シリーズ 我が師の名言


石郷岡 泰 先生
(1997.3.25)

 新潟大学大学院博士後期課程のときの指導教官である石郷岡 泰 先生が,1969年に書いたものから抜粋してある。北村晴朗先生,安部淳吉先生といった偉大な先生方が編集した「心理学研究法」(誠信書房)という本の「第20章 臨床心理学研究法」の中の一部である。おそらくこの本は現在では絶版になっているが,所蔵している図書館も多いので,是非ご覧いただきたい。当時,戸川行男など多くの臨床心理学者が,心理学が一般法則を求めるのに対して,臨床心理学は個別事例を強調するため性質が異なると主張されていたのに反論し,臨床心理学は応用科学として独自の理論体系を構築する必要があるとともに,臨床心理学は他の心理学と同様に一般法則定立を常に志向するとしているのは画期的である。しかも,'60年代の当時,臨床心理学の科学性について強調し,現在の“Evidence-Based Clinical Psychology”に近い考えを提起しているのは,先見的であり,驚かされる。

追記
このシリーズをHPに載せ終えた後の2003年2月13日に,
大変残念なことに,石郷岡 泰 先生は,お亡くなりになられました。
心よりご冥福をお祈りいたします。



なお,引用文献は,以下の通りです。

石郷岡 泰 1969 臨床心理学における理論構成の問題 北村晴朗他(編) 心理学研究法 誠信書房
Pp.583-596.



●シリーズ 我が師の名言 1
石郷岡(1969)より

人間の科学的理解とは何か。
それは人間生活の事実に対して科学的視角から解析された知識の体系でなければならない。
生活する人間を扱う臨床心理学もその例外ではない。




●シリーズ 我が師の名言 2
石郷岡(1969)より

臨床心理学が一つの統一的な専門科学であろうとするかぎり,
全体を一貫する体系的な構成理論が存在しなければならないはずである。
しかし現状はどうであろうか。
現在の臨床心理学は,科学としての体系化のために必要な適確な方法や概念の模索の段階にとどまっている。




●シリーズ 我が師の名言 3
石郷岡(1969)より

しかし心理学者が臨床心理学的問題そのものの全体的姿には直面しなかったというのが,
最近の動向は別として,
過去の臨床心理学の歴史であったともいえよう。




●シリーズ 我が師の名言 4
石郷岡(1969)より

臨床心理学的現実にまず取り組んだのが,精神医学者や精神分析学者であったことは,
臨床心理学に次のような結果をもたらした。
その1は,本来の心理学的要因と考えられるものへの追求が著しく遅れたことである。




●シリーズ 我が師の名言 5
石郷岡(1969)より

臨床心理学の確立は,その目的達成に関係すると考えられるあらゆる心理学的要因を内包し,
それを統一する仮説的な体系をつくること,
そしてこの体系の妥当性を,実践的ならびに客観的研究によって確かめてゆくことによって,果たされるべきものである。




●シリーズ 我が師の名言 6
石郷岡(1969)より

「臨床心理学は一般心理学の応用ではない」ということと
「応用科学ではない」ということとを同義的に考えられては困るのである。




●シリーズ 我が師の名言 7
石郷岡(1969)より

つまり,臨床心理学は,つねに,
(1)対象となる個々の人格の内部構造,(2)人格を取り巻く社会・文化的な状況,(3)めざす調整目標の個体的特殊性
を見つめながら,この特殊性を踏み越えた一般的法則定立の確立を志向する。




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