺らぎの予言などにつながっていきました。結構面白いことがやれたと思っています。樽家、小山両君との共同研究も結構楽しかったです。最近、また場の理論を使った定式化に興味を持っています。
- 弦理論的宇宙論
もともとブレーン宇宙論もこの延長上に研究をはじめました。僕のライフワークです。まだ、弦理論的宇宙論という分野は確立していないわけですが、だからこそ面白いと言えます。これは、理論的宇宙論の進むべき1つの方向性であり、超弦理論が物理になるとしたらこの方向しかないと思います。河井君にはよく議論してもらいました。ブランデンバーガーとのストリングガスの研究もこの流れでやりました。最近、タキオン凝縮と宇宙論の関係に着目しています。
- 宇宙物理一般
天体核のコロキウムで聞かされた抵抗がなくなってきて、ガンマ線バーストやMHDの研究もやってみたいと最近色気がでてきました。あのきれいなパワーローやMHDの見慣れた数式を見るとわくわくしてきます。