分科会「身体が語る人間の発達:『なんば』という行動を通して」
The body tells human development - from a human behavior as “Namba” ?
コーディネーター
神戸大学発達科学部人間行動・表現学科身体行動論講座
近藤徳彦・齋藤健司
人間の歩き方・走り方はどのように発達してきたのだろうか。例えば、歩行の発達を人類種から見ると、四足歩行から類人猿のように前足を自由に動かせるような四足歩行と二足歩行の中間へ、そして人間のような完全な(?)二足歩行への変化として一般にとらえられている。しかし、我々が現在獲得している二足歩行の行動様式はこのような発達段階のみで説明していいのだろうか。
歩く・走るといったヒトの基本的な行動は、人類の発達段階でも変化しているが、それ以外の要因にも影響を受けている。特に文化的および社会的な変化によってこの基本的な行動は大きく影響されていることが考えられる。日本の場合を考えると、社会情勢や生活様式の変化は欧米とは異なった変遷をたどっていることから、これらの行動への影響も同様に欧米とは異なっている可能性がある。日本独特の歩行様式として“なんば”と呼ばれる行動がある。この歩行は現在の人間が無意識に行っている脚と腕を対照的に動かし、体を捻る歩行とは異なる動きであり、腕と脚が同じ方向に推移するものである。最近、この“なんば”走法が運動パフォーマンスを向上させるのではないかと考えられ、今年の世界陸上男子200mで銅メダルを獲得した末次選手もレース後半にこの走法を用いていたように指摘されている。また、2003アメリカスポーツ医学会では“飛脚”があるシンポジウムのテーマに挙げられ、飛脚の走りが“なんば”様式ではなかったかという発表が行われた。
しかし、これまで“なんば”という行動は人文・社会学的や自然科学的な研究から充分に検討されている訳ではなく、抽象的な議論が多いようである。そこで、本分科会では、2名の講演者の方に、この“なんば”という行動の特性を、機能的な側面と歴史的な側面から解体していただき、それらを手がかりに、歩く・走るという基本的な人間の行動がどのように変遷・発達してきたのか議論し、人にとっての発達という意味を再検討するとともに、人間発達の新しい研究を模索したいと考えている。